不妊治療と仕事の両立支援|休暇・柔軟な働き方の制度設計、連絡カード、くるみんプラスと助成金
不妊治療は通院の予定が直前まで決まらず、仕事との両立が難しい治療です。厚生労働省のマニュアルが示す通院日数の目安、相談を受けたときのプライバシー保護、休暇・時間単位年休・時差出勤・テレワークなどの制度設計、不妊治療連絡カード、くるみんプラス認定と中小企業向け助成金を整理します。
- 対象読者
- 従業員30〜300名の企業で、両立支援制度の整備や社員からの相談対応を担当する人事担当者
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この記事のポイント
- 生殖補助医療では、月経周期ごとに1回1〜3時間程度の通院が4〜10日、加えて半日〜1日程度の通院が1〜2日必要になる目安がある。通院日は直前まで決まらないことが多く、柔軟に使える制度が鍵になる
- 不妊治療はプライバシーに属する情報。相談を受けたら、人事・上司のどこまで共有するかを本人に確認し、本人の同意なく同僚や取引先に伝わらないようにする
- 制度は、不妊治療に使える休暇、時間単位年休、時差出勤、フレックス、テレワークなどを組み合わせる。くるみん認定企業は「くるみんプラス」、中小企業は両立支援等助成金の対象になりうる
不妊治療は、2022年4月から保険適用の範囲が広がり、治療を受けながら働く人が増えています。一方で、通院の予定が直前まで決まらない、ホルモン剤の副作用で体調が変わるなど、仕事との両立が難しい面があります。厚生労働省のマニュアルでは、不妊治療経験者のうち11%が仕事と両立できずに離職しているという調査結果も紹介されています。
この記事では、厚生労働省の「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」(令和8年3月)などをもとに、会社が整える制度と相談対応のポイントを整理します。
不妊治療の通院の特徴
マニュアルでは、通院日数の目安を次のように示しています(医師の判断や個人の状況で増減します)。
| 治療 | 女性(月経周期ごとの通院日数の目安) | 男性 |
|---|---|---|
| 一般不妊治療 | 1回1〜2時間程度の通院が2〜6日 | 0〜半日(手術を伴う場合は1日) |
| 生殖補助医療(体外受精・顕微授精など) | 1回1〜3時間程度の通院が4〜10日+半日〜1日程度の通院が1〜2日 | 0〜半日(手術を伴う場合は1日) |
両立を難しくしているのは、日数よりも予定の立てにくさです。
- 排卵の周期に合わせて通院するため、数日前や前日にならないと通院日が決まらないことがある
- 待ち時間を含めると、1回の通院に数時間かかることがある
- 排卵誘発剤などの影響で、頭痛・吐き気・腹痛などの体調不良が出ることがある
- 男性も、女性の周期に合わせた通院や治療への参加が求められる場合がある
そのため、「事前申請で何日前までに」という通常の休暇ルールだけでは使いにくく、当日や前日でも使える仕組みと、短時間の中抜けができる仕組みが重要になります。
相談を受けたときの対応とプライバシー
マニュアルが紹介する調査では、不妊治療をしている(予定している)人のうち、職場に「一切伝えていない(伝えない予定)」人が47.1%と最も多くなっています。理由には「周囲に気遣いをしてほしくない」「治療がうまくいかなかったときに職場に居づらい」などが挙がっています。
不妊や不妊治療に関することは、本人のプライバシーに属する情報です。相談や休暇の申出を受けたら、次の点を守ります。
- 相談内容を人事のどの部署・担当者まで共有するかを本人に確認する
- 本人の同意なく、同僚や顧客、取引先に伝わらないようにする
- 休暇の名称や申請書の書き方で治療内容が周囲に分からないよう工夫する(例:「通院休暇」「ライフサポート休暇」などの名称にする)
- 治療の結果や今後の予定を詮索しない
不妊治療をしている社員への心ない言動は、ハラスメントにつながるおそれがあります。管理職研修で取り上げ、相談窓口で対応できるようにしておきます。会社が講じるべき措置はハラスメント防止措置の総点検を参照してください。
不妊治療連絡カード
厚生労働省は**不妊治療連絡カード**を公開しています。主治医が治療の状況や配慮してほしい事項を記入し、本人が会社に提出することで、病名や治療の詳細を伝えなくても必要な配慮を会社に伝えられるツールです。会社独自の休暇制度を使う際の確認書類としても使えます。Word版と記載例もダウンロードできます。
会社が整える制度
マニュアルは、導入のステップとして、①取組方針の明確化と体制整備、②実態把握、③制度設計、④運用、⑤実績の確認と見直しを示しています。少人数の会社では、まず既存の制度で何ができるかを洗い出すところから始めると進めやすくなります。
| 制度 | 両立への効果 | 設計のポイント |
|---|---|---|
| 不妊治療に使える休暇(特別休暇) | 年休を使い切る心配が減る | 有給か無給か、日数、取得単位(半日・時間)、当日申請の可否を決める |
| 失効年休の積立制度 | 年休の残りを治療に使える | 積立の上限と使える事由に「不妊治療」を含める |
| 時間単位年休 | 1〜2時間の通院に対応できる | 労使協定で導入。年5日以内(労働基準法第39条第4項) |
| 時差出勤・フレックスタイム制 | 朝の通院後に出社できる | コアタイムを短く、または設けない |
| テレワーク | 通院前後の移動時間を減らせる | 通院日だけの利用も認める |
| 短時間勤務・休職 | 治療が集中する時期に対応 | 期間と復帰の手順を決める |
休暇の設計の考え方は慶弔休暇・特別休暇の決め方、時間単位年休は時間単位年休・半日年休の導入方法、時差出勤は時差出勤制度の作り方で解説しています。
