売掛金が未払いのときの回収手順|督促状・内容証明から支払督促・少額訴訟まで、時効の確認
売掛金の入金が遅れたら、事実確認と督促から始め、応じなければ内容証明郵便、裁判所の支払督促や少額訴訟へと段階を上げます。消滅時効(原則5年)と完成猶予、支払督促の異議と仮執行宣言の期限、少額訴訟の60万円以下・原則1回審理の特徴を、民法・民事訴訟法と裁判所の案内をもとに整理します。
- 対象読者
- 取引先からの入金遅れに対応する、法務担当のいない従業員30〜300名の企業の総務・経理担当者
- 難易度
- 実務
- 所要時間
- 読了8分
- 最終確認日
この記事のポイント
- まず請求書・納品の事実と相手の認識を確認し、電話・書面で督促する。分割の相談に応じるときは、支払計画を書面(債務承認)でもらう
- 売掛金の消滅時効は、権利を行使できることを知った時から5年が原則。内容証明郵便などの催告は6か月の完成猶予にとどまり、支払督促や訴えの提起で時効の完成が猶予される
- 支払督促は書類審査のみで、相手が2週間以内に異議を出さなければ仮執行宣言を申し立てられる。60万円以下なら原則1回の審理で終わる少額訴訟も選べる
取引先からの入金が予定日を過ぎても確認できない。中小企業では、営業担当が言い出しにくく、気づいたら数か月分がたまっていた、ということが起こります。回収は時間がたつほど難しくなるため、社内で手順を決めておくことが大切です。
この記事では、未払いに気づいてから裁判所の手続を使うまでの流れを、段階ごとに整理します。取引先がすでに破産・民事再生を申し立てている場合は、個別の回収はできなくなるため取引先が倒産したときの対応を参照してください。
回収の段階
| 段階 | 手段 | 目安 |
|---|---|---|
| 1 | 事実確認と電話・メールでの連絡 | 支払期日の翌営業日〜1週間 |
| 2 | 督促状(書面)の送付 | 連絡しても入金がないとき |
| 3 | 内容証明郵便での請求 | 督促状に応じないとき。時効が近いとき |
| 4 | 支払督促、または少額訴訟・通常訴訟 | 内容証明にも応じないとき |
| 5 | 強制執行 | 仮執行宣言付支払督促や判決を得ても払わないとき |
どの段階で弁護士に依頼するかは、金額と相手の状況で判断します(顧問弁護士の選び方)。
段階1・2:事実確認と督促
未払いの理由は、相手の資金繰りだけとは限りません。まず自社側の事実を確認します。
- 請求書を送った日、宛先、金額、支払期日。請求書が相手の担当に届いていない例もある
- 納品・検収が終わっているか。相手が品質や数量に異議を出していないか
- 契約書や発注書の支払条件(締め日・支払日・振込手数料の負担)
確認できたら、担当者同士で連絡し、それでも入金がなければ会社名義の督促状を送ります。督促状には、請求の根拠(請求書番号・金額)、新しい支払期限、振込先を書きます。
督促状に書く項目
| 項目 | 記載例 |
|---|---|
| 件名 | 「お支払いについてのお願い」(1回目)、「督促状」(2回目以降) |
| 請求の特定 | 請求書番号、請求日、品名、金額、本来の支払期日 |
| 新しい期限 | 「〇月〇日までにお振込みください」(1〜2週間後) |
| 行き違いへの配慮 | 「本状と行き違いでお支払い済みの場合はご容赦ください」 |
| 連絡先 | 担当部署・担当者名・電話番号 |
1回目は丁寧な依頼の形にし、2回目以降で「期限までにお支払いがない場合は法的手続を検討します」と段階を上げます。威圧的な表現や、勤務先・家族への連絡をほのめかすような書き方は避けます。
分割払いの相談を受けたら
相手が支払いの意思を示して分割を求めてきたときは、支払計画を書面でもらいます。民法第152条は、権利の承認があったときは時効が新たに進行を始める(更新される)と定めています。債務の額と支払計画を相手が認めた書面は、時効の管理のうえでも証拠になります。
時効を確認する
売掛金などの債権は、民法第166条により、権利を行使できることを知った時から5年(権利を行使できる時から10年)行使しないと時効で消滅します。2020年4月の民法改正前に生じた債権は、旧法の短期消滅時効が適用されることがあるため、古い債権は日付を確認します。
| 行為 | 時効への効果 |
|---|---|
| 内容証明郵便などの催告 | 催告の時から6か月、時効の完成が猶予される(第150条)。猶予中の再度の催告では延びない |
