総務 #契約書管理#リスク管理#法改正

業務委託契約書を総務がチェックする観点|取適法(旧下請法)・フリーランス法の該当確認と、支払期日・発注書の点検

2026年1月から下請法は「取適法」になり、資本金に加えて従業員数でも対象かどうかを判断するようになりました。発注側として業務委託契約書を受け付けるときに総務が確認すべき点を、取適法・フリーランス法の該当確認、支払期日、発注内容の明示、手形払の禁止、契約条項の点検、社内決裁の流れに分けて整理します。

対象読者
法務担当者がいない従業員30〜300名の企業で、業務委託契約の受付・押印・保管を担当する総務担当者
難易度
実務
所要時間
読了9分
最終確認日

この記事のポイント

  • 取適法(中小受託取引適正化法)は2026年1月1日施行。資本金基準に加え、従業員基準(製造委託などは300人、その他の情報成果物作成・役務提供委託は100人)が加わり、資本金が小さくても従業員が多い会社は委託事業者になり得る
  • 対象取引では、発注内容等の明示、受領日から60日以内のできる限り短い支払期日の設定、取引記録の作成・保存、遅延利息の支払が義務。手形払や、協議に応じない一方的な代金決定は禁止
  • 個人のフリーランスへの発注は、フリーランス法の取引条件の明示なども確認する。総務は「どの法律の対象か」「支払条件が合っているか」をチェックし、条項の判断は法務・弁護士につなぐ

営業部から「この業務委託契約書に押印をお願いします」と回ってくる。中身を見るのは法務の仕事、と言いたいところですが、法務担当者がいない会社では総務が最初の確認役になることが多いはずです。

2026年1月1日から、下請法が改正されて「取適法」になりました。この記事では、発注する側として業務委託契約書を受け付けるときに、総務が確認しておきたい点を整理します。条項の有利・不利の判断は、必要に応じて法務担当者や弁護士につなぎます。

まず確認:どの法律の対象になる取引か

確認すること 関係する法律
委託先が法人で、自社と委託先の資本金・従業員数が一定の区分に当たる 取適法(中小受託取引適正化法)
委託先が従業員を使用しない個人(または代表者1人の法人) フリーランス法(フリーランス・事業者間取引適正化等法)
作業者に自社の社員が直接指示を出す 偽装請負にならないか(→業務委託と偽装請負の境界)

取適法の対象になる区分

取適法は、取引の内容と、当事者の資本金または従業員数で対象を決めます。公正取引委員会・中小企業庁のテキストによると、次のとおりです。

物品の製造・修理委託、特定運送委託、プログラムの作成、運送・物品の倉庫保管・情報処理の役務提供委託

委託事業者(発注側) 中小受託事業者(受注側)
資本金3億円超 資本金3億円以下(個人を含む)
資本金1千万円超3億円以下 資本金1千万円以下(個人を含む)
常時使用する従業員300人超 常時使用する従業員300人以下(個人を含む)

上記以外の情報成果物作成委託・役務提供委託(デザイン、コンテンツ制作、各種サービスの委託など)

委託事業者(発注側) 中小受託事業者(受注側)
資本金5千万円超 資本金5千万円以下(個人を含む)
資本金1千万円超5千万円以下 資本金1千万円以下(個人を含む)
常時使用する従業員100人超 常時使用する従業員100人以下(個人を含む)

従業員基準は、資本金基準が適用されない場合に適用されます。たとえば資本金1千万円以下の会社でも、常時使用する従業員が100人を超えていれば、デザイン制作などを従業員100人以下の会社に委託するときは委託事業者になり得ます。従業員300人程度までの会社が読者の中心である本サイトでは、「資本金が小さいから関係ない」と思い込まないことが大切です。

「常時使用する従業員」は、賃金台帳の調製対象となる労働者(日々雇い入れられる者を除く)の数で数えるとされています。正確な判定は、公正取引委員会の簡易診断ツールやテキストで確認してください。

取適法の対象なら確認すること

委託事業者の4つの義務

義務 総務の確認ポイント
発注内容等の明示(第4条) 発注のたびに、給付の内容・代金の額・支払期日・支払方法などを書面またはメールなどで明示しているか。電話だけの発注は違反になる
支払期日を定める(第3条) 給付を受領した日(役務は提供を受けた日)から起算して60日以内の、できる限り短い期間内で支払期日を定めているか
書類等の作成・保存(第7条) 給付の内容・代金の額などの取引記録を作成し、保存しているか
遅延利息の支払(第6条) 支払が遅れた場合、受領日から60日を経過した日から年率14.6%の遅延利息を支払う

基本契約書に詳細を書き、個々の発注は発注書で行う会社が多いはずです。総務は、基本契約書だけでなく、実際に発注書がどう出ているかも確認します。

禁止行為

取適法は、受領拒否、代金の支払遅延、代金の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、報復措置、有償支給原材料等の対価の早期決済、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直し、協議に応じない一方的な代金決定を禁止しています。

2026年1月の改正で注意すること 内容
手形払等の禁止 対象取引で手形を交付して支払うことは禁止。電子記録債権やファクタリングなども、支払期日までに代金の満額の現金を得ることが困難なものは認められない
協議に応じない一方的な代金決定の禁止 受注側から価格の協議を求められたのに、協議に応じない、必要な説明をしないまま一方的に代金を決めることは禁止

