随時改定(月額変更届)の要件と判定のしかた|固定的賃金の変動・3か月平均・2等級以上
昇給・降給や手当の新設で給与が大きく変わったときに出す月額変更届。随時改定の3つの要件(固定的賃金の変動、3か月平均で2等級以上の差、支払基礎日数17日以上)、該当しないケース、遡り昇給や上限・下限等級の特例、改定月と提出の流れを、判定の手順に沿って整理します。
- 対象読者
- 従業員30〜300名の企業で、給与計算と社会保険の手続きを担当する人
- 難易度
- 実務
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- 読了8分
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この記事のポイント
- 随時改定は「固定的賃金の変動」「変動後3か月の平均で2等級以上の差」「3か月とも支払基礎日数17日以上(特定適用事業所の短時間労働者は11日以上)」の3つをすべて満たすときに行う
- 残業代など非固定的賃金だけの増減では対象にならない。固定的賃金が上がったのに平均が2等級下がった場合なども対象外
- 変動後の報酬を受けた月から4か月目に標準報酬月額が改定される。月額変更届は要件に該当したら速やかに提出する
社会保険料のもとになる標準報酬月額は、年1回の算定基礎届(定時決定)で見直すのが基本です。ただし、昇給や降給で給与が大きく変わったときは、次の定時決定を待たずに途中で改定します。これを随時改定といい、そのために出す届出が月額変更届(健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届)です。
月額変更届は「出し忘れ」が起きやすい手続きです。この記事では、該当するかどうかを判定する手順を、具体例とあわせて整理します。
随時改定の3つの要件
次の3つをすべて満たすと、随時改定の対象になります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ① 固定的賃金の変動 | 昇給・降給、手当の新設・廃止などで、固定的賃金が変わった |
| ② 2等級以上の差 | 変動月からの3か月に支払った報酬の平均月額で求めた標準報酬月額と、これまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差がある |
| ③ 支払基礎日数 | 3か月とも支払基礎日数が17日以上(特定適用事業所に勤める短時間労働者は11日以上) |
支払基礎日数とは、給与計算の対象になった日数のことです。月給制で欠勤控除がなければ、原則として暦日数で数えます。
固定的賃金と非固定的賃金
要件①の判断で最も大切なのが、固定的賃金と非固定的賃金の区別です。
| 区分 | 例 |
|---|---|
| 固定的賃金(変動すれば①に該当) | 基本給の昇給・降給(ベースアップ・ベースダウン)、日給制から月給制への変更など給与体系の変更、日給・時間給の単価の変更、歩合給の率の変更、住宅手当・役付手当など固定的な手当の新設・廃止・額の変更 |
| 非固定的賃金(変動しても①に該当しない) | 残業手当(時間外労働手当)、休日・深夜の手当など、勤務実績によって毎月変わるもの |
「役職に就いて役付手当が付いた」「通勤経路が変わって通勤手当の額が変わった」といったケースも、固定的な手当の変動として要件①に当たります。手当の新設や額の変更は、昇給の辞令がなくても月変の判定が必要になる点に注意しましょう。通勤手当の扱いは通勤手当の決め方もあわせて確認してください。
なお、3か月を超えて一時帰休(休業)が続き、休業手当などで固定的賃金が下がった場合や、その後に通常の給与に戻った場合も、固定的賃金の変動として扱われます。
判定の手順
ステップ1:変動月を確定する
変動月は「変動後の固定的賃金が実際に支払われた月」です。昇給の発令日ではありません。
たとえば、末締め翌月25日払いの会社で「4月分から昇給」した場合、昇給後の給与を初めて支払うのは5月25日です。このときの変動月は5月で、5〜7月の3か月で判定し、8月から改定されます。給与の締め日と支払日の関係を最初に確認しておきましょう。
ステップ2:3か月の報酬を合計して平均を出す
変動月から3か月間に支払った報酬を合計し、3で割ります。ここには基本給や手当だけでなく、残業手当などの非固定的賃金も含めます。賞与(年3回以下の支給)は含めません。
ステップ3:標準報酬月額表に当てはめて比べる
平均額を標準報酬月額の等級表に当てはめ、現在の等級と比べます。2等級以上の差があれば、要件②を満たします。
ステップ4:上がり下がりの方向を確認する
固定的賃金の変動の方向と、平均額の変動の方向が一致している必要があります。次のケースは随時改定の対象になりません。
| ケース | 理由 |
|---|---|
| 固定的賃金は上がったが、残業が減って3か月平均が2等級以上下がった | 固定的賃金の増加と平均額の減少で方向が逆 |
