労働保険事務組合の選び方|委託できる会社の規模、任せられる事務と任せられない事務、役員の特別加入と委託先を比べるポイント
労働保険事務組合は、厚生労働大臣の認可を受けて、中小事業主に代わって労働保険料の申告・納付や雇用保険の届出などを行う団体です。委託できる会社の規模、委託のメリット、任せられない事務、事務組合と会社の責任の分かれ方を法律と労働局の案内で確認し、委託先を比べるポイントを整理します。
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- 労働保険の年度更新や雇用保険の手続を自社で行っていて負担を感じている、または役員の労災保険の特別加入を考えている、従業員30〜300名の企業の労務担当者・経営者
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この記事のポイント
- 委託できるのは、常時使用する労働者が金融・保険・不動産・小売業50人以下、卸売・サービス業100人以下、その他の事業300人以下の事業主。事業協同組合・商工会議所・商工会などが認可を受けている
- 委託すると、保険料の額にかかわらず年3回の分割納付ができ、事業主や家族従事者が労災保険に特別加入できる。印紙保険料の事務と、労災保険・雇用保険の保険給付の請求は事務組合の業務に含まれない
- 事務組合は、事業主から交付された保険料の限度で政府への納付の責任を負う(労働保険徴収法第35条)。委託手数料・入会金、対応の範囲、社会保険の手続との分担を比べて選ぶ
労働保険(労災保険と雇用保険)の手続は、毎年6〜7月の年度更新、入退社のたびの雇用保険の届出と、決まった時期に必ず発生します。一人で労務を担う会社では、この事務を外部に任せたいと考えることもあるでしょう。その選択肢の一つが「労働保険事務組合」への委託です。
この記事では、労働保険事務組合の仕組みと、委託先を比べるときのポイントを、厚生労働省・労働局の案内と労働保険徴収法に沿って整理します。社会保険の手続を含めた外部委託全般は給与計算・労務手続きアウトソーシングの選び方を参照してください。
労働保険事務組合とは
労働保険事務組合は、事業協同組合などの事業主の団体が、厚生労働大臣の認可を受けて、構成員である事業主などの委託を受けて労働保険の事務を処理する仕組みです(労働保険徴収法第33条)。京都労働局の案内では、事業協同組合、商工会議所、商工会などが認可を受けているとされています。
政府から事業主への保険料の納入の告知などの通知や還付金の還付は、事務組合に対して行うことができ、事務組合に対して行ったものは事業主に対して行ったものとみなされます(同法第34条)。
委託できる会社の規模
| 業種 | 常時使用する労働者の数 |
|---|---|
| 金融業・保険業・不動産業・小売業 | 50人以下 |
| 卸売業・サービス業 | 100人以下 |
| 上記以外の事業 | 300人以下 |
従業員数が増えて規模を超えた場合の扱いや、業種の区分に迷う場合は、委託先の事務組合か所轄の労働局に確認してください。
委託できる事務・できない事務
厚生労働省の案内では、事務組合が行う事務の範囲は次のとおりです。
| 委託できる主な事務 | 委託できない事務 |
|---|---|
| 概算保険料・確定保険料などの申告と納付(年度更新) | 印紙保険料に関する事務 |
| 保険関係成立届、任意加入の申請、雇用保険の事業所設置の届 | 労災保険の保険給付に関する請求 |
| 労災保険の特別加入の申請 | 雇用保険の保険給付に関する請求 |
| 雇用保険の被保険者に関する届出 | 雇用安定事業・能力開発事業に関する手続 |
| その他、労働保険についての申請・届出・報告 | ― |
労災が起きたときの給付の請求書や、育児休業給付などの雇用保険の給付の申請は、委託後も会社や本人が行うことになります。また、事務組合が扱うのは労働保険で、健康保険・厚生年金保険の手続は含まれません。社会保険の手続も外部に任せたい場合は、別に社会保険労務士などへの委託を検討します(社労士に委託する範囲と顧問契約の考え方)。
委託のメリット
厚生労働省と労働局の案内では、次の3つが挙げられています。
- 事務処理の負担が軽くなる:保険料の申告・納付などを事務組合が行う
- 保険料の額にかかわらず年3回に分割して納付できる:自社で申告する場合は、概算保険料が一定額以上でないと分割納付できない(労働保険の成立手続き)
- 事業主や家族従事者が労災保険に特別加入できる:中小事業主等の特別加入は、事務組合への委託が前提になる(労災保険の特別加入)
役員が現場に出ることの多い会社では、3つ目の特別加入が委託の主な理由になることもあります。
事務組合と会社の責任の分かれ方
委託しても、会社の義務がすべてなくなるわけではありません。労働保険徴収法第35条は、責任の分かれ方を次のように定めています。
| 場面 | 責任 |
|---|---|
| 会社が保険料を事務組合に交付した | 交付した金額の限度で、事務組合が政府に対して納付の責任を負う |
| 追徴金・延滞金が事務組合の責めに帰すべき理由で生じた | その限度で事務組合が納付の責任を負う |
| 事務組合から徴収しても残りがある | 残りの額は会社から徴収されることがある |
