従業員が在職中に亡くなったときの手続き|社会保険・雇用保険の喪失、最後の給与と退職金の税務、遺族への説明
従業員が在職中に亡くなった場合、会社は健康保険・厚生年金と雇用保険の資格喪失、最後の給与と死亡退職金の支払い、年末調整、住民税、遺族への説明を短い期間で進めます。死亡日の翌日が喪失日になる理由、死亡後に支給期が来る給与が所得税ではなく相続税の対象になる点など、一次情報に沿って整理します。
- 対象読者
- 従業員の死亡退職の手続きを初めて担当する人事・労務担当者
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この記事のポイント
- 健康保険・厚生年金の資格喪失日は死亡日の翌日。資格喪失届は5日以内、雇用保険の資格喪失届は翌日から10日以内に提出する
- 死亡後に支給期が来る給与と、死亡後3年以内に支給額が確定した死亡退職金は相続税の対象で、所得税は課税されない。死亡時までに支給期が来た給与で年末調整を行う
- 遺族への連絡は窓口を1人に決め、支払先(受取人)・必要書類・健康保険の埋葬料などを一覧にして渡す
従業員の訃報は突然届きます。担当者は遺族への配慮をしながら、社会保険・雇用保険・給与・税金の手続きを短い期間で進めなければなりません。通常の退職と同じ手続きもありますが、喪失日の考え方や税金の扱いなど、死亡退職ならではの違いがあります。
この記事では、会社が行う手続きを時系列で整理します。業務中や通勤中の事故・疾病が原因の場合は、労災の手続きも並行して必要です(労災が発生したときの対応)。
最初の数日でやること
| 順番 | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 1 | 社内の連絡体制を決める | 遺族との窓口は1人(人事担当者または上司)に絞る。何度も別の人から連絡が行かないようにする |
| 2 | 死亡日・死因の区分を確認する | 喪失日の計算と、業務上・通勤途中かどうか(労災の対象か)の判断に使う |
| 3 | 慶弔規程を確認する | 弔慰金・供花・香典・会社としての参列(慶弔見舞金規程の作り方) |
| 4 | 貸与物と私物を整理する | PC・社員証・鍵などの回収と、私物の返却方法を遺族と相談する |
| 5 | アカウントを停止する | メール・業務システムのアクセス権。業務データの引き継ぎ先を決める |
社会保険(健康保険・厚生年金)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 書類 | 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届 |
| 期限・提出先 | 事実発生から5日以内に、年金事務所または事務センター(電子申請・郵送・窓口) |
| 喪失年月日 | 死亡日の翌日(例:10月31日死亡なら11月1日) |
| 番号 | 死亡による喪失は、個人番号ではなく基礎年金番号を記入する |
| 添付 | 交付している資格確認書など。回収できない場合は回収不能届 |
喪失日が死亡日の翌日なので、月末に亡くなった場合はその月の保険料がかかります。保険料は前月分を当月の給与から控除する会社が多いため、最後の給与でどの月の保険料を控除するか確認します。被扶養者も同時に資格を失うので、遺族には国民健康保険などへの加入手続きが必要になることを伝えます。
雇用保険
雇用保険被保険者資格喪失届を、被保険者でなくなった事実があった日の翌日から10日以内に、事業所を管轄するハローワークに提出します。離職票は本人が求職するためのものなので、通常は交付を希望しない扱いとし、離職証明書は添付しません。
最後の給与と未払いの金品
亡くなった日までの給与は、通常どおり計算して支払います。受取人は相続人になるため、給与規程や退職金規程の定めを確認し、遺族の代表者を確認したうえで振込先を決めます。
労働基準法第23条は、労働者が死亡した場合、権利者の請求があれば7日以内に賃金を支払い、積立金など労働者の権利に属する金品を返還しなければならないとしています。社内預金・財形・立替経費・未精算の出張費なども洗い出しておきます。
所得税の扱い
| 支払うもの | 税金の扱い |
|---|---|
| 死亡時までに支給期が来ていた給与 | 給与所得。源泉徴収票の支払金額に含め、年末調整の対象にする |
| 死亡後に支給期が来る給与 | 本来の相続財産として相続税の対象。所得税の源泉徴収はせず、源泉徴収票の支払金額にも含めない |
| 死亡退職金(死亡後3年以内に支給額が確定) | 相続税の対象(みなし相続財産)。所得税は課税されない |
国税庁の質疑応答事例では、3月15日に死亡し、3月25日の支給日に3月分の報酬を妻に支払った例について、源泉徴収票の支払金額に含める必要はないとしています。なお、支給日当日に亡くなった場合は、この扱いにならないとされています。
年末調整は、死亡によって退職した人も対象です。死亡時までに支給期が来た給与で年末調整を行い、源泉徴収票を作成して遺族に渡します。
死亡退職金と弔慰金
- 受取人は、退職金規程に定めがあればそれに従う。定めがない場合は相続人への支払いになるため、トラブルを避けるには規程で受取人の順位を定めておく(退職金制度の設計)
- 相続税の計算では、死亡退職金に「500万円 × 法定相続人の数」の非課税限度額がある
- 退職手当金等を支払った会社は、「退職手当金等受給者別支払調書」を支払った日の属する月の翌月15日までに税務署に提出する。提出が必要な範囲は記載要領で確認する
