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選択制確定拠出年金(選択制DC)の導入と注意点|給与の一部を掛金にする仕組み、社会保険・雇用保険の給付への影響と従業員への説明義務

選択制確定拠出年金(選択制DC)は、給与の一部を企業型DCの事業主掛金にするか、給与として受け取るかを従業員が選ぶ仕組みです。掛金にした分は賃金に当たらず社会保険料が下がる一方、厚生年金や傷病手当金・失業給付などの給付も下がり得ます。厚生労働省の法令解釈通知が事業主に求める「正確な説明」、導入の手順、労働条件の変更として注意する点を整理します。

対象読者
「社会保険料が下がる」と選択制DCの提案を受けて検討している、従業員30〜300名の企業の人事・総務担当者や経営者
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この記事のポイント

  • 選択制DCは、労使合意で給与等を減額し、減額分を企業型DCの事業主掛金として拠出するか、給与等に上乗せして受け取るかを従業員が選ぶ仕組み。掛金は労働基準法上の賃金に当たらず、社会保険料の算定対象にならない
  • 厚生労働省の法令解釈通知は、事業主に対し、社会保険・雇用保険等の給付額にも影響する可能性を含めて従業員に正確に説明することを求めている。将来の厚生年金、傷病手当金・出産手当金、雇用保険の給付などが下がり得る
  • 導入には企業型DCの規約の承認に加え、給与規程の見直しと労使合意が必要。「手取りが増える」だけを強調した説明は避け、DCは原則60歳まで引き出せないことや加入後に任意に脱退できないことも伝える

「選択制DCを入れれば、会社も社員も社会保険料が下がって手取りが増えます」。金融機関やコンサルティング会社から、こうした提案を受けることがあります。選択制確定拠出年金(選択制DC)は、老後資金づくりの選択肢を増やす制度ですが、社会保険料が下がることは、将来の年金や在職中の給付も下がり得ることの裏返しです。

厚生労働省は、選択制DCを実施する事業主に、給付への影響を含めた正確な説明を求めています。この記事では、仕組み、メリットと影響、導入の手順と説明のポイントを整理します。退職金制度の選択肢全体は退職金制度の選択肢、企業型DCの運営会社の比較は企業型DCの選び方を参照してください。

選択制DCの仕組み

厚生労働省の社会保障審議会の資料は、いわゆる選択制DCを次のように説明しています。

  • 従業員が企業型DCに加入するかを選択できる仕組み
  • 加入を選んだ人は、企業年金の事業主掛金が拠出される
  • 加入しないことを選んだ人は、事業主掛金に相当する額を給与等として受け取る
  • 既存の給与等を原資とする場合は、制度導入前に給与規程等を見直している

典型的な形は、基本給の一部を「ライフプラン手当」などの名称で切り出し、その手当を掛金にするか給与で受け取るかを選ばせるものです。

掛金は賃金に当たらない

同じ資料は、選択制DCにおける事業主掛金は労働基準法上の賃金に該当しないと整理しています。また、給与ではなく事業主掛金として拠出することにより、社会保険料の算定対象とならないため、将来の公的年金の給付額が下がるなどの影響が生じることに、従業員への丁寧な説明が必要だという意見があったとしています。

法令解釈通知が求める説明

確定拠出年金法の法令解釈通知「確定拠出年金制度について」は、企業型年金規約の承認基準の中で、次のように定めています(第1・2(5))。

労使合意により給与等を減額した上で、当該減額部分を事業主掛金として拠出し企業型年金の個人別管理資産として積み立てるか、給与等への上乗せで受け取るかを従業員が選択する仕組みを実施するに当たっては、社会保険・雇用保険等の給付額にも影響する可能性を含めて、事業主は従業員に正確な説明を行う必要があること。

「社会保険料が安くなる」だけの説明は、この通知の趣旨に合いません。

掛金にした場合に起きること

項目 影響
健康保険・厚生年金保険料 標準報酬月額が下がれば、会社・本人とも保険料が下がる
将来の老齢厚生年金 計算の基礎になる報酬が下がるため、年金額が下がり得る
傷病手当金・出産手当金 標準報酬月額をもとに計算するため、日額が下がり得る(→傷病手当金)
雇用保険の給付 賃金日額をもとに計算する基本手当、育児休業給付などが下がり得る
雇用保険料 賃金総額が下がれば保険料も下がる
割増賃金・平均賃金 掛金にした部分は賃金ではないため、残業代の計算基礎や平均賃金に含まれなくなる可能性がある
老後資金 掛金と運用益は非課税で積み立てられるが、原則60歳まで引き出せない。運用結果で受取額は変わる

標準報酬月額は等級で決まるため、掛金の額によっては等級が変わらず、保険料も給付も変わらない場合があります。逆に、掛金によって等級が下がる人は、上の影響が出ます。説明会では、モデルケースで「保険料がいくら下がり、傷病手当金や年金の見込みがどう変わるか」を具体的に示すと誤解が減ります。

導入の手順

  1. 目的を決める:老後資金づくりの支援なのか、退職金制度の整備なのか。社会保険料の削減を主目的にしない
  2. 制度を設計する:手当の切り出し方、掛金の選択肢(金額の刻み)、加入資格、運営管理機関を決める
  3. 給与規程を見直す:基本給などを減らして手当を設ける場合は、労働条件の変更になる。就業規則の変更手続き(意見聴取・届出・周知)に加え、従業員の個別の同意を得て進める(→給与を下げるときの手順と同意書)
  4. 企業型DCの規約を作り、承認を受ける:確定拠出年金法第3条により、労使で合意した規約について厚生労働大臣(地方厚生局)の承認を受ける
  5. 従業員に説明する:給付への影響、運用のリスク、引き出し時期、加入後の扱いを、具体例を使って説明する
  6. 選択の意思を書面で確認する:誰が、いくらを掛金にしたかを記録し、毎年の変更手続きも決めておく

