ワーケーション制度の作り方|休暇型・業務型の違い、労災と交通費の課税、テレワーク規程への追加
ワーケーションは、普段の職場や自宅とは異なる場所で、休暇を楽しみながら仕事もする働き方です。観光庁の整理に沿って休暇型・業務型・ブレジャーを区別し、労災の考え方、交通費・宿泊費を会社が負担したときの給与課税、テレワーク規程に追加する就業場所・申請・労働時間・セキュリティのルールを整理します。
- 対象読者
- ワーケーションを制度として認めるか検討している、従業員30〜300名の企業の人事・総務担当者
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この記事のポイント
- 観光庁は、有給休暇中の旅先で一部テレワークをする「休暇型」と、地域課題解決型・合宿型などの「業務型」、出張に休暇を組み合わせる「ブレジャー」を紹介している。どの型を認めるかで、費用負担・労災・労働時間の扱いが変わる
- 観光庁のQ&Aでは、出張と認められれば旅先の負傷も原則労災の対象になる一方、私的旅行の往復交通費を会社が負担すると原則として給与課税が必要とされている
- 新しい規程を作るより、既存のテレワーク規程に就業場所の許可基準、申請・承認、中抜けを含む労働時間、セキュリティ、緊急時の帰社ルールを追加するのが現実的
「旅先で仕事をしてもいいか」という相談が、テレワークが定着した会社で増えています。認めるなら、労災・費用・労働時間のルールを決めておかないと、トラブルになったときに判断できません。
この記事では、観光庁と厚生労働省の資料をもとに、ワーケーションを社内制度にするときの論点を整理します。テレワーク全般のルールはテレワーク規程の作り方を参照してください。
ワーケーションの型
観光庁の企業向けページは、ワーケーションとブレジャーを次のように紹介しています。
| 型 | 内容 | 会社の関与 |
|---|---|---|
| 休暇型 | 有給休暇を利用してリゾートや観光地を旅行し、その一部の時間でテレワークを行う | 従業員の希望で行う。旅行は私的 |
| 業務型(地域課題解決型など) | 地域関係者と交流しながら課題解決に取り組む | 会社の業務として行う |
| 業務型(合宿型) | 場所を変えて職場のメンバーと議論する | 会社の業務として行う |
| ブレジャー | 出張の前後に休暇を付けて観光する | 出張は業務、延長部分は私的 |
まず「自社が認めるのはどれか」を決めます。最初は、休暇型(自己負担の旅先でのテレワーク)とブレジャーから始めると、費用や業務設計の負担が小さく済みます。
労災の考え方
観光庁の「労災や税務処理に関するQ&A」は、ワーケーション中の負傷が労災になるかは個別に判断するとしたうえで、出張と認められる場合は、私的行為などの特段の事情がない限り原則として労災保険給付の対象になるとしています。Q&Aが示す例は次のとおりです(出張と認められる場合)。
| 場面 | 扱い(原則) |
|---|---|
| 就業先へ移動する機内などで業務中に負傷 | 対象 |
| 自宅から宿泊施設への移動中に負傷 | 対象(出張に付随する行為) |
| 私的旅行先から宿泊施設への移動中に負傷 | 対象外(事業主の命令による移動でない限り私的行為) |
| 業務終了後、飲食店への移動中に負傷 | 対象(飲食は出張に付随する行為) |
| 飲食店で酩酊し、宿泊施設への移動中に負傷 | 対象外(酩酊は私的行為) |
| 業務の前後や休憩中に負傷 | 私的行為から逸脱しない限り対象 |
休暇型は出張ではないため、厚生労働省のテレワークガイドラインと同じく、業務をしている時間に、業務が原因で生じた災害かどうかで判断されると考えておきます。旅行中の観光や移動中のけがは、原則として対象になりません。従業員には「休暇型では、仕事をしていない時間のけがは私的な事故として扱われる」ことを事前に説明します。労災が起きたときの手続は労災が起きたときの対応を参照してください。
費用負担と給与課税
同じQ&Aは、税務処理について次のように整理しています。
| 費用 | 扱い(原則) |
