労働基準監督署の臨検(定期監督)への備え|調査の流れ・確認される帳簿と是正勧告への対応
労働基準監督官は、労働基準法に基づいて事業場に立ち入り、帳簿や書類を確認できます(臨検監督)。定期監督と申告監督の違い、予告なしで来ることもある調査の流れ、確認される主な帳簿、長時間労働が疑われる事業場の監督結果、是正勧告書・指導票を受けたときの是正報告までを整理します。
- 対象読者
- 従業員30〜300名の企業で、労働基準監督署の調査対応を担当する人事・労務担当者
- 難易度
- 実務
- 所要時間
- 読了9分
- 最終確認日
この記事のポイント
- 労働基準監督官は事業場に臨検し、帳簿・書類の提出を求め、使用者や労働者に尋問できる(労働基準法第101条)。臨検を拒んだり虚偽の帳簿を出したりすると罰則がある
- 定期監督は監督署が計画的に行うもので、原則として予告なしに実施される。確認の中心は労働時間の記録、36協定、賃金台帳、健康診断など
- 法違反があれば是正勧告書、改善が望ましい事項は指導票が交付される。指定された期日までに是正し、是正報告書を提出する
労働基準監督署の調査(臨検監督)は、労働基準法や労働安全衛生法などが守られているかを確認するために行われます。大きな事故やトラブルがなくても、計画的な調査の対象になることがあります。
この記事では、調査の種類と流れ、確認される帳簿、是正勧告を受けたときの対応を整理します。年金事務所の調査については年金事務所の事業所調査に備えるを参照してください。
労働基準監督官の権限
労働基準法第101条は、労働基準監督官が事業場に臨検(立ち入って調べること)し、帳簿・書類の提出を求め、使用者や労働者に尋問できると定めています。臨検のときは、監督官は身分を証明する証票を携帯します。
次の行為には、30万円以下の罰金が定められています(同法第120条)。
- 臨検を拒む、妨げる、忌避する
- 尋問に答えない、虚偽の陳述をする
- 帳簿書類を提出しない、虚偽の記載をした帳簿書類を提出する
また、監督官は労働基準法違反の罪について司法警察官の職務も行います。是正勧告を受けても違反を是正しないなど、重大・悪質な事案は送検されることがあります。
調査の種類
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 定期監督 | 労働基準監督署が、各種情報をもとに対象を選び、主体的・計画的に実施する |
| 申告監督 | 労働者からの申告(賃金不払、解雇など)をきっかけに実施する |
| その他 | 重大な労働災害が起きたときの調査、是正状況を確認するための再度の調査など |
労働者は、会社に労働基準法違反の事実があれば、監督署に申告できます。会社は、申告したことを理由に解雇などの不利益な取扱いをしてはいけません(同法第104条)。
厚生労働省は、毎年11月の「過重労働解消キャンペーン」の期間中に、長時間労働が疑われる事業場への重点的な監督指導を行うとしています。
調査の流れ
事業場への監督指導は、原則として予告なしに実施されます。事前に電話や文書で日時と用意する書類を伝え、監督署に書類を持参するよう求められる場合もあります。
- 監督官が来訪(または呼出し)し、調査の目的を説明する
- 帳簿・書類を確認する。工場や現場がある場合は、機械・設備の安全状態も確認する
- 担当者や労働者に、労働時間の管理方法などを質問する
- 法違反があれば是正勧告書、改善が望ましい事項があれば指導票を交付する
- 会社は期日までに是正し、是正報告書を提出する
予告なしの来訪で担当者が不在のときは、その場で日程を調整してもらえることもあります。慌てずに監督官の身分を確認し、責任者と担当者で対応しましょう。
確認される主な帳簿・書類
| 書類 | 主な確認内容 | 関連記事 |
|---|---|---|
| 労働者名簿・賃金台帳・出勤簿(タイムカード) | 法定の記載事項があるか、労働時間の記録と賃金の計算が一致しているか | 労働時間の適正な把握義務 |
| 36協定届 | 届出をしているか、有効期間内か、実際の時間外労働が協定の範囲内か | 36協定の基本と上限規制 |
| 就業規則 | 常時10人以上の事業場で作成・届出・周知しているか | 就業規則の作り方 |
