iDeCo+(イデコプラス)の導入手順|要件、掛金の決め方、労使合意と届出、給与計算での扱い
iDeCo+(中小事業主掛金納付制度)は、企業年金のない従業員300人以下の会社が、iDeCoに加入する従業員の掛金に上乗せして拠出できる制度です。導入できる会社の要件、掛金の決め方、過半数代表者の同意と国民年金基金連合会への届出、給与天引きと源泉徴収の扱い、2026年12月施行予定の拠出限度額の見直しを整理します。
- 対象読者
- 企業年金がなく、従業員のiDeCoへの上乗せ(iDeCo+)を検討している従業員30〜300名の企業の人事・総務担当者
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この記事のポイント
- 企業型DC・確定給付企業年金・厚生年金基金を実施しておらず、厚生年金被保険者が300人以下(全事業所の合計)の会社が対象。上乗せできるのはiDeCoに加入し、給与天引き(事業主払込)で掛金を納め、上乗せに同意した従業員だけ
- 掛金は加入者掛金と事業主掛金の合計で月額5,000円〜23,000円(1,000円単位)。加入者掛金を0円にはできない。原則として対象者全員が同額で、職種・勤続期間による資格区分は可能
- 導入には厚生年金被保険者の過半数代表者(過半数労働組合)の同意が必要。届出は国民年金基金連合会へ、初回引落予定月の前々月20日まで。開始後も毎年1回の現況届が必要
「退職金制度はないが、何か老後の備えを支援したい」「採用でアピールできる福利厚生がほしい」。企業年金のない中小企業でも、比較的少ない事務負担で導入できるのがiDeCo+(イデコプラス)です。正式名称は「中小事業主掛金納付制度」で、確定拠出年金法に基づく制度です。
この記事では、iDeCo+を導入できる会社の要件、掛金の決め方、労使合意と届出の手順、導入後の給与計算の扱いを、国民年金基金連合会(iDeCoの実施機関)と厚生労働省の資料に沿って整理します。中退共や企業型DCとの比較は退職金制度の選択肢を参照してください。
iDeCo+の仕組み
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、従業員が自分で加入し、自分で掛金を出して運用する私的年金です。iDeCo+は、そのiDeCoの掛金(加入者掛金)に、会社が掛金(事業主掛金)を上乗せする制度です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 加入するのは | 従業員本人(金融機関を選んでiDeCoに加入) |
| 会社がすること | 事業主掛金を決めて拠出する。加入者掛金を給与から天引きし、事業主掛金とあわせて国民年金基金連合会にまとめて納付する |
| 会社と金融機関の契約 | 不要。従業員ごとに加入している金融機関(運営管理機関)が違ってもよい |
| 会社の税務 | 事業主掛金は全額損金に算入できる |
導入できる会社の要件
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 企業年金を実施していない | 企業型確定拠出年金(企業型DC)、確定給付企業年金(DB)、厚生年金基金のいずれも実施していない |
| 従業員300人以下 | 第1号厚生年金被保険者(民間企業の厚生年金の被保険者)が300人以下。事業所が複数ある場合は全事業所の合計 |
| 事業主払込の登録 | 「事業主払込」用の登録事業所番号を取得しておく |
中退共(中小企業退職金共済)に加入している会社でも、上記の企業年金にはあたらないため、要件を満たせば併用できます(中退共の運用は中退共の加入と運用)。
対象になる従業員
事業主掛金を出せるのは、iDeCoに加入している従業員のうち、上乗せに同意した人だけです。
- iDeCoに加入していない従業員に、事業主掛金だけを出すことはできない
- iDeCoへの加入を強制することはできない
- 加入者掛金を会社が給与から天引きして納付する「事業主払込」であることが条件。本人の口座から引き落とす「個人払込」の人は、開始月から事業主払込への変更手続きが必要
- 「一定の職種」「一定の勤続期間」で対象を区切ることもできる。見習期間や試用期間中の人を対象外にすることも認められている