契約書の支払条件に「手形」「電子記録債権」とあれば、経理と相談して見直します。

フリーランスへの発注で確認すること

従業員を使用しない個人などに業務を委託するときは、フリーランス法の対象になります。発注のたびに、業務の内容、報酬の額、支払期日などを書面やメールで直ちに明示する必要があります。従業員を使用する発注者には、受領後60日以内の支払期日の設定なども求められます。詳しくは業務委託・フリーランスと偽装請負の境界で解説しています。

契約書の条項で確認すること

総務の一次チェックとして、次の項目を見ておきます。

条項 確認すること
当事者 正式な商号・所在地・代表者。法人番号で確認できる(→新規取引先の確認と与信管理)
業務の内容・成果物 何を、いつまでに、どの水準で納めるかが具体的か
報酬・支払条件 金額、締め日、支払日が、取適法・フリーランス法の期限に合っているか
検収 検収の期間と方法。検収を理由に支払期日を延ばしていないか(取適法では受領日から起算する)
知的財産権 成果物の権利が誰に帰属するか、対価に含まれるか
秘密保持・個人情報 預ける情報の範囲と管理方法(→個人情報管理の基本、秘密保持契約書(NDA)のチェックポイント、委託先の監督)
再委託 再委託を認めるか、事前承諾が必要か
契約期間・解除 自動更新の有無、解約の予告期間
反社会的勢力の排除 排除条項があるか(→反社会的勢力の排除)
損害賠償 上限の有無。一方的に重い責任になっていないか

印紙税の要否(請負に関する契約書は第2号文書など)は契約書と印紙税の基本で確認してください。AIを使った一次チェックの方法は契約書の一次チェックをAIで補助するで紹介しています。

社内の流れを決めておく

  1. 依頼部署が契約書案と「取引の概要(委託先の規模・取引内容・金額)」を提出する
  2. 総務が、適用される法律と支払条件、上の条項を確認する
  3. 不明点や不利な条項は、法務担当者・弁護士に相談する
  4. 決裁権限規程に沿って決裁をとる
  5. 締結後、契約書管理台帳に登録し、更新期限を管理する(→契約書管理の基本)

まとめ

  • 取適法は2026年1月施行。資本金に加えて従業員数でも対象を判断するため、資本金が小さい会社も委託事業者になり得る
  • 対象取引では、発注内容の明示、受領日から60日以内の支払期日、記録の保存が必要。手形払や一方的な代金決定は禁止
  • 個人への発注はフリーランス法の明示義務なども確認する
  • 総務は「どの法律の対象か」「支払条件・発注書の運用が合っているか」を確認し、条項の判断は専門家につなぐ

この記事で使えるテンプレート

CSV 総務 契約書管理台帳 取引先との契約書を一覧で管理する台帳です。契約期間・自動更新の有無・解約予告期限・保管場所(紙/電子)・印紙の有無・担当部署を記録し、更新や解約の判断漏れを防ぎます。 DOCX 総務 決裁権限規程(決裁権限表つき) 決裁の定義、起案・合議・決裁の流れ、代決と後閲、緊急時の扱い、決裁記録の保存を条文にし、人事・経理・契約・購買・総務などの区分ごとに金額基準と承認者(取締役会・社長・担当役員・部長・課長)を一覧にした決裁権限表を付けた決裁権限規程のひな形です。

この記事に出てくる用語

印紙税
契約書や領収書など、印紙税法で定められた文書(課税文書)を作成したときにかかる国税です。通常は収入印紙を貼って消印することで納めます。
偽装請負
契約の形式は請負や業務委託なのに、実態は発注者が受託者の労働者に直接指揮命令している状態です。実質的には労働者派遣にあたり、労働者派遣法や職業安定法に違反するおそれがあります。
賃金台帳
労働者ごとに賃金計算の基礎となる事項や支払額を記録する帳簿で、労働基準法で作成と保存が義務づけられています。法定三帳簿の一つです。
取適法
下請法(下請代金支払遅延等防止法)を改正・改称し、2026年1月1日に施行された法律の略称です。発注側の会社に、発注内容の明示や60日以内の支払期日の設定などを義務づけています。
反社会的勢力
暴力、威力、詐欺的手法を使って経済的利益を追求する集団や個人のことです。政府指針や各都道府県の暴力団排除条例により、企業は取引を含めた一切の関係を遮断することが求められています。
フリーランス法
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」の通称で、個人で働くフリーランスに業務を委託する会社に、取引条件の明示や報酬の支払期日の設定、ハラスメント対策などを求める法律です。2024年11月1日に施行されました。
法人番号
国税庁が会社などの法人に1つずつ指定する13桁の番号です。個人のマイナンバーと違って公表されており、誰でも自由に利用できます。

用語集の一覧を見る →

出典・参考資料

無料メルマガ

法改正アラート:改正の1ヶ月前に「やることリスト」が届く

月1回の定期号と、施行直前号でお届けします。今月やること・新着テンプレートもまとめて確認できます。