社長の家族を従業員として雇うとき|同居の親族の雇用保険・労災・社会保険の扱いと「同居の親族」雇用実態証明書
事業主と同居している親族は、原則として雇用保険の被保険者にならず、労災保険の「労働者」にもなりません。ただし、指揮命令を受け、他の従業員と同じ条件で働き、取締役などでない場合は被保険者になることがあります。ハローワークに出す「同居の親族」雇用実態証明書と確認資料、労災・社会保険の考え方、社員が社長の親族になった場合、給与の税務上の注意を整理します。
- 対象読者
- 社長の配偶者・子どもなど親族が働いている同族会社の、従業員30〜300名規模の労務担当者
- 難易度
- 実務
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- 読了8分
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この記事のポイント
- 事業主と同居の親族は、原則として雇用保険の被保険者にならない。指揮命令に従っていることが明確、就業の実態と賃金が他の労働者と同様、取締役など事業主と利益を一にする地位にない、の3条件を満たせば被保険者になることがある
- 被保険者にするときは、資格取得届に「同居の親族」雇用実態証明書と、就業規則・雇用契約書・賃金台帳・出勤簿・労働者名簿(本人と比較対象者1名分)などの確認資料を添える
- 労災保険も同様の考え方。社会保険は法人に使用され報酬を受ける人なら親族でも対象になり得る。役員の親族への過大な給与は法人税で損金不算入になる場合がある
同族会社では、社長の配偶者が経理を担当していたり、子どもが入社して現場で働いていたりします。こうした家族の従業員は、ほかの従業員と同じように雇用保険や労災保険に入れてよいのか、迷う担当者は少なくありません。
ポイントは「事業主と同居しているか」と「ほかの従業員と同じ条件で働いているか」です。この記事では、雇用保険・労災保険・社会保険それぞれの扱いと、ハローワークに出す書類を整理します。労働基準法上の「労働者」の考え方全体は労働基準法の「労働者」とはを参照してください。
まず「事業主」と「同居」を確認する
ここでいう事業主は、法人なら会社そのものですが、実務では代表者(社長)との関係で判断されます。確認するのは次の2点です。
| 確認すること | 例 |
|---|---|
| 親族か | 社長の配偶者、子、親、兄弟姉妹など |
| 同居しているか | 同じ家(同一の世帯)で生活している。別居して独立して暮らす子は「同居の親族」に当たらない |
別居している親族は、ほかの従業員と同じ基準で判断します。以下は同居の親族の場合の扱いです。
雇用保険:原則は対象外、3条件を満たせば被保険者
ハローワークの案内では、事業主と同居している親族は原則として雇用保険の被保険者にならないとしたうえで、次の3条件をすべて満たす場合は被保険者になることがあるとしています。
- 業務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること
- 就業の実態が当該事業所の他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること
- 取締役など、事業主と利益を一にする地位にないこと
2つ目は、始業・終業の時刻、休憩、休日、賃金の決め方・支払方法などが、ほかの従業員と同じように就業規則や労働条件通知書で管理されているかで判断されます。社長の配偶者が取締役を兼ねている場合は、3つ目の条件を満たしません。
提出する書類
被保険者として届け出るときは、資格取得届とあわせて「同居の親族」雇用実態証明書と確認資料を出します。ハローワーク飯田橋の案内に挙げられている確認資料は次のとおりです。
| 資料 | 内容 |
|---|---|
| 登記事項証明書(履歴事項全部証明書) | 個人事業の場合は不要 |
| 就業規則・給与規定 | 10人未満で作成していない場合は不要 |
| 雇用契約書など | 本人分と、他の労働者1名分 |
| 賃金台帳 | 同居の親族となってからの期間、本人と他の労働者1名分(概ね1か月分) |
