二以上事業所勤務の社会保険手続き|所属選択・二以上事業所勤務届と保険料の按分のしかた
2つ以上の会社でそれぞれ社会保険の加入要件を満たす人は、本人が「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を10日以内に提出し、両社の報酬を合算した標準報酬月額で保険料を決め、各社の報酬額で按分します。対象になる働き方、会社ごとの手続き、按分の計算例、算定基礎届・賞与・退職時の扱いを整理します。
- 対象読者
- 従業員30〜300名の企業で、グループ会社の役員兼務者や副業者の社会保険手続きを担当する人
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この記事のポイント
- 社会保険の加入要件は会社ごとに判断する。両方の会社で要件を満たす人は、本人が主たる事業所を選び「所属選択・二以上事業所勤務届」を事実発生から10日以内に提出する
- 標準報酬月額は各社の報酬月額を合算して決め、保険料はそれぞれの会社の報酬月額で按分する。決定内容は選択事業所を管轄する事務センターから各社に通知される
- 雇用保険は原則として主たる賃金を受ける1つの会社でのみ加入する(65歳以上のマルチジョブホルダー制度を除く)。労災保険は会社ごとに適用され、給付は賃金を合算して計算される
グループ会社の役員を兼ねている、2社で正社員として働いている、短時間勤務を掛け持ちしてどちらでも社会保険の加入要件を満たしている。このように2つ以上の会社でそれぞれ社会保険に加入する人は、通常の資格取得とは別の手続きが必要です。
この手続きは件数が少ないため、担当者が初めて対応することも多い分野です。この記事では、会社と本人がやることを順番に整理します。副業・兼業の制度づくり全体は副業・兼業を認めるときの実務を参照してください。
対象になる働き方
社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入要件は、会社(適用事業所)ごとに判断します。2社それぞれで要件を満たせば、両方で加入することになります。日本年金機構のリーフレットでは、次のような人が例として挙げられています。
- A社とB社の両方で法人の代表者
- A社で法人の代表者、B社で正社員
- A社とB社の両方で正社員
- A社とB社の両方で短時間労働者として働き、それぞれの会社で加入要件を満たす人
一方で、片方の会社でしか要件を満たさない場合は、その会社だけで加入します。たとえば本業で正社員、副業先で週10時間のアルバイトなら、副業先では加入しないのが通常です。短時間労働者の加入要件は社会保険の適用拡大で確認してください。
手続きの流れ
| 順番 | 誰が | 何をするか | 期限 |
|---|---|---|---|
| 1 | 各社 | それぞれ被保険者資格取得届を提出 | 資格取得日から5日以内 |
| 2 | 本人 | 主たる事業所を1つ選び、「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出 | 事実発生から10日以内 |
| 3 | 事務センター | 合算した標準報酬月額と、各社が負担する保険料額を決定し、各社に通知 | — |
| 4 | 各社 | 通知された保険料額で給与からの控除と納付を行う | 通知を受けたあと |
資格取得届は各社が出す
まず、それぞれの会社が通常どおり資格取得届を提出します。本人が二以上事業所勤務届を出す前提として、各社の資格取得届が済んでいる必要があります。資格取得届の書き方は社会保険の資格取得届を参照してください。
二以上事業所勤務届は本人が出す
届出の提出者は被保険者本人です。本人が主たる事業所(選択事業所)を選び、その事業所を管轄する事務センターまたは年金事務所に、電子申請・郵送・窓口で提出します。実務では、選択事業所となる会社の担当者が本人と相談して作成を手伝うことが多いでしょう。
- マイナンバーを記載する場合は、本人確認書類の添付が必要
- 交付されている資格確認書などがあれば添付する
