退職金制度の選択肢:中退共・確定拠出年金(企業型DC・iDeCo+)・自社制度の違い
退職金制度は法律上の義務ではありませんが、定めた以上は支払義務が生じます。中小企業退職金共済(中退共)、企業型確定拠出年金(企業型DC)、iDeCo+(中小事業主掛金納付制度)、自社で積み立てる制度の違いと、就業規則への定め方、導入の手順を整理します。
- 対象読者
- 退職金制度の新設・見直しを検討している従業員30〜300名の企業の人事担当者・経営者
- 難易度
- 実務
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この記事のポイント
- 退職金は法律で義務づけられていないが、就業規則に定めれば会社に支払義務が生じる。定める場合は適用範囲・計算方法・支払時期を就業規則に書く
- 中退共は掛金が全額損金になり、国の掛金助成もある。退職金は中退共から本人に直接支払われ、会社の判断だけで減らすことはできない
- 企業型DCは運用成果で受取額が変わる。企業年金がない従業員300人以下の会社はiDeCo+で従業員のiDeCoに上乗せする方法もある
「退職金制度がないと採用で不利になるのでは」「社長の判断で払ってきた退職金をルール化したい」。従業員が増えてくると、退職金の扱いを決める必要が出てきます。退職金は一度定めると簡単には変えられません。選択肢ごとの特徴を理解してから決めましょう。
退職金の法律上の位置づけ
退職金の支払いは法律上の義務ではありません。ただし、就業規則や労働契約で支給条件を定めた場合は、賃金の後払いとして会社に支払義務が生じます。
| 確認すること | 内容 |
|---|---|
| 就業規則への記載 | 退職手当の定めをする場合は、適用される労働者の範囲、決定・計算・支払いの方法、支払いの時期を就業規則に書く(労働基準法第89条第3号の2) |
| 時効 | 退職手当の請求権の時効は5年(労働基準法第115条) |
| 慣行 | 規程がなくても、一定の基準で長年支払ってきた場合は、支払いが労働条件になっていると判断されることがある |
「社長の判断で、辞める人に気持ちとして払ってきた」場合でも、基準が明確で繰り返されていれば、支払義務が争われる可能性があります。この機会にルールとして明文化しましょう。
4つの選択肢の比較
| 項目 | 中退共 | 企業型DC | iDeCo+ | 自社制度(社内積立) |
|---|---|---|---|---|
| 仕組み | 国の共済に会社が掛金を払い、退職時に本人へ直接支給 | 会社が掛金を出し、従業員が自分で運用する | 従業員のiDeCoに会社が掛金を上乗せする | 会社が退職金規程で計算方法を決め、自社の資金から支払う |
| 受取額 | 掛金月額と納付月数で決まる(法令で定める額+付加退職金) | 運用成果で変わる | 運用成果で変わる | 規程どおり(会社が決める) |
| 掛金の税務 | 全額損金(個人事業は必要経費) | 全額損金 | 事業主掛金は全額損金 | 支払時に損金(積立段階では損金にならない) |
| 会社の管理負担 | 小さい | 大きい(規約の承認、投資教育など) | 比較的小さい | 規程の管理と資金準備 |
| 対象となる会社 | 中小企業者に限る | 規模の制限なし | 企業年金を実施していない、従業員300人以下の会社 | 制限なし |
| 会社の裁量 | 小さい(減額には国の認定が必要) | 規約の範囲内 | 労使合意の範囲内 | 大きい |
中退共(中小企業退職金共済)
中小企業退職金共済法に基づき、独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する制度です。
加入できる企業
業種ごとに、常時雇用する従業員数または資本金・出資金のいずれかが次の範囲内であれば加入できます。
| 業種 | 常用従業員数 | 資本金・出資金 |
|---|---|---|
| 一般業種(製造業・建設業など) | 300人以下 | 3億円以下 |
| 卸売業 | 100人以下 | 1億円以下 |
| サービス業 | 100人以下 | 5,000万円以下 |
| 小売業 | 50人以下 | 5,000万円以下 |
主なルール
- 加入させる従業員:原則として全員。ただし、期間を定めて雇用される人、季節的業務に雇用される人、試用期間中の人、短時間労働者、休職期間中の人、定年などで短期間内に退職することが明らかな人は加入させなくてもよいとされています
- 掛金月額:従業員ごとに16種類(5,000円〜30,000円)から選べます。短時間労働者は特例掛金月額(2,000円・3,000円・4,000円)も選べます。増額はいつでもでき、減額は一定の要件のもとで可能です
- 国の掛金助成:初めて加入する事業主には、加入後4か月目から1年間、掛金月額の2分の1(従業員ごとに上限5,000円)を国が助成します。18,000円以下の掛金月額を増額する場合にも、増額分の3分の1を1年間助成する制度があります
- 退職金の支払い:中退共から退職した本人の口座に直接振り込まれます
