労災保険のメリット制とは|対象になる会社の規模、収支率と増減率、特例メリット制、保険料認定への不服
労災保険のメリット制は、業務災害の多さに応じて労災保険率を最大40%(特例は45%)増減させる仕組みです。厚生労働省の解説資料と労働保険徴収法の条文をもとに、継続事業で対象になる規模と業種ごとの最低労働者数、収支率と適用時期、特例メリット制、2023年以降の不服の取扱いを整理します。
- 対象読者
- 年度更新の書類に「労災保険率決定通知書」が同封されていた、または業務災害が続いて保険料への影響を確認したい、従業員30〜300名の企業の労務担当者
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この記事のポイント
- 継続事業のメリット制は、保険関係の成立から3年以上たち、連続する3保険年度の各年度に100人以上、または20人以上100人未満で災害度係数0.4以上の労働者を使用した事業が対象。卸売・小売・飲食・宿泊業や「その他の各種事業」では、実質100人以上が条件になる
- 3年間の業務災害の保険給付と保険料の比率(メリット収支率)が85%を超えると割増、75%以下だと割引。増減は最大40%で、3年間の最後の年度の翌々年度の労災保険率に反映される。通勤災害の給付は含まれない
- 事業主は労災の支給決定そのものの取消しは求められない(最高裁令和6年7月4日判決)。一方、2023年1月から、メリット制で上がった保険料の認定を争う場面では、支給要件に当たらないと主張できる取扱いになっている
年度更新の書類に「労災保険率決定通知書」が入っていて、業種の料率と違う率が書かれている。これが労災保険のメリット制です。業務災害が少ない会社は保険料が下がり、多い会社は上がります。
この記事では、厚生労働省の解説資料「労災保険のメリット制について」と労働保険徴収法の条文をもとに、従業員30〜300名の会社に関係する継続事業のメリット制を中心に整理します。年度更新の手順は労働保険の年度更新を参照してください。
メリット制の仕組み
労災保険率は事業の種類ごとに決まっていますが、同じ業種でも作業工程や設備、災害防止の取組みによって災害の発生状況は違います。そこで、保険料負担の公平と災害防止努力の促進のため、個々の事業の業務災害の多寡に応じて労災保険率を増減させるのがメリット制です(労働保険徴収法第12条第3項)。
| 事業の区分 | 例 | 増減の幅 |
|---|---|---|
| 継続事業 | 一般の工場、商店、事務所 | ±40% |
| 一括有期事業 | 小規模な建設工事・立木の伐採を年間で一括したもの | ±40%または±30%(立木の伐採は最大±35%) |
| 単独有期事業 | ビル建設、トンネル工事など大規模な工事 | ±40%(立木の伐採は最大±35%) |
継続事業では、業種の労災保険率から非業務災害率(全業種一律1000分の0.6)を引いた部分だけを増減させます。通勤災害などに充てる部分は増減しません。
継続事業で対象になる会社
次の2つの要件を同時に満たす事業が対象です。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 事業の継続性 | メリット制が適用される年度の前々年度の3月31日(基準日)時点で、労災保険の保険関係の成立から3年以上たっている |
| 事業の規模 | 基準日の属する年度から遡った連続する3保険年度の各年度に、次のAまたはBを満たす |
| A | 100人以上の労働者を使用した |
| B | 20人以上100人未満の労働者を使用し、災害度係数が0.4以上 |
災害度係数は「労働者数 ×(業種の労災保険率 − 非業務災害率)」で計算します。各年度の労働者数は、各月末日(賃金締切日があればその直前の締切日)の使用労働者数の合計を12で割った数(小数点以下切捨て)です。
業種によっては実質100人以上が条件
災害度係数0.4以上になる最低労働者数は、労災保険率が低い業種ほど多くなります。厚生労働省の資料の「最低労働者数早見表」(令和6年度〜)から抜粋します。
| 事業の種類 | 最低労働者数 |
