取引先が倒産したときの対応|破産・民事再生の確認、相殺と債権届出、貸倒れ処理と経営セーフティ共済
取引先の倒産を知ったら、まず手続の種類(破産・民事再生など)と自社の債権・債務を確認し、出荷や支払いを止めるかを判断します。相殺ができる期限、裁判所への債権届出、税務上の貸倒損失の要件、経営セーフティ共済の借入れまで、破産法・民事再生法と国税庁・中小機構の資料をもとに整理します。
- 対象読者
- 取引先の倒産の知らせを受けた、法務・経理を兼ねる従業員30〜300名の企業の総務担当者
- 難易度
- 実務
- 所要時間
- 読了8分
- 最終確認日
この記事のポイント
- 最初に確認するのは、手続の種類(破産・民事再生・私的整理など)、事件番号と管財人・代理人の連絡先、債権届出期間。裁判所や管財人からの通知は捨てずに保管する
- 開始決定の時点で取引先に対して自社が債務(買掛金など)を負っていれば、破産では手続によらずに相殺できる。民事再生では債権届出期間内に相殺する必要がある
- 回収できない売掛金は、国税庁の示す要件(切捨て・全額回収不能・取引停止後1年以上など)に沿って貸倒損失を計上する。経営セーフティ共済に加入していれば借入れを検討する
「取引先が破産したらしい」という知らせは、営業担当からの電話、弁護士からのFAX、裁判所からの封書など、さまざまな形で届きます。法務担当がいない会社では、総務が最初の窓口になることが多いはずです。
この記事では、取引先の倒産を知ってから最初の数日でやることと、その後の債権届出・税務処理までの流れを整理します。個別の判断(担保の実行や商品の引揚げなど)は、早めに顧問弁護士に相談してください(顧問弁護士の選び方)。
倒産の種類を確認する
「倒産」は法律用語ではなく、いくつかの手続をまとめた言い方です。どの手続かで、自社の動き方が変わります。
| 種類 | 概要 | 自社への影響 |
|---|---|---|
| 破産 | 裁判所が選んだ破産管財人が財産を金銭に換え、債権者に配当する | 配当は債権額の一部にとどまることが多い。取引は終了する |
| 民事再生 | 事業を続けながら、再生計画に沿って債務を減らして返済する | 取引が続く場合がある。債権は再生計画で一部カットされる |
| 会社更生・特別清算 | 主に大きな会社で使われる手続 | 手続ごとの案内に従う |
| 私的整理・事業停止 | 裁判所を使わず、債権者と個別に交渉する | 弁護士からの受任通知で知ることが多い |
裁判所は、破産手続では開始決定のときに破産管財人を選び、財産が少ない場合は管財人を置かずに終えることもあると説明しています。
最初の数日でやること
- 情報の確認:手続の種類、裁判所名と事件番号、開始決定日、管財人(または申立代理人)の連絡先、債権届出期間を、届いた通知や取引先の告知で確認する
- 債権・債務の洗い出し:売掛金、未収金、貸付金、預けている保証金と、買掛金・未払金など自社が払う側の金額を、請求書単位で一覧にする
- 出荷・役務の停止判断:新たな出荷は、代金を回収できる見込みがない限り止める。民事再生で取引を続ける場合は、現金取引や前払いなど条件を見直す
- 支払いの一時保留:自社の買掛金は、相殺の可否を確認するまで支払わずに保留する(支払うと相殺できなくなる)
- 社内への周知:営業・経理・物流に、取引先名と対応方針(出荷停止、問い合わせ窓口)を伝える
自社の商品が取引先の倉庫に残っていても、無断で持ち出してはいけません。所有権が誰にあるか、管財人の同意が要るかなど、判断は弁護士や管財人と相談のうえで行います。
相殺ができるか
取引先に対して売掛金があり、同時に自社が買掛金を負っている場合は、相殺によって回収できる可能性があります。
| 手続 | 相殺のルール |
|---|---|
