給与計算・労務手続きアウトソーシングの選び方:委託先の種類、社労士の独占業務との関係、契約前の確認事項
給与計算や入退社の社会保険手続きを外部に委託すると、担当者の負担と属人化を減らせます。委託先の種類、社会保険労務士法の独占業務との関係、委託範囲の決め方、マイナンバーを含むデータの受け渡し、契約前に確認すべきことを、特定の事業者をすすめずに整理します。
- 対象読者
- 給与計算や社会保険の手続きを外部に任せることを検討している、従業員30〜300名の企業の経営者・管理部門責任者・一人人事
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この記事のポイント
- 委託先は「社労士事務所・社労士法人」「給与計算代行会社」「大規模なBPO事業者」などに分かれる。社労士以外の事業者は、届出の作成・提出代行を自ら行えない
- 社会保険・雇用保険の届出書の作成と提出代行(1号業務)、法令に基づく帳簿書類の作成(2号業務)は社労士の独占業務。誰がどの作業を担うかを契約前に確認する
- 委託しても、勤怠の締め・支給額の最終確認・マイナンバーの委託先の監督など、会社に残る責任がある
給与計算は毎月必ずあり、間違いが許されません。入社・退職のたびに社会保険・雇用保険の届出もあります。担当者が1人だと、休んだり辞めたりした瞬間に止まってしまいます。そこで検討されるのが、給与計算や労務手続きの**アウトソーシング(外部委託)**です。
この記事では、委託先の種類と選ぶときの確認事項を、社会保険労務士法の独占業務との関係を中心に整理します。社労士への委託範囲と顧問契約の考え方は社労士に委託する範囲と顧問契約の考え方で詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。
委託先の種類
| 種類 | 主な業務 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 社労士事務所・社労士法人 | 社会保険・労働保険の手続き、給与計算、就業規則、労務相談 | 給与計算を自ら行うか、提携先に任せるか |
| 給与計算代行会社 | 給与・賞与の計算、明細の発行、年末調整の計算 | 届出の作成・提出代行が必要な場合、どの社労士が担当するか |
| 大規模なBPO事業者 | 給与計算・手続き・問い合わせ対応などをまとめて受託 | 小規模の会社でも対応範囲や最低料金が合うか |
| 会計事務所・税理士事務所 | 会計・税務とあわせて給与計算を受託 | 社会保険手続きの担当(提携社労士の有無) |
| 給与・労務クラウドの代行オプション | システムの提供とあわせて入力・計算を代行 | 代行の範囲と、届出の担当者 |
社労士の独占業務との関係
社会保険労務士法は、社労士・社労士法人でない者が、他人の求めに応じ報酬を得て、次の業務を業として行うことを禁じています(同法第27条。他の法律に別段の定めがある場合などを除く)。
| 業務 | 内容 | 社労士以外の委託先 |
|---|---|---|
| 1号業務 | 労働社会保険諸法令に基づく申請書・届出書等の作成、提出代行、事務代理(資格取得届・喪失届、算定基礎届、月額変更届、離職証明書など) | 行えない |
| 2号業務 | 労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類の作成 | 行えない |
| 3号業務 | 労務管理や社会保険に関する相談・指導 | 独占業務ではない |
給与計算の代行は、社労士以外の事業者も広く提供しています。ただし、給与計算と一緒に「入退社の届出もお願いしたい」「賞与支払届や算定基礎届も作ってほしい」となると、1号業務にあたります。社労士でない事業者に委託するときは、次の点を契約前に確認してください。
- 届出の作成・提出代行は、**どの社労士(事務所名・登録番号)**が担当するのか
- 提携する社労士がいない場合、届出は自社で行うのか
- 契約書で、給与計算代行の業務範囲と届出の業務範囲が分けて書かれているか
