男性の育休取得を進める会社の取り組み|産後パパ育休の説明、業務の引き継ぎ、上司の関わり方まで
男性の育休が進まない原因は、制度の知識不足よりも「仕事が回らない」「言い出しにくい」ことにあります。法律で義務になっている個別周知・雇用環境整備を土台に、産後パパ育休と育児休業の組み合わせの説明、取得計画と引き継ぎの段取り、上司の関わり方、取得状況の把握と公表までを整理します。
- 対象読者
- 男性の育児休業の取得者を増やしたい従業員30〜300名の企業の人事担当者・経営者
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この記事のポイント
- 本人や配偶者の妊娠・出産の申出があれば、会社は育休制度を個別に知らせ、取得の意向を確認する義務がある(育児・介護休業法第21条)。研修や相談窓口など雇用環境の整備も義務(第22条)
- 産後パパ育休は出生後8週間以内に4週間まで、2回に分割できる。通常の育児休業(2回まで分割可)と組み合わせ、出生直後と配偶者の復職時期など、家庭の事情に合わせた計画を一緒に作る
- 取得を増やす鍵は、早い段階での面談、引き継ぎの段取り、上司の一言。取得率は次世代法の行動計画(101人以上)や取得状況の公表(300人超)でも使うため、毎年数字を把握する
男性の育児休業は、制度としては整っていても、実際の取得は「数日だけ」「取れる雰囲気ではない」にとどまっている会社が少なくありません。原因の多くは、制度の知識不足よりも、仕事が回らない不安と言い出しにくさです。
この記事では、法律で求められている対応を土台に、男性の取得を実際に増やすための社内の取り組みを、担当者が動かせる順に整理します。制度全体の改正内容は改正育児・介護休業法の総点検を参照してください。
まず義務になっていることを確認する
男性の育休について、会社には次の義務があります。
| 義務 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 個別周知・意向確認 | 本人または配偶者の妊娠・出産の申出があったとき、育休制度・申出先・育児休業給付・社会保険料の扱いなどを個別に知らせ、取得の意向を確認する | 育児・介護休業法第21条 |
| 雇用環境の整備 | 研修の実施、相談体制の整備、取得事例の提供、取得促進の方針の周知のいずれか(複数が望ましい) | 同法第22条 |
| 不利益取扱いの禁止 | 申出や取得を理由とする解雇・降格・不利益な評価などの禁止 | 同法第10条 |
| ハラスメント防止措置 | 育休の利用に関する言動で就業環境を害することの防止 | 同法第25条 |
| 取得状況の公表 | 常時雇用する労働者300人超の企業は男性の育休等取得率を年1回公表 | 同法第22条の2 |
「個別周知・意向確認」は、取得を控えさせるような形で行ってはいけません。面談で「取るつもりはないよね」と聞くのは、措置を行ったことになりません。ハラスメント防止の考え方は職場のハラスメント防止措置を参照してください。
制度の組み合わせをわかりやすく説明する
男性の育休は、選択肢が多いことがかえって分かりにくさにつながります。説明では、次の2つを並べて見せると伝わりやすくなります。
| 項目 | 産後パパ育休(出生時育児休業) | 育児休業 |
|---|---|---|
| 取得できる時期 | 子の出生後8週間以内 | 原則、子が1歳になるまで(延長あり) |
| 期間 | 4週間まで | 1歳までの範囲 |
| 分割 | 2回に分割できる | 2回に分割できる |
| 申出期限 | 原則、休業の2週間前まで(労使協定で1か月前までとすることも可) | 原則、休業の1か月前まで |
| 休業中の就業 | 労使協定がある場合に限り、本人が合意した範囲で可能 | 原則不可 |
| 給付 | 出生時育児休業給付金 | 育児休業給付金 |
両方を使えば、例えば「出生直後に2週間+退院後の1週間(産後パパ育休を2回)」「配偶者の職場復帰に合わせて1か月(育児休業)」のように、家庭の事情に合わせて計画できます。両親がともに育休を取る場合は、パパ・ママ育休プラスで子が1歳2か月まで延ばせることもあります(→パパ・ママ育休プラス)。
