顧問弁護士の選び方|社労士との役割の違い、顧問契約で決める範囲、相談しやすい事務所を比べるポイント
契約書の確認、従業員とのトラブル、取引先からの請求。顧問弁護士がいれば早めに相談できますが、どこまで頼めるのか、社会保険労務士とどう分けるのかは分かりにくいものです。弁護士法・社会保険労務士法による役割の違い、顧問契約で決める範囲、事務所を比べるポイントを、特定の事務所に寄らずに整理します。
- 対象読者
- 契約書の確認や従業員とのトラブルの相談先がなく、顧問弁護士を付けるか検討している従業員30〜300名の企業の総務・人事担当者や経営者
- 難易度
- 基本
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- 読了8分
- 最終確認日
この記事のポイント
- 弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事件の法律事務を業として行うことは、弁護士法第72条で禁じられている。紛争の交渉・訴訟の代理は弁護士に依頼する
- 社会保険労務士は労働・社会保険の手続きや労務管理の相談を担い、特定社会保険労務士は個別労働紛争のあっせん等の代理ができる。両者の得意分野を分けて使う
- 顧問契約では、顧問料に含まれる相談の範囲・回数、契約書の確認の扱い、連絡手段と回答までの目安、別料金になる業務を書面で確認する
取引先から届いた契約書の条項が気になる。退職した従業員の代理人から内容証明郵便が届いた。お客様から損害賠償を求められた。中小企業の総務・人事担当者は、こうした場面で「誰に相談すればよいか」から迷います。
顧問弁護士は、継続的な契約を結び、日ごろから相談できる弁護士のことです。この記事では、特定の事務所に寄らず、社会保険労務士との役割の違い、顧問契約で決める範囲、事務所を比べるポイントを整理します。顧問料は事務所や契約の内容によって異なるため、複数の事務所に条件を示して確認することを前提にしています。
弁護士と社会保険労務士の役割の違い
| 項目 | 弁護士 | 社会保険労務士 |
|---|---|---|
| 主な業務 | 法律相談、契約書の作成・確認、交渉、訴訟・労働審判などの代理 | 労働・社会保険の書類の作成と提出の代行、帳簿書類の作成、労務管理の相談 |
| 紛争の対応 | 相手方との交渉や裁判の代理ができる | 特定社会保険労務士は、個別労働関係紛争のあっせん等の手続の代理ができる |
| 根拠 | 弁護士法 | 社会保険労務士法第2条 |
弁護士法第72条は、弁護士でない者が報酬を得る目的で、訴訟事件などの法律事件について法律事務を業として行うことを禁じています。紛争の相手方との交渉や裁判の代理は、弁護士に依頼します。
一方で、就業規則の作成、社会保険の手続き、給与計算に関わる相談などは、社会保険労務士のほうが日常的に扱っています。社労士との契約の考え方は社会保険労務士への委託にまとめています。
顧問弁護士に相談する場面
| 場面 | 例 | 早めに相談する理由 |
|---|---|---|
| 契約書 | 取引基本契約、業務委託契約、秘密保持契約 | 不利な条項に気づかず締結すると、後から変えにくい |
| 労務の紛争 | 解雇・雇止め、未払残業代の請求、ハラスメントの申立て | 期限のある手続が多い |
| 取引先との紛争 | 代金の未払い、納品物の不具合、損害賠償の請求 | 証拠の保全と、最初の回答の内容が重要 |
| 社外からの照会・請求 | 内容証明郵便、弁護士会照会、捜査関係事項照会 | 回答してよい範囲の判断が必要 |
| 社内の仕組み | 内部通報の外部窓口、規程の整備 | 社外の独立した窓口として機能させる |
労働審判は、原則として3回以内の期日で審理を終えることになっているため、申立書が届いてから準備できる期間は長くありません(→労働審判への対応)。顧問弁護士がいれば、最初の連絡から相談できます。
顧問契約で決めること
| 項目 | 確認すること |
|---|---|
| 相談の範囲 | 顧問料に含まれる相談の分野と、月あたりの時間・回数の目安 |
| 契約書の確認 | 顧問料の範囲で確認してもらえる契約書の量、作成は別料金か |
| 連絡手段 | 電話・メール・チャット・Web会議のどれが使えるか |
| 回答までの目安 | 急ぎのときにどのくらいで回答を得られるか |
| 別料金の業務 | 交渉・訴訟・労働審判の代理、調査、出張などの費用の決め方 |
| 担当者 | 誰が担当するか。不在時の対応 |
| 契約期間と解約 | 期間、更新、解約の申入れの方法 |
顧問料に何が含まれ、何が別料金になるかを書面で確認することが、あとでのトラブルを防ぐいちばんの方法です。
事務所を比べるポイント
- 扱っている分野:使用者側の労務、企業間の取引、IT・個人情報など、自社の相談が多い分野の経験があるか
