増資(募集株式の発行)の手続きと登記|非公開会社の株主総会特別決議、払込み、2週間以内の変更登記と登録免許税、増資後の届出
資金調達や信用力の強化のために資本金を増やす(増資する)ときは、会社法の募集株式の発行の手続きを踏み、払込期日から2週間以内に変更登記をします。非公開会社で多い第三者割当てを例に、発行可能株式総数の確認、株主総会の特別決議で決める募集事項、割当ての通知と払込み、資本金と資本準備金の計上、法務局への登記申請と登録免許税(増加資本金の1,000分の7、最低3万円)、増資後の届出と社内の更新を整理します。
- 対象読者
- 社長や役員からの出資・第三者割当てによる増資の事務を任された、従業員30〜300名の非公開会社の総務担当者
- 難易度
- 実務
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この記事のポイント
- 非公開会社の募集株式の発行は、原則として株主総会の特別決議で募集事項(株数、払込金額、払込期日、増加する資本金・資本準備金など)を決める。上限と下限を定めて取締役会に委任することもできる
- 申込み・割当て・払込みを経て、払込期日(期間を定めた場合は払込みの日)に引受人が株主になる。払込額の2分の1までは資本金にせず資本準備金にできる
- 変更登記は払込期日から2週間以内(期間を定めた場合は期間の末日から2週間以内)。登録免許税は増加した資本金の額の1,000分の7(3万円未満なら3万円)。登記後は税務署・自治体への届出、株主名簿の更新を行う
「社長が追加で出資するので、資本金を1,000万円から2,000万円にしたい」「取引先に株を引き受けてもらい、資金を入れてもらうことになった」。こうした増資の事務は、非公開の中小企業では総務が担当することが多い仕事です。会社法の手続きと登記の期限を押さえておけば、司法書士に依頼する場合も段取りがスムーズになります。
この記事では、非公開会社(すべての株式に譲渡制限がある会社)が第三者割当てで新しい株式を発行する場合を例に、手続きの流れを整理します。登記全般の期限は役員変更・本店移転など登記変更の期限、株主総会の運営は株主総会の準備と運営を参照してください。
増資の方法と全体像
会社法では、新たに株式を発行して出資を受けることを「募集株式の発行」といいます。主な方法は次の2つです。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 株主割当て | 既存の株主に、持株数に応じて株式の割当てを受ける権利を与える(会社法第202条) |
| 第三者割当て | 特定の人(社長、役員、取引先など)に株式を引き受けてもらう。既存株主が引き受ける場合も、持株数に比例しなければこの扱い |
第三者割当てでは、既存株主の持株比率が下がります。誰が何株を持つかは、議決権や将来の事業承継にも関わるため、手続きの前に経営者と方針を確認します。
手続きの流れ
| 順番 | やること | 根拠 |
|---|---|---|
| 1 | 定款の発行可能株式総数と、発行済株式総数を確認する | 会社法第113条 |
| 2 | 募集事項を決める(株主総会の特別決議、または委任を受けた取締役会) | 第199条・第200条・第309条 |
| 3 | 引受人に募集事項を通知し、申込みを受ける(総数引受契約なら省略可) | 第203条・第205条 |
| 4 | 割当てを決め、払込期日の前日までに割当数を通知する | 第204条 |
| 5 | 払込期日(または期間内)に払込みを受ける | 第208条 |
| 6 | 払込期日から2週間以内に変更登記を申請する | 第915条 |
1. 発行可能株式総数の確認
定款に定めた発行可能株式総数を超えて株式を発行することはできません。新たに発行する株数を加えると上限を超える場合は、先に定款を変更して発行可能株式総数を増やします(→定款変更の手続き)。
2. 募集事項の決定
会社法第199条は、募集のたびに次の事項(募集事項)を定めるよう求めています。
- 募集株式の数
- 払込金額(1株あたりの金額)またはその算定方法
- 金銭以外の財産を出資する場合はその内容と価額
- 払込みの期日または期間
- 増加する資本金と資本準備金に関する事項
非公開会社では、募集事項の決定は株主総会の決議によります(第199条第2項)。この決議は特別決議(議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成)です(第309条第2項)。株主総会の決議で、株数の上限と払込金額の下限を定めて、取締役会(取締役会がない会社は取締役)に募集事項の決定を委任することもできます。委任は、払込期日がその決議から1年以内の募集に限り有効です(第200条)。
払込金額が引受人に特に有利な金額である場合は、取締役が株主総会でその金額で募集する理由を説明しなければなりません(第199条第3項)。
3〜4. 申込み・割当て
非公開会社では、株式が譲渡制限株式なので、誰に何株を割り当てるかは株主総会(取締役会設置会社は取締役会)の決議で決めます(定款に別段の定めがある場合を除く、第204条第2項)。割り当てる株数は、払込期日(期間を定めた場合はその初日)の前日までに申込者に通知します(第204条第3項)。法務局の記載例も、このため払込期日を割当決議の当日にはできないと注意しています。
引受人が募集株式の総数を引き受ける契約(総数引受契約)を結ぶ場合は、申込み・割当ての手続きは適用されず、契約の承認で足ります(第205条)。
