役員報酬の決め方と変更手続き|株主総会の決議、定期同額給与の3か月ルール、事前確定届出給与の期限
取締役の報酬は、定款に定めがなければ株主総会の決議で決めます。会社法の手続き(総額の上限決議と個別配分)、法人税で損金になる定期同額給与・事前確定届出給与の要件、期首から3か月以内という改定時期、事前確定届出給与の届出期限、議事録と社会保険・源泉徴収の事務を整理します。
- 対象読者
- 役員報酬の決定・改定の事務を担当する中小企業の総務担当者、経営者
- 難易度
- 実務
- 所要時間
- 読了9分
- 最終確認日
この記事のポイント
- 取締役の報酬は、定款に定めがなければ株主総会で決める(会社法第361条)。中小企業では総額の上限を総会で決め、個別の額を取締役会などで決める方法が一般的
- 損金になる役員給与は、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与などに限られる。定期同額給与の改定は、原則として事業年度開始から3か月以内に行う
- 役員賞与を損金にするには事前確定届出給与の届出が必要。期限は、株主総会等の決議日から1か月経過日と、事業年度開始から4か月経過日のいずれか早い日
「来月から社長の報酬を上げたい」。経営者からこう言われたとき、すぐに給与計算を変えてよいわけではありません。役員報酬は、会社法の手続きと法人税のルールの両方を満たす必要があり、時期を誤ると損金にならない部分が出ます。
この記事では、役員報酬の決定と変更について、総務が段取りする手続きを整理します。税務の最終判断は顧問税理士に確認してください。
会社法の手続き:誰が決めるか
取締役の報酬
取締役の報酬・賞与その他の職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益(報酬等)は、定款に定めていなければ、株主総会の決議で決めます(会社法第361条第1項)。決める内容は報酬の種類によって違います。
| 報酬の種類 | 株主総会で決める事項 |
|---|---|
| 額が確定しているもの | その額 |
| 額が確定していないもの(業績連動など) | 具体的な算定方法 |
| 金銭でないもの(社宅など) | 具体的な内容 |
株式や新株予約権を報酬とする場合は、別に定める事項があります。報酬議案を総会に出す取締役は、その事項を相当とする理由を説明する必要があります(同条第4項)。
総額の上限を決めて、配分を任せる方法
中小企業では、株主総会で「取締役全員の報酬の総額を年額〇〇円以内とする」と上限を決め、各取締役への配分を取締役会(取締役会がなければ取締役の協議など)に任せる方法が一般的です。上限の範囲内であれば、毎年総会で決め直す必要はありません。上限を超えて増額するときは、改めて総会決議が必要です。
監査役の報酬
監査役の報酬も、定款に定めがなければ株主総会で決めます。監査役が複数いて個別の額が決まっていない場合は、総会で決めた範囲内で監査役の協議によって決めます(会社法第387条)。
総会の招集や書面決議の方法は定時株主総会の段取り、議事録の作り方は取締役会・株主総会議事録を参照してください。
法人税のルール:損金になる役員給与
役員に支払う給与のうち、法人税の計算で損金に算入できるのは、次のいずれかに当たるものです(法人税法第34条)。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 定期同額給与 | 1か月以下の一定の期間ごとに支給し、事業年度中の各支給時期の支給額が同額 |
| 事前確定届出給与 | 所定の時期に確定額を支給する旨を事前に税務署に届け出たもの(役員賞与など) |
| 業績連動給与 | 利益などの指標に基づいて算定するもの。同族会社は原則として対象外など要件が厳しい |
これらに当たらない給与や、不相当に高額な部分は損金になりません。
定期同額給与の改定ができる時期
国税庁 No.5211 によると、定期同額給与の額を改定して損金算入を続けられるのは、主に次の場合です。
| 改定の種類 | 内容 |
|---|---|
| 期首から3か月以内の改定 | 事業年度開始の日から3か月を経過する日まで(申告期限延長の特例を受けている場合は別の月数)にされる改定 |
| 臨時改定事由による改定 | 役員の職制上の地位の変更(社長就任など)、職務内容の重大な変更などやむを得ない事情による改定 |
| 業績悪化改定事由による改定 | 経営状況が著しく悪化したことなどによる減額。一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標に達しなかったことは含まれない |
3月決算の会社なら、6月の定時株主総会で報酬を決め、7月支給分から改定する、という流れが一般的です。期中に「業績が良いので来月から増額」とすると、増額分が損金にならないおそれがあります。
役員賞与は事前確定届出給与で
役員に賞与を支払い、損金にしたい場合は、事前確定届出給与として税務署長に届け出ます。届出の期限は、原則として次のいずれか早い日です。
- 株主総会等の決議で定めた日から1か月を経過する日(決議日が職務執行の開始日より後の場合は、開始日から1か月を経過する日)
- 事業年度開始の日から4か月を経過する日(申告期限延長の特例を受けている場合は別の月数)
届け出た支給日・金額と実際の支給が違うと、損金にならないことがあります。支給の段取りは、届出書の内容と照らし合わせて進めましょう。
総務の事務の流れ
| 時期 | やること | 関係先 |
|---|---|---|
| 決算前 | 経営者と翌期の報酬案を確認。総会の上限額を超えないか確認 | 経営者・顧問税理士 |
| 定時株主総会 | 報酬の上限(または個別額)を決議。議事録を作成 | 株主・取締役 |
| 総会後 | 取締役会などで個別の配分を決議。議事録を作成 | 取締役 |
| 決議後1か月以内など | 役員賞与を払う場合は事前確定届出給与の届出 | 税務署 |
| 改定月 | 給与計算の変更。源泉所得税の計算 | 給与計算担当 |
| 改定から4か月目 | 社会保険の随時改定(月額変更届)の要否を確認 | 年金事務所 |
社会保険と源泉徴収
報酬の改定で固定的な報酬が変わると、社会保険の随時改定(月額変更届)の対象になりえます。役員も、法人から報酬を受けていれば健康保険・厚生年金保険の被保険者になります(随時改定(月額変更届)の要件)。役員賞与を払ったときは、賞与支払届の提出が必要です(賞与の社会保険料)。
源泉所得税は、従業員の給与と同じく源泉徴収税額表で計算します(毎月の源泉所得税の計算方法)。
従業員から役員になった人の報酬は、従業員としての給与とは扱いが変わります。雇用保険や退職金の扱いは従業員を取締役に昇格させるときの手続きを参照してください。
決議と書類のチェックリスト
- 定款に役員報酬の定めがあるか確認した
- 株主総会で報酬の上限額(または個別額)を決議し、議事録に残した
- 個別の配分を取締役会などで決め、議事録に残した
- 改定は事業年度開始から3か月以内か、臨時改定事由に当たるかを税理士と確認した
- 役員賞与を払う場合、期限内に事前確定届出給与の届出をした
- 社会保険の随時改定・賞与支払届の要否を確認した
- 決裁権限表に役員報酬の決定手続きを明記した(決裁権限規程)
まとめ
- 取締役・監査役の報酬は、定款に定めがなければ株主総会で決める。上限額を決め、個別配分を取締役会などで決める方法が一般的
- 損金になるのは定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与など。定期同額給与の改定は原則として期首から3か月以内
- 役員賞与は事前確定届出給与として期限内に届け出る
- 議事録の作成、社会保険の随時改定、源泉徴収まで、総務がまとめて段取りする