産休・育休を取った社員の賞与・昇給・人事評価|不利益取扱いにならない算定の線引きと計算例
産休・育休を取った社員の賞与・昇給・人事評価は、「休んだ期間は働かなかったものとして扱う」ところまでは認められ、それを超えて不利に扱うと不利益取扱いになります。育児・介護休業法第10条、男女雇用機会均等法第9条第3項と2つの指針の文言をもとに、賞与の日割り計算、出勤率要件、短時間勤務、昇給・昇格、評価期間の扱いを計算例で整理します。
- 対象読者
- 産休・育休から復帰する社員の賞与・昇給・評価の扱いを決める従業員30〜300名の企業の人事担当者
- 難易度
- 実務
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- 読了8分
- 最終確認日
この記事のポイント
- 育休・産休を理由とする解雇その他不利益な取扱いは禁止(育児・介護休業法第10条、男女雇用機会均等法第9条第3項)。指針は「賞与等において不利益な算定を行うこと」「昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと」を不利益取扱いの例に挙げている
- 賞与や退職金の算定で、休業した期間を日割りで算定対象期間から控除するなど「専ら労務を提供しなかった期間は働かなかったものとして取り扱う」ことは不利益取扱いに当たらない。休業期間を超えて働かなかったものとして扱うと不利益な算定になる
- 休業期間を超える一定期間、昇進・昇格の選考対象から外す制度は不利益な評価に当たる。復帰後は実際に働いた期間で評価し、原則として原職または原職相当職に復帰させる
育休から復帰した社員の最初の賞与。「査定期間の半分以上休んでいたから今回はゼロ」「休業した年は評価が付けられないので昇給なし」。こうした扱いは、制度の作り方によっては法律が禁止する不利益取扱いになります。一方で、休んだ期間の分を減らすこと自体は認められています。
線引きは、厚生労働省の指針にかなり具体的に書かれています。この記事では、条文と指針の文言を確認したうえで、賞与・昇給・評価のそれぞれについて実務の扱い方を整理します。復帰前の面談は育休復帰面談の進め方、時短勤務中の評価は短時間勤務者の人事評価と賞与の考え方で扱っています。
法律のルール:休業を理由とする不利益取扱いの禁止
| 対象 | 根拠 | 内容 |
|---|---|---|
| 育児休業(産後パパ育休を含む)の申出・取得など | 育児・介護休業法第10条 | 申出や取得などを理由とする解雇その他不利益な取扱いの禁止 |
| 子の看護等休暇、短時間勤務、介護休業なども | 同法第16条、第16条の4、第23条の2など | 同様に不利益な取扱いを禁止 |
| 妊娠・出産、産前産後休業など | 男女雇用機会均等法第9条第3項 | 妊娠・出産、産前産後休業の請求・取得などを理由とする解雇その他不利益な取扱いの禁止 |
どのような行為が「不利益な取扱い」に当たるかは、それぞれの法律に基づく指針(育児・介護休業法の指針と、均等法の指針)が例を挙げています。賞与・昇給・評価に関係するのは次の項目です。
指針が示す線引き:「休んだ分」までは控除できる
育児・介護休業法の指針は、賞与・退職金の算定について次のように定めています(要約)。
| 区分 | 指針の内容 |
|---|---|
| 不利益取扱いに当たらない | 休業期間中や短時間勤務で現に働かなかった時間の賃金を支払わないこと。賞与や退職金の算定で勤務日数を考慮する場合に、休業した期間や、短時間勤務で現に短縮された時間の総和に相当する日数を、日割りで算定対象期間から控除することなど、専ら労務を提供しなかった期間は働かなかったものとして取り扱うこと |
| 不利益な算定に当たる | 休業期間や短縮された時間の総和に相当する日数を超えて働かなかったものとして取り扱うこと |
| 不利益な算定に当たる | 実際には労務の不提供が生じていないのに、育児休業等の申出をしたことのみをもって、賃金・賞与・退職金を減額すること |
均等法の指針も、産前産後休業などについて同じ考え方をとっています。さらに、賞与や退職金の算定で不就労期間を考慮する場合に、同じ期間休業した病気などと比べて、妊娠・出産等による休業を不利に扱うことも不利益な算定に当たるとしています。
賞与の扱いと計算例
日割りで控除するのは問題ない
賞与の算定期間(6か月)のうち、育休で3か月休業した社員の例です。
| 項目 | 計算 |
|---|---|
| 算定期間 | 4月1日〜9月30日(6か月) |
| 実際に勤務した期間 | 4月1日〜6月30日(3か月)、7月から育休 |
| 満額で勤務した場合の賞与 | 60万円(評価に基づく額) |
| 支給額の例 | 60万円 × 3か月 ÷ 6か月 = 30万円 |