5. 払込み
引受人は、払込期日(または期間内)に、会社が定めた銀行等の口座に払込金額の全額を払い込みます。払込期日を定めた場合はその日に、期間を定めた場合は払込みをした日に、引受人は株主になります(第209条)。
払い込まれた額は資本金に計上するのが原則ですが、2分の1を超えない額は資本金にせず、資本準備金にできます(会社法第445条)。資本金の額によって税金の区分などが変わる場合があるため、いくらを資本金にするかは税理士と相談して決めます。
変更登記の申請
株式の発行による変更(発行済株式総数と資本金の額)は、払込期日から2週間以内に本店所在地を管轄する法務局で登記します。払込期間を定めた場合は、期間の末日から2週間以内でよいとされています(会社法第915条)。
法務局の申請書記載例(非公開会社のうち取締役会設置会社)では、主な添付書類として次が挙げられています。
| 添付書類 | 内容 |
|---|---|
| 株主総会議事録・取締役会議事録 | 募集事項の決定、割当ての決定など |
| 株主リスト | 株主総会の決議に必要 |
| 募集株式の引受けの申込みを証する書面 | 株式申込証、または総数引受契約書 |
| 払込みがあったことを証する書面 | 代表取締役が作成した払込証明書に、預金通帳の写しなどを合わせてとじたもの |
| 資本金の額の計上に関する証明書 | 資本金に計上する額の証明 |
| 委任状 | 司法書士などの代理人に依頼する場合 |
登録免許税は、増加した資本金の額の1,000分の7で、3万円に満たない場合は3万円です(国税庁 No.7191)。例えば資本金を1,000万円増やすと7万円、300万円増やすと2万1,000円ではなく3万円になります。申請書の様式は法務局の様式一覧に、会社の機関設計ごとに掲載されています。
登記の後にやること
| やること | 内容 |
|---|---|
| 登記事項証明書の取得 | 変更後の内容を確認し、届出の添付用に取得する(→登記事項証明書の取り方) |
| 税務署への届出 | 資本金の額の変更について、異動届出書を提出する |
| 都道府県・市町村への届出 | 法人住民税・事業税の異動届。均等割の区分などが変わる場合がある |
| 株主名簿の更新 | 新しい株主、持株数、取得日を記載する(→株主名簿の作り方と管理) |
| 実質的支配者の確認 | 持株比率が大きく変わった場合は、実質的支配者リストの申出内容も見直す(→実質的支配者リスト) |
| 会社案内などの更新 | ウェブサイト、会社案内、取引先への登録情報の資本金を更新する(→会社案内の作り方) |
注意点
- 登記の期限(2週間)を過ぎても登記はできるが、登記を怠ると過料の対象になる(会社法第976条)。払込期日は、議事録や書類をそろえられる日程で設定する
- 金銭以外の財産(現物出資)による増資は、検査役の調査など別の手続きが必要になる場合がある。専門家に相談する
- 手続きの書類は、議事録の書き方ひとつで登記が受理されないこともある。不安があれば司法書士に依頼し、総務は日程管理と社内決議の段取りを担う
まとめ
- 非公開会社の増資は、株主総会の特別決議で募集事項を決めるのが原則。上限・下限を定めて取締役会に委任することもできる
- 割当数は払込期日の前日までに通知し、払込みで引受人が株主になる。払込額の2分の1までは資本準備金にできる
- 変更登記は払込期日から2週間以内。登録免許税は増加資本金の1,000分の7(最低3万円)
- 登記後は税務署・自治体への届出、株主名簿・実質的支配者リスト・会社案内の更新を忘れない
この記事に出てくる用語
- 株主総会
- 株式会社の最高意思決定機関で、株主が集まって計算書類の承認、役員の選任、定款変更などを決議する会議です。毎事業年度の終了後に開く「定時株主総会」と、必要に応じて開く臨時株主総会があります。
- 株主名簿
- 株主の氏名・住所、持株数、取得日などを記載した会社の帳簿です。会社法で作成と本店への備置きが義務づけられ、株式の譲渡は名簿に記載しないと会社に対抗できません。
- 商業登記
- 会社の商号・本店・目的・役員・資本金などを法務局の登記簿に記録し、取引の相手方が確認できるように公示する制度です。登記事項に変更があれば2週間以内に変更登記をします。
- 実質的支配者リスト
- 株式会社が自社の実質的支配者(議決権の50%超、いなければ25%超を持つ個人など)を記載した一覧を法務局に提出し、登記官の認証文付きの写しを受け取れる制度です。
- 譲渡制限株式
- 株式を他人に譲り渡すときに会社の承認が必要と定款で定めた株式です。すべての株式が譲渡制限株式の会社を「公開会社でない会社(非公開会社)」といい、中小企業の多くが該当します。
- 定款
- 会社の目的・商号・本店所在地・機関設計・役員の任期など、会社の基本ルールを定めた文書です。会社の「憲法」とも呼ばれ、変更には株主総会の特別決議が必要です。
- 登記事項証明書
- 法務局が発行する、会社の登記内容を証明する書面です。いわゆる「登記簿謄本」にあたり、銀行口座の開設や入札、許認可の申請などで提出を求められます。
- 登録免許税
- 登記や登録、免許などを受けるときに国に納める税金です。会社の設立・役員変更・本店移転・増資などの商業登記を申請するときに納めます。
- 取締役会
- 3人以上の取締役で構成され、会社の業務執行の決定や代表取締役の選定・監督を行う会議体です。置くかどうかは定款で決め、置いている会社を「取締役会設置会社」といいます。