お金の不安に答える
取得をためらう理由として「収入が減る」が挙がることがあります。説明では次の点を伝えます(詳しくは育児休業給付金の手続き)。
- 産後パパ育休・育児休業には雇用保険から給付金がある
- 子の出生直後に本人・配偶者ともに14日以上休業するなどの要件を満たすと、出生後休業支援給付金が上乗せされる
- 育休中は、要件を満たせば健康保険・厚生年金保険の保険料が免除される
給付額の試算を本人に示すときは、休業開始時賃金日額に上限があること、就業日数によっては給付の要件を満たさなくなる場合があることも併せて伝えます。指針は、産後パパ育休中の就業の仕組みを知らせる際に、この点の説明に留意するよう求めています。
取得を増やす5つの取り組み
1. 申出の前から面談の機会を作る
配偶者の妊娠を会社に伝えるタイミングは人それぞれです。福利厚生の申請(出産祝い金など)や扶養の手続きのタイミングで人事から声をかけ、早めに個別周知の面談を設定します。出産予定日の数か月前に面談できると、引き継ぎの準備に余裕が生まれます。
2. 取得計画を本人と上司と一緒に作る
面談では、次の項目を1枚にまとめます。
- 出産予定日と、産後パパ育休・育児休業の予定(分割の希望を含む)
- 休業中に止められない業務と、引き継ぎ先の候補
- 休業前・休業中の連絡の方法と範囲(緊急時のみなど)
- 復帰後の働き方の希望(残業免除・時短など)
予定は変わるものなので、「仮の計画」で構いません。出産予定日の前後に再確認する日も決めておきます。
3. 引き継ぎを「休業のため」ではなく「業務の見える化」として進める
男性の育休を阻む最大の理由は「代わりがいない」ことです。引き継ぎ書を作り、担当業務を複数人で持つ体制にすることは、退職・病気・繁忙期への備えにもなります(→業務引き継ぎ書)。休業者の業務を引き受けた人の評価や手当の扱いを決めておくと、職場の不公平感も和らぎます。
4. 上司の一言を仕組みにする
取得のしやすさは、直属の上司の反応で大きく変わります。管理職研修で、次の点を具体的に伝えます。
- 部下から妊娠・出産の報告を受けたら、まず「おめでとう」と伝え、人事の面談につなぐ
- 「取るの?」「いつまで?」ではなく「どう取るか一緒に考えよう」と言う
- 休業中に業務の連絡をしない、復帰後に不利益な配置や評価をしない
管理職向けの研修は新任管理職研修の中に組み込むと続けやすくなります。
5. 取得事例を社内で共有する
取得した社員の「どう計画したか」「職場がどう回ったか」を社内報やポータルで紹介すると、後に続く人が具体的にイメージできます。事例の提供は、法律上の雇用環境整備の措置の1つでもあります。本人の同意を得て、家庭の事情に踏み込みすぎない内容にしましょう。
取得状況を数字で把握する
取り組みの効果を見るため、毎年度、次の数字を把握します。
| 指標 | 計算 |
|---|---|
| 男性の育休等取得率 | 配偶者が出産した男性のうち、育児休業等を取得した人の割合 |
| 平均取得日数 | 取得者の休業日数の平均 |
| 取得までの期間 | 申出から取得開始までの日数(準備期間が十分か) |
常時雇用する労働者101人以上の企業は、次世代育成支援対策推進法の一般事業主行動計画で、男性の育休等取得状況を把握し、数値目標を立てることが求められています。300人超の企業は取得率の公表義務もあります(→次世代法の行動計画と取得率の公表)。
助成金を使う場合は、取得前の準備(方針の周知、面談など)が要件になっていることが多いため、取り組みを始める前に要件を確認しましょう(→中小企業が使いやすい助成金)。
就業規則・様式の点検
- □ 産後パパ育休と育児休業の分割取得が規程に反映されている(→育児・介護休業規程)
- □ 産後パパ育休中の就業を認める場合、労使協定を結んでいる
- □ 申出書の様式がある(→育児休業申出書)
- □ 個別周知・意向確認の説明資料と記録の様式がある
- □ 休業中の業務の分担と業務代替手当のルールがある(→育休中の業務代替の進め方)
- □ 雇用環境整備の措置(研修・相談窓口など)を実施し、記録している
