退職の申し出を受けたら:退職日の決め方・引き継ぎ・有給消化と手続きの期限
社員から退職の申し出を受けたときに会社がやることを順番に解説します。民法627条と就業規則の関係、退職日の決め方、引き継ぎと年次有給休暇の消化の調整、社会保険・雇用保険・税の手続きの期限まで整理しました。
- 対象読者
- 従業員30〜300名の企業で退職者対応を担当する人事・労務担当者、管理職
- 難易度
- 実務
- 所要時間
- 読了9分
- 最終確認日
この記事のポイント
- 期間の定めのない雇用では、民法627条により退職の申入れから2週間で契約が終了する。就業規則の「1か月前」は協力のお願いとして運用する
- 退職日は、引き継ぎに必要な期間と残っている年次有給休暇の日数をもとに本人と話し合って決める
- 社会保険の資格喪失届は5日以内、雇用保険の資格喪失届は翌日から10日以内、源泉徴収票は退職後1か月以内に交付
社員から「辞めたい」と言われたとき、最初の対応でその後の引き継ぎや手続きの進み方が大きく変わります。感情的に引き止めたり、法律と違う説明をしたりすると、トラブルの原因になります。
この記事では、退職の申し出を受けてから退職後の手続きまで、会社がやることを順番に整理します。
退職の申し出を受けたら最初にやること
- 話を聞く:理由を無理に聞き出す必要はありませんが、職場環境やハラスメントなど会社が把握すべき事情がないかは確認する
- 意思を確認する:退職の意思が固いか、相談の段階かを確かめる
- 退職届(退職願)を出してもらう:退職日と申出日を書面で残す
- 関係者に共有する:上司・人事・総務の間で、退職日と公表の時期をそろえる
引き止めをすること自体は問題ありませんが、退職届を受け取らない、「辞めるなら損害賠償を請求する」と伝えるなど、退職を妨げる対応はトラブルのもとです。
退職日はいつになるか
民法627条:申入れから2週間で終了
期間の定めのない雇用契約(いわゆる正社員など)は、民法627条1項により、労働者が退職を申し入れた日から2週間が経過すると終了します。会社の承諾がなくても、契約は終わります。
就業規則の「1か月前に申し出ること」との関係
多くの会社の就業規則には「退職する場合は1か月前までに申し出ること」といった定めがあります。引き継ぎのために必要なルールですが、民法の2週間よりも長い期間で労働者を拘束できるかについては、考え方が分かれています。実務上は、就業規則の期間は「協力のお願い」として説明し、本人と話し合って退職日を決めるのが無難です。
有期契約の場合
期間の定めがある契約(契約社員など)は、原則として契約期間の途中で辞めることはできず、やむを得ない事由がある場合に限られます(民法628条)。ただし、契約期間が1年を超える場合は、契約開始から1年を経過した後はいつでも退職できるという特例があります(労働基準法137条。一部の専門職などを除く)。
退職日の決め方:引き継ぎと有給休暇
退職日は、次の2つを並べて考えると決めやすくなります。
| 確認すること | 内容 |
|---|---|
| 引き継ぎに必要な期間 | 担当業務の量、後任者の有無、取引先への挨拶 |
| 残っている年次有給休暇 | 退職日までに取得したい日数 |
年次有給休暇の消化
退職前にまとめて年次有給休暇を取りたいという希望は、よくあります。会社には、事業の正常な運営を妨げる場合に取得日を変更してもらう権利(時季変更権)がありますが、退職日を超えて変更することはできません。そのため、退職予定者の取得希望は、実際には断ることが難しいと考えておきましょう。
残日数の確認には有給休暇 計算ツールが使えます。
スケジュールの例
| 日程 | やること |
|---|---|
| 申出日(例:10月1日) | 退職届の受理、退職日の相談 |
| 〜10月20日 | 引き継ぎ(引き継ぎ書の作成、後任への説明) |
| 10月21日〜31日 | 年次有給休暇の取得 |
| 10月31日 | 退職日(貸与物の返却は最終出社日までに) |
未消化の年次有給休暇を退職時に買い取ることは、法律上の義務ではありません。買い取るかどうか、金額をどうするかは会社の判断です。ルールを決めておかないと不公平感が出るため、取り扱いを統一しておきましょう。
引き継ぎの進め方
- 引き継ぎ書を作る:担当業務の一覧、手順、関係者の連絡先、進行中の案件
- 後任と一緒に業務を行う期間を設ける:最低でも1回は後任が実際に作業する
- 取引先への連絡:後任者と一緒に挨拶し、担当の変更を伝える
- データの整理:個人のフォルダやメールに業務の資料が残っていないか確認する
退職日までに回収・交付するもの
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 回収するもの | 社員証・入館証、鍵、パソコン・スマートフォン、名刺、社外秘の資料、健康保険の資格確認書(交付している場合) |
| 交付するもの | 離職票(本人が希望した場合など)、源泉徴収票、退職証明書(請求があった場合) |
| 確認すること | 業務アカウントの停止日、貸与物の返却漏れ、秘密保持に関する誓約 |
貸与物の回収は、管理台帳と照らし合わせて行います(「備品・IT機器の管理台帳のつくり方」参照)。
労働基準法では、退職者から請求があった場合、会社は退職証明書を遅滞なく交付しなければなりません(22条)。また、請求があった場合は7日以内に賃金を支払い、本人の権利に属する金品を返還する必要があります(23条)。
退職後の手続きと期限
| 手続き | 提出先・交付先 | 期限 |
|---|---|---|
| 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届 | 日本年金機構 | 事実発生日(退職日の翌日)から5日以内 |
| 雇用保険被保険者資格喪失届・離職証明書 | ハローワーク | 被保険者でなくなった日(離職日)の翌日から起算して10日以内 |
| 給与所得の源泉徴収票 | 本人 | 退職日から1か月以内 |
| 給与所得者異動届出書(住民税の特別徴収) | 本人の住所地の市区町村 | 多くの市区町村が退職の翌月10日までと案内(各市区町村で確認) |
社会保険の資格喪失日は「退職日の翌日」です。たとえば10月31日に退職した場合、喪失日は11月1日になり、10月分の保険料までがかかります。
離職票は、本人が希望しない場合は交付しなくてもよいとされていますが、59歳以上の人は本人の希望にかかわらず離職証明書の提出が必要です。
離職理由は事実どおりに記載する
離職証明書には、離職理由(自己都合・会社都合など)を記載します。離職理由は、本人が受け取る失業給付(基本手当)の給付日数などに影響します。会社と本人の認識が違うと、ハローワークで本人から異議が出ることもあるため、退職の経緯を記録に残し、事実どおりに記載しましょう。
退職勧奨(会社から退職を勧めること)による退職は、自己都合退職とは扱いが異なります。退職の申し出が本人の意思によるものか、会社からの働きかけによるものかを、面談の記録で明確にしておくことが大切です。
各届出の書き方や必要書類は「退職時の手続き一覧」、年次有給休暇の管理は「年5日の有給休暇取得義務と管理簿の作り方」で詳しく解説しています。
まとめ
- 正社員などの無期雇用は、民法627条により申入れから2週間で終了する
- 就業規則の申出期限は「協力のお願い」として説明し、退職日は本人と話し合って決める
- 退職日までの有給休暇の取得希望は、原則として断れないと考えて引き継ぎを計画する
- 資格喪失届(5日以内)、雇用保険の喪失届(10日以内)、源泉徴収票(1か月以内)の期限を守る