労務 #給与計算#社会保険#標準報酬月額#雇用保険#賃金制度

昇給時の給与計算と社会保険の実務|昇給月から月額変更・控除額が変わるまでのスケジュール

昇給すると、雇用保険料と源泉所得税は昇給後の最初の給与から変わりますが、社会保険料は随時改定(月額変更届)を経て数か月後に変わります。給与の締め日・支払日ごとの改定月と控除が変わる月、遡って昇給したときの差額と残業代の扱い、算定基礎届との関係、昇給前後のチェックリストを整理します。

対象読者
定期昇給やベースアップの給与計算を担当する一人人事・労務担当者
難易度
実務
所要時間
読了8分
最終確認日

この記事のポイント

  • 昇給後の最初の給与から、雇用保険料・源泉所得税・残業代の単価が変わる。社会保険料は月額変更の要件に該当した場合、変動月から4か月目に改定される
  • 変動月は昇給後の給与を実際に支払った月。翌月払いの会社は当月払いより改定が1か月遅れ、翌月徴収なら控除額が変わるのはさらに翌月になる
  • 遡って昇給したときは、差額を支払った月が変動月。基本給の差額だけでなく、さかのぼった期間の残業代の差額も精算する

定期昇給やベースアップの時期は、給与計算の担当者にとって作業が集中する時期です。昇給そのものは給与マスタの金額を変えるだけですが、その影響は「すぐに変わるもの」と「数か月後に変わるもの」に分かれます。

この記事では、昇給にともなう給与計算と社会保険の手続きを、時系列で整理します。月額変更届の要件そのものは随時改定(月額変更届)の要件と判定のしかたで詳しく解説しています。

昇給で変わるものと変わる時期

項目 変わる時期 ポイント
基本給・手当 昇給後の最初の給与 給与マスタを更新
残業代(割増賃金)の単価 昇給後の最初の給与 1時間あたりの賃金が上がるため、割増賃金も上がる
雇用保険料 昇給後の最初の給与 毎月の賃金額に料率をかけて計算するため、すぐに変わる
源泉所得税 昇給後の最初の給与 社会保険料などを控除した後の金額で税額表を見るため、すぐに変わる
健康保険・厚生年金保険料 月額変更の要件に該当すれば、変動月から4か月目の分から 該当しなければ次の定時決定(9月分)まで変わらない
住民税 変わらない 前年の所得で決まっている
労働保険料(会社の申告) 翌年度の年度更新で精算 賃金総額に反映される

従業員から「昇給したのに社会保険料が変わらない」「数か月後に急に手取りが減った」と質問されることがよくあります。社会保険料だけ遅れて変わる理由を説明できるようにしておきましょう。

社会保険料が変わるまでのスケジュール

変動月は「昇給後の給与を支払った月」

随時改定の判定で使う変動月は、昇給の発令月ではなく、昇給後の給与を実際に支払った月です。そのため、同じ「4月分から昇給」でも、給与の支払日によって改定月が変わります。

給与の支払方法 4月分から昇給した場合の変動月 判定する3か月 改定される月 翌月徴収で控除額が変わる給与
当月払い(4月分を4月に支払う) 4月 4〜6月 7月分から 8月支給分
翌月払い(4月分を5月に支払う) 5月 5〜7月 8月分から 9月支給分

社会保険料は、当月支払う給与から前月分を控除する「翌月徴収」の会社が一般的です。この場合、控除額が変わるのは改定月の翌月に支払う給与です。当月徴収の会社では改定月の給与から変わります。

算定基礎届との振り分け

4〜6月に昇給する会社では、月額変更と算定基礎届が重なります。

改定月 算定基礎届の扱い
7月に随時改定される人 算定基礎届の対象外
8月・9月に随時改定が予定されている人 その旨を申し出て、算定基礎届の対象外にする
随時改定に該当しなかった人 通常どおり算定基礎届を提出(7月1日〜10日)

翌月払いの会社で4月分から昇給した場合、8月改定の予定者になります。月額変更に該当するかは7月の給与を支払うまで確定しないため、算定基礎届の提出時点では「8月月変予定」として申し出ておき、該当しなかったら速やかに算定基礎届を提出します。詳しくは算定基礎届の書き方と算定基礎届チェックリストを参照してください。

