従業員・退職者から個人情報の開示請求を受けたら|対応の流れ、「遅滞なく」の期限、不開示にできる場合と手数料
退職者から「人事評価や面談記録を開示してほしい」と求められることがあります。個人情報保護法は、本人が保有個人データの開示を請求できると定め、会社は遅滞なく対応しなければなりません。受付から本人確認、対象の特定、不開示にできる場合、手数料、通知の書き方、事前に整えておく窓口と手続きを整理します。
- 対象読者
- 従業員・退職者・応募者から「自分の情報を開示してほしい」と求められた、または備えたい従業員30〜300名の企業の総務・人事担当者
- 難易度
- 実務
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この記事のポイント
- 本人は、会社が保有する自分の保有個人データについて、電磁的記録の提供など本人が指定する方法での開示を請求できる。会社は遅滞なく開示しなければならない(個人情報保護法第33条)
- 開示により本人や第三者の権利利益を害するおそれ、業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれ、他の法令違反となる場合は、全部または一部を開示しないことができる。その場合は遅滞なく通知し、理由の説明に努める
- 受付方法や手数料は会社が定めて公表できる。手数料は実費を勘案して合理的な範囲で定める。請求を受けてから慌てないよう、窓口・様式・本人確認方法を決めておく
「在職中の人事評価の記録と、上司との面談メモを開示してほしい」。退職した元社員から、こうしたメールが届くことがあります。労働紛争の準備として求められることもあれば、単に自分の評価を知りたいという場合もあります。
個人情報保護法は、本人が会社に対して自分の個人情報の開示を請求できると定めています。対応を誤ると、紛争をこじらせるだけでなく、法令違反を指摘されるおそれもあります。この記事では、開示請求を受けたときの流れと、事前に整えておくことを整理します。個人情報管理の全体像は個人情報の管理を参照してください。
開示請求の対象になるもの
開示請求の対象は保有個人データです。会社が、開示・訂正・利用停止などを行う権限を持つ個人データ(検索できるように体系的に整理された個人情報データベース等を構成する個人情報)を指します。
人事部門が持つ情報の例は次のとおりです。
| 情報 | 例 |
|---|---|
| 人事・労務 | 人事台帳、人事評価、異動・昇格の記録、面談記録、懲戒の記録 |
| 給与・勤怠 | 給与明細、賃金台帳、勤怠記録、残業申請 |
| 健康情報 | 健康診断の結果、休職・復職の記録 |
| 採用 | 応募書類、面接評価(→不採用の連絡と応募書類の取扱い) |
| 相談対応 | ハラスメント相談の記録、内部通報の記録 |
紙のメモでも、氏名で整理されたファイルに綴じられていれば対象になり得ます。逆に、検索できない形で散在しているものは個人データに当たらないこともあります。判断に迷う場合は、ガイドラインやQ&Aで確認します。
法律で決まっていること
| 項目 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 開示の方法 | 電磁的記録の提供、書面の交付など、本人が請求した方法。その方法が困難な場合は書面の交付 | 第33条第1項・第2項 |
| 期限 | 遅滞なく開示する | 第33条第2項 |
| 不開示にできる場合 | ①本人または第三者の生命・身体・財産その他の権利利益を害するおそれ ②会社の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれ ③他の法令に違反することになる | 第33条第2項 |
| 不開示・不存在の通知 | 全部または一部を開示しない、データが存在しない、請求の方法での開示が困難なときは、遅滞なく通知 | 第33条第3項 |
| 理由の説明 | 不開示などを通知するときは、理由を説明するよう努める | 第36条 |
| 受付方法 | 受付の方法を定められる。対象を特定する事項の提示を求められるが、本人の利便を考慮し、過重な負担を課さない | 第37条 |
| 手数料 | 徴収できる。実費を勘案して合理的と認められる範囲で額を定める | 第38条 |
「遅滞なく」に日数の定めはありませんが、本人が裁判で開示を求めるには、事前に請求をして2週間を経過していることが必要とされています(第39条)。社内では「受付から2週間以内に開示または通知」を目安にしておくとよいでしょう。
対応の流れ
1. 受け付けて本人確認をする
請求を受けたら、受付日を記録し、請求者が本人(または代理人)であることを確認します。退職者であれば、在職中の登録情報と照合したり、本人確認書類の写しを求めたりします。確認のために過度な書類を求めるのは避けます。
2. 対象を特定する
「全部」と言われた場合でも、会社は対象を特定するための事項の提示を求めることができます。ただし、ガイドラインは、本人が範囲を限定する義務を負うものではないとしています。会社の側から、保有している情報の種類(人事台帳、評価記録、勤怠記録など)を示し、どれを求めるかを確認すると進めやすくなります。
3. 情報を集め、不開示事由を検討する
関係部署から該当する情報を集め、開示するかどうかを項目ごとに検討します。
| 検討する情報 | 検討のポイント |
|---|---|
| 他の社員の氏名や発言が含まれる面談記録・相談記録 | 第三者の権利利益を害するおそれがある部分を黒塗りにするなど、一部開示を検討する |
