給与の締め日・支払日を変更する手順|毎月払いの原則、移行月の賃金、就業規則の変更と社会保険・年末調整への影響
給与計算システムの入替えや勤怠締めの負担軽減のために、締め日や支払日を変える会社があります。賃金の締切日と支払の時期は就業規則の絶対的記載事項で、労働基準法第24条の毎月1回以上・一定期日払いの原則も守る必要があります。移行月の賃金の払い方、不利益変更への配慮、算定基礎届・随時改定と年末調整への影響を整理します。
- 対象読者
- 給与計算の外部委託やシステム変更にあわせて、締め日・支払日の見直しを検討している従業員30〜300名の企業の労務・給与担当者
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この記事のポイント
- 締め日・支払日は就業規則の絶対的記載事項。変更には就業規則の変更(過半数代表の意見聴取・届出・周知)が必要で、支払が遅くなる変更は従業員に不利益なため、移行措置を用意して説明する
- 「当月払い→翌月払い」のように支払を後ろにずらすと、賃金が払われない月が生じて毎月払いの原則に抵触するおそれがある。移行月は分割払い・概算払いなどで毎月の支払を確保する
- 社会保険は、締め日変更で支払基礎日数が暦日を超えた月は超過分を除外して計算するなど、日本年金機構の事例集に取扱いがある。所得税は支給日の属する年の収入になるため、12月支給分が翌年にずれると年末調整の対象も変わる
「給与計算を外部に委託するので、締め日を月末から20日に変えたい」「当月25日払いを翌月10日払いにして、残業代の計算を当月に反映したい」。締め日・支払日の変更は、事務の都合で決めたくなる一方で、従業員の生活に直接影響します。法律上のルールと、移行月の扱いを決めてから進めることが大切です。
この記事では、変更の手続き、移行月の賃金の払い方、社会保険と年末調整への影響を順に整理します。毎月の給与計算の流れは月次の給与計算の流れを参照してください。
法律上のルール
毎月1回以上・一定期日払い
労働基準法第24条第2項は、賃金は毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないと定めています(臨時の賃金・賞与などを除く)。締め日・支払日を変えること自体は禁止されていませんが、変更の結果、ある月に賃金がまったく払われない状態をつくると、この原則に抵触するおそれがあります。賃金支払の5原則は賃金支払いの5原則で詳しく解説しています。
就業規則の絶対的記載事項
労働基準法第89条は、「賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期」を就業規則に必ず記載する事項としています。締め日・支払日を変える場合は、就業規則(賃金規程)を変更し、次の手続きを踏みます。
| 手続き | 根拠 | 内容 |
|---|---|---|
| 意見聴取 | 労基法第90条 | 過半数労働組合または過半数代表者の意見を聴き、意見書を添付する |
| 届出 | 労基法第89条 | 常時10人以上の事業場は労働基準監督署に届け出る |
| 周知 | 労基法第106条 | 変更後の規程を従業員がいつでも見られるようにする |
不利益変更にあたる場合
支払日が後ろにずれると、従業員は受け取りが遅れ、住宅ローンやカードの引落しに影響が出ることがあります。労働契約法第10条は、就業規則の変更で労働条件を不利益に変える場合、変更の必要性、不利益の程度、内容の相当性、労働組合等との交渉の状況などに照らして合理的であることを求めています。移行措置を用意し、早めに十分説明することが、合理性を支える材料になります。手順の全体は就業規則の変更手続きも参照してください。
移行月の賃金の払い方
変更のパターンによって、移行月に起きることが違います。
| パターン | 移行月に起きること | 対応の例 |
|---|---|---|
| 締め日を後ろにずらす(20日締め→25日締め) | 移行月だけ計算期間が長くなる(前月21日〜当月25日) | 長い期間分をまとめて払う。社会保険の扱いは後述 |
| 締め日を前にずらす(月末締め→15日締め) | 移行月だけ計算期間が短くなる | 短い期間分を払い、残りは翌月に。生活への影響を説明する |
| 支払日を前にずらす(翌月払い→当月払い) | 移行月に2か月分が支払われる | 本人負担の社会保険料・所得税が一時的に増える点を説明する |
| 支払日を後ろにずらす(当月払い→翌月払い) | 移行月に支払がゼロになるおそれ | 概算額の支払、数か月に分けた段階的な移行などで毎月の支払を確保する |
特に注意したいのは最後のパターンです。支払がゼロになる月を作らないよう、移行月に前月分の一部を払う、数か月かけて支払日を少しずつずらすなどの方法を検討します。希望者に一時的な貸付を用意する会社もありますが、貸付と賃金の相殺には別のルールがあります(→社内貸付)。
社会保険への影響
日本年金機構の「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」には、締め日・支払日の変更について次の取扱いが示されています。
定時決定(算定基礎届)
| 状況 | 取扱い |
|---|---|
| 締め日変更で支払基礎日数が暦日を超えて増えた月 | 通常受ける報酬以外の報酬を受けたことになるため、超過分を除外し、他の月との平均で保険者算定する(例:20日締め→25日締めなら、前月21日〜25日分を除外) |