企業型DCの拠出限度額は、2026年12月から月額5.5万円から6.2万円に引き上げられます(→企業型DCの拠出限度額の引上げ)。

提案を受けたときに確認すること

金融機関やコンサルティング会社から提案を受けたら、次の点を確認してから判断します。

  • 導入の目的が、従業員の老後資金づくりや退職金制度の整備になっているか(社会保険料の削減だけが前面に出ていないか)
  • 給付への影響(年金・傷病手当金・出産手当金・雇用保険の給付)を、具体的な金額例で示す説明資料があるか
  • 給与規程の変更案と、従業員の同意の取り方が示されているか
  • 運営管理機関の手数料、運用商品のラインナップ、投資教育の内容
  • 制度導入後の事務(掛金の変更受付、入退社時の手続き、毎月の拠出データ作成)を誰が担うか

説明で必ず伝えること

  • 掛金にした分は社会保険料の算定対象外になり、将来の年金や傷病手当金・出産手当金、雇用保険の給付が下がる場合があること
  • 掛金と運用益は原則60歳まで引き出せないこと
  • 運用は本人が商品を選んで行い、元本割れの可能性がある商品もあること
  • 法令解釈通知では、希望した人を加入者とする仕組みでも、加入者が資格の喪失を任意に選べるものではないとされていること(加入の前によく考える必要がある)
  • 掛金の額は規約の範囲で変更できるが、変更の時期や回数は規約で決まっていること
  • 給与で受け取る選択をしても、不利益に扱われないこと

注意点

  • 選択制DCの導入で賃金が下がる人がいる場合、最低賃金を下回らないか確認する(→最低賃金の計算方法)
  • 中退共やiDeCo+など他の制度との組み合わせも検討する(→iDeCo+の導入、中退共の加入と運用)
  • 社会保障審議会では、選択制DC・選択制DBの説明のあり方などが議論されている。今後の通知の改正に注意する

まとめ

  • 選択制DCは、給与の一部を掛金にするか給与で受け取るかを従業員が選ぶ仕組み。掛金は賃金に当たらず、社会保険料の算定対象外
  • 法令解釈通知は、社会保険・雇用保険等の給付への影響を含めた正確な説明を事業主に求めている
  • 給与規程の見直しは労働条件の変更。個別の同意と就業規則の変更手続きを踏み、規約の承認を受ける
  • 「手取りが増える」だけでなく、給付の低下、60歳までの引き出し制限、運用リスクを具体例で説明する

この記事で使えるテンプレート

DOCX 労務 賃金減額の同意書(説明記録・変更前後の金額表・影響の範囲・同意書本文) 個別の社員と合意して給与を下げるときに使う同意書のひな形です。減額の理由、変更前と変更後の金額、適用開始日、賞与・残業代の単価・退職金への影響、説明を受けた日と検討期間を記載し、自由な意思による同意と説明できる手順を残します。就業規則の基準との照合と、随時改定の確認欄も付けています。

この記事に出てくる用語

育児休業給付
雇用保険の被保険者が育児休業を取ったときに支給される給付です。休業開始から180日までは賃金の67%、それ以降は50%が目安です。
基本手当
雇用保険の被保険者が離職し、働く意思と能力があるのに就職できないときに支給される給付で、一般に「失業手当」と呼ばれます。
健康保険
会社員などが加入する公的医療保険で、業務外の病気・けが、出産、死亡に対して給付を行います。保険者は協会けんぽと健康保険組合です。
厚生年金保険
会社員などが加入する公的年金で、老齢・障害・死亡に対して年金を支給します。原則として70歳未満の被用者が加入し、保険料は会社と本人が折半します。
雇用保険
労働者が失業したときや、育児・介護で休業したときなどに給付を行う公的保険です。週20時間以上働き、31日以上雇用見込みがある人が原則として加入します。
最低賃金
最低賃金法にもとづき国が定める賃金の最低額で、会社はこれ以上の賃金を支払う必要があります。都道府県ごとの地域別最低賃金と、特定の産業の特定最低賃金があります。
就業規則
労働時間・賃金・退職などの労働条件や職場のルールを定めた規則です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、作成して労働基準監督署に届け出る義務があります。
出産手当金
健康保険の被保険者が出産のために会社を休み、給与が受けられないときに支給される手当金です。産前42日・産後56日のうち休んだ日が対象です。
傷病手当金
業務外の病気やけがで働けず給与が受けられないときに、健康保険から支給される所得補償です。連続3日の待期のあと4日目から、通算1年6か月まで支給されます。
標準報酬月額
健康保険・厚生年金保険の保険料や給付額を計算するために、毎月の給与などの報酬を区切りのよい幅(等級)に当てはめた金額です。
平均賃金
解雇予告手当や休業手当などを計算するときの基準になる1日あたりの賃金です。原則として直前3か月の賃金総額をその期間の総日数で割って求めます。
割増賃金
時間外労働・休日労働・深夜労働をさせたときに、通常の賃金に上乗せして支払う賃金です。率は労働基準法と政令で定められています。

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