- 弔慰金は通常は相続税の対象にならないが、業務上の死亡なら普通給与の3年分など一定額を超える部分は退職手当金等として扱われる。個別の判断は税理士・税務署に確認する
住民税
特別徴収(給与天引き)している住民税は、退職者と同じく「給与所得者異動届出書」を市区町村に提出します。残りの税額の納め方は市区町村の案内に従い、遺族に通知が届くことを伝えます(退職者の住民税の手続き)。
遺族に案内すること
会社が手続きを代行できないものも多いため、一覧にして渡すと親切です。
| 項目 | 内容 | 窓口 |
|---|---|---|
| 埋葬料 | 生計を維持されていた人に5万円(協会けんぽの場合)。申請書に事業主の死亡の証明欄がある。死亡日の翌日から2年以内 | 加入している健康保険 |
| 遺族年金 | 遺族基礎年金・遺族厚生年金。要件は年金事務所で確認 | 年金事務所 |
| 労災の遺族補償等 | 業務上・通勤途中の死亡の場合 | 労働基準監督署 |
| 給与・退職金の受取 | 受取人の確認書類、振込先 | 会社 |
| 源泉徴収票 | 年末調整後に交付 | 会社 |
| 私物・書類の返却 | 返却方法・日時 | 会社 |
健康保険組合に加入している場合は、付加給付があることがあります。遺族年金の要件を会社が断定的に説明するのは避け、年金事務所に相談するよう案内します。
遺族への連絡で気をつけること
- 最初の連絡では手続きの話を急がない。葬儀の日程や会社の参列の可否を確認し、手続きは落ち着いてから改めて案内すると伝える
- 書類のやりとりは、遺族の代表者(喪主など)を窓口にしてもらい、郵送・メールの方法を確認する
- 給与や退職金を本人名義の口座に振り込むと、金融機関の手続きによっては遺族がすぐに引き出せないことがある。振込先は遺族と相談して決める
- 会社が説明できること(給与・退職金・社会保険の手続き)と、できないこと(相続・遺族年金の可否の判断)を分けて伝える
- 社内への訃報の連絡範囲・内容は、遺族の意向を確認してから決める
まとめ
- 社会保険の喪失日は死亡日の翌日。資格喪失届は5日以内、雇用保険は10日以内
- 死亡後に支給期が来る給与と死亡退職金(3年以内に確定)は相続税の対象で、所得税はかからない
- 死亡時までに支給期が来た給与で年末調整し、源泉徴収票を遺族に渡す
- 遺族との窓口は1人にし、会社が行う手続きと遺族が行う手続きを一覧で伝える
この記事で使えるテンプレート
人事 退職手続きチェックリスト 社会保険の資格喪失届、雇用保険の資格喪失届・離職証明書、源泉徴収票、住民税の異動届、貸与品の回収、アカウント停止まで、退職手続きを期限つきで確認できるチェックリストです。この記事に出てくる用語
- 協会けんぽ
- 全国健康保険協会の通称で、主に中小企業の会社員とその家族が加入する健康保険の保険者です。保険料率は都道府県ごとに決まります。
- 健康保険
- 会社員などが加入する公的医療保険で、業務外の病気・けが、出産、死亡に対して給付を行います。保険者は協会けんぽと健康保険組合です。
- 源泉徴収
- 給与や報酬などを支払う人が、支払の際に所得税を差し引いて国に納める仕組みです。差し引いた税額は、原則として支払った月の翌月10日までに納付します。
- 源泉徴収票
- 会社が1年間に支払った給与・賞与の額と、源泉徴収した所得税の額などを記載した書類です。従業員に交付するほか、法定調書として税務署に提出します。
- 厚生年金保険
- 会社員などが加入する公的年金で、老齢・障害・死亡に対して年金を支給します。原則として70歳未満の被用者が加入し、保険料は会社と本人が折半します。
- 雇用保険
- 労働者が失業したときや、育児・介護で休業したときなどに給付を行う公的保険です。週20時間以上働き、31日以上雇用見込みがある人が原則として加入します。
- 資格喪失届
- 従業員が退職したときなどに、社会保険・雇用保険の被保険者でなくなったことを届け出る書類です。社会保険は5日以内、雇用保険は10日以内に提出します。
- 住民税の特別徴収
- 会社が従業員の個人住民税を毎月の給与から天引きし、従業員に代わって市区町村に納める方法です。6月から翌年5月までの12回に分けて徴収し、翌月10日までに納めます。
- 年金事務所
- 日本年金機構の地域の窓口で、健康保険(協会けんぽ)・厚生年金保険の加入や保険料に関する会社の届出を受け付けます。
- 年末調整
- 会社が、1年間に給与から源泉徴収した所得税の合計額と、その年の給与総額にもとづく本来の年税額との過不足を、年末に精算する手続です。
- ハローワーク
- 厚生労働省の公共職業安定所の愛称です。職業紹介や求人の受付のほか、雇用保険の加入・喪失や給付の手続きの窓口になっています。
- 被扶養者
- 健康保険の被保険者に生計を維持されている家族で、保険料の負担なく健康保険の給付を受けられる人です。原則として年収130万円未満などの要件があります。
- 法定調書
- 給与・退職金・報酬・家賃などを支払った会社が、支払先や金額を税務署に報告するために提出する書類です。源泉徴収票や支払調書などがあり、原則として翌年1月31日までに合計表と一緒に提出します。
- マイナンバー
- 住民票を持つすべての人に1人1つ指定される12桁の番号です。会社は社会保障・税・災害対策の法定の手続に限って従業員などのマイナンバーを取り扱えます。
- 離職票
- 退職者が基本手当(失業手当)を受けるためにハローワークへ提出する書類です。会社が提出した離職証明書にもとづき、ハローワークが交付します。
- 労働基準監督署
- 労働基準法・労働安全衛生法などが守られているかを監督する厚生労働省の機関です。36協定や就業規則の届出先で、労災保険の給付の窓口でもあります。