| 評価者のコメント、調査中の記録 | 業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがあるかを具体的に検討する |
| 同じ内容の請求が繰り返され、窓口が事実上占有される | ガイドラインは、業務上著しい支障を及ぼすおそれがある例として挙げている |
不開示にできるのは、こうしたおそれが具体的に認められる場合です。「会社に不利になりそう」「紛争に使われそう」という理由だけで不開示にすることはできません。判断に迷う場合は弁護士に相談しましょう。
4. 開示または通知をする
開示する場合は、本人が指定した方法(PDFの送付、書面の郵送など)で行います。一部または全部を開示しない場合は、その旨と理由を書面で通知します。
通知に入れる項目の例:
- 請求を受けた日と請求の内容
- 開示する情報、開示しない情報
- 開示しない理由(該当する事由)
- 問い合わせ先
5. 記録を残す
受付から開示・通知までの経過、開示した情報の範囲、判断の理由を記録し、保存します。同じ人から再び請求があったときや、紛争になったときの資料になります(→文書管理と保存期間)。
事前に整えておくこと
第32条は、保有個人データに関し、開示等の請求に応じる手続(手数料を定めたときはその額を含む)などを、本人の知り得る状態に置くことを求めています。プライバシーポリシーや社内規程に、次の内容を決めておきます。
- □ 受付窓口(部署名・メールアドレス・郵送先)
- □ 請求の様式(請求者の氏名・連絡先・対象の情報・開示の方法)
- □ 本人確認の方法、代理人による請求の確認方法
- □ 手数料の有無と額(定める場合は実費を勘案した合理的な範囲)
- □ 社内の回付ルート(総務→人事→法務・経営)と、回答までの目安日数
- □ 開示・不開示の判断を誰が行うか
社員向けには、個人情報取扱規程に開示請求の手続きを入れておくとよいでしょう(→個人情報取扱規程)。どこにどの個人情報があるかを把握するには、個人情報の管理台帳が役立ちます(→個人情報管理台帳)。
開示請求とあわせて求められやすいもの
| 求められるもの | 根拠と扱い |
|---|---|
| 退職証明書 | 労働基準法第22条。本人が請求した項目を記載して遅滞なく交付する(→退職証明書・解雇理由証明書) |
| 訂正・追加・削除 | 内容が事実でないという理由で請求された場合、必要な調査を行い、その結果に基づいて対応する(第34条) |
| 利用停止・消去 | 目的外利用や不正取得などの場合に請求できる(第35条) |
開示請求が、未払残業代の請求や労働審判の前段階として行われることもあります。そうした兆候がある場合は、担当者だけで抱えず、早めに経営者や専門家と共有しましょう(→労働審判を申し立てられたら、未払残業代を請求されたら)。
まとめ
- 本人は保有個人データの開示を請求でき、会社は本人が指定した方法で遅滞なく開示する
- 不開示にできるのは、権利利益の侵害、業務の適正な実施への著しい支障、法令違反のおそれがある場合。通知と理由の説明が必要
- 対象の特定、本人確認、一部開示(黒塗り)の検討、記録の保存を順に進める
- 受付窓口・様式・手数料・回答の目安を、あらかじめ決めて公表しておく
この記事で使えるテンプレート
総務 個人情報取扱規程(マイナンバー取扱いを含む) 個人情報保護委員会のガイドラインに沿って、利用目的の特定、取得・利用・保管・提供・廃棄の各段階のルール、安全管理措置、委託先の監督、漏えい等の報告、開示等の請求への対応を定め、マイナンバー(特定個人情報)の利用範囲、事務取扱担当者、取扱区域、本人確認、廃棄の章を加えた個人情報取扱規程のひな形です。 総務 個人情報 管理台帳 社内で扱う個人データ(従業員名簿、給与データ、応募者情報、顧客名簿など)を一覧にする台帳です。個人情報保護委員会のガイドラインが例示する項目に、保管場所・保存期間・委託先・廃棄方法などを加えています。この記事に出てくる用語
- 休職
- 病気やけがなどで働けない社員について、労働契約を続けたまま一定期間、労働義務を免除する制度です。法律上の義務ではなく、会社が就業規則で内容を決めます。
- 個人データ
- 検索できるように体系的に整理された個人情報の集まり(個人情報データベース等)を構成する個人情報のことです。社員名簿や顧客台帳、名刺管理ソフトの中の情報などが該当します。
- 人事評価
- 社員の仕事の成果や行動、能力を一定の基準で評価し、昇給・賞与・昇格や育成に反映させる仕組みです。等級制度・報酬制度とつなげて設計します。
- 退職証明書
- 退職した労働者から請求されたときに、会社が交付しなければならない、在職期間や退職の事由などを証明する書面です。雇用保険の離職票とは別の書類です。
- 賃金台帳
- 労働者ごとに賃金計算の基礎となる事項や支払額を記録する帳簿で、労働基準法で作成と保存が義務づけられています。法定三帳簿の一つです。
- 内部通報制度
- 従業員などが社内の法令違反や不正を、社内または社外の窓口に通報できるようにする仕組みです。公益通報者保護法にもとづき、通報者の保護と調査・是正の手順を定めて運用します。
- 復職
- 休職や休業をしていた社員が、職場に戻って働き始めることです。私傷病による休職では、復職できるかどうかを会社が判断します。
- プライバシーポリシー
- 会社が個人情報をどのように取得・利用・管理するかを公表する文書です。法律上の名称ではありませんが、個人情報保護法が求める利用目的や保有個人データに関する事項の公表に使われます。
- 保有個人データ
- 会社が開示・訂正・利用停止などを行う権限を持っている個人データのことです。本人から開示等の請求を受ける対象になり、会社は公表事項の整備と請求への対応が必要です。