身だしなみ・服装ルールの決め方|髪色・ひげ・ネイル・制服を就業規則でどこまで制限できるか
髪の色やひげ、ネイル、服装のルールは、会社が自由に決められるわけではありません。就業規則の服務規律として定めるときの考え方、業務上の必要性と合理的な範囲、制服の費用負担と着替え時間の扱い、性別で異なるルールやパンプスなどの指定の注意点、違反したときの指導の進め方を整理します。
- 対象読者
- 服装・身だしなみの社内ルールを見直したい、従業員30〜300名の企業の人事担当者
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この記事のポイント
- 身だしなみのルールは就業規則の服務規律として定めるのが一般的。ただし髪型やひげなどは個人の自由に関わるため、業務上の必要性があり、その範囲で合理的な内容にとどめる必要がある
- 制服などの作業用品を労働者に負担させる場合は就業規則に定める必要があり(労働基準法第89条)、賃金から控除するなら労使協定が要る。着用を義務づけた制服への着替えは労働時間にあたる
- 違反があったら、まず具体的な基準を示して注意・指導し、記録を残す。性別や性自認に関わるルール、健康上の理由がある場合は個別の事情に配慮する
「髪色はどこまで明るくてよいか」「ひげは禁止できるか」「ネイルは」。身だしなみのルールは、社員の価値観の多様化やカジュアル化の流れの中で、見直しを求められることが多いテーマです。ルールが古いままだと採用で不利になることもあり、一方で接客や安全の観点から一定の基準は必要です。
この記事では、身だしなみ・服装のルールを就業規則で定めるときの考え方と、運用時の注意点を整理します。
どこに定めるか:就業規則の服務規律
身だしなみのルールは、法律で必ず定めなければならない事項ではありません。厚生労働省のモデル就業規則も、服務規律と遵守事項について「必ず定めなければならない事項ではないが、職場の秩序維持に大きな役割を果たすことから、会社にとって労働者に遵守させたい事項を定める」よう解説しています。
| 定め方 | 内容 | 向いているもの |
|---|---|---|
| 就業規則の服務規律 | 「勤務中は、会社の定める身だしなみ基準に従うこと」などの基本ルール | 全社共通の原則 |
| 身だしなみ基準・服装規程(就業規則の附属規程) | 髪色、ひげ、アクセサリー、服装などの具体的な基準 | 職種ごとの詳細 |
| 職場ごとのガイドライン | 店舗・工場など現場ごとの運用例 | 写真やイラスト付きの具体例 |
就業規則に定め、周知し、内容が合理的であれば、労働契約の内容になります(労働契約法第7条)。附属規程として定める場合も就業規則の一部になるため、作成・変更には意見聴取・届出・周知が必要です。手順は就業規則の作成・変更と届出を参照してください。
どこまで制限できるか
髪型、髪の色、ひげ、化粧などは、本来は個人の自由に属する事項です。そのため、会社が制限できるのは、業務上の必要性があり、その目的に照らして合理的な範囲に限られると考えられています。
裁判例でも、身だしなみ基準は労働者の利益や自由を過度に侵害しない限度で拘束力を持つとされたものがあります(神戸地裁平成22年3月26日判決〔郵便事業(身だしなみ基準)事件〕。高裁でも維持されたと報じられています)。個別の事案ごとの判断ですが、ルール作りの考え方として参考になります。
| 目的 | ルールの例 | 合理性の考え方 |
|---|---|---|
| 安全 | 長い髪はまとめる、指輪・長いネイル禁止(機械・調理・介護) | 事故防止の必要性が明確で、認められやすい |
| 衛生 | 調理・食品工場での髪の露出禁止、ネイル禁止、ひげはマスクで覆う | 衛生管理の必要性が明確 |
| 顧客対応・ブランド | 接客時の清潔感、極端な髪色の制限、制服の着用 | 職種・顧客層・業務内容との関係を説明できるか |
| 社内のみの業務 | 内勤・在宅勤務の服装 | 必要性が弱く、細かい制限は合理性を欠きやすい |
「全社員一律に黒髪」「ひげは一切禁止」のような一律の禁止は、内勤の社員にまで及ぶと必要性の説明が難しくなります。職種や業務ごとに、目的と結びつけて基準を決めるのが基本です。
基準は具体的に
「華美でないこと」「清潔感のある身だしなみ」だけでは、判断が人によって変わり、指導のたびにトラブルになります。たとえば次のように具体化します。
- 髪色:接客職は「〇〇(色見本)より明るい色は不可」など、判断できる基準にする
- ひげ:「手入れされ、清潔に整えられていること」など、状態で基準を示す
- アクセサリー・ネイル:調理・製造ラインでは禁止、内勤は「業務に支障のない範囲」
- 服装:オフィスカジュアルの例を写真で示す。取引先訪問時の服装は別に定める
制服の費用負担と着替え時間
| 論点 | 考え方 | 根拠 |
|---|---|---|
| 制服・作業服の費用を社員に負担させる | 就業規則に定める必要がある | 労働基準法第89条第5号(作業用品などの負担) |
| 費用を給与から天引きする | 賃金控除の労使協定が必要 | 労働基準法第24条第1項ただし書 |
| 着用を義務づけた制服への着替え | 事業場内で行う着替えの時間は労働時間 | 労働時間適正把握ガイドライン |
| 退職時の返却 | 返却ルールと、返却しない場合の扱いを定めておく | 社内規程 |
