短時間勤務者の人事評価と賞与の考え方|時間比例でよい部分・不利益取扱いになる部分、目標設定の工夫
育児・介護の短時間勤務者の評価で迷うのは、「働いていない時間」をどこまで反映してよいかです。指針が示す、賃金・賞与で時間比例の減額が認められる範囲と、不利益な算定・評価に当たる例を確認し、目標の量と質の分け方、評価面談、賞与・昇格の運用、評価者研修で伝えることを整理します。
- 対象読者
- 育児・介護の短時間勤務者がいる従業員30〜300名の企業の人事担当者・評価者
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この記事のポイント
- 短時間勤務で現に働かなかった時間分の賃金を払わないこと、賞与の算定で短縮された時間の総和に相当する日数を控除することは不利益取扱いに当たらない。それを超えて働かなかったものとして扱うと不利益な算定になる(育児・介護休業法の指針)
- 昇進・昇格の人事考課で、短時間勤務の申出や利用だけを理由に不利に評価するのは不可。評価は「時間あたりの成果・行動」で見る仕組みにする
- 目標は、量の目標を勤務時間に合わせて調整し、質・行動の目標は通常の基準で評価する。期初に本人と上司で合意し、評価者研修で判断の例を共有する
育児や介護のための短時間勤務を使う社員が増えると、評価の場面で「フルタイムの人と同じ基準で評価してよいのか」「成果の量が少ないのは仕方ないが、評価を下げてよいのか」という相談が評価者から寄せられます。
判断を評価者任せにすると、評価が甘くなったり厳しくなったりと、ばらつきが出ます。この記事では、法律と指針で決まっている線引きを確認したうえで、短時間勤務者の評価と賞与の運用を整理します。評価制度全体の作り方は人事評価制度の作り方を参照してください。
前提:短時間勤務の制度と不利益取扱いの禁止
育児・介護休業法は、3歳未満の子を養育する社員について、短時間勤務の制度を設けることを会社に義務づけています(第23条)。この制度には、1日の所定労働時間を原則として6時間とする措置を含めなければなりません(施行規則第73条)。介護のための短時間勤務などの措置もあります。
そして、短時間勤務の申出や利用を理由に、解雇その他の不利益な取扱いをすることは禁止されています(第23条の2)。指針は、不利益な取扱いの例として、次のようなものを挙げています。
時間比例でよい部分・いけない部分
指針は、賃金・賞与・退職金について、次のように線を引いています。
| 取扱い | 判断 |
|---|---|
| 短時間勤務で現に働かなかった時間について賃金を支払わない | 不利益取扱いに当たらない |
| 賞与・退職金の算定で、現に勤務した日数を考慮する場合に、短縮された時間の総和に相当する日数を日割りで控除する | 不利益取扱いに当たらない |
| 短縮された時間の総和に相当する日数を超えて働かなかったものとして扱う | 不利益な算定に当たる |
| 実際には労務を提供しているのに、申出をしたことのみで賃金・賞与・退職金を減額する | 不利益な算定に当たる |
賞与の計算例
所定労働時間8時間の会社で、算定期間(6か月・所定労働日120日)に1日6時間の短時間勤務をした場合です。
| 項目 | 計算 |
|---|---|
| 短縮された時間の総和 | 2時間×120日=240時間 |
| 日数に換算 | 240時間÷8時間=30日 |
| 控除してよい日数 | 30日(120日のうち90日分を勤務日として算定) |
賞与を「基本給×支給月数×出勤率」で計算する会社なら、出勤率を90/120とすることは時間比例の範囲です。これに加えて、「短時間勤務者は評価係数を一律に下げる」「短時間勤務者は賞与の対象外」とするのは、時間比例を超えた不利益な算定になります。
賞与の算定方法を就業規則・賃金規程に明記していない会社は、短時間勤務者の扱いを含めて規程に書いておきましょう。運用だけで決めると、評価者ごとに扱いが変わりやすくなります(→昇給・賞与の決め方)。
評価の考え方:「時間あたり」で見る
量の目標と質の目標を分ける
短時間勤務者の評価で起きやすいのは、成果の「量」をフルタイムと同じ基準で測ってしまうことです。目標を次のように分けると、判断がぶれにくくなります。
| 目標の種類 | 例 | 短時間勤務者の扱い |
|---|---|---|
| 量の目標 | 処理件数、売上、担当社数 | 勤務時間に合わせて調整する(例:6時間勤務なら8時間勤務の4分の3を目安に) |
| 質の目標 | ミスの少なさ、顧客満足、資料の完成度 | 通常の基準で評価する |
| 行動・能力の目標 | 後輩の育成、改善提案、チームへの貢献 | 通常の基準で評価する。ただし時間外にしかできない行動を求めない |
量の目標を勤務時間に合わせて調整したうえで、達成度を通常の基準で評価すれば、「時間が短いから評価が低い」ことにはなりません。目標の立て方はSMARTで立てる目標設定も参考にしてください。
期初に合意しておく
目標の調整は、期初の目標設定面談で本人と上司が合意しておきます。期末になってから「時短だったから仕方ない」と調整すると、恣意的に見えやすくなります。
- 勤務時間(何時間勤務か、いつまで続ける予定か)
- 量の目標の調整方法と、その根拠
- 質・行動の目標(通常の基準)
