退職者アンケート・退職面談の記録をAIで分析する:匿名化の手順と離職防止への活かし方
退職者アンケートや退職面談の記録は、離職を防ぐための貴重な材料です。生成AIで自由記述を分類・集計する手順を、入力前の匿名化、分析のプロンプト例、結果を施策につなげる方法とあわせて解説します。退職理由の記録は個人情報として慎重に扱います。
- 対象読者
- 退職者の声を集めているが活かしきれていない、従業員30〜300名の企業の人事担当者・経営者
- 難易度
- 実務
- 所要時間
- 読了9分
- 最終確認日
この記事のポイント
- AIに任せるのは自由記述の分類・要約・傾向の整理。「誰が辞めそうか」の判定や個人の評価には使わない
- 入力前に氏名・部署・時期など本人を特定できる情報を消し、少人数の部署は「その他」にまとめる。ハラスメントや健康の記述は入力しない
- 分析結果は「件数と原文の引用」で確認し、半年〜1年単位で施策と見直しにつなげる
退職者に理由を聞いても、「一身上の都合」「キャリアアップのため」で終わってしまう。アンケートの自由記述は読んだけれど、ファイルに保存したまま——。退職者の声を集めていても、離職防止に活かせている会社は多くありません。
生成AIを使うと、たまった自由記述を短時間で分類し、傾向をつかめます。ただし退職理由には、人間関係や家庭の事情、健康のことなど、本人にとって機微な内容が含まれます。この記事では、匿名化してから分析し、施策につなげる手順を紹介します。
AIの使いどころと、使わないこと
| AIに任せる | 使わない |
|---|---|
| 自由記述を「給与」「仕事内容」「上司・人間関係」などに分類する | 在職者の誰が辞めそうかを判定する |
| 同じ趣旨の意見をまとめ、件数を数える | 特定の上司や社員を評価する |
| 退職面談のメモを、決まった項目の記録に整える | 退職者の発言の真偽を判断する |
| 施策のアイデアを出す | 施策の優先順位を決める(経営と人事が判断する) |
退職の申し出から退職日までの手続きは退職の申し出を受けたら、手続き全体は退職時の手続き一覧を参照してください。
ステップ1:聞く項目をそろえる
分析しやすくするには、毎回同じ項目で聞くことが大切です。
| 項目 | 形式 | 例 |
|---|---|---|
| 退職を考え始めた時期 | 選択 | 半年以内/1年以内/それ以上前 |
| 主な理由(3つまで) | 選択+自由記述 | 給与、仕事内容、労働時間、上司・人間関係、評価、キャリア、家庭の事情、その他 |
| 会社が変えていれば残った点 | 自由記述 | — |
| 良かった点 | 自由記述 | — |
| 後任や後輩へのアドバイス | 自由記述 | — |
退職直前は本音を言いにくいため、退職日の後にWebアンケートで回答してもらう方法もあります。回答は任意であること、回答内容が評価や退職手続きに影響しないこと、誰が結果を見るかを最初に伝えます。
ステップ2:入力前に匿名化する
AIに渡す前に、担当者が次の加工をします。
- 氏名、社員番号、メールアドレスを消す
- 部署名は大きなくくり(例:営業系/管理系/製造系)に置き換える。数人しかいない部署は「その他」にまとめる
- 入社年月・退職年月は「勤続1年未満/1〜3年/3年以上」のような区分にする
- 文中の個人名(上司・同僚)を「上司A」「同僚B」に置き換える
- ハラスメントの申告、病気・障害、家族の介護の詳しい事情などの記述は、AIに入力せず別に扱う
少人数の会社では、部署と時期が分かるだけで本人が特定できます。「匿名化したつもり」にならないよう、部署と時期は粗くするのが基本です。会社が契約したツールで、入力が学習に使われない設定かも確認します(→生成AIの社内利用ガイドラインのつくり方)。
ハラスメントに関する記述が見つかった場合は、分析とは切り離して、相談窓口の手順で事実確認を検討します(→ハラスメント防止措置の総点検、ハラスメント相談記録票)。退職者の声として集計するだけで終わらせないでください。
ステップ3:AIで分類・集計する
匿名化したデータを、表の形のまま渡します。
次の表は、退職者アンケートの回答(匿名化済み)です。
「主な理由」と「会社が変えていれば残った点」の自由記述を分析してください。
【出力】
1. 分類ごとの件数の表(分類:給与/仕事内容/労働時間/上司・人間関係/
評価/キャリア・成長/家庭の事情/その他)
2. 分類ごとに、代表的な回答を原文のまま2件ずつ引用(回答番号付き)
3. 勤続年数の区分ごとに目立つ傾向
4. 回答から読み取れない点、件数が少なく判断できない点
【条件】
・回答にないことを推測で補わない
・1つの回答が複数の分類にあてはまる場合は、すべて数える
・個人や特定の部署を評価する表現は使わない
結果を確かめる
AIの集計は数え間違いや、分類の偏りが起きることがあります。
- 件数は、スプレッドシートの集計(COUNTIFなど)でも確かめる(→スプレッドシート関数・GASをAIに書かせるコツ)
- 引用された回答番号の原文を開き、要約が意味を変えていないか見る
- 件数が数件しかない分類は「傾向」と言い切らない
ステップ4:施策につなげる
分析結果は、在職者の声と合わせて読みます。退職者の声だけでは、辞めなかった人の考えが分かりません。
| 退職者の声の傾向 | 在職者に確かめる方法 | 施策の例 |
|---|---|---|
| 入社1年未満の「聞いていた仕事と違う」 | 入社3か月面談 | 求人票・面接での業務説明の見直し、オンボーディングの強化 |
| 上司との対話不足 | エンゲージメント調査 | 1on1ミーティングの導入 |
| 評価の納得感 | 評価面談後のアンケート | 人事評価制度の基準の公開 |
| 長時間労働 | 勤怠データ | 業務の棚卸し、残業の事前申請の徹底 |
在職者への調査は従業員エンゲージメント調査を小さく始めるが参考になります。若手の離職の全体的な傾向は、厚生労働省が毎年公表している新規学卒就職者の離職状況でも確認できます(→新卒の3年以内離職率のニュース)。
記録の管理
| 対象 | ルールの例 |
|---|---|
| アンケートの原データ | 閲覧者を人事の担当者に限定する。保存期間を決める |
| 匿名化したデータ | 分析用として保存。原データとの対応表は作らない |
| 分析結果 | 経営会議などで共有。個人が特定できる引用は載せない |
退職理由の記録は個人情報です。利用目的(離職防止のための分析)を回答者に示し、目的の範囲で使います(→中小企業の個人情報・マイナンバー管理の基本)。
まとめ
- AIは自由記述の分類・要約・件数の整理に使い、個人の判定や評価には使わない
- 入力前に氏名・部署・時期を消すか粗くし、少人数の部署は「その他」にまとめる
- ハラスメントや健康に関する記述はAIに入力せず、別の手順で扱う
- AIの件数は表計算で確かめ、原文の引用で要約の正しさを見る
- 退職者の声は在職者の調査と合わせて読み、施策と見直しにつなげる
退職者アンケートの集計や社内データの分析に使えるAIツールを検討するときは、Otsumu株式会社のAIツール診断をご利用ください。
この記事で使えるテンプレート
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