着替えの時間を始業前・終業後の時間外として扱っていない場合、未払賃金の原因になります。タイムカードの打刻のタイミングも、着替えの前後どちらで打つかを決めておきます。労働時間の範囲は研修・出張移動・待機・健康診断は労働時間か、賃金控除は賃金控除協定で解説しています。
性別・健康・多様性への配慮
性別で異なるルール
「女性はパンプス着用」「女性のみ化粧必須」のように性別で異なるルールは、業務上の必要性を説明しにくく、見直しを求められることが多くなっています。業務上必要かつ相当な範囲を超えて特定の服装を強要する言動は、パワハラ指針の考え方に照らしてハラスメントと受け止められるおそれもあります。足の痛みなど健康上の理由がある場合は、代替の靴を認めるなど個別に対応します。
性自認・宗教・障害
性自認に関わる服装や髪型、宗教上の理由による服装、障害や皮膚疾患による制約などは、個別の事情に配慮が必要です。一律のルールを機械的に当てはめるのではなく、本人と話し合って代替案を検討します。性的指向・性自認に関する対応は性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する職場の対応、障害のある社員への配慮は合理的配慮の進め方を参照してください。
違反があったときの対応
- 基準を示して注意する:どの基準に、どう違反しているかを具体的に伝える。人前で注意しない
- 理由を聞く:健康上・宗教上などの事情がないか確認する
- 改善の期限を決める:髪色の変更などは準備期間を考慮する
- 記録を残す:日時、内容、本人の反応を記録する(注意指導の記録の残し方)
- 懲戒は最後の手段:繰り返し指導しても改善しない場合に、就業規則の根拠に沿って検討する。懲戒が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない場合は無効になる(労働契約法第15条)
減給の制裁には、1回の額が平均賃金の1日分の半額以内、総額が1賃金支払期の賃金総額の10分の1以内という上限があります(労働基準法第91条)。身だしなみ違反を理由に人事評価を大きく下げることも、基準が合理的でなければトラブルになります。懲戒の手順は懲戒処分の進め方で解説しています。
まとめ
- 身だしなみのルールは服務規律と附属規程で定める。就業規則の一部なので変更手続きが必要
- 制限できるのは、安全・衛生・顧客対応など業務上の必要性がある範囲。職種ごとに目的と結びつけて決める
- 基準は具体的に。写真や色見本を使うと運用がぶれない
- 制服の費用負担は就業規則に定め、天引きは労使協定。着替え時間は労働時間
- 性別で異なるルールは見直しを検討し、健康・性自認・宗教などの事情には個別に配慮する
この記事で使えるテンプレート
労務 就業規則(変更)届・意見書 セット 就業規則の作成・変更を届け出るときに必要な「就業規則(変更)届」「意見書」に、過半数代表者の選出記録と新旧対照表を加えた4点セットです。届出前の確認チェックリスト付きです。 人事 注意指導の記録・改善指導書(口頭注意・面談の記録表、改善指導書、受領確認) 問題行動のある社員への注意指導を、口頭注意→面談→書面と段階を踏んで記録するためのひな形です。日時・事実・伝えた内容・本人の反応・次の確認日を残す指導記録表と、対象となる事実・求める改善・確認期間・会社の支援を書く改善指導書、受領確認欄をまとめています。この記事に出てくる用語
- 就業規則
- 労働時間・賃金・退職などの労働条件や職場のルールを定めた規則です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、作成して労働基準監督署に届け出る義務があります。
- 人事評価
- 社員の仕事の成果や行動、能力を一定の基準で評価し、昇給・賞与・昇格や育成に反映させる仕組みです。等級制度・報酬制度とつなげて設計します。
- パワーハラスメント
- 職場で優越的な関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動によって、労働者の就業環境を害することです。労働施策総合推進法により、すべての事業主に防止措置が義務づけられています。
- 平均賃金
- 解雇予告手当や休業手当などを計算するときの基準になる1日あたりの賃金です。原則として直前3か月の賃金総額をその期間の総日数で割って求めます。
- 労使協定
- 会社と、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は過半数代表者)との間で結ぶ書面の協定です。法律の原則を例外的に変える効果があります。
- 労働契約法
- 労働契約の成立・変更・終了についての基本的なルールを定めた法律です。解雇権濫用の禁止、就業規則による労働条件の変更、無期転換ルール、雇止め法理などを定めています。
出典・参考資料
- 厚生労働省「モデル就業規則について」(令和7年12月版 第10条 服務・第11条 遵守事項)
- e-Gov法令検索「労働基準法」(第24条 賃金の支払、第89条 就業規則の作成及び届出の義務、第91条 制裁規定の制限)
- e-Gov法令検索「労働契約法」(第7条 就業規則による労働契約の内容、第15条 懲戒)
- 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)
- 厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(パワハラ指針)
- 労働新聞社「郵便事業(身だしなみ基準)事件(神戸地判平22・3・26)」(判例解説・補足)