- 注意点:掛金の納付が1年未満の場合は退職金が支給されません。1年以上2年未満の場合は、受け取る額が掛金の合計を下回ります
中退共の退職金は本人に直接支払われ、会社に戻ることはありません。懲戒解雇などの場合に減額する仕組みはありますが、厚生労働大臣の認定(退職日の翌日から20日以内に申請)が必要で、全額を減額することはできず、減額分も会社には返還されません。自社独自の減額・不支給の規定を設けたい場合は、中退共と自社制度の組み合わせ方を検討してください。
最新の掛金や助成の内容、手続きは中退共のサイトで確認してください。都道府県や市区町村が独自に掛金の助成を行っている場合もあります。
企業型確定拠出年金(企業型DC)
会社が従業員ごとに掛金を拠出し、従業員が自分で運用商品を選んで運用する制度です。受け取る額は運用成果によって変わります。
- 実施には、労使で規約を作り、厚生労働大臣の承認を受ける必要があります
- 会社には、加入者への投資教育(継続的な情報提供)を行うことが求められます
- 原則として60歳まで引き出せないため、転職が多い職場では「退職時に受け取れない」ことを理解してもらう必要があります
- 拠出できる掛金には上限があります。厚生労働省の案内では、2026年12月から企業型DCの拠出限度額が月額5.5万円から6.2万円に引き上げられます(確定給付企業年金などの他制度を実施している場合は、その掛金相当額を差し引いた範囲内)
運営管理機関(金融機関)に手続きや記録の管理を委託するのが一般的です。設立には数か月かかるので、余裕を持って準備しましょう。
iDeCo+(中小事業主掛金納付制度)
企業年金(企業型DC、確定給付企業年金、厚生年金基金)を実施していない、従業員300人以下の会社が、iDeCo(個人型確定拠出年金)に加入している従業員の掛金に上乗せして拠出できる制度です。
- 事業主掛金を拠出するには労使の合意が必要です
- 事業主掛金は全額損金に算入されます
- 掛金の額は、加入者掛金と事業主掛金の合計で一定の範囲内に設定します。金額の範囲は制度改正で変わることがあるため、厚生労働省の「iDeCo+」のページで最新の内容を確認してください
企業型DCより会社の事務負担が小さく、「まずは従業員の資産形成を支援したい」会社に向いています。ただし、iDeCoに加入していない従業員には上乗せできません。
自社制度(社内積立)
退職金規程で、勤続年数・退職事由・等級などに応じた計算方法を定め、会社の資金から支払う方法です。
- メリット:支給額や減額・不支給の条件を会社が設計できる
- デメリット:退職者が重なると大きな資金が必要になる。積み立てても、支払うまでは損金にならない
- 計算方法の例:「基本給×勤続年数別の支給率」「等級ごとのポイント×在籍年数(ポイント制)」
自社制度を採用するなら、将来の支払見込額を毎年試算し、資金を準備しておくことが欠かせません。
導入・見直しの手順
- 目的を決める(採用力の強化、長期勤続の促進、老後資金の支援など)
- 対象者と水準を決める(正社員のみか、勤続何年から支給するか)
- 制度を選ぶ(中退共、企業型DC、iDeCo+、自社制度、またはその組み合わせ)
- 費用を試算する(毎月の掛金、将来の支払見込額)
- 退職金規程を作り、就業規則の変更手続き(意見聴取・届出・周知)を行う
- 従業員に説明会を開く
就業規則の変更手続きは就業規則変更届セットと「就業規則の作成・変更と届出の手順」を参照してください。
既存の制度を見直すとき
支給水準を下げる、自社制度から中退共に切り替えて計算方法が変わる、といった見直しは、労働条件の不利益変更になる可能性があります。変更の必要性、従業員の不利益の程度、経過措置、従業員への説明などを丁寧に検討してください。
パート・有期社員の扱い
正社員だけに退職金を支給する場合は、パート・有期社員との待遇差に合理的な説明ができるか確認します(同一労働同一賃金)。2026年10月からは、パート・有期社員の雇入れ時に待遇差の説明を求められることを明示する必要もあります(「パート・有期雇用の労働条件明示」)。
退職金を支払うときの実務
| やること | ポイント |
|---|---|
| 「退職所得の受給に関する申告書」を受け取る | 提出がないと、支給額の20.42%が源泉徴収される |
| 源泉徴収・住民税の特別徴収 | 退職所得控除を差し引いて税額を計算する |
| 源泉徴収票の交付 | 退職所得の源泉徴収票を交付する |
| 中退共の手続き | 退職の届出を行い、本人が中退共に請求する |
退職所得の計算は国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」で確認できます。退職時の手続き全体は「退職時の手続き一覧」と退職手続きチェックリストを使ってください。
まとめ
- 退職金は義務ではないが、就業規則で定めれば支払義務が生じる。適用範囲・計算方法・支払時期を規程に書く
- 中退共は管理が簡単で国の助成もあるが、退職金は本人に直接支払われ、会社の判断だけでは減らせない
- 企業型DCは運用成果で受取額が変わる。企業年金がない300人以下の会社はiDeCo+も選択肢になる