労務 #割増賃金#労使協定#残業#就業規則#労働時間

代替休暇の導入手順|月60時間超の残業の割増賃金に代える休暇、換算率の計算と労使協定の5項目

月60時間を超える時間外労働には50%以上の割増賃金が必要です。労使協定を結べば、引上げ分の割増賃金の代わりに有給の「代替休暇」を与えることができます。換算率と休暇の時間数の計算、協定で定める事項、取得期間、意向確認と賃金の支払日、就業規則の記載例までを厚生労働省の資料で整理します。

対象読者
月60時間を超える残業が発生する部署があり、割増賃金の負担と長時間労働の対策を検討している従業員30〜300名の企業の労務担当者
難易度
実務
所要時間
読了8分
最終確認日

この記事のポイント

  • 月60時間を超える時間外労働の割増率は50%以上(2023年4月から中小企業も適用)。労使協定を結べば、引上げ分(通常は25%分)の支払に代えて有給の代替休暇を与えられる(労働基準法第37条第3項)
  • 休暇の時間数は「60時間を超えた時間数×換算率」。協定では算定方法・単位(1日か半日)・取得期間(60時間を超えた月の末日の翌日から2か月以内)・取得日の決め方・割増賃金の支払日を定める
  • 取得するかどうかは労働者の意思で決まり、会社が強制することはできない。期間内に取得されなければ、引上げ分の割増賃金を支払う

繁忙期に月60時間を超える残業が続く部署があると、50%の割増賃金が人件費に重くのしかかります。一方で、本当に必要なのは長時間働いた人の休息です。労働基準法は、この引上げ分の割増賃金の代わりに有給の休暇を与える「代替休暇」という仕組みを用意しています。

導入には労使協定が必要で、計算方法も独特です。この記事では、制度の要件、休暇の時間数の計算、協定で決める事項、運用の流れを順に整理します。

代替休暇の仕組み

項目 内容
前提 1か月の法定時間外労働が60時間を超えた部分は、50%以上の割増賃金が必要(労働基準法第37条第1項ただし書)
代替休暇 労使協定により、引上げ分の割増賃金の支払に代えて、通常の賃金が支払われる休暇を与える(同条第3項)
対象企業 すべての企業。中小企業も2023年4月1日から60時間超の50%が適用されている
年次有給休暇との関係 年次有給休暇は代替休暇にはならない(条文で除外)
無給にできるか できない。「通常の賃金が支払われる休暇」である

代替休暇で支払が不要になるのは、60時間を超えた部分の割増賃金の全部ではなく引上げ分だけです。たとえば60時間以下の割増率を25%、60時間超を50%としている会社なら、休暇を取得した部分について25%分の支払が不要になり、残りの25%分は通常どおり支払います。

60時間の数え方(法定休日の労働は含めない、所定休日の時間外労働は含める)と割増率の基本は、残業代(割増賃金)の正しい計算方法を参照してください。

休暇の時間数の計算

換算率

労働基準法施行規則第19条の2は、代替休暇の時間数を次の式で求めると定めています。

代替休暇の時間数 =(1か月の時間外労働時間数 − 60時間)× 換算率

換算率 =「代替休暇を取得しなかった場合の割増賃金率」−「代替休暇を取得した場合の割増賃金率」

計算例

厚生労働省の解説資料の例をもとにすると、次のようになります。

条件 値
その月の時間外労働 76時間
取得しなかった場合の割増率 50%
取得した場合の割増率 25%
換算率 50% − 25% = 25%
代替休暇の時間数 (76時間 − 60時間)× 0.25 = 4時間

4時間の代替休暇を取得すると、16時間分(4時間 ÷ 0.25)の時間外労働について、引上げ分の25%の支払が不要になります。「4時間休んだから4時間分の割増賃金が不要」になるわけではない点に注意してください。

月60時間を超えた分が16時間あっても、休暇にすると4時間にしかなりません。半日(例:4時間)の休暇を確保するには、60時間を16時間以上超える必要があります。導入前に、対象者の残業実績で何時間の休暇が発生するかを試算しておきましょう。

労使協定で定める事項

協定は、過半数労働組合または過半数代表者と書面で結びます(過半数代表者の選び方)。労働基準監督署への届出は不要です(会社が結ぶ労使協定の一覧)。

定める事項 内容・注意点
1. 時間数の算定方法 上の式と、換算率(取得した場合・しなかった場合の割増率)を定める
2. 休暇の単位 1日または半日(施行規則で定められた単位)。半日は所定労働時間の2分の1が原則だが、午前・午後で時間が異なる会社は協定で定義できる
3. 取得できる期間 60時間を超えた月の末日の翌日から2か月以内の範囲で定める
4. 取得日の決め方 意向確認の時期と方法、取得日の決定方法
5. 割増賃金の支払日 取得の意向がある場合・ない場合・取得しなかった場合の支払時期

施行規則が定めるのは1〜3で、4と5は厚生労働省が「労使で定めておくべきもの」として示している事項です。賃金の支払額を早く確定させてトラブルを防ぐため、5項目すべてを協定に書いておくのが実務的です。

端数の扱い

休暇の時間数が1日や半日に満たないときは、次のどちらかで処理します。

  • 端数にならない部分だけを休暇にし、残りは割増賃金で支払う
  • 協定で認めておけば、端数に他の有給の休暇(会社独自の休暇や、本人が請求した年次有給休暇など)を合わせて半日・1日にする