|---|---|
| 卸売業・小売業、飲食店又は宿泊業 | 100人 |
| 金融業、保険業又は不動産業 | 100人 |
| その他の各種事業 | 100人 |
| 通信業、放送業、新聞業又は出版業 | 100人 |
| 食料品製造業 | 82人 |
| ビルメンテナンス業 | 75人 |
| 倉庫業、警備業、消毒又は害虫駆除の事業又はゴルフ場の事業 | 68人 |
| 貨物取扱事業(港湾関係を除く) | 51人 |
事務所や小売・サービス中心の会社では、3年続けて100人以上いなければメリット制はかかりません。製造業や物流業では、100人未満でも対象になることがあります。
メリット収支率と適用時期
収支率の計算
メリット収支率は、連続する3保険年度の業務災害の保険給付等の額を、同じ期間の確定保険料(非業務災害率の部分を除く)に第1種調整率(一般の事業は0.67)を掛けた額で割った割合です。
| 分子に入るもの | 入らないもの |
|---|---|
| 業務災害の保険給付と特別支給金 | 通勤災害の給付 |
| 療養・休業補償給付などは、負傷・発病から3年以内の分 | 特定疾病(一定の業務に長期間従事して発生する疾病)の給付 |
| 障害・遺族補償年金は、一時金に換算した額(労基法相当額) | 二次健康診断等給付 |
副業先との賃金合算による給付の増加分も、業務災害が起きた事業場の賃金に相当する分しか反映されません(副業先で労災が起きたとき)。
増減率の目安
| メリット収支率 | 増減率 |
|---|---|
| 10%以下 | 40%減 |
| 70%超75%まで | 5%減 |
| 75%超85%まで | 増減なし |
| 85%超90%まで | 5%増 |
| 150%超 | 40%増 |
間の区分は10%刻みでおおむね5%ずつ変わります。正確な区分は厚生労働省の資料の増減表で確認してください。
反映される年度
連続する3保険年度の最後の年度の翌々年度の労災保険率に反映されます。たとえば令和4〜6年度の実績は、令和8年度の労災保険率になります。メリット制が適用される事業場には、年度更新の申告書とともに「労災保険率決定通知書」が送られ、概算保険料はその率で計算します。
厚生労働省の資料の計算例では、労災保険率1000分の7、賃金総額5億円の事業で、メリット制がなければ労災保険料は350万円です。無災害(40%減)なら222万円、災害が多い(40%増)なら478万円になります。
特例メリット制
中小企業事業主が所定の安全衛生措置を講じた場合、増減の幅を最大±45%に広げる特例があります(労働保険徴収法第12条の2)。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 対象事業 | メリット制が適用される継続事業(建設・立木の伐採を除く) |
| 安全衛生措置 | 労働安全衛生マネジメントシステムの実施などを講じ、都道府県労働局長の確認を受ける |
| 中小企業の規模(企業全体の常時使用労働者数) | 金融・保険・不動産・小売・飲食店は50人以下、卸売・サービス業は100人以下、その他は300人以下 |
| 申告 | 措置を講じた年度の次の年度の初日から6か月以内に申告する |
| 適用期間 | 措置を講じた年度の翌々年度から3年間 |
手続の詳細は都道府県労働局に問い合わせるよう案内されています。
支給決定に納得できないとき
メリット制の対象事業場では、従業員の労災が認定されると保険料が上がる可能性があります。会社として業務上の災害ではないと考える場合の扱いは、次のように整理されています。
| 争い方 | 扱い |
|---|---|
| 労災保険の支給決定そのものの取消しを求める | 事業主には原告適格がない(最高裁第一小法廷令和6年7月4日判決) |
| メリット制で引き上げられた保険料の認定処分を争う | 2022年12月の厚生労働省の検討会報告書を踏まえ、2023年1月から、その中で支給要件に当たらないと主張できる取扱いになった。認められれば保険料を再決定するなどの対応をとるが、労災保険の給付は取り消さない |