- 健康保険組合に加入している事業所を選ぶ場合は、その健康保険組合への手続きも必要
- 70歳以上の人は、「厚生年金保険 70歳以上被用者所属選択・二以上事業所勤務届」も提出する(70歳以上の従業員の手続き)
どちらを選択事業所にするかで、加入する健康保険(協会けんぽの支部、または健康保険組合)が決まります。健康保険料率もその保険者の料率になります。
保険料の決まり方
標準報酬月額は、それぞれの会社で受ける報酬月額を合算して決めます。その標準報酬月額にもとづく保険料額を、各社の報酬月額の割合で按分します。
計算例(厚生年金保険料)
日本年金機構のリーフレットにある例です。A社の報酬月額が20万円、B社が10万円の場合、合算した報酬月額30万円から標準報酬月額は30万円になります。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 厚生年金保険料(全体) | 300,000円 × 18.3% | 54,900円 |
| 被保険者負担分(全体) | 54,900円 ÷ 2 | 27,450円 |
| A社での被保険者負担分 | 27,450円 × 20万円/30万円 | 18,300円 |
| B社での被保険者負担分 | 27,450円 × 10万円/30万円 | 9,150円 |
会社負担分も同じ割合で各社が負担します。健康保険料も、選択した保険者の料率で同じように按分されます。各社が自社の報酬だけで標準報酬月額を計算して控除すると、金額がずれるので注意しましょう。按分後の保険料額は事務センターから通知されるので、その金額を給与計算に設定します。
加入後に注意する手続き
算定基礎届と月額変更届
二以上事業所勤務者の算定基礎届の用紙は、選択事業所を管轄する事務センターから各社に別途送られてきます。記入後は送付元の事務センターに返送します(算定基礎届の書き方)。
昇給などで片方の会社の報酬が変わった場合も、随時改定の判定は合算した報酬で行うことになります。2等級以上の変動がありそうなときは、選択事業所の担当者と情報を共有し、年金事務所に確認しながら進めましょう(随時改定(月額変更届)の要件)。
賞与
賞与を支払った会社は、それぞれ賞与支払届を提出します。保険料の扱いは事務センターからの通知に従います(賞与の社会保険料)。
どちらかを退職したとき
片方の会社を退職した場合、その会社は通常どおり資格喪失届を提出します。残った会社の報酬だけで標準報酬月額と保険料が決め直されることになるため、手続きの順番や必要な届出は、選択事業所を管轄する年金事務所に確認してください(退職時の手続き一覧)。
雇用保険と労災保険の扱い
社会保険とは扱いが異なります。
| 保険 | 扱い |
|---|---|
| 雇用保険 | 原則として、主たる事業所(主たる賃金を受ける1つの会社)でのみ加入する。65歳以上の人は、本人の申出により2社の労働時間を合算して加入できるマルチジョブホルダー制度がある(65歳以上の雇用保険) |
| 労災保険 | 各社で適用される。複数の会社で働く人が労災にあったときは、全就業先の賃金を合算した額をもとに給付される |
会社が準備しておくこと
- 副業・兼業や役員兼務の届出書で、他社での勤務条件(労働時間・報酬・社会保険の加入状況)を把握する
- 両方で加入要件を満たしそうな人を見つけたら、本人に二以上事業所勤務届が必要なことを伝える
- 選択事業所となる会社の担当者と、報酬の変更や退職の予定を共有する連絡ルートを決めておく
- 事務センターから届いた保険料額の通知を保管し、給与計算の設定と照合する
まとめ
- 社会保険の加入要件は会社ごとに判断し、両方で要件を満たす人は両方で加入する
- 本人が主たる事業所を選び、「所属選択・二以上事業所勤務届」を事実発生から10日以内に提出する
- 標準報酬月額は各社の報酬を合算して決め、保険料は各社の報酬月額で按分する。通知された額で控除する
- 算定基礎届は選択事業所を管轄する事務センターから送られる用紙で提出する
- 雇用保険は原則1社のみ(65歳以上はマルチジョブホルダー制度あり)、労災保険は各社で適用され給付は賃金を合算する