リファレンスチェックの進め方|本人の同意の取り方、聞いてよいこと・いけないこと、照会を受けた側の対応
中途採用の最終段階で、候補者の前職の上司や同僚に働きぶりを聞く「リファレンスチェック」。職業安定法の指針は、本人以外から個人情報を集めるときは本人の同意の下で行うよう求めています。同意の取り方、質問してよい範囲、記録の扱い、自社の退職者について照会を受けたときの対応を整理します。
- 対象読者
- 中途採用で前職の上司などへの照会(リファレンスチェック)を始めたい、または他社から照会を受けた従業員30〜300名の企業の人事担当者
- 難易度
- 実務
- 所要時間
- 読了8分
- 最終確認日
この記事のポイント
- 求職者の個人情報は本人から直接集めるのが原則。本人以外から集める場合は本人の同意の下で行う(職業安定法第5条の5、同法に基づく指針)。照会先も候補者に選んでもらうのが基本
- 質問は職務遂行能力・実績・働き方など業務に必要な範囲に限る。本籍・家族・思想信条などの就職差別につながる事項や、病歴などの要配慮個人情報は聞かない
- 自社の元社員について照会を受けたら、本人の同意を確認できるまで回答しない。個人データを本人の同意なく第三者に渡すことは原則禁止されている(個人情報保護法第27条)
中途採用で「面接では良い印象だったが、実際の働きぶりが分からない」という不安は、少人数の会社ほど大きくなります。採用の失敗がそのまま現場の負担になるからです。そこで、候補者の前職の上司や同僚に話を聞く「リファレンスチェック」を取り入れる会社が増えています。
ただし、候補者の知らないところで前職に問い合わせるのは、法令上も公正な採用の観点からも問題があります。この記事では、同意の取り方から質問の範囲、結果の使い方、逆に照会を受けた場合の対応までを整理します。
リファレンスチェックと法令の関係
| ルール | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 収集の範囲 | 求職者の個人情報は、業務の目的の達成に必要な範囲で、目的を明らかにして集める | 職業安定法第5条の5 |
| 収集の方法 | 本人から直接集めるか、本人の同意の下で本人以外の者から集めるなど、適法かつ公正な手段による | 職業安定法に基づく指針 |
| 集めてはいけない情報 | 人種・民族・社会的身分・門地・本籍・出生地など社会的差別の原因となるおそれのある事項、思想・信条、労働組合への加入状況(特別な職業上の必要性がある場合などを除く) | 同指針 |
| 同意の取り方 | 同意を求める事項をできるだけ具体的かつ詳細に示す。必要な範囲を超える同意を応募の条件にしない。本人の自由な意思による明確な同意であること | 同指針 |
| 不正な取得の禁止 | 偽りその他不正の手段で個人情報を取得してはならない。要配慮個人情報は原則として本人の同意なく取得できない | 個人情報保護法第20条 |
厚生労働省は、身元調査などの実施を就職差別につながるおそれがある事項として挙げています。リファレンスチェックは、候補者の同意を得て、職務に関係する事項を確認する手続きとして設計することが前提です。
進め方の流れ
1. 実施することを事前に知らせる
求人票や選考案内に「最終選考の段階で、ご本人の同意を得てリファレンスチェックを行うことがあります」と書いておくと、候補者が準備でき、後のトラブルを防げます。
2. 本人から書面で同意を得る
同意書(またはフォームでの同意)には、次の事項を具体的に書きます。
- 目的(採用選考における職務遂行能力の確認)
- 照会先(候補者が指定した人。氏名・所属・関係)
- 照会の方法(電話・オンライン面談・書面アンケートなど)と、確認する項目
- 結果の利用範囲(選考の判断のみ)と、選考終了後の保存・廃棄の方法
- 同意しない場合の扱い
指針は、必要な範囲を超えた同意を応募の条件にしないよう求めています。同意しないことだけを理由に不採用とするのではなく、その場合は面接の追加や職務に関する課題などで確認する方法も用意しておくと安心です。
3. 照会先は候補者に選んでもらう
在職中の候補者は、現在の勤務先に転職活動を知られたくないことが多いものです。照会先は、前職の上司、元同僚、取引先など、候補者に指定してもらいます。会社が独自に探した相手に連絡するのは、同意の範囲を超えるおそれがあるため避けます。
4. 質問は職務に関係することに限る
| 聞いてよいこと | 聞かないこと |
|---|---|
| 担当していた業務と役割、成果 | 本籍・出生地、家族の職業や収入 |
| 仕事の進め方、周囲との協働の様子 | 宗教・支持政党・思想、尊敬する人物 |
| 強みと、伸ばしてほしい点 | 労働組合への加入や活動歴 |
| 応募書類に書かれた経歴・実績の確認 | 病歴・健康状態・障害の有無などの要配慮個人情報 |
| 再び一緒に働きたいと思うか | 退職理由の詳細を詮索するような質問 |
