雇入れ時の安全衛生教育|オフィス企業でも必要な8項目と、作業内容変更時・パート・派遣の扱い
労働安全衛生法第59条は、労働者を雇い入れたとき、作業内容を変更したときに安全衛生教育を行うよう事業者に義務づけています。業種や雇用形態を問わず対象です。教育すべき8項目、オフィス企業での実施例、パート・派遣社員の扱い、記録の残し方を整理します。
- 対象読者
- 従業員30〜300名の企業で、入社手続きと研修を担当する人事・労務担当者
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この記事のポイント
- 雇入れ時の安全衛生教育は、業種・規模・雇用形態にかかわらず、労働者を雇い入れたすべての事業者の義務(労働安全衛生法第59条第1項)。作業内容を変更したときも同じ教育が必要
- 教育する事項は労働安全衛生規則第35条の8項目。2024年4月からは、業種によって一部の項目を省略できた規定がなくなり、全業種で必要な項目を教育する
- 教育時間は労働時間として扱う。法令上の記録保存義務はないが、実施日・内容・受講者を記録しておくと、労災や監督署の調査の際に説明できる
入社手続きのチェックリストに「安全衛生教育」の欄はありますか。工場や建設現場の話だと思われがちですが、雇入れ時の安全衛生教育は事務職だけの会社でも、パート・アルバイトでも必要です。
この記事では、法律が求める教育の中身と、オフィス中心の会社での現実的な進め方を整理します。
雇入れ時の安全衛生教育とは
労働安全衛生法第59条は、事業者に次の教育を義務づけています。
| 場面 | 根拠 | 内容 |
|---|---|---|
| 労働者を雇い入れたとき | 第59条第1項 | 従事する業務に関する安全・衛生のための教育 |
| 作業内容を変更したとき | 第59条第2項 | 雇入れ時と同じ教育を準用 |
| 危険・有害な業務に就かせるとき | 第59条第3項 | 特別教育(フォークリフト、アーク溶接など。→特別教育が必要な業務と実施の手順) |
対象は業種・規模・雇用形態を問わず、雇い入れたすべての労働者です。正社員だけでなく、パート・アルバイト、有期契約、試用期間中の人も含みます。違反には50万円以下の罰金の定めがあります(第120条)。
教育する8項目
教育の内容は、労働安全衛生規則第35条第1項に定められています。雇い入れたときは「遅滞なく」、次のうちその人が従事する業務に関して必要な事項を教育します。
| 号 | 項目 | オフィスでの例 |
|---|---|---|
| 1 | 機械等・原材料等の危険性・有害性と取扱い方法 | シュレッダー・裁断機の巻き込み、電源タップのたこ足配線 |
| 2 | 安全装置・有害物抑制装置・保護具の性能と取扱い方法 | シュレッダーの停止ボタン、脚立の開き止め |
| 3 | 作業手順 | 重い荷物・コピー用紙の運び方、書庫での脚立の使い方 |
| 4 | 作業開始時の点検 | 社用車の始業点検、使用前の機器の確認 |
| 5 | 業務に関して発生するおそれのある疾病の原因と予防 | 情報機器作業(VDT作業)による目・肩の疲れ、腰痛、熱中症 |
| 6 | 整理・整頓・清潔の保持 | 通路に段ボールを置かない、床の配線の処理 |
| 7 | 事故時等の応急措置・退避 | 避難経路、AEDの場所、けが人が出たときの連絡先 |
| 8 | その他業務に関する安全・衛生に必要な事項 | 通勤・外出時の交通安全、ハラスメント・メンタルヘルスの相談窓口 |
2024年4月から省略規定がなくなった
以前は、一部の業種(事務中心の業種など)について、上の1〜4号の教育を省略できる規定がありました。化学物質管理の見直しにあわせた省令改正で、2024年4月1日からこの業種による省略はできなくなりました。オフィス企業でも、トナーや清掃用薬剤、社用車などに関わる人には、必要な項目を教育します。化学物質を扱う事業場の管理体制は化学物質管理者の選任とリスクアセスメントを参照してください。
一方で、その事項について十分な知識と技能があると認められる人は、その事項の教育を省略できます(規則第35条第2項)。同業種からの転職者などで省略する場合も、何をなぜ省略したかを記録しておきます。
オフィス企業での進め方
入社オリエンテーションに組み込む
単独の研修を新たに作るより、入社初日のオリエンテーションに30〜60分の枠を設けるのが現実的です。
- 共通パート(全員):避難経路と集合場所、AED・救急箱の場所、けが・体調不良時の連絡先、通路・配線のルール、情報機器作業の休憩の取り方
- 職種別パート(該当者のみ):社用車を運転する人の始業点検と事故時の対応、倉庫・書庫で作業する人の荷物の持ち方、来客対応の人の不審者対応
- 確認:理解度チェック(5問程度)と受講記録への署名
資料は一度作れば毎回使えます。全体の新入社員研修の組み立ては新入社員研修の作り方、入社手続き全体は入社手続きチェックリストを参照してください。
中途・随時入社にも対応する
中途採用やパートは入社日がばらばらです。動画やスライドで共通パートを用意し、配属先の上司が職種別パートを現場で説明する、という二段構えにすると漏れにくくなります。
作業内容を変更したときも忘れない