iDeCo+を始めても、iDeCoに加入しない従業員には何も出せません。福利厚生として案内するときは、「加入しない人には会社掛金がない」制度であることを説明し、加入の判断は本人に委ねます。
掛金の決め方
| ルール | 内容 |
|---|---|
| 合計額の範囲 | 加入者掛金と事業主掛金の合計で、月額5,000円以上23,000円以下 |
| 単位 | 加入者・事業主それぞれ1,000円単位 |
| 加入者掛金 | 0円にはできない(最低1,000円) |
| 事業主掛金 | 加入者掛金を上回ってもよい |
| 同額の原則 | 事業主掛金は原則として対象者全員が同額。職種、勤続期間、就業規則等で給与・退職金等の労働条件が異なる合理的な区分ごとに額を変えることはできる(同じ区分の中は同額) |
例えば、事業主掛金を月3,000円とした場合、加入者掛金は1,000円〜20,000円の範囲で本人が決めます。職種ごとに額を変える場合は、あらかじめ就業規則などで区分を整備しておく必要があります。
2026年12月の拠出限度額の見直し
2025年の年金制度改正により、2026年12月1日施行予定で、企業年金のない会社員(国民年金第2号被保険者)のiDeCoの拠出限度額が、iDeCoとiDeCo+の合計で月額2.3万円から月額6.2万円に引き上げられることになっています(厚生労働省「iDeCo拠出限度額の引き上げ」)。
上の表の「23,000円」は、2026年4月現在の導入ガイドに基づく金額です。改正後の上限がどの月の掛金から適用されるか、事業主掛金を見直す場合の届出の方法は、国民年金基金連合会の案内で確認してから決めてください。企業型DCを実施している会社の限度額の改正は企業型DCの拠出限度額を6.2万円に引上げで扱っています。
導入の手順
| 順番 | やること | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 要件の確認・制度設計 | 要件を満たすか確認し、開始時期、対象者の範囲、事業主掛金の額を決める |
| 2 | 労使協議 | 厚生年金被保険者の過半数を代表する者(過半数で組織する労働組合があればその組合)に提案し、協議する |
| 3 | 労使合意 | 「中小事業主掛金納付開始届」(様式第K-320号)の同意書欄に過半数代表者が署名する |
| 4 | 対象者への通知と同意 | 事業主掛金の額などを対象者に通知し、上乗せへの同意を得る。まだiDeCoに加入していない人には、開始月に間に合うよう加入手続きを案内する |
| 5 | 届出 | 開始届、対象者登録届、証明書などを国民年金基金連合会に送付する |
| 6 | 制度開始 | 「中小事業主掛金制度決定通知書兼引落予定のお知らせ」で対象者と金額を確認する |
過半数代表者の要件
労使合意の相手となる過半数代表者は、管理監督者でないこと、労使協定の締結等をする者を選ぶことを明らかにした投票・挙手等の方法で選ばれた者で、会社の意向で選ばれた者でないことが必要です。36協定などと同じ考え方です(過半数代表者の選び方)。iDeCo+では「厚生年金保険の被保険者の過半数」を代表する点に注意します。
届出の期限
届出書類の提出期限は、事業主掛金の初回引落予定月の前々月20日です。導入ガイドでは、2026年4月分から拠出を始める場合は2026年3月20日までに届くよう送付し、初回の引落しは2026年5月になる例が示されています(引落日は各月26日、休業日の場合は翌営業日)。
2026年4月1日から、開始・変更時の届出先は国民年金基金連合会のみに簡素化されています(厚生労働省「2025年の制度改正」)。様式は iDeCo公式サイトの「規約・届書様式」から入手できます。
導入後の事務
| 時期 | 事務 |
|---|---|
| 毎月 | 加入者掛金を給与から天引きし、事業主掛金とあわせて口座振替で納付 |
| 毎年1回 | 実施要件を満たしているかを確認する「現況届」(様式第K-327号)を提出 |
| 変更のつど | 対象者の氏名等の変更、対象者の増減、掛金額の変更などを届け出る。掛金額の変更には再度の労使合意が必要 |
| 入退社時 | 新たな対象者の追加、退職者の削除 |
給与計算・年末調整