期間を2か月にしている場合は、前月分と当月分の休暇を合算して1日にすることもできます。

運用の流れ

時期 やること
締め日後すぐ 60時間を超えた人を抽出し、代替休暇を取得するか意向を確認する(例:締め日の翌日から5日以内)
給与支払日 意向あり:引上げ分を除いた割増賃金を支払う。意向なし・不明:50%の割増賃金を全額支払う
2か月以内 休暇を取得してもらう。取得日は本人の意向を踏まえて決める
期間満了 取得されなかった分は、取得されないことが確定した月の賃金支払日に引上げ分を支払う

押さえておく注意点

  • 取得は労働者の意思による:厚生労働省は、取得するかどうかは労働者の意思に委ねられており、強制してはならないとしています
  • 時季変更権はない:代替休暇は年次有給休暇とは別のもので、会社が取得日を変更する権利はありません。業務の都合で出勤が必要になったときの扱いも、協定で決めておくことが望まれます
  • 期間を過ぎても支払義務は消えない:取得されなかったのに引上げ分を払わないと、賃金全額払いの原則に反します
  • 給与計算の仕組み:意向の有無で支払額が変わるため、勤怠・給与システムで「代替休暇予定」の管理ができるか事前に確認します

就業規則への記載

休暇は就業規則に必ず書く事項(労働基準法第89条)なので、代替休暇を導入する場合は就業規則にも定めます。厚生労働省の解説資料には、対象者、取得期間、単位、時間数の計算、端数の扱い、申出の期限、賃金の支払方法を定めた規定例が掲載されています。割増賃金の条項と食い違いが出ないよう、賃金規程もあわせて見直しましょう。変更の手続きは就業規則の作成・変更と届出を参照してください。

導入するかの判断

代替休暇は、長時間労働をした人に休息を取らせる仕組みです。割増賃金の節約策として導入しても、休暇の時間数は少なく、事務は増えます。次の点を検討してから決めましょう。

  • 60時間超の残業が特定の時期・部署に集中していて、翌月以降に休める見込みがあるか
  • 意向確認と支払額の調整を、毎月の給与計算に無理なく組み込めるか
  • そもそも60時間を超える残業を減らす手立て(業務の平準化、36協定の運用見直し)を先に取れないか

60時間を超える残業が恒常的に続く場合は、面接指導の対象になる長時間労働にもつながります(長時間労働者への医師の面接指導、36協定の基本と残業時間の上限規制)。

まとめ

  • 月60時間超の割増率は50%以上。労使協定を結べば、引上げ分の支払に代えて有給の代替休暇を与えられる
  • 休暇の時間数は「60時間を超えた時間 × 換算率」。4時間休んでも不要になるのは16時間分の引上げ分の割増賃金
  • 協定では算定方法・単位・2か月以内の取得期間・取得日の決め方・支払日を定め、就業規則にも記載する
  • 取得は本人の意思による。期間内に取得されなければ、引上げ分を支払う

この記事で使えるテンプレート

DOCX 労務 時間外・休日労働 申請書 残業・休日出勤の事前申請と実績報告を1枚で行う申請書です。36協定の上限(月45時間・年360時間など)と照らして、当月の累計時間を確認できる欄を設けています。 DOCX 労務 36協定 作成・届出チェックリスト 時間外・休日労働に関する協定(36協定)を作成・届出するときのチェックリストです。上限規制(月45時間・年360時間、特別条項の上限)、過半数代表者の選出、本社一括届出、電子申請までを確認できます。

この記事に出てくる用語

過半数代表者
労働者の過半数で組織する労働組合がない事業場で、労使協定の締結や就業規則の意見聴取の相手方になる、労働者の過半数を代表する人です。
36協定
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて残業させたり、法定休日に働かせたりするために、会社と労働者の過半数代表が結び、労働基準監督署に届け出る労使協定です。
就業規則
労働時間・賃金・退職などの労働条件や職場のルールを定めた規則です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、作成して労働基準監督署に届け出る義務があります。
所定休日
会社が就業規則で定めた休日のうち、法定休日以外の休日です。週休2日制の「もう1日」や祝日・年末年始休暇などがあたります。
所定労働時間
就業規則や労働契約で会社が決めた、始業から終業までの時間から休憩時間を除いた労働時間です。法定労働時間の範囲内で定めます。
時間外労働
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働のことです。36協定の締結・届出と、25%以上の割増賃金の支払いが必要です。
時季変更権
労働者が請求した日に年次有給休暇を与えると事業の正常な運営を妨げる場合に、会社が別の時季に変更できる権利です。
賃金支払の5原則
賃金は「通貨で」「直接労働者に」「全額を」「毎月1回以上」「一定の期日を定めて」支払わなければならないという労働基準法第24条のルールです。
年次有給休暇
一定期間働いた労働者に与えられる、賃金が支払われる休暇です。6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤すると10日付与され、勤続に応じて最大20日まで増えます。
法定休日
労働基準法で与えることが義務づけられた休日で、毎週少なくとも1回、または4週間を通じて4日以上です。この日に働かせると35%以上の割増賃金が必要です。
面接指導
長時間労働などで疲労が蓄積した労働者や、ストレスチェックで高ストレスと判定された労働者に、医師が面談して必要な指導を行うことです。
労使協定
会社と、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は過半数代表者)との間で結ぶ書面の協定です。法律の原則を例外的に変える効果があります。
労働基準監督署
労働基準法・労働安全衛生法などが守られているかを監督する厚生労働省の機関です。36協定や就業規則の届出先で、労災保険の給付の窓口でもあります。
割増賃金
時間外労働・休日労働・深夜労働をさせたときに、通常の賃金に上乗せして支払う賃金です。率は労働基準法と政令で定められています。

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出典・参考資料

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