| 支払督促・訴えの提起 | 手続の間、時効の完成が猶予され、確定判決などで権利が確定すると時効が更新される(第147条) |
| 相手の債務承認(一部弁済、支払計画書) | 時効が更新される(第152条) |
時効が迫っているときは、内容証明郵便で催告してから6か月以内に支払督促や訴えの提起をする、という順番で進めます。内容証明の書き方は内容証明郵便の出し方を参照してください。
段階4:裁判所の手続を選ぶ
| 項目 | 支払督促 | 少額訴訟 |
|---|---|---|
| 対象 | 金銭などの支払請求(金額の上限なし) | 60万円以下の金銭の支払請求 |
| 申立先 | 相手の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官 | 簡易裁判所 |
| 審理 | 書類審査のみ。裁判所に行く必要はない | 原則として1回の期日で審理を終える |
| 相手が争った場合 | 異議が出ると通常訴訟に移行する | 相手の申出などで通常訴訟に移行することがある |
| 回数の制限 | なし | 同じ簡易裁判所で1年に10回まで |
相手が支払いを争っておらず、単に払わない場合は支払督促が向いています。相手が品質などを理由に争っている場合は、異議が出て結局訴訟になるため、最初から少額訴訟や通常訴訟を検討します。申立手数料は請求額によって異なるため、裁判所の手数料早見表で確認します。
支払督促の流れ
- 相手の住所地を管轄する簡易裁判所の書記官に申し立てる
- 書記官が書類を審査し、支払督促を相手に送る
- 相手は受け取ってから2週間以内に督促異議を申し立てることができる。異議が出れば通常訴訟に移行する
- 異議がなければ、送達日の翌日から起算して2週間を経過した日から30日以内に仮執行宣言を申し立てる(申し立てないと支払督促は効力を失う)
- 仮執行宣言付支払督促が送られ、相手はさらに2週間以内なら異議を出せる。異議がなければ確定する
仮執行宣言が付けば、それをもとに強制執行(預金や売掛金の差押えなど)を申し立てられます。
少額訴訟の特徴
裁判所の案内では、少額訴訟は次のような手続です。
- 最初の期日までに、言い分と証拠をすべて出す。証拠は審理の日にその場で調べられるものに限られる
- 原告の主張が認められても、分割払いや支払猶予の判決がされることがある
- 判決に控訴はできず、受け取った翌日から2週間以内に異議を申し立てられる
簡易裁判所では、裁判所の許可を得れば、弁護士でない者(例えば経理担当の従業員)を訴訟代理人にすることもできます(民事訴訟法第54条第1項ただし書)。
回収を早めるための日常管理
- 入金予定日の翌営業日に、未入金の一覧を経理から営業・総務に回す
- 取引開始時に与信限度額を決め、残高が超えたら出荷前に確認する(新規取引先の確認)
- 契約書に、支払遅延時の遅延損害金や期限の利益の喪失を定める(契約書管理の基本)
- 督促の記録(日時・相手・内容)を残す。回収できなかった場合の税務処理(貸倒損失)の判断にも使う
まとめ
- 未払いは、事実確認→督促状→内容証明→裁判所の手続の順に段階を上げる。分割の相談には支払計画書(債務承認)をもらう
- 売掛金の時効は原則5年。催告は6か月の猶予だけなので、その間に支払督促や訴えを起こす
- 相手が争っていなければ支払督促、60万円以下で争いがあれば少額訴訟、と使い分ける
- 支払督促は異議期間2週間、仮執行宣言の申立ては30日以内。期限を管理表で追う
この記事で使えるテンプレート
総務 内容証明郵便 受領時の対応記録(受領日時・回答期限・報告先・弁護士への相談・回答までの経過) 会社あてに内容証明郵便が届いたときに、受領日時と受け取った人、差出人と請求の内容、回答期限、社内の報告先、保全した資料、弁護士への相談、回答までの経過を1枚に記録する様式です。受領を拒否しない、当日中に責任者へ回すといった初動の確認項目もつけています。 総務 契約書管理台帳 取引先との契約書を一覧で管理する台帳です。契約期間・自動更新の有無・解約予告期限・保管場所(紙/電子)・印紙の有無・担当部署を記録し、更新や解約の判断漏れを防ぎます。この記事に出てくる用語
- 内容証明郵便
- いつ、どんな内容の文書を、誰から誰あてに差し出したかを日本郵便が証明する郵便です。契約の解除通知や未払代金の督促など、通知した事実を証拠に残したいときに使います。