休業した3か月分だけを控除しているので、指針のいう「専ら労務を提供しなかった期間は働かなかったものとして取り扱う」ことに当たります。日割りの単位(暦日・所定労働日・月単位)は、賃金規程で決めておきます。
出勤率で「不支給」にする規定は要注意
「算定期間の出勤率が90%未満の者には賞与を支給しない」といった規定に、産休・育休の日を欠勤として算入すると、少し休んだだけで賞与がゼロになります。これは休業した期間を超えて働かなかったものとして扱う結果になるため、指針の考え方に照らすと不利益な算定に当たるおそれが高いと考えられます。
出勤率要件を残すなら、産休・育休などの法定の休業期間は出勤率の計算から除く(分母からも分子からも外す)か、要件とは別に日割り控除で対応するように規程を見直すのが安全です。
短時間勤務・看護等休暇も同じ考え方
所定労働時間8時間を6時間に短縮している社員なら、短縮された時間の総和に相当する分(この例では25%)を控除するところまでが認められる範囲です。それを超えて「時短中は賞与の評価を一律に最低ランクにする」といった扱いは、不利益な算定になり得ます。
昇給・昇格の扱い
指針は、次の場合を「昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと」に当たるとしています。
- 育児休業や介護休業をした労働者について、休業期間を超える一定期間、昇進・昇格の選考対象としない人事評価制度とすること
- 実際には労務の不提供が生じていないのに、育児休業等の申出をしたことのみをもって、申出をしていない人より不利に評価すること
均等法の指針も、人事考課で不就労期間を考慮する場合に、同じ期間休業した病気などと比べて妊娠・出産等による休業を不利に扱うことを不利益な評価としています。
実務で迷いやすい点を整理します。
| 場面 | 考え方 |
|---|---|
| 「在籍年数○年以上」が昇格要件 | 休業期間を在籍年数から除くこと自体は、休んだ分だけの扱い。ただし復帰後さらに一定期間選考から外すと、休業期間を超えることになる |
| 休業中の定期昇給 | 指針に直接の定めはない。休業期間中は昇給を見送り、復帰後に通常の評価で昇給を判断する方法が考えられる。復帰後も据え置き続けると、休業期間を超えて不利に扱うことになりやすい |
| 降格 | 休業を理由とする降格は不利益取扱いの例に挙げられている |
| 復帰後の配置 | 育児・介護休業法の指針は、休業後は原則として原職または原職相当職に復帰させるよう配慮するとしている。均等法の指針は、産前産後休業からの復帰で原職または原職相当職に就けないことを不利益な配置の変更の例に挙げている |
昇給・賞与の決め方全体は昇給・賞与の決め方を参照してください。
人事評価の付け方
評価期間の一部だけ働いた社員の評価には、法律上の決まった方式はありません。指針の考え方に沿うと、次の点を押さえておけば不利益な評価になりにくくなります。
- 実際に勤務した期間の働きぶりで評価する。休業していた期間を「成果ゼロ」として評価に混ぜない
- 勤務期間が短すぎて評価できない場合のルールを事前に決めておく。例:評価期間の勤務が3か月未満なら、その期は標準評価とする/前期の評価を据え置く、など。病気休職者など他の長期休業者と同じルールにする
- 目標設定を見直す。休業前に立てた目標を、復帰後の勤務期間に合わせて調整する
- 賞与・昇給は「評価」と「勤務期間の按分」を分けて考える。評価は勤務した期間の働きで付け、休んだ分は日割りで控除する
ルールは賃金規程・評価規程に書いて周知します。個別に判断すると、同じ状況の社員の間で扱いがばらつき、説明もしにくくなります。評価制度全体の作り方は人事評価制度のつくり方で整理しています。
制度を点検するチェックリスト
- 賞与の出勤率要件に、産休・育休・看護等休暇・短時間勤務の扱いが書かれているか
- 賞与・退職金の計算で、控除しているのは休業した期間(短縮された時間)分だけか
- 産休・育休の扱いが、病気による休業と比べて不利になっていないか
- 休業した社員を、休業期間を超えて昇格選考から外すルールになっていないか
- 復帰後の配置は原職または原職相当職が原則になっているか
- 上司が「休んだ人の評価は下げる」と考えていないか(評価者研修で確認する)
不利益取扱いとあわせて、休業の申出や取得に関する上司・同僚の言動(いわゆるマタハラ・パタハラ)の防止措置も義務です。ハラスメント防止措置の総点検と、法改正の全体像は改正育児・介護休業法で会社がやることを参照してください。
まとめ
- 育休・産休などを理由とする不利益取扱いは、育児・介護休業法第10条などと均等法第9条第3項で禁止されている
- 賞与・退職金で休業期間を日割り控除するのは不利益取扱いに当たらない。休業期間を超えて働かなかったものとして扱うと不利益な算定になる