| 出勤簿(タイムカード) | 同上 |
| 労働者名簿 | 本人分と他の労働者1名分 |
資料はコピーで提出し、適用事業所台帳と証明書は原本の提示・提出を求められます。証明書には、年齢・職種・勤続年数などが近い比較対象の従業員を書く欄があり、その人と同じ条件で働いていることを示します。求められる資料はハローワークによって異なることがあるため、提出前に管轄の窓口に確認してください。
社員が社長の親族になった場合
すでに被保険者になっている社員が、社長の子と結婚して同居するなど、後から同居の親族になることもあります。ハローワーク飯田橋の案内では、この場合も同居の親族になった後、速やかに証明書と確認資料を提出するよう求めています(資格取得等確認通知書と資格喪失届を添える)。本人から家族状況の変更を聞いたら、雇用保険の確認も忘れないようにします。
労災保険:同じく原則対象外
労働基準法第116条第2項は、同居の親族のみを使用する事業には同法を適用しないと定めています。労災保険の「労働者」も労働基準法の労働者と同じ考え方で判断されるため、同居の親族は原則として労働者に当たりません。
厚生労働省の労働保険の資料は、同居の親族でも、事業主の指揮命令に従って業務を行い、就業規則などにより労働時間・休日・賃金などがほかの労働者と同様に管理されている場合は「労働者」として扱うとしています。労働者として扱う人の賃金は、労働保険料の計算の基礎となる賃金総額に含めます。
労働者に当たらない家族が現場作業をする場合、仕事中のけがは労災保険で補償されません。家族を役員にしている会社では、中小事業主等の特別加入が使えるかも確認します。
社会保険:法人なら親族でも対象になり得る
健康保険法第3条は、適用事業所に使用される人を被保険者とし、短時間労働者などの例外を定めていますが、親族であることを理由に除く定めはありません。日本年金機構も、法人の事業所は事業主のみの場合を含めて適用事業所になるとしています。
そのため、法人に使用され、労務の対価として報酬を受けている家族は、所定労働時間などの要件を満たせば、ほかの従業員と同じく健康保険・厚生年金保険の被保険者になります。入社手続きは入社時の社会保険・雇用保険の加入手続きと同じです。家族が社長の扶養に入っていた場合は、被保険者になると扶養から外れるため、扶養の手続きも確認します。
個人事業の場合は、事業主本人は被保険者になれないなど扱いが異なります。判断に迷うときは年金事務所に確認してください。
給与を決めるときの注意
家族の給与は、ほかの従業員とのバランスを説明できる水準にします。法人税法第36条は、役員と特殊の関係のある使用人(役員の親族など。施行令第72条)に支給する給与のうち、不相当に高額な部分は損金に算入しないと定めています。相当かどうかは、職務の内容、会社の収益、ほかの使用人への給与、同業同規模の会社の水準などに照らして判断されます(施行令第72条の2)。
実際の勤務がない家族に給与を払うことは、税務上も社会保険上も問題になります。勤務の記録(出勤簿・業務内容)をほかの従業員と同じように残しておくことが、どの制度でも判断の材料になります。
チェックリスト
- 家族従業員ごとに、社長との続柄と同居かどうかを確認した
- 労働条件通知書(ひな形)を交付し、就業規則どおりの労働時間・休日・賃金で管理している
- 取締役などの役員を兼ねていないか確認した
- 雇用保険に入れる場合は、雇用実態証明書と確認資料をハローワークに提出した
- 労働保険料の賃金総額に含めるかを判断した
- 社会保険の資格取得と、扶養からの削除を行った
- 社員が後から同居の親族になった場合の確認ルールを決めた
まとめ
- 事業主と同居の親族は、雇用保険・労災保険とも原則対象外。指揮命令・他の労働者と同様の就業実態と賃金・役員でないことがそろえば対象になる
- 雇用保険は「同居の親族」雇用実態証明書と、比較対象者を含む確認資料で実態を示す
- 社会保険は、法人に使用され報酬を受ける家族なら親族でも対象になり得る
- 役員の親族への過大な給与は損金不算入になり得る。勤務の実態と記録をほかの従業員と同じように整える