- 相談のしやすさ:簡単な質問をメールで気軽に送れるか。回答が分かりやすいか
- 地域:裁判所や相手方への対応で移動が必要になることがある。Web会議で足りる業務か
- 利益相反の確認:弁護士法第25条は、弁護士が職務を行えない事件を定めている。取引先や競合と関係がないか、事務所が確認する
- 社労士・税理士との連携:顧問の社労士・税理士と役割を分けて連携できるか
内部通報の外部窓口を顧問弁護士に依頼する場合、会社の代理人として紛争に関わる弁護士が窓口を兼ねると、通報者が相談をためらうことがあります。窓口と代理人を分けるかどうかも検討します(→内部通報制度、外部相談窓口の選び方)。
顧問契約を検討するときの進め方
- 相談の件数を数える:過去1年に、契約書の確認や社外とのトラブルで専門家に相談したかった件数と内容を書き出す
- 相談したい分野を決める:労務、取引、債権回収、個人情報など、優先する分野を2〜3に絞る
- 候補の事務所に面談を申し込む:顧問契約の内容と、実際の相談の進め方を聞く
- 条件を書面で比べる:上の「顧問契約で決めること」の表に沿って、各事務所の回答を並べる
- 社内の窓口を決める:誰が弁護士に連絡するか、相談の記録をどこに残すかを決める
面談では、自社でよくある相談を1つ例に挙げ、「この場合はどう進めるか」「どのくらいで回答をもらえるか」を聞くと、相談のしやすさが分かります。
社内の窓口を総務の1人に固定すると、相談の経緯が残り、弁護士とのやり取りもスムーズになります。相談の記録は、日付・相談の内容・回答・対応の結果を一覧にしておくと、同じような相談が来たときに役立ちます。契約書と同じように、弁護士の意見書や回答のメールも保管場所を決めておきます(→契約書の管理)。
顧問弁護士を付ける前にできること
すぐに顧問契約を結ばない場合でも、相談できる窓口を知っておくと安心です。
- 都道府県労働局の総合労働相談コーナー:労働問題の情報提供・相談の窓口。労働局長による助言・指導、紛争調整委員会によるあっせんの制度は、労働者・事業主のどちらからでも利用できる
- 法テラス(日本司法支援センター):法的なトラブルを解決するための「総合案内所」として、法制度や相談窓口を案内している
- 弁護士会の法律相談:各地の弁護士会が相談の窓口を設けている
顧問を付けるかは、相談の件数と内容で判断します。年に数回の契約書の確認だけなら、案件ごとに依頼する方法もあります。
社労士や税理士がすでに顧問にいる場合は、弁護士に相談する前に、どの専門家に聞くべき内容かを顧問の専門家に確認するのも一つの方法です。労務の紛争であれば、社労士と経緯を整理してから、弁護士に相談する方法もあります。
相談するときの準備
- 時系列のメモ(いつ・誰が・何をしたか)
- 関係する契約書、規程、メール、記録
- 相手方から届いた書面と、届いた日
- 会社として望む結論と、譲れない点
契約書の一次確認を社内で整理しておくと、相談が短く済みます(→契約書の一次チェックをAIで整理する)。
まとめ
- 紛争の交渉や裁判の代理は弁護士、労働・社会保険の手続きと労務管理の相談は社会保険労務士と、役割を分けて使う
- 顧問契約では、顧問料に含まれる相談の範囲、契約書の確認、連絡手段、別料金の業務を書面で確認する
- 扱う分野、相談のしやすさ、利益相反の確認、他の専門家との連携で事務所を比べる
- 顧問を付ける前でも、総合労働相談コーナーや法テラスなどの窓口を知っておく
この記事で使えるテンプレート
総務 契約書管理台帳 取引先との契約書を一覧で管理する台帳です。契約期間・自動更新の有無・解約予告期限・保管場所(紙/電子)・印紙の有無・担当部署を記録し、更新や解約の判断漏れを防ぎます。この記事に出てくる用語
- 就業規則
- 労働時間・賃金・退職などの労働条件や職場のルールを定めた規則です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、作成して労働基準監督署に届け出る義務があります。
- 内部通報制度
- 従業員などが社内の法令違反や不正を、社内または社外の窓口に通報できるようにする仕組みです。公益通報者保護法にもとづき、通報者の保護と調査・是正の手順を定めて運用します。
- 内容証明郵便
- いつ、どんな内容の文書を、誰から誰あてに差し出したかを日本郵便が証明する郵便です。契約の解除通知や未払代金の督促など、通知した事実を証拠に残したいときに使います。
- 秘密保持契約
- 取引の検討や業務委託の際に開示する情報を、目的外に使ったり第三者に漏らしたりしないことを約束する契約です。英語の略称からNDAとも呼ばれます。
- 雇止め
- 有期労働契約の期間が満了したときに、会社が契約を更新せずに終了させることです。更新の実態や期待によっては、雇止めが認められないことがあります。