| 労働条件通知書・雇用契約書 | 労働条件を書面で明示しているか | 労働条件の明示ルール |
| 割増賃金の計算 | 時間外・休日・深夜の割増率、算定基礎の手当 | 残業代の正しい計算方法 |
| 年次有給休暇管理簿 | 年5日の取得義務を守っているか | 年5日の有給休暇の取得義務 |
| 健康診断の個人票 | 定期健康診断を実施し、記録を保存しているか | 健康診断の実施と事後措置 |
| 安全衛生の体制 | 衛生管理者・産業医の選任、衛生委員会の開催 | 衛生管理者・産業医の選任義務 |
| 長時間労働者への対応 | 医師による面接指導の実施 | 長時間労働者の医師の面接指導 |
労働者名簿・賃金台帳・出勤簿などの重要な書類は、5年間(経過措置として当分の間は3年間)の保存が義務づけられています(同法第109条)。
監督結果から見える違反の傾向
厚生労働省が2026年9月に公表した「長時間労働が疑われる事業場に対する令和7年度の監督指導結果」では、次のような結果が示されています(令和7年4月〜令和8年3月)。
| 項目 | 事業場数 |
|---|---|
| 監督指導を実施した事業場 | 29,150 |
| 労働基準関係法令違反があった事業場 | 22,882(78.5%) |
| うち違法な時間外労働 | 11,228(38.5%) |
| うち賃金不払残業 | 1,901(6.5%) |
| うち過重労働による健康障害防止措置の未実施 | 5,919(20.3%) |
| 労働時間の把握が不適正なため指導票を交付 | 4,045(13.9%) |
この監督は長時間労働が疑われる事業場を対象にしたものですが、違反の内容は一般の事業場でも起こりやすいものです。特に「36協定の上限を超えた時間外労働」「36協定の届出がない・期限切れ」「残業時間の切り捨てによる賃金不払」は、日ごろから点検しておきたい項目です。
是正勧告書・指導票を受けたら
是正勧告書と指導票の違い
| 書面 | 内容 |
|---|---|
| 是正勧告書 | 法違反の事実がある場合に、違反した条文と是正期日が示される |
| 指導票 | 法違反ではないが改善が望ましい事項について、改善を求める |
| 使用停止等命令書 | 危険な機械・設備などについて、使用停止などを命じる行政処分 |
是正勧告そのものは行政指導ですが、従わずに違反を続けると、送検などの対象になり得ます。
是正報告書の作り方
是正勧告や指導を受けた事項は、期日までに是正し、労働基準監督署に是正報告書を提出します。
- 勧告・指導を受けた事項ごとに、いつ・何を是正したかを具体的に書く
- 是正を確認できる資料(改定した36協定届の控え、支払った未払賃金の明細、修正した就業規則など)を添付する
- 期日までに是正が完了しない場合は、理由と完了予定日を書き、事前に担当の監督官に相談する
様式は労働局のサイトに掲載されているほか、任意の様式で作成してよいとしている労働局もあります。賃金不払や時間外労働の是正については専用の報告書様式を用意している労働局もあるため、監督官の指示を確認しましょう。さかのぼって支払う場合に備え、勤怠データから対象者・期間・金額を再計算できるようにしておくと対応が早くなります。
日ごろの備え
- 労働時間を客観的な方法(タイムカード、PCのログなど)で記録し、自己申告との乖離を確認する
- 36協定の有効期間と上限時間を一覧で管理し、毎月の時間外労働と照合する
- 賃金台帳と出勤簿を、監督官に求められたらすぐに出せる状態で保存する
- 年5日の有給休暇の取得状況を四半期ごとに確認する
- 定期健康診断と長時間労働者の面接指導の記録を保存する
36協定の点検には36協定 作成・届出チェックリスト、有給休暇の管理には年次有給休暇管理簿を使えます。
まとめ
- 労働基準監督官は臨検し、帳簿の提出や尋問ができる。拒否や虚偽の帳簿提出には罰則がある
- 定期監督は計画的に、原則として予告なしで行われる。労働者の申告をきっかけにした申告監督もある
- 確認の中心は労働時間の記録、36協定、賃金台帳、割増賃金、有給休暇、健康診断
- 是正勧告書・指導票を受けたら、期日までに是正し、根拠資料を添えて是正報告書を出す