安全配慮義務とは|労働契約法5条の意味と会社が責任を問われる場面・中小企業の対策
安全配慮義務は、労働契約に伴って会社が当然に負う「従業員が安全に働けるよう配慮する義務」です。労働契約法5条の意味、労働安全衛生法との違い、長時間労働・メンタルヘルス・ハラスメント・熱中症など責任を問われやすい場面、中小企業が今日からできる対策を整理します。
- 対象読者
- 従業員30〜300名の企業で、労務リスクや安全衛生を担当する人事・総務担当者、経営者
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この記事のポイント
- 労働契約法5条は、使用者が労働契約に伴い、労働者の生命・身体等の安全を確保するよう必要な配慮をする義務を定める。「生命、身体等の安全」には心身の健康も含まれる
- 「必要な配慮」は一律ではなく、職種・業務内容・職場の状況に応じて決まる。労働安全衛生法などの法令を守ることは当然の前提
- 違反すると損害賠償を請求されることがある。危険を予見できたのに対策をとらなかった、と言われないよう、把握・対策・記録を仕組みにする
「安全配慮義務違反」という言葉は、過労死やうつ病、ハラスメントをめぐる裁判の記事でよく目にします。工場や建設現場だけの話ではなく、オフィスワーク中心の会社にも同じように関わる義務です。
この記事では、安全配慮義務の中身と、中小企業の人事・総務担当者が押さえておきたい対策を整理します。
労働契約法5条の内容
労働契約法5条は次のように定めています。
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
厚生労働省の「労働契約法のあらまし」は、この条文を次のように解説しています。
| 文言 | 意味 |
|---|---|
| 労働契約に伴い | 労働契約に特段の根拠規定がなくても、労働契約上の付随的義務として当然に安全配慮義務を負う |
| 生命、身体等の安全 | 心身の健康も含まれる |
| 必要な配慮 | 一律に定まるものではなく、特定の措置を求めるものではない。労働者の職種、労務内容、労務提供場所などの具体的な状況に応じて必要な配慮をする |
もともとは判例で認められてきた考え方で、あらましでは陸上自衛隊事件(最高裁昭和50年2月25日判決)や川義事件(最高裁昭和59年4月10日判決)が参考裁判例として挙げられています。
労働安全衛生法との違い
| 項目 | 労働安全衛生法 | 労働契約法5条(安全配慮義務) |
|---|---|---|
| 性格 | 会社が講ずべき具体的な措置を定めた法律 | 労働契約に伴う民事上の義務 |
| 内容 | 健康診断、面接指導、ストレスチェック、安全衛生管理体制など | 状況に応じて「必要な配慮」をすること |
| 違反した場合 | 行政指導、罰則の対象になるものがある | 損害賠償を請求されることがある |
あらましは、労働安全衛生法などで定められた措置は「当然に遵守されなければならない」としています。安衛法の義務を守っていることは最低限の前提で、それだけで安全配慮義務を果たしたことにはならない、と考えておきましょう。
責任を問われやすい場面
裁判では、主に「会社は危険を予見できたか」「予見できた危険を避けるための措置をとったか」が問われます。中小企業で特に注意したい場面は次のとおりです。
| 場面 | 会社に求められる配慮の例 |
|---|---|
| 長時間労働 | 労働時間の把握、業務量の調整、医師の面接指導 |
| メンタルヘルス不調 | 不調のサインへの対応、休職・復職時の配慮、復職後の業務軽減 |
| ハラスメント | 相談窓口の設置、事実確認、行為者への措置、被害者のケア |
| 熱中症・作業環境 | 暑さ指数の確認、休憩・水分補給、報告体制 |
| 交通事故・社用車 | 運転者の健康状態の確認、無理な運行計画の防止 |
| テレワーク・出張 | 長時間労働の把握、作業環境、連絡体制 |
長時間労働
長時間労働による脳・心臓疾患やうつ病は、安全配慮義務違反が争われる典型例です。勤怠記録で長時間労働を把握していながら業務量を調整しなかった場合、予見できたのに対策をとらなかったと評価されやすくなります。
- 労働時間を客観的な記録で把握する(労働時間の適正な把握義務)
- 月80時間超の人への通知と医師の面接指導を確実に行う(長時間労働者への医師の面接指導)
- 36協定の範囲内でも、健康状態に応じて業務を減らす
メンタルヘルス不調
上司が「最近ミスが増えた」「遅刻が続く」と気づいていたのに、何もしなかったというケースは問題になりやすい場面です。本人が不調を申告していなくても、周囲から見て分かるサインがあれば、面談や産業医への相談につなげます。休職・復職時は、厚生労働省の手引きに沿って段階的に進めます(メンタルヘルス不調による休職・復職の進め方)。
ストレスチェックの実施と高ストレス者への面接指導も、予防の仕組みとして重要です(ストレスチェックの実施手順)。
ハラスメント
パワハラ・セクハラ・マタハラの防止措置は法律上の義務です。相談があったのに放置した、加害者と同じ職場に置き続けた、といった対応は安全配慮義務の面でも問題になります。2026年10月からは、カスタマーハラスメント対策も事業主の義務になりました(ハラスメント防止措置の総点検、カスハラ対策の義務化)。
熱中症・作業環境
2025年6月から、職場の熱中症対策として、報告体制の整備や重篤化を防ぐ手順の作成・周知が義務になっています(熱中症対策の義務化、職場の熱中症対策)。屋外作業や倉庫作業がある会社は、季節前に手順を見直します。
派遣社員・業務委託の人