| 固定的賃金は下がったが、残業が増えて3か月平均が2等級以上上がった | 固定的賃金の減少と平均額の増加で方向が逆 |
| 残業が増えて3か月平均が2等級以上上がったが、固定的賃金は変わっていない | 要件①に該当しない |
計算例
月給制、末締め当月25日払いの会社で、4月から基本給が2万円上がった例です。現在の標準報酬月額は30万円とします。
| 月 | 基本給 | 手当 | 残業手当 | 合計 | 支払基礎日数 |
|---|---|---|---|---|---|
| 4月 | 300,000円 | 10,000円 | 25,000円 | 335,000円 | 30日 |
| 5月 | 300,000円 | 10,000円 | 18,000円 | 328,000円 | 31日 |
| 6月 | 300,000円 | 10,000円 | 20,000円 | 330,000円 | 30日 |
平均は(335,000円+328,000円+330,000円)÷3=331,000円です。標準報酬月額表(報酬月額33万円以上35万円未満)に当てはめると34万円の等級になり、30万円から2等級上がっています。固定的賃金が上がり、平均も上がっているので方向も一致します。3か月とも17日以上あるため、7月から34万円に改定されます。
等級の区分は健康保険と厚生年金保険で同じ表を使いますが、等級の数(上限・下限)が異なります。判定のときは、その年度の保険料額表を必ず使ってください。
注意したい特殊なケース
昇給が遡って行われたとき
昇給が決まったのが遅れ、さかのぼった差額をまとめて支払う場合は、差額を支払った月を変動月として3か月で判定します。平均額を計算するときは、その差額(さかのぼり分)を除きます。
上限・下限の等級にいるとき
等級表の上限や下限付近では、2等級の差が生じないことがあります。そのため、上限・下限の等級にかかわる一定の場合には、1等級の差でも随時改定の対象になる特例があります。役員や高報酬の従業員がいる会社は、日本年金機構の「随時改定(月額変更届)」に掲載されている例で確認しておきましょう。厚生年金保険の上限は2027年9月から段階的に引き上げられます(標準報酬月額の上限引上げ)。
休職中に給与が変わったとき
休職中で休職給を受けている期間に固定的賃金が変動しても、随時改定の対象にはなりません。
繁忙期の残業で平均が大きくぶれるとき
昇給月が毎年の繁忙期と重なり、3か月平均が年間の実態と大きく違ってしまう場合は、年間平均で判断する特例(保険者算定)を申し立てられることがあります。本人の同意書などの添付が必要になるため、該当しそうな場合は早めに年金事務所に相談します。
改定月と提出
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 改定月 | 変動月から4か月目 |
| 改定後の適用期間 | 1〜6月に改定された場合はその年の8月まで。7〜12月に改定された場合は翌年の8月まで |
| 提出期限 | 要件に該当したら速やかに |
| 提出先 | 事務センターまたは管轄の年金事務所(健康保険組合の場合は組合にも) |
| 提出方法 | 電子申請、郵送、窓口持参 |
改定年月の初日が届出の受付日から60日以上さかのぼる場合や、5等級以上下がる場合は、事実関係の確認が必要になります。現在は届出時に賃金台帳などを添付するのではなく、年金事務所の事業所調査のときに確認する扱いです(年金事務所の事業所調査)。出し忘れに気づいたら、まず速やかに提出しましょう。
算定基礎届との関係
7月に随時改定される人は、その年の算定基礎届の対象外です。8月・9月に随時改定が予定されている人も、その旨を申し出て算定基礎届の対象から外します。4〜6月に昇給する会社では、月変と算定基礎届の対象者の振り分けを同時に行う必要があります(算定基礎届の書き方)。
給与からの控除が変わるタイミング
保険料は、当月支払う給与から前月分を控除する会社が一般的です。7月に改定された場合、7月分の保険料を控除する8月支給の給与から控除額が変わります。昇給月ごとの具体的な流れは昇給時の給与計算と社会保険の実務で解説しています。
判定漏れを防ぐ仕組み
- 給与計算ソフトの「月変アラート」機能を使う場合も、固定的賃金に当たる項目の設定が正しいかを年1回確認する
- 昇給・降格・手当の変更・通勤経路の変更を、人事から給与担当に必ず連絡するルールにする
- 変動月の候補者を一覧にし、3か月後に判定した結果(該当・非該当)を記録しておく
まとめ
- 随時改定は「固定的賃金の変動」「3か月平均で2等級以上の差」「3か月とも支払基礎日数17日以上」の3つがそろったときに行う
- 変動月は、変動後の給与を実際に支払った月。締め日と支払日の関係で判定期間がずれる
- 残業代だけの増減や、固定的賃金と平均の方向が逆の場合は対象外
- 改定は変動月から4か月目。要件に該当したら速やかに月額変更届を提出する
- 7月改定の人は算定基礎届の対象外。4〜6月の昇給は算定基礎届と一緒に整理する