自社の従業員が自社の届出を作成・提出することは制限されません。給与計算だけを委託し、届出は自社で電子申請する分け方もあります(→社会保険・労働保険の電子申請を始める手順)。
税務に関する相談や税務書類の作成は、税理士の業務とされています。年末調整の計算を委託する場合も、従業員からの税金に関する個別の質問に委託先がどこまで対応できるかを確認しておきましょう。
委託範囲の決め方
業務を細かく分け、「自社」「委託先」を割り振ります。
| 業務 | 自社に残すことが多い | 委託しやすい |
|---|---|---|
| 勤怠の締め・確認 | ○(承認と最終確認) | 集計 |
| 給与・賞与の計算 | 支給額の最終確認 | ○ |
| 給与明細の発行 | — | ○ |
| 社会保険・雇用保険の届出 | 本人からの書類の回収 | ○(社労士) |
| 住民税の特別徴収の異動届 | — | ○ |
| 年末調整 | 従業員への案内・書類の回収 | 計算・源泉徴収票の作成 |
| 従業員からの問い合わせ | 一次窓口 | 制度の確認 |
月次の給与計算の流れは月次の給与計算の流れとチェックポイント、入退社の手続きは入社時の社会保険・雇用保険の加入手続きと退職時の手続き一覧にまとめています。業務の洗い出しには人事総務の業務棚卸しをAIで進めるの方法も使えます。
契約前に確認すること
| 項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 業務範囲 | 何を委託し、何が自社に残るか。範囲外の作業の料金 |
| スケジュール | 勤怠データの提出期限、計算結果の確認期限、振込データの受け渡し日 |
| データの受け渡し | メール添付ではなく、共有システムや暗号化した方法か |
| 使うシステム | 委託先のシステムか、自社のシステムに委託先がログインするか |
| 誤りの対応 | 計算ミスがあったときの修正と、責任の範囲 |
| 法改正への対応 | 保険料率の改定、制度の変更をどのように反映し、知らせてくれるか |
| 担当者の体制 | 担当者が不在のときの代わり、問い合わせの受付時間 |
| 解約時 | データの返還・削除、次の委託先や自社への引き継ぎ |
料金は、従業員数による月額、手続きごとの件数料金、年末調整などの年次業務の別料金など、事業者によって体系が違います。同じ業務範囲で見積もりを取って比べることが大切です。
マイナンバーを委託するとき
給与計算や社会保険の手続きを委託すると、従業員のマイナンバー(個人番号)を委託先に渡すことになります。番号法では、委託した会社は委託先を監督する義務があり、委託先が再委託するには委託元の許諾が必要です。
- 委託先の安全管理措置(担当者の限定、アクセス制御、持ち出しの防止など)を確認する
- 契約書に、秘密保持、目的外利用の禁止、再委託の条件、漏えい時の報告、契約終了時の返還・削除を入れる
- 委託先での取扱い状況を定期的に確認する
詳しくは個人情報保護委員会のガイドラインと、中小企業の個人情報・マイナンバー管理の基本を参照してください。
委託しても会社に残る責任
- 賃金を正しく、期日に支払う責任は会社にある。支給額は自社でも確認する
- 勤怠の記録(労働時間の把握)は会社の義務(→労働時間の適正な把握義務)
- 法定三帳簿の保存は会社の義務(→法定三帳簿の記載事項と保存期間)
- 委託先に渡す情報(入社日、給与の変更、扶養の変更)を期限までに正確に渡す
まとめ
- 委託先は社労士事務所、給与計算代行会社、BPO事業者などに分かれる。それぞれ担える業務が違う
- 届出書の作成・提出代行(1号)と帳簿書類の作成(2号)は社労士の独占業務。社労士以外に委託する場合は、届出の担当者を確認する
- 業務を細かく分け、自社に残す作業(勤怠の承認、支給額の最終確認、書類の回収)を明確にする
- 契約前に、業務範囲・スケジュール・データの受け渡し・誤りの対応・解約時の扱いを確認する
- マイナンバーを渡す場合は、委託先の安全管理措置を確認し、監督する