この記事で使えるテンプレート
人事 入社手続きチェックリスト 雇用契約、社会保険・雇用保険の資格取得届、マイナンバー、扶養控除等申告書、PC・アカウント・備品・名刺の準備まで、人事・労務・総務の入社手続きを時系列で確認できるチェックリストです。 人事 労働条件通知書(パート・有期雇用用) パートタイム・有期雇用の従業員向け労働条件通知書です。2024年4月改正の明示事項(変更の範囲・更新上限・無期転換)と、パートタイム・有期雇用労働法で求められる昇給・退職手当・賞与の有無、相談窓口、2026年10月から追加された「待遇の相違の内容・理由等について説明を求めることができる旨」を盛り込んでいます。この記事に出てくる用語
- 健康保険
- 会社員などが加入する公的医療保険で、業務外の病気・けが、出産、死亡に対して給付を行います。保険者は協会けんぽと健康保険組合です。
- 厚生年金保険
- 会社員などが加入する公的年金で、老齢・障害・死亡に対して年金を支給します。原則として70歳未満の被用者が加入し、保険料は会社と本人が折半します。
- 雇用契約書
- 会社と労働者が労働契約の内容に合意したことを示すため、双方が署名・記名押印などをする書面です。法律上の作成義務はありませんが、トラブル防止のために多くの会社が作ります。
- 雇用保険
- 労働者が失業したときや、育児・介護で休業したときなどに給付を行う公的保険です。週20時間以上働き、31日以上雇用見込みがある人が原則として加入します。
- 資格取得届
- 従業員が社会保険や雇用保険に加入するときに会社が提出する届出です。健康保険・厚生年金保険は年金事務所へ5日以内、雇用保険はハローワークへ翌月10日までに提出します。
- 資格喪失届
- 従業員が退職したときなどに、社会保険・雇用保険の被保険者でなくなったことを届け出る書類です。社会保険は5日以内、雇用保険は10日以内に提出します。
- 就業規則
- 労働時間・賃金・退職などの労働条件や職場のルールを定めた規則です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、作成して労働基準監督署に届け出る義務があります。
- 出勤簿
- 労働者ごとの出勤日や始業・終業時刻を記録する書類で、賃金台帳・労働者名簿とあわせて「法定三帳簿」と呼ばれます。
- 所定労働時間
- 就業規則や労働契約で会社が決めた、始業から終業までの時間から休憩時間を除いた労働時間です。法定労働時間の範囲内で定めます。
- 賃金台帳
- 労働者ごとに賃金計算の基礎となる事項や支払額を記録する帳簿で、労働基準法で作成と保存が義務づけられています。法定三帳簿の一つです。
- 適用事業所
- 健康保険・厚生年金保険の加入が義務づけられた事業所です。法人は従業員が1人でも、社長1人でも適用事業所になります。
- 登記事項証明書
- 法務局が発行する、会社の登記内容を証明する書面です。いわゆる「登記簿謄本」にあたり、銀行口座の開設や入札、許認可の申請などで提出を求められます。
- 年金事務所
- 日本年金機構の地域の窓口で、健康保険(協会けんぽ)・厚生年金保険の加入や保険料に関する会社の届出を受け付けます。
- ハローワーク
- 厚生労働省の公共職業安定所の愛称です。職業紹介や求人の受付のほか、雇用保険の加入・喪失や給付の手続きの窓口になっています。
- 労災保険
- 業務中や通勤中のけが・病気・障害・死亡に対して、治療費や休業中の所得補償などを給付する公的保険です。保険料は全額会社が負担します。
- 労働者名簿
- 事業場ごとに、労働者の氏名・生年月日・履歴などを記録する名簿で、労働基準法で作成と保存が義務づけられています。法定三帳簿の一つです。
- 労働条件通知書
- 会社が労働者を雇い入れるときに、賃金・労働時間・就業場所などの労働条件を書面で知らせるための文書です。労働基準法の「労働条件の明示」を果たすために使います。
- 労働保険
- 労災保険と雇用保険をまとめた呼び方です。労働者を1人でも雇うと加入が必要で、保険料は年度更新でまとめて申告・納付します。