派遣労働者については、派遣先も労働安全衛生法上の責任の一部を負い、現場の安全衛生は派遣先が管理する場面が多くなります(派遣社員を受け入れるときの実務)。業務委託やフリーランスであっても、実態として会社の指揮命令下で働いている場合は、安全への配慮が問われることがあります(業務委託と偽装請負の境界)。
中小企業ができる対策
1. 把握する仕組みを作る
- 勤怠システムで残業時間を毎月集計し、一定時間を超えた人を自動で抽出する
- 健康診断の結果を確認し、異常所見者について医師の意見を聴く(定期健康診断の事後措置)
- 相談窓口(ハラスメント・健康)を設け、従業員に周知する
2. 対策を決めて実行する
- 長時間労働者や不調者がいたら、上司と人事で業務量の調整を話し合う
- 産業医(50人未満は地域産業保健センター)に相談する
- 労災が起きたら、再発防止策まで決める(労災発生時の対応)
3. 記録を残す
安全配慮義務が争われたとき、会社が「何をしたか」を示せるのは記録だけです。
- 面談の日時、内容、決めた措置
- 医師の意見と、それを踏まえた対応
- 業務量の調整や配置の変更の経緯
4. 体制を整える
従業員50人以上の事業場は、衛生管理者・産業医の選任と衛生委員会の設置が必要です(衛生管理者・産業医の選任義務)。50人未満でも、衛生推進者を中心に、健康管理の担当を明確にしておきましょう。
「本人が大丈夫と言っていた」「本人が残業を希望した」というだけでは、会社の責任は免れにくいと考えてください。客観的な状況から危険が分かる場合は、会社の判断で業務を軽減します。
まとめ
- 安全配慮義務は、労働契約に伴って会社が当然に負う義務。心身の健康も対象になる
- 何をすべきかは職種や状況によって異なる。労働安全衛生法などの法令を守ることは前提
- 長時間労働、メンタルヘルス、ハラスメント、熱中症は特に責任を問われやすい
- 「把握する→対策をとる→記録する」を仕組みにし、予見できた危険を放置しない
この記事で使えるテンプレート
労務 労災発生時の対応フロー・チェックリスト 業務災害・通勤災害が起きたときに、救護・事実確認・労災保険の請求・労働者死傷病報告・再発防止までを順番に確認できる対応フローとチェックリストです。発生状況の記録欄も付いています。 労務 ハラスメント相談記録票 社内のハラスメント相談窓口で使う相談記録票です。相談内容を5W1Hで整理し、相談者の意向、説明した事項(プライバシー保護・不利益取扱いの禁止)、事実確認と対応の経過までを記録できます。2026年10月施行のカスハラ対策義務化にも対応しています。この記事に出てくる用語
- 安全配慮義務
- 会社が、労働者が生命や身体などの安全を確保しつつ働けるよう必要な配慮をする義務です。労働契約法第5条に明文化されています。
- 衛生委員会
- 常時50人以上の労働者を使用する事業場で設置が義務づけられた、労働者の健康障害の防止などについて労使で調査審議する委員会です。毎月1回以上開催します。
- 衛生管理者
- 常時50人以上の労働者を使用する事業場で選任が義務づけられた、職場の衛生管理を担当する人です。衛生管理者免許などの資格が必要です。
- カスタマーハラスメント
- 顧客や取引先などの言動のうち、社会通念上許容される範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されることです。2026年10月1日から、すべての事業主に防止措置が義務づけられました。
- 休職
- 病気やけがなどで働けない社員について、労働契約を続けたまま一定期間、労働義務を免除する制度です。法律上の義務ではなく、会社が就業規則で内容を決めます。
- 36協定
- 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて残業させたり、法定休日に働かせたりするために、会社と労働者の過半数代表が結び、労働基準監督署に届け出る労使協定です。
- 産業医
- 労働者の健康管理について専門的な立場から指導・助言を行う医師です。常時50人以上の労働者を使用する事業場は選任が義務づけられています。
- ストレスチェック
- 労働者に心理的な負担の程度を把握するための検査を年1回行い、本人に結果を通知して、セルフケアや職場環境の改善につなげる制度です。
- セクシュアルハラスメント
- 職場で行われる労働者の意に反する性的な言動により、労働条件で不利益を受けたり、就業環境が害されたりすることです。男女雇用機会均等法により、事業主に防止措置が義務づけられています。
- パワーハラスメント
- 職場で優越的な関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動によって、労働者の就業環境を害することです。労働施策総合推進法により、すべての事業主に防止措置が義務づけられています。
- 復職
- 休職や休業をしていた社員が、職場に戻って働き始めることです。私傷病による休職では、復職できるかどうかを会社が判断します。
- マタニティハラスメント
- 妊娠・出産したことや、産休・育休などの制度を利用したことに関する上司・同僚の言動により、就業環境が害されることです。男女雇用機会均等法と育児・介護休業法で、防止措置が義務づけられています。
- 面接指導
- 長時間労働などで疲労が蓄積した労働者や、ストレスチェックで高ストレスと判定された労働者に、医師が面談して必要な指導を行うことです。
- 労働契約法
- 労働契約の成立・変更・終了についての基本的なルールを定めた法律です。解雇権濫用の禁止、就業規則による労働条件の変更、無期転換ルール、雇止め法理などを定めています。