加入者掛金は全額が「小規模企業共済等掛金控除」の対象です。iDeCo公式サイトのよくあるご質問では、給与から天引きする場合、源泉徴収税額は、給与の額から社会保険料とiDeCoの掛金を含む小規模企業共済等掛金の合計額を差し引いた残額で計算するとされています。年末調整でまとめて控除する扱いはできないため、毎月の給与計算で控除項目として設定します(毎月の源泉所得税の計算)。
事業主掛金の従業員側の課税関係や、社会保険の報酬に含まれるかどうかの確認は、顧問税理士・年金事務所にあわせて確認しておくと安心です。
就業規則への記載
導入ガイドは、事業主掛金を拠出することや、その額など労使で取り決めた内容を就業規則などに記載し、従業員に周知するよう求めています。規定例では、「第1号厚生年金被保険者でないとき」「加入者掛金を給与からの控除で納付していないとき」「上乗せに同意しないとき」は拠出しない旨を定めています。
まとめ
- iDeCo+は、企業年金のない従業員300人以下の会社が、iDeCo加入者の掛金に上乗せできる制度。iDeCoに加入しない人には拠出できない
- 掛金は合計で月額5,000円〜23,000円(2026年4月現在)、1,000円単位、加入者掛金は0円不可。2026年12月施行予定の改正で上限が月額6.2万円に引き上げられる予定なので、適用時期を連合会の案内で確認する
- 導入には厚生年金被保険者の過半数代表者の同意が必要。届出は初回引落予定月の前々月20日までに国民年金基金連合会へ
- 天引きした加入者掛金は毎月の源泉徴収計算で控除する。年1回の現況届と、変更時の届出・労使合意も忘れない
この記事に出てくる用語
- 過半数代表者
- 労働者の過半数で組織する労働組合がない事業場で、労使協定の締結や就業規則の意見聴取の相手方になる、労働者の過半数を代表する人です。
- 管理監督者
- 労働基準法の労働時間・休憩・休日の規定が適用されない「監督若しくは管理の地位にある者」です。役職名ではなく、職務内容・権限・待遇の実態で判断されます。
- 源泉徴収
- 給与や報酬などを支払う人が、支払の際に所得税を差し引いて国に納める仕組みです。差し引いた税額は、原則として支払った月の翌月10日までに納付します。
- 厚生年金保険
- 会社員などが加入する公的年金で、老齢・障害・死亡に対して年金を支給します。原則として70歳未満の被用者が加入し、保険料は会社と本人が折半します。
- 36協定
- 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて残業させたり、法定休日に働かせたりするために、会社と労働者の過半数代表が結び、労働基準監督署に届け出る労使協定です。
- 就業規則
- 労働時間・賃金・退職などの労働条件や職場のルールを定めた規則です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、作成して労働基準監督署に届け出る義務があります。
- 試用期間
- 入社後の一定期間、本人の適性や能力を見て本採用するかを判断する期間です。法律上は「解約権留保付の労働契約」と考えられ、本採用の見送りは解雇にあたります。
- 年金事務所
- 日本年金機構の地域の窓口で、健康保険(協会けんぽ)・厚生年金保険の加入や保険料に関する会社の届出を受け付けます。
- 年末調整
- 会社が、1年間に給与から源泉徴収した所得税の合計額と、その年の給与総額にもとづく本来の年税額との過不足を、年末に精算する手続です。
- 労使協定
- 会社と、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は過半数代表者)との間で結ぶ書面の協定です。法律の原則を例外的に変える効果があります。
出典・参考資料
- 厚生労働省「iDeCo+(イデコプラス・中小事業主掛金納付制度)のご案内」
- 国民年金基金連合会・厚生労働省「iDeCo+導入ガイド」(2026年4月現在・PDF)
- 国民年金基金連合会・厚生労働省「iDeCo+パンフレット」(2026年4月現在・PDF)
- iDeCo公式サイト(国民年金基金連合会)「iDeCo+導入時の留意事項」
- iDeCo公式サイト(国民年金基金連合会)「よくあるご質問」(給与計算や年末調整の手続き)
- 厚生労働省「2025年の制度改正」(確定拠出年金・中小事業主掛金納付制度における届出の簡素化、拠出限度額の引き上げ)
- 厚生労働省「iDeCo拠出限度額の引き上げ」(PDF)
- e-Gov法令検索「確定拠出年金法」(第68条の2 中小事業主掛金)