| 締め日変更で支払基礎日数が減ったが17日以上 | 通常の定時決定の方法で算定する |
| 締め日変更で支払基礎日数が17日未満になった月 | その月を除外して平均を出す |
| 翌月払いを当月払いに変更し、2か月分が支給された月 | 変更後の制度でその月に受けるべき給与だけをその月の報酬とし、変更前の分は除外する |
| 当月払いの手当を翌月払いに変更し、支給がない月 | その月を算定対象から除き、残りの月で定時決定する |
随時改定(月額変更届)
固定的賃金が変動した後の3か月以内に、締め日の変更で支払基礎日数が17日を下回る月があると、随時改定の対象にならないとされています。昇給の時期と締め日変更の時期が重なる場合は、事例集を確認するか年金事務所に相談してから届け出ます(→算定基礎届、月額変更届)。
年末調整・源泉所得税への影響
所得税では、支給日が定められている給与は、その支給日が収入の時期になります(国税庁タックスアンサーNo.2509)。そのため、支払日を後ろにずらして12月支給だった給与が翌年1月支給になると、その給与は翌年分の収入になり、今年の年末調整の対象から外れます(No.2668)。
- 移行する年は、年間の支給回数が11回または13回になることがある
- 従業員の年収見込みが変わり、配偶者や扶養親族の所得要件の判定に影響する場合がある
- 住民税の特別徴収は月単位の天引きのため、支払日が変わっても徴収額そのものは変わらない(徴収漏れの月を作らない)
移行は年の途中に行い、12月・1月をまたがない時期を選ぶと、年末調整の混乱を避けやすくなります。
変更の進め方(チェックリスト)
- 変更の理由と移行月のパターンを整理し、従業員への影響(受取日・金額)を試算する
- 移行措置(分割・概算払い・段階的移行)を決める
- 賃金規程・就業規則の改定案を作り、過半数代表の意見を聴く(→就業規則変更のセット)
- 3か月以上前を目安に、説明会や文書で周知する
- 労働基準監督署に変更を届け出る
- 給与計算システム、勤怠の締め、振込データ作成、外部委託先のスケジュールを変更する
- 移行月の算定基礎届・月額変更届の扱いを事例集で確認する
従業員への案内の例
【給与の支払日変更のお知らせ】給与計算業務の見直しに伴い、○年○月分から給与の締め日を「毎月20日」から「毎月末日」に変更します。移行月の○月○日支給分は○月21日〜○月末日の勤務分(通常より長い期間)となります。支払日(毎月25日)は変わりません。ご不明な点は総務(内線○○)までお問い合わせください。
案内には、いつから、何が、どう変わるか、移行月の支給額にどう影響するかを必ず入れます。
まとめ
- 締め日・支払日は就業規則の絶対的記載事項。変更には意見聴取・届出・周知が必要
- 支払日を後ろにずらす変更は、賃金が払われない月を作らない移行措置が欠かせない
- 社会保険は、締め日変更の月の報酬の扱いが年金機構の事例集に示されている
- 所得税は支給日基準。12月・1月をまたぐ変更は年末調整の対象が変わるので時期を選ぶ
この記事で使えるテンプレート
労務 就業規則(変更)届・意見書 セット 就業規則の作成・変更を届け出るときに必要な「就業規則(変更)届」「意見書」に、過半数代表者の選出記録と新旧対照表を加えた4点セットです。届出前の確認チェックリスト付きです。 労務 賃金規程(ひな形・基本構成) 賃金の構成、基本給と諸手当、締切日・支払日、支払方法と控除、割増賃金の計算方法と割増率、欠勤・遅刻早退の控除、中途入退社の日割り、休業手当、非常時払い、昇給・賞与までを条文にした賃金規程のひな形です。金額や日付は空欄にしています。この記事に出てくる用語
- 過半数代表者
- 労働者の過半数で組織する労働組合がない事業場で、労使協定の締結や就業規則の意見聴取の相手方になる、労働者の過半数を代表する人です。
- 月額変更届
- 昇給などで固定的賃金が変わり、標準報酬月額が2等級以上変わるときに提出する届出です。これによる見直しを「随時改定」といいます。
- 算定基礎届
- 毎年4〜6月に支払った報酬をもとに、9月からの標準報酬月額を決める「定時決定」のための届出です。原則として7月1日〜10日に提出します。
- 就業規則
- 労働時間・賃金・退職などの労働条件や職場のルールを定めた規則です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、作成して労働基準監督署に届け出る義務があります。
- 住民税の特別徴収
- 会社が従業員の個人住民税を毎月の給与から天引きし、従業員に代わって市区町村に納める方法です。6月から翌年5月までの12回に分けて徴収し、翌月10日までに納めます。
- 賃金支払の5原則
- 賃金は「通貨で」「直接労働者に」「全額を」「毎月1回以上」「一定の期日を定めて」支払わなければならないという労働基準法第24条のルールです。
- 年金事務所
- 日本年金機構の地域の窓口で、健康保険(協会けんぽ)・厚生年金保険の加入や保険料に関する会社の届出を受け付けます。
- 年末調整
- 会社が、1年間に給与から源泉徴収した所得税の合計額と、その年の給与総額にもとづく本来の年税額との過不足を、年末に精算する手続です。
- 労働基準監督署
- 労働基準法・労働安全衛生法などが守られているかを監督する厚生労働省の機関です。36協定や就業規則の届出先で、労災保険の給付の窓口でもあります。