- 出勤率要件で賞与を全額不支給にする規定は、休業期間の扱いを見直す
- 休業期間を超えて昇格選考から外す制度は不利益な評価。復帰は原職または原職相当職が原則
- 評価は実際に勤務した期間で付け、勤務期間が短い場合のルールを病気休職者と同じ基準で事前に決めておく
この記事で使えるテンプレート
人事 育休復帰面談シート(復帰前・復帰後の両立支援と手続きの確認) 育児休業から復帰する従業員と、復帰前・復帰後に面談するためのシートです。勤務時間帯・勤務地・業務量など仕事と育児の両立に関する意向、使う予定の制度(短時間勤務・残業免除・子の看護等休暇など)、社会保険と雇用保険の手続きの確認欄をまとめています。 人事 人事評価シート(目標管理) 目標管理(MBO)による人事評価シートです。期初の目標設定、期中の進捗確認、期末の本人評価・評価者評価、行動評価、総合評価とフィードバックまでを1つの様式で運用できます。この記事に出てくる用語
- 育児休業
- 子を養育するために、原則として子が1歳になるまで取得できる休業です。育児・介護休業法にもとづき、保育所に入れないなどの場合は最長2歳まで延長できます。
- 育児・介護休業法
- 育児休業・介護休業や、子の看護等休暇・介護休暇、短時間勤務などの両立支援制度を定めた法律です。正式名称は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」です。
- 介護休業
- 要介護状態にある家族を介護するための休業で、対象家族1人につき通算93日まで、3回まで分割して取得できます。
- 休職
- 病気やけがなどで働けない社員について、労働契約を続けたまま一定期間、労働義務を免除する制度です。法律上の義務ではなく、会社が就業規則で内容を決めます。
- 降格
- 役職や等級を下げることです。人事権の行使としての降格と、懲戒処分としての降格があり、賃金が下がる場合は根拠と相当性が問われます。
- 子の看護等休暇
- 小学校3年生修了までの子の看護、予防接種、学級閉鎖、入園式などの行事参加のために、年5日(子が2人以上なら年10日)まで取得できる休暇です。
- 産後パパ育休
- 子の出生後8週間以内に、4週間(28日)まで取得できる育児休業です。法律上の名称は「出生時育児休業」で、通常の育児休業とは別に取得できます。
- 産前産後休業
- 出産予定日の6週間前(多胎は14週間前)から請求により休める産前休業と、出産の翌日から8週間の産後休業のことです。期間中は社会保険料が免除されます。
- 所定労働時間
- 就業規則や労働契約で会社が決めた、始業から終業までの時間から休憩時間を除いた労働時間です。法定労働時間の範囲内で定めます。
- 人事評価
- 社員の仕事の成果や行動、能力を一定の基準で評価し、昇給・賞与・昇格や育成に反映させる仕組みです。等級制度・報酬制度とつなげて設計します。
- 短時間勤務制度
- 3歳に満たない子を養育する労働者などが申し出たときに、1日の所定労働時間を原則6時間に短縮する制度です。育児・介護休業法で会社に義務づけられています。
- 男女雇用機会均等法
- 募集・採用、配置・昇進、退職などの雇用の場面で、性別を理由とする差別を禁止する法律です。妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止や、セクハラ・マタハラの防止措置義務も定めています。
- 評価者研修
- 人事評価を行う管理職に向けて、評価の基準や評価エラーの防ぎ方、フィードバックの方法を学んでもらう研修です。評価のばらつきを減らし、社員の納得感を高めるために行います。
- マタニティハラスメント
- 妊娠・出産したことや、産休・育休などの制度を利用したことに関する上司・同僚の言動により、就業環境が害されることです。男女雇用機会均等法と育児・介護休業法で、防止措置が義務づけられています。
出典・参考資料
- e-Gov法令検索「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(第10条 不利益取扱いの禁止、第22条 雇用管理等に関する措置)
- e-Gov法令検索「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(第9条第3項 妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止)
- 厚生労働省「(改正後全文)子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針(令和7年10月1日)」(PDF)
- 厚生労働省「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針(平成18年厚生労働省告示第614号)」(PDF)
- 厚生労働省「育児・介護休業法について」