2等級以上変わらない人もいる

昇給額が小さい場合、3か月平均で2等級以上の差が出ず、月額変更に該当しないことがあります。その場合、昇給は次の定時決定(4〜6月の報酬で決まり、9月分から適用)で反映されます。「昇給した人は全員月変」ではないので、一人ずつ判定しましょう。

昇給後の最初の給与で確認すること

残業代の単価

割増賃金の基礎となる1時間あたりの賃金は、基本給や手当(除外できる手当を除く)を月平均所定労働時間で割って求めます。昇給で基本給や算入する手当が上がれば、残業代の単価も上がります。給与計算ソフトで単価を自動計算しているか、手入力しているかを確認しましょう(残業代の正しい計算方法)。固定残業代を支払っている会社は、昇給後の単価で固定残業時間分を計算し直すと、固定残業代の額が不足していないかも確認が必要です(固定残業代の設計と運用)。

雇用保険料と源泉所得税

雇用保険料は毎月の賃金総額に料率をかけるので、昇給後の最初の給与から増えます。源泉所得税は、その月の社会保険料等を控除した後の金額で税額表を見るため、昇給の月に増え、その後社会保険料が改定された月に少し下がる、という動きになります。

最低賃金との関係

時給制・日給制の従業員は、地域別最低賃金の改定(例年10月ごろ)で時給を引き上げることがあります。これも固定的賃金の変動なので、月額変更の判定対象です。最低賃金の改定は2026年度の最低賃金改定を確認してください。

遡って昇給したとき

昇給額の決定が遅れ、4月にさかのぼって差額を6月にまとめて支払う、といったケースもあります。

項目 扱い
月額変更の変動月 差額を支払った月(上の例では6月)
3か月平均の計算 6〜8月の報酬で計算し、さかのぼり分の差額は除く
精算する差額 基本給・手当の差額に加え、さかのぼった期間の残業代の差額も
雇用保険料 差額を支払った月の賃金に含めて計算

残業代の差額を忘れると、割増賃金の未払いになります。さかのぼり期間の残業時間を勤怠データから集計し直しましょう。源泉所得税は、差額の支払方法(通常の給与と一緒に支払うか、別に支払うか)によって計算方法が変わることがあるため、給与計算ソフトの設定や所轄の税務署に確認してください。

昇給前後のチェックリスト

昇給前(1〜2か月前)

  • 昇給対象者と昇給額、適用開始月(何月分の給与から)を確定する
  • 手当の新設・変更、役職の変更がある人も洗い出す(固定的賃金の変動)
  • 自社の給与の支払方法(当月払い・翌月払い)と保険料の徴収方法(翌月徴収・当月徴収)を確認し、改定月を見込む
  • 従業員への通知方法を決める(辞令、通知書、給与明細での案内など)

昇給後の最初の給与

  • 給与マスタの基本給・手当が正しく更新されているか
  • 残業代の単価、固定残業代の額が新しい金額で計算されているか
  • 雇用保険料・源泉所得税が昇給後の金額で計算されているか

3か月後

  • 対象者ごとに3か月平均と等級の差を確認し、月額変更届の要否を判定する
  • 該当者の月額変更届を速やかに提出する
  • 改定後の標準報酬月額を給与計算ソフトに登録し、控除額が変わる月を確認する

昇給の仕組みそのものを整える場合は、賃金テーブル・等級制度のつくり方も参考にしてください。毎月の給与計算の流れは月次の給与計算の流れとチェックポイントで整理しています。

まとめ

  • 昇給後の最初の給与から、残業代の単価・雇用保険料・源泉所得税が変わる。住民税は変わらない
  • 社会保険料は、月額変更の要件に該当した場合だけ、変動月から4か月目に改定される。翌月徴収なら控除額が変わるのはさらに翌月
  • 変動月は昇給後の給与を支払った月。翌月払いの会社は改定が1か月遅れる
  • 4〜6月の昇給は算定基礎届と同時に振り分ける。8・9月月変予定者は申し出る
  • 遡って昇給したときは、差額を支払った月が変動月。残業代の差額も忘れずに精算する

この記事で使えるテンプレート

DOCX 労務 算定基礎届チェックリスト 毎年7月に提出する健康保険・厚生年金保険の算定基礎届(定時決定)のチェックリストです。対象者の確認、4〜6月の報酬と支払基礎日数の集計、提出、9月以降の保険料控除の変更までを確認できます。

出典・参考資料

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