異動・配置転換で業務が変わったときも、同じ教育が必要です(第59条第2項)。「営業事務から倉庫の出荷担当へ」「内勤から社用車で外回りへ」といった異動では、新しい業務に関わる項目を教育します。人事異動の発令の手順に、安全衛生教育の確認を1行加えておきましょう。
パート・派遣・外国人の扱い
| 区分 | 雇入れ時の教育 | 作業内容変更時の教育 |
|---|---|---|
| パート・アルバイト・有期 | 自社が行う | 自社が行う |
| 派遣社員 | 派遣元が行う | 派遣元・派遣先の双方に義務(労働者派遣法第45条) |
| 外国人 | 自社が行う。理解できる言語・方法で伝える | 同左 |
派遣社員は、職場の避難経路や設備の扱いを派遣元が教えるのは難しいため、派遣先として初日に職場固有のルールを説明するのが実務的です(→派遣社員の受け入れ)。外国人への教育は、やさしい日本語や母国語の資料を使い、理解したかを確認します(→外国人雇用の基本)。
教育時間と記録の扱い
教育時間は労働時間
法令で実施が義務づけられた教育は、業務として受けるものです。受講時間は労働時間として扱い、所定労働時間内に行うのが基本です。所定時間外に行えば残業代の対象になります。厚生労働省は、特別教育について、労働時間外に行った場合は割増賃金の支払いが必要としています。
記録を残しておく
雇入れ時の教育には、特別教育(規則第38条で3年間保存)のような記録保存の明文の義務はありません。それでも、次の項目を記録しておくと、労災が起きたときや労働基準監督署の調査(→労基署の定期監督)の際に、教育を行ったことを説明できます。
- 実施日、時間、実施者
- 受講者の氏名
- 教育した項目(8項目のどれか)と使った資料
- 省略した項目とその理由
入社チェックリストや研修計画表に記録欄を作ると管理しやすくなります。
教育を「やったつもり」でも記録がなければ、労災の際に安全配慮義務(→安全配慮義務とは)を尽くしたと説明しにくくなります。
衛生委員会・衛生推進者との連携
常時50人以上の事業場では衛生委員会で、10〜49人の事業場では衛生推進者が中心になって、教育の内容を年に1回見直すとよいでしょう。前年に起きたヒヤリ・ハットや労災を教材に加えると、実感のある内容になります(→衛生委員会の運営、衛生管理者・産業医の選任)。
まとめ
- 雇入れ時の安全衛生教育は、業種・雇用形態を問わず全事業者の義務。作業内容の変更時も必要
- 教育内容は安衛則第35条の8項目。2024年4月から業種による省略はできない
- オフィス企業は入社オリエンテーションに共通パートと職種別パートを組み込む
- 派遣社員の作業内容変更時の教育は派遣先にも義務がある
- 教育は労働時間内に行い、実施日・項目・受講者を記録しておく
この記事で使えるテンプレート
人事 入社手続きチェックリスト 雇用契約、社会保険・雇用保険の資格取得届、マイナンバー、扶養控除等申告書、PC・アカウント・備品・名刺の準備まで、人事・労務・総務の入社手続きを時系列で確認できるチェックリストです。 人事 入社オンボーディング計画表(30-60-90日) 入社後30日・60日・90日の到達目標と、やること・担当者・期限・完了状況を管理する計画表です。人事・上長・メンター(育成担当)で役割分担を共有し、中途入社者の早期定着を支えます。 人事 年間研修計画表 1年間の社内研修・外部研修を一覧で計画し、実施結果まで記録できる表です。法定の教育と任意の研修を分け、対象者・時期・講師・費用・助成金の活用予定・受講実績を1行で管理できます。この記事に出てくる用語
- 安全衛生教育
- 労働災害を防ぐために、雇入れ時や作業内容の変更時などに行う教育です。労働安全衛生法で、業種や規模にかかわらず会社に義務づけられています。
- 安全配慮義務
- 会社が、労働者が生命や身体などの安全を確保しつつ働けるよう必要な配慮をする義務です。労働契約法第5条に明文化されています。
- 衛生委員会
- 常時50人以上の労働者を使用する事業場で設置が義務づけられた、労働者の健康障害の防止などについて労使で調査審議する委員会です。毎月1回以上開催します。
- 所定労働時間
- 就業規則や労働契約で会社が決めた、始業から終業までの時間から休憩時間を除いた労働時間です。法定労働時間の範囲内で定めます。
- 試用期間
- 入社後の一定期間、本人の適性や能力を見て本採用するかを判断する期間です。法律上は「解約権留保付の労働契約」と考えられ、本採用の見送りは解雇にあたります。
- 配置転換
- 同じ会社の中で、職務の内容や勤務場所を変えることです。勤務地が変わるものを特に転勤といいます。
- 労働基準監督署
- 労働基準法・労働安全衛生法などが守られているかを監督する厚生労働省の機関です。36協定や就業規則の届出先で、労災保険の給付の窓口でもあります。
- 労働者派遣
- 派遣元が雇用する労働者を、派遣先の指揮命令を受けて派遣先のために働かせることです。労働者派遣事業を行うには厚生労働大臣の許可が必要で、労働者派遣法が派遣元・派遣先の義務を定めています。
- 割増賃金
- 時間外労働・休日労働・深夜労働をさせたときに、通常の賃金に上乗せして支払う賃金です。率は労働基準法と政令で定められています。