健康情報の確認が必要な場面の考え方は、採用選考で健康状態を確認してよいかで整理しています。質問項目は事前に決めておき、照会先ごとに同じ項目で聞くと、評価のぶれを抑えられます(中小企業の面接の進め方と評価シート)。
5. 結果を判断材料の一つとして使う
照会先の印象は、関係性や在籍時期によって偏ることがあります。面接・適性検査・課題の結果と合わせて総合的に判断し、照会結果だけで合否を決めないようにします。照会で得た情報は選考に必要な範囲でのみ社内共有し、選考が終わったら保存期間を決めて廃棄します(不採用の連絡と応募書類の取扱い)。
内定後に実施する場合の注意
内定を出した後にリファレンスチェックを行い、その結果で内定を取り消すことは慎重に考える必要があります。内定によって労働契約が成立していると考えられる場合、取消しには客観的に合理的で社会通念上相当な理由が必要です(内定取消し・内定辞退への対応)。実施するなら内定前の最終選考の段階にするのが基本です。
経歴に重大な偽りがあることが入社後に分かった場合の対応は、経歴詐称が入社後に発覚したときの対応を参照してください。
外部サービスを使う場合
オンラインで照会先にアンケートを送るリファレンスチェックサービスもあります。使う場合は次の点を確認します。
- 同意の取得方法と、同意の記録が残るか
- 質問項目を自社で調整でき、不適切な項目が含まれていないか
- 収集したデータの保存場所・保存期間・削除方法
- 委託先として個人データを適切に扱う体制があるか(中小企業の個人情報・マイナンバー管理の基本)
自社の元社員について照会を受けたら
逆に、他社から「御社に在籍していた〇〇さんについて伺いたい」と連絡が来ることもあります。
| 確認すること | 対応 |
|---|---|
| 本人の同意 | 本人が同意していることを確認できるまで回答しない。従業員台帳などの個人データを本人の同意なく第三者に提供することは原則禁止(個人情報保護法第27条) |
| 回答者 | 誰が会社として回答するかを決めておく(人事か元上司個人か)。元上司が個人として回答する場合も、会社の情報の持ち出しにならないよう範囲を伝える |
| 回答の範囲 | 在籍期間・職種など事実の確認にとどめるか、働きぶりにも答えるかを社内で統一する |
| 回答してはいけないこと | 労働基準法第22条第4項は、労働者の就業を妨げる目的で、第三者と謀って国籍・信条・社会的身分・労働組合運動に関する通信をすることを禁じている |
社内でルールを決めておかないと、元上司が個人的な感想を伝えてしまい、トラブルになることがあります。照会への対応方針は、個人情報の取扱規程とあわせて定めておきましょう。
まとめ
- リファレンスチェックは、本人の書面による同意を得て、候補者が指定した照会先に行う
- 質問は職務遂行能力や実績など業務に必要な範囲に限り、就職差別につながる事項や要配慮個人情報は聞かない
- 結果は判断材料の一つとして使い、選考後は保存期間を決めて廃棄する。実施は内定前に
- 他社から照会を受けたら、本人の同意を確認してから、社内で決めた範囲で回答する
この記事で使えるテンプレート
人事 面接評価シート 面接官ごとの評価を同じ基準でそろえるための面接評価シートです。評価項目・5段階評価・評価の根拠となった発言・総合判定を1行1候補者で記録でき、Excelで集計できます。 人事 内定通知書・内定承諾書 採用内定を伝える内定通知書と、内定者から返送してもらう内定承諾書のセットです。入社予定日、提出書類、内定取消事由、承諾期限を明記でき、労働条件通知書とあわせて送る前提で作っています。この記事に出てくる用語
- 個人情報保護法
- 個人情報を扱う事業者が守るべきルール(利用目的の特定、安全管理措置、第三者提供の制限、漏えい時の報告など)を定めた法律です。従業員数にかかわらず、個人情報を事業に使うすべての会社が対象です。
- 個人データ
- 検索できるように体系的に整理された個人情報の集まり(個人情報データベース等)を構成する個人情報のことです。社員名簿や顧客台帳、名刺管理ソフトの中の情報などが該当します。
- 採用内定
- 会社が応募者に採用を約束することです。多くの場合、内定通知の時点で「始期付・解約権留保付の労働契約」が成立したと考えられます。
- 職業安定法
- 求人の募集、職業紹介、求職者の個人情報の扱いなどのルールを定めた法律です。会社が求人を出すときの労働条件の明示や、虚偽の表示の禁止もここに定められています。
- 要配慮個人情報
- 人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、健康診断の結果など、差別や偏見が生じないよう特に配慮が必要な個人情報です。取得には原則として本人の同意が必要です。
- リファレンスチェック
- 採用の最終段階で、候補者の前職の上司や同僚などに、働きぶりや実績を問い合わせることです。候補者本人の同意を得て行います。