つまり、会社の主張が認められても、従業員が受けた給付はそのままです。事実関係に疑問がある場合は、労働基準監督署の調査に協力して、勤務状況や事故の状況を正確に伝えることが先決です。
保険料が上がるのを避けるために労災保険を使わせない、労働者死傷病報告を出さない、といった「労災かくし」は許されません。業務中のけがで休業した場合は労働者死傷病報告の提出が義務で(労働安全衛生規則第97条)、報告をしない・虚偽の報告をすることは罰則の対象です。
会社がやること
- 年度更新の書類に労災保険率決定通知書があるか確認し、その率で概算保険料を計算する
- 自社の業種の最低労働者数と、3年間の平均労働者数を確認し、メリット制がかかる可能性を把握する
- 業務災害の発生状況を衛生委員会などで共有し、再発防止に取り組む(衛生委員会の運営、高年齢者の転倒・腰痛対策)
- 労災が起きたら、メリット制にかかわらず速やかに手続を進める(労災が起きたときの会社の対応)
なお、2027年4月施行の労災保険法の改正は、遺族補償年金の要件や請求時効の見直しが中心で、メリット制の仕組みそのものを変えるものではありません。
まとめ
- メリット制は業務災害の多寡で労災保険率を最大±40%(特例は±45%)増減させる仕組み
- 継続事業は、成立から3年以上、かつ3年度続けて100人以上(または20〜99人で災害度係数0.4以上)が対象。事務所・小売・サービス業は実質100人以上
- 収支率85%超で割増、75%以下で割引。3年間の最後の年度の翌々年度に反映。通勤災害は含まない
- 事業主は支給決定の取消しは求められないが、保険料の認定を争う中で支給要件非該当を主張できる
- 保険料を理由にした労災かくしは違法。業務災害の再発防止で保険料を下げるのが本筋
この記事で使えるテンプレート
労務 労災発生時の対応フロー・チェックリスト 業務災害・通勤災害が起きたときに、救護・事実確認・労災保険の請求・労働者死傷病報告・再発防止までを順番に確認できる対応フローとチェックリストです。発生状況の記録欄も付いています。この記事に出てくる用語
- 衛生委員会
- 常時50人以上の労働者を使用する事業場で設置が義務づけられた、労働者の健康障害の防止などについて労使で調査審議する委員会です。毎月1回以上開催します。
- 休業補償給付
- 業務上のけがや病気で働けず賃金を受けられないときに、休業4日目から労災保険で支給される給付です。給付基礎日額の60%に、特別支給金20%が上乗せされます。
- 業務災害
- 労働者が業務によって被ったけが・病気・障害・死亡のことで、労災保険の給付の対象になります。業務遂行性と業務起因性の2つの観点で判断されます。
- 通勤災害
- 労働者が通勤によって被ったけが・病気・障害・死亡のことで、労災保険の給付の対象になります。合理的な経路・方法による移動であることが必要です。
- 年度更新
- 前年度の労働保険料を確定させて精算し、今年度の概算保険料を申告・納付する手続きです。毎年6月1日から7月10日までに行います。
- 副業・兼業
- 本業の会社で働きながら、ほかの会社に雇われたり、個人で事業を行ったりすることです。厚生労働省のガイドラインは、原則として認める方向で検討することを求めています。
- メリット制
- 事業ごとの業務災害の多さに応じて、労災保険率や保険料を一定の範囲で増減させる制度です。継続事業では最大40%増減します。
- 労災保険
- 業務中や通勤中のけが・病気・障害・死亡に対して、治療費や休業中の所得補償などを給付する公的保険です。保険料は全額会社が負担します。
- 労働基準監督署
- 労働基準法・労働安全衛生法などが守られているかを監督する厚生労働省の機関です。36協定や就業規則の届出先で、労災保険の給付の窓口でもあります。
- 労働者死傷病報告
- 労働災害などで労働者が死亡または休業したときに、会社が労働基準監督署に提出する報告です。休業4日以上は遅滞なく、4日未満は四半期ごとにまとめて報告します。
- 労働保険
- 労災保険と雇用保険をまとめた呼び方です。労働者を1人でも雇うと加入が必要で、保険料は年度更新でまとめて申告・納付します。