まとめ
- 妊娠・出産の申出時の個別周知・意向確認と、雇用環境の整備は義務。取得を控えさせる伝え方は不可
- 産後パパ育休(出生後8週間以内・4週間まで・2回分割)と育児休業を組み合わせ、家庭に合った計画を一緒に作る
- 取得を増やす鍵は、早めの面談、引き継ぎの見える化、上司の一言、事例の共有
- 取得率・取得日数を毎年把握し、行動計画や公表に活かす
この記事で使えるテンプレート
労務 育児休業申出書 従業員が育児休業を申し出るときの社内様式です。通常の育児休業、出生時育児休業(産後パパ育休)、1歳6か月・2歳までの延長に1枚で対応し、会社からの取扱通知欄も設けています。 労務 育児・介護休業規程(ひな形・2025年改正対応の主要条文) 育児休業・出生時育児休業(産後パパ育休)・介護休業、子の看護等休暇、残業免除の対象拡大、柔軟な働き方を実現するための措置、個別周知・意向確認までを条文にした育児・介護休業規程のひな形です。厚生労働省の規定例をもとに、主要条文に絞って整理しています。 人事 業務引き継ぎ書(退職・異動・休職用) 退職・異動・休職のときに使う業務引き継ぎ書です。業務一覧(頻度・期限・手順書の場所)、進行中の案件、社内外の関係者、アカウント・権限、保管書類、引き継ぎスケジュールと完了確認の署名欄までまとめています。この記事に出てくる用語
- 育児休業
- 子を養育するために、原則として子が1歳になるまで取得できる休業です。育児・介護休業法にもとづき、保育所に入れないなどの場合は最長2歳まで延長できます。
- 育児休業給付
- 雇用保険の被保険者が育児休業を取ったときに支給される給付です。休業開始から180日までは賃金の67%、それ以降は50%が目安です。
- 育児・介護休業法
- 育児休業・介護休業や、子の看護等休暇・介護休暇、短時間勤務などの両立支援制度を定めた法律です。正式名称は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」です。
- 一般事業主行動計画
- 女性活躍推進法や次世代育成支援対策推進法にもとづき、企業が自社の課題を踏まえて計画期間・数値目標・取組内容を定める計画です。常時雇用する労働者101人以上の企業は、策定・届出・周知・公表が義務です。
- 健康保険
- 会社員などが加入する公的医療保険で、業務外の病気・けが、出産、死亡に対して給付を行います。保険者は協会けんぽと健康保険組合です。
- 降格
- 役職や等級を下げることです。人事権の行使としての降格と、懲戒処分としての降格があり、賃金が下がる場合は根拠と相当性が問われます。
- 厚生年金保険
- 会社員などが加入する公的年金で、老齢・障害・死亡に対して年金を支給します。原則として70歳未満の被用者が加入し、保険料は会社と本人が折半します。
- 個別周知・意向確認
- 妊娠・出産や介護に直面したことを申し出た従業員に対して、会社が両立支援制度を個別に知らせ、利用の意向を確認する義務です。
- 雇用保険
- 労働者が失業したときや、育児・介護で休業したときなどに給付を行う公的保険です。週20時間以上働き、31日以上雇用見込みがある人が原則として加入します。
- 産後パパ育休
- 子の出生後8週間以内に、4週間(28日)まで取得できる育児休業です。法律上の名称は「出生時育児休業」で、通常の育児休業とは別に取得できます。
- ハラスメント防止措置
- パワハラ・セクハラ・マタハラ・カスハラなどを防ぐために、事業主が法律にもとづいて講じなければならない雇用管理上の措置です。会社の規模や業種を問わず、すべての事業主が対象です。
- パパ・ママ育休プラス
- 両親がともに育児休業を取得する場合に、育児休業の対象となる子の年齢を原則1歳から1歳2か月までに延ばす特例です。
- 復職
- 休職や休業をしていた社員が、職場に戻って働き始めることです。私傷病による休職では、復職できるかどうかを会社が判断します。
- 労使協定
- 会社と、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は過半数代表者)との間で結ぶ書面の協定です。法律の原則を例外的に変える効果があります。