新しく特別休暇を設ける場合は、就業規則の休暇の定めを変更します。休暇は就業規則の絶対的必要記載事項なので、変更後は労働基準監督署への届出と周知が必要です。厚生労働省のサイトには、くるみんプラス用の就業規則の規定例も掲載されています。
くるみんプラスと助成金
くるみんプラス
次世代育成支援対策推進法に基づく「くるみん」「プラチナくるみん」「トライくるみん」の認定を受ける企業が、不妊治療と仕事の両立にも取り組み、基準を満たすと「プラス」の認定を受けられます(2022年4月から)。厚生労働省のページでは、主な基準として次のような内容が示されています。
- 不妊治療のための休暇制度(年次有給休暇を除く)と、時間単位年休・時差出勤・テレワークなどのいずれかの制度を設けること
- 両立を推進する方針を示し、社内に周知すること
- 両立に関する研修を行うこと
- 両立支援担当者を選任し、周知すること
申請はe-Govの電子申請のほか、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)への持参・郵送でも行えます。なお、次世代法の行動計画策定指針では、不妊治療を受ける労働者に配慮した措置の実施が、行動計画に盛り込むことが望ましい事項として2021年4月から加わっています。行動計画の作り方は次世代育成支援対策推進法の行動計画とはを参照してください。
両立支援等助成金
中小企業事業主向けに、両立支援等助成金の不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コースがあります。厚生労働省のページでは、不妊治療のほか月経・更年期症状に対応する休暇制度などを利用しやすくする環境整備に取り組み、労働者に合計5日(回)以上利用させた中小企業事業主を支援するものと説明されています。支給額や要件は年度ごとに見直されるため、申請前に最新の支給要領を確認してください。助成金の探し方は中小企業の雇用関係助成金の探し方と注意点にまとめています。
厚生労働省は、人事労務担当者向けのオンデマンド研修会や、社会保険労務士・産業医によるオンライン個別相談会も実施しています。制度づくりに迷ったときの相談先として使えます。
まとめ
- 不妊治療の通院は予定が立てにくい。当日でも使える休暇や時間単位の制度が重要
- 相談を受けたら共有範囲を本人に確認し、プライバシーを守る
- 休暇・時間単位年休・時差出勤・フレックス・テレワークを組み合わせて制度を作る
- 不妊治療連絡カードを使えば、病名を伝えずに必要な配慮を共有できる
- くるみん認定企業はくるみんプラス、中小企業は両立支援等助成金の対象になりうる
この記事で使えるテンプレート
労務 特別休暇の設計・棚卸し表(慶弔休暇・夏季休暇などの事由・日数・賃金・雇用形態ごとの付与を一覧にする) 慶弔休暇、夏季休暇、リフレッシュ休暇などの特別休暇を1行ずつ並べ、事由・親族の範囲・日数・数え方・取得期限・取得単位・賃金・雇用形態ごとの付与・根拠条文・証明書類を一覧にするCSVです。同一労働同一賃金ガイドラインに照らして待遇差を確認する列も設けています。 労務 休暇届(年休・特別休暇・時間単位年休) 年次有給休暇(全日・半日・時間単位)、慶弔休暇などの特別休暇、子の看護等休暇・介護休暇を1枚で申請できる休暇届です。取得後の残日数と、年5日の取得義務の進み具合も記録できます。この記事に出てくる用語
- 休職
- 病気やけがなどで働けない社員について、労働契約を続けたまま一定期間、労働義務を免除する制度です。法律上の義務ではなく、会社が就業規則で内容を決めます。
- くるみん認定
- 次世代育成支援対策推進法にもとづき、仕事と子育ての両立支援に取り組み、一般事業主行動計画の目標を達成した企業を厚生労働大臣が認定する制度です。トライくるみん・くるみん・プラチナくるみんがあります。
- 産業医
- 労働者の健康管理について専門的な立場から指導・助言を行う医師です。常時50人以上の労働者を使用する事業場は選任が義務づけられています。
- 就業規則
- 労働時間・賃金・退職などの労働条件や職場のルールを定めた規則です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、作成して労働基準監督署に届け出る義務があります。
- 時間単位年休
- 労使協定を結ぶことで、年次有給休暇を1時間単位で取得できるようにする制度です。年5日分が上限です。
- 次世代育成支援対策推進法
- 子どもが健やかに生まれ育つ環境づくりのため、企業に仕事と子育ての両立支援に関する一般事業主行動計画の策定などを求める法律です。常時雇用する労働者101人以上の企業は、計画の策定・届出が義務です。
- 短時間勤務制度
- 3歳に満たない子を養育する労働者などが申し出たときに、1日の所定労働時間を原則6時間に短縮する制度です。育児・介護休業法で会社に義務づけられています。
- 年次有給休暇
- 一定期間働いた労働者に与えられる、賃金が支払われる休暇です。6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤すると10日付与され、勤続に応じて最大20日まで増えます。
- フレックスタイム制
- 清算期間(最長3か月)の総労働時間を決めたうえで、日々の始業・終業時刻を労働者が自分で決められる制度です。就業規則と労使協定で導入します。
- 労使協定
- 会社と、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は過半数代表者)との間で結ぶ書面の協定です。法律の原則を例外的に変える効果があります。
- 労働基準監督署
- 労働基準法・労働安全衛生法などが守られているかを監督する厚生労働省の機関です。36協定や就業規則の届出先で、労災保険の給付の窓口でもあります。