会社が保険料を期限までに事務組合に渡さなければ、当然、会社の責任になります。賃金の集計表など事務組合から求められる資料を期限までに出すことが、委託後の会社の主な役割です。事務組合は、処理する労働保険事務に関する帳簿を事務所に備えておく義務があります(同法第36条)。
委託先を比べるポイント
| 比べる項目 | 確認すること |
|---|---|
| 加入の条件 | 商工会議所・商工会の会員になる必要があるか、業種や地域の制限があるか |
| 費用 | 入会金・年会費・委託手数料の額と、算定の方法(労働者数・保険料額など)。事務組合ごとに規約で決まっている |
| 事務の範囲 | 雇用保険の資格取得・喪失届まで任せられるか、年度更新だけか |
| 資料のやり取り | 賃金集計表の様式、提出期限、電子での受け渡しができるか |
| 特別加入 | 役員の特別加入の手続と、給付基礎日額の相談に応じてもらえるか |
| 給付の請求の支援 | 委託範囲外の労災給付の請求について、相談先があるか(社労士との連携など) |
| 担当者・連絡方法 | 問い合わせ先、繁忙期(6〜7月)の対応 |
| 解約 | 解約の手続と、自社申告に戻るときの引き継ぎ |
費用は、厚生労働省の案内でも「入会金・委託手数料等が必要になる場合がある」とされ、金額は事務組合ごとに違います。複数の事務組合から見積もりを取り、同じ条件で比べましょう(相見積もりの依頼書と比較表をAIで作る)。
委託先の探し方
都道府県労働局のウェブサイトには、管内の労働保険事務組合の名簿が掲載されていることがあります(京都労働局など)。所属している商工会議所・商工会や業界の事業協同組合に、事務組合を運営しているかを問い合わせる方法もあります。
委託を始めるときの流れ
- 委託先の事務組合を決め、会社が「労働保険事務等委託書」を事務組合に出す。委託は書面で取り交わし、事務処理規約も受け取る
- 事務組合が「保険関係成立届(事務処理委託届)」を作成して提出する
- 会社は労働者名簿・出勤簿・賃金台帳を備え、入退社や事業所の変更があれば速やかに事務組合に連絡する
- 年度更新の時期に、事務組合から示された保険料を期限までに事務組合に支払う
東京労働局が事務組合向けに示している手引きでは、以上のような流れと、委託事業主に賃金台帳の整備や雇用保険料の控除を励行させることが示されています。手続の詳細と提出の時期は、委託先の事務組合の案内に従ってください。委託後も、年度更新の期限が自社申告とは異なる場合があります(労働保険の年度更新)。
よくある質問
Q. 社労士事務所に頼むのと、何が違いますか。 社労士への委託は契約で決めた範囲の手続を代行してもらうもので、社会保険の手続や給付の請求も含められます。一方、年3回の分割納付(保険料の額にかかわらない)と中小事業主等の特別加入は、事務組合への委託が前提です。両方を組み合わせている会社もあります。
Q. 委託したら年度更新の書類は見なくてよいですか。 保険料の計算の基礎になる賃金の集計は、会社が出す資料がもとになります。集計の誤りは保険料の誤りにつながるため、提出前に会社で確認します。
まとめ
- 労働保険事務組合は、厚生労働大臣の認可を受けて中小事業主の労働保険事務を代わりに行う団体
- 委託できるのは業種ごとに50人・100人・300人以下の事業主。年3回の分割納付と事業主の特別加入ができる
- 印紙保険料の事務と、労災保険・雇用保険の給付の請求は委託できない。社会保険の手続も含まれない
- 事務組合は交付された保険料の限度で納付の責任を負う。費用、事務の範囲、資料のやり取り、特別加入の支援を比べて選ぶ
この記事に出てくる用語
- 育児休業給付
- 雇用保険の被保険者が育児休業を取ったときに支給される給付です。休業開始から180日までは賃金の67%、それ以降は50%が目安です。
- 健康保険
- 会社員などが加入する公的医療保険で、業務外の病気・けが、出産、死亡に対して給付を行います。保険者は協会けんぽと健康保険組合です。
- 厚生年金保険
- 会社員などが加入する公的年金で、老齢・障害・死亡に対して年金を支給します。原則として70歳未満の被用者が加入し、保険料は会社と本人が折半します。
- 雇用保険
- 労働者が失業したときや、育児・介護で休業したときなどに給付を行う公的保険です。週20時間以上働き、31日以上雇用見込みがある人が原則として加入します。
- 出勤簿
- 労働者ごとの出勤日や始業・終業時刻を記録する書類で、賃金台帳・労働者名簿とあわせて「法定三帳簿」と呼ばれます。
- 賃金台帳
- 労働者ごとに賃金計算の基礎となる事項や支払額を記録する帳簿で、労働基準法で作成と保存が義務づけられています。法定三帳簿の一つです。
- 特別加入
- 本来は労災保険の対象外である中小事業主・役員、一人親方、フリーランスなどが、任意に労災保険に加入できる制度です。
- 年度更新
- 前年度の労働保険料を確定させて精算し、今年度の概算保険料を申告・納付する手続きです。毎年6月1日から7月10日までに行います。
- 労災保険
- 業務中や通勤中のけが・病気・障害・死亡に対して、治療費や休業中の所得補償などを給付する公的保険です。保険料は全額会社が負担します。
- 労働者名簿
- 事業場ごとに、労働者の氏名・生年月日・履歴などを記録する名簿で、労働基準法で作成と保存が義務づけられています。法定三帳簿の一つです。
- 労働保険
- 労災保険と雇用保険をまとめた呼び方です。労働者を1人でも雇うと加入が必要で、保険料は年度更新でまとめて申告・納付します。