| 破産 | 破産手続開始の時に取引先に対して債務を負担していれば、破産手続によらずに相殺できる(破産法第67条) |
| 民事再生 | 債権・債務の双方が債権届出期間の満了前に相殺に適するようになったときは、債権届出期間内に限り相殺できる(民事再生法第92条) |
相殺は、相手方(管財人や再生債務者)に相殺の意思表示をして行います。後で争いにならないよう、内容証明郵便など記録の残る方法で通知します(内容証明郵便の出し方)。開始決定の後に取得した債権・債務による相殺など、制限される場合もあるため、金額が大きいときは弁護士に確認します。
債権届出をする
破産手続で配当を受けるには、債権届出期間内に、債権の額と原因を裁判所に届け出ます(破産法第111条)。多くの場合、裁判所や管財人から届出書の様式と記入例が送られてきます。
- 請求書、納品書、契約書など、債権を裏づける書類の写しを添付する
- 遅延損害金や利息を含めるかは、様式の記入例に従う
- 提出後は、債権者集会の案内や配当の通知を受け取る窓口(担当者と連絡先)を決めておく
開始決定の後は、債権者が個別に取引先の財産を差し押さえることはできません(破産法第42条)。回収は手続の中で行うことになります。
税務:貸倒損失の計上
回収できない売掛金は、法人税法上の要件を満たせば貸倒損失として損金にできます。国税庁は次の3つの場合を示しています。
| 区分 | 主な内容 |
|---|---|
| 金銭債権の切捨て | 会社更生法・民事再生法などによる切捨て、合理的な基準による協議での切捨て、債務超過が続く相手への書面による債務免除。事実が生じた事業年度の損金 |
| 全額回収不能 | 資産状況・支払能力から全額回収できないことが明らかになった事業年度に損金経理できる。担保物があれば処分後 |
| 一定期間取引停止後の弁済なし等 | 継続的な取引先との取引停止後(取引停止時と最後の弁済時のいずれか遅い時から)1年以上経過した売掛債権は、備忘価額を残して損金経理できる |
破産手続の途中では、配当の見込みが判明するまで「全額回収不能」と言えないことがあります。処理の時期は税理士と相談します(税理士の選び方)。
経営セーフティ共済の借入れ
中小企業基盤整備機構の経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)に加入していれば、取引先の倒産で売掛金等の回収が困難になったときに、無担保・無保証人で借入れができます。機構の案内では、借入額は回収困難となった売掛金等の額と掛金総額の10倍(最高8,000万円)のいずれか少ない額です。
対象となる倒産には、法的整理、取引停止処分、私的整理などが含まれ、夜逃げは対象外とされています。加入期間などの要件もあるため、手続は機構の窓口で確認してください。未加入の会社は、取引先の集中度に応じて加入を検討する材料になります。
再発防止:取引開始時と契約書の見直し
- 新規取引の際に、登記・信用情報・反社チェックを行う(新規取引先の確認、反社会的勢力の排除)
- 契約書に、支払遅延や手続開始の申立てがあったときの期限の利益喪失、解除の条項を入れる
- 与信限度額を決め、売掛金残高が超えていないかを毎月確認する
- 契約書と取引条件を台帳で管理し、更新時に見直す(契約書管理の基本)
未払いが続いている段階で回収を進める方法は、売掛金が未払いのときの回収手順にまとめています。
まとめ
- まず手続の種類、事件番号、管財人の連絡先、債権届出期間を確認し、債権・債務を一覧にする
- 出荷は止め、自社の買掛金は相殺の可否を確認するまで支払いを保留する。民事再生の相殺は債権届出期間内に限られる
- 破産では期間内に債権届出をする。開始決定後の個別の差押えはできない
- 貸倒損失は国税庁の要件に沿って時期を判断する。経営セーフティ共済の借入れも検討する