- 期中に勤務時間が変わった場合の扱い
評価で避けること
- 残業できないことをマイナスにする:短時間勤務者は残業しない前提。「急な対応ができない」を理由に評価を下げない
- 「配慮」で評価を一律に上げる・中央に寄せる:本人の成長の機会を奪い、周囲の不公平感にもつながる
- 担当業務を本人の同意なく軽くして、その結果で評価する:責任のある仕事を任されなければ、評価も上がらない
昇進・昇格の扱い
指針は、育児休業をした人について、休業期間を超える一定期間、昇進・昇格の選考対象としない人事評価制度とすることは、不利益な評価に当たるとしています。短時間勤務についても、利用していることのみをもって不利に評価することは認められません。
昇格の要件に「在籍年数」や「経験年数」を定めている会社は、短時間勤務の期間をどう数えるかを規程に明記し、上の賞与の考え方と同じく、実際に短縮された時間を超えて不利に扱っていないかを確認しておきましょう。判断に迷う場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談できます。
評価面談の進め方
短時間勤務者の評価面談では、次の点を意識します。
- 期初に合意した目標の調整を確認する:何を基準に評価したかを最初に示す
- 時間内の成果を具体的に伝える:「限られた時間で〇〇を仕上げた」と事実で伝える
- 今後の働き方を聞く:短時間勤務を続けるか、フルタイムに戻すか、役割を広げたいか
- キャリアの見通しを話す:昇格の要件や、次に任せたい役割を伝える
面談の進め方は人事評価のフィードバック面談、記録には1on1シートが使えます。育休から復帰したばかりの社員は、育休復帰面談の内容も踏まえて話しましょう。
評価者研修で伝えること
評価者が判断に迷わないよう、評価者研修で次の例を共有します(→評価者研修)。
| 場面 | 考え方 |
|---|---|
| 処理件数がフルタイムの人より少ない | 勤務時間で調整した目標に対して評価する |
| 夕方の会議に出られない | 会議の時間を見直す。出られないことを評価に入れない |
| 子の急な発熱で休みが多い | 休暇の取得は評価の対象外。業務の成果と行動で評価する |
| 本人が「評価は下がってもいい」と言う | 本人の意向にかかわらず、基準どおりに評価する |
運用のチェックリスト
- □ 賞与・退職金の算定で、短縮時間分の控除方法が規程に書かれている
- □ 時間比例を超える減額や、一律の評価係数の引き下げをしていない
- □ 量の目標を勤務時間に合わせて調整する方法を決め、評価シートに欄を設けた(→人事評価シート)
- □ 期初の目標設定面談で、調整内容を本人と合意している
- □ 昇進・昇格の選考で、短時間勤務の利用のみを理由に不利にしていない
- □ 評価者研修で、短時間勤務者の評価の例を共有した
まとめ
- 短時間勤務で働かなかった時間分の賃金を払わないこと、賞与で短縮時間の総和に相当する日数を控除することは認められる
- それを超えて働かなかったものとして扱うこと、申出や利用だけを理由に不利に評価することは不利益取扱いに当たる
- 量の目標は勤務時間に合わせて調整し、質・行動の目標は通常の基準で評価する。期初に合意しておく
- 規程への明記と評価者研修で、評価者ごとのばらつきを防ぐ
この記事で使えるテンプレート
人事 人事評価シート(目標管理) 目標管理(MBO)による人事評価シートです。期初の目標設定、期中の進捗確認、期末の本人評価・評価者評価、行動評価、総合評価とフィードバックまでを1つの様式で運用できます。 人事 1on1ミーティング記録シート 上長と部下の1on1ミーティングを1回1行で記録するシートです。テーマ、本人が話したこと、上長からの支援、次回までのアクション、コンディションを残し、継続的な対話と人事評価・面談の材料に使えます。この記事に出てくる用語
- 育児休業
- 子を養育するために、原則として子が1歳になるまで取得できる休業です。育児・介護休業法にもとづき、保育所に入れないなどの場合は最長2歳まで延長できます。
- 降格
- 役職や等級を下げることです。人事権の行使としての降格と、懲戒処分としての降格があり、賃金が下がる場合は根拠と相当性が問われます。
- 就業規則
- 労働時間・賃金・退職などの労働条件や職場のルールを定めた規則です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、作成して労働基準監督署に届け出る義務があります。
- 所定労働時間
- 就業規則や労働契約で会社が決めた、始業から終業までの時間から休憩時間を除いた労働時間です。法定労働時間の範囲内で定めます。
- 人事評価
- 社員の仕事の成果や行動、能力を一定の基準で評価し、昇給・賞与・昇格や育成に反映させる仕組みです。等級制度・報酬制度とつなげて設計します。
- 短時間勤務制度
- 3歳に満たない子を養育する労働者などが申し出たときに、1日の所定労働時間を原則6時間に短縮する制度です。育児・介護休業法で会社に義務づけられています。
- 評価者研修
- 人事評価を行う管理職に向けて、評価の基準や評価エラーの防ぎ方、フィードバックの方法を学んでもらう研修です。評価のばらつきを減らし、社員の納得感を高めるために行います。