|---|---|
| 休暇中の私的旅行の往復交通費を会社が負担 | 業務遂行上直接必要とはいえず、給与として課税 |
| 業務目的の研修の後に休暇で観光(研修の往復交通費) | 研修が業務上直接必要なら、一般に課税不要 |
| 出張に私的旅行を組み合わせた場合の往復旅費 | 業務と私的の期間などで按分。業務が直接の動機で、ついでに観光する場合は全体を旅費として扱う |
| 業務に必要な宿泊費 | 通常必要と認められる金額なら課税不要。翌日の観光のためだけの宿泊は課税 |
| 業務のためのワーキングスペース・PCの利用料 | 業務に必要なものなら課税不要 |
Q&Aも、課税の対象になるかはケースごとの判断になると注記しています。規程では「休暇型の交通費・宿泊費は本人負担」「業務型は出張旅費規程による」と分けておくと、判断がぶれません(出張旅費規程)。
規程に追加するルール
観光庁の「制度導入のポイント」は、就業場所の許可基準の明示と、就業規則(テレワーク規程等)の整備を手順の一つに挙げています。既存のテレワーク規程に、次の項目を追加するのが現実的です。
| 項目 | 定める内容の例 |
|---|---|
| 対象者 | 「通常の勤務場所と離れた場所での円滑な業務遂行が可能と上長が認めた者」など。試用期間中の人を除くか |
| 就業場所 | 国内に限る、通信環境が確保された宿泊施設・コワーキングスペースに限る、公共の場所(カフェ・列車内)は可否を決める |
| 申請・承認 | 実施日の〇日前までに、場所・期間・連絡先を申請し、上長が承認する(テレワーク申請書) |
| 日数・頻度 | 年〇日まで、連続〇日までなど、最初は控えめに設定する |
| 労働時間 | 始業・終業の報告方法、中抜けの扱い(休憩とするか、時間単位年休とするか) |
| 休暇との区別 | 年休の日と勤務日を申請時に分けて記録する |
| セキュリティ | 公衆Wi-Fiの禁止、画面ののぞき見防止、紙の資料の持出し禁止、紛失時の連絡 |
| 緊急時の対応 | 出社が必要になったときの帰社ルールと費用の扱い、災害時の連絡 |
| 費用 | 型ごとの交通費・宿泊費・通信費の負担区分 |
中抜けと年休の扱い
テレワークガイドラインは、中抜け時間について、休憩時間として扱い終業時刻を繰り下げる、または時間単位の年次有給休暇として扱う方法を示しています。ワーケーションでは観光のための中抜けが起きやすいため、どちらで扱うかを規程で決め、勤怠に記録させます。時間単位年休は労使協定が必要です(時間単位年休の導入)。
年休の時季との関係
休暇型ワーケーションは年休の取得を前提にするため、年5日の取得義務の消化にもつながります。一方、「年休中に仕事を指示する」ことは年休の趣旨に反するため、休暇の日に業務連絡をしないよう、管理職にも周知します。
導入の進め方
観光庁は、全体像の把握、導入方針の決定、ルール整備、ICT環境とセキュリティ対策、従業員への周知と管理者教育、トライアル、効果測定という手順を紹介しています。中小企業なら、次の順で十分です。
- テレワーク規程にワーケーションの条項を追加する案を作る
- 1部署・3か月などに限ってトライアルする
- 利用者と上司にアンケートを取り、労働時間の把握やセキュリティで困った点を洗い出す
- 規程を修正して全社に展開する。就業規則の変更になる場合は、意見聴取と届出を行う(規程を改定するときの手順)
まとめ
- 休暇型・業務型・ブレジャーのどれを認めるかを先に決める。中小企業は休暇型とブレジャーから始めると負担が小さい
- 出張と認められれば旅先の負傷も原則労災の対象。休暇型では業務中・業務起因の災害かで判断される
- 私的旅行の交通費を会社が負担すると原則給与課税。型ごとに費用負担を規程で分ける
- テレワーク規程に、就業場所・申請・中抜け・セキュリティ・緊急時の帰社ルールを追加し、トライアルしてから全社に広げる
この記事で使えるテンプレート
労務 テレワーク勤務規程(ひな形) 厚生労働省のテレワークモデル就業規則をもとに、在宅勤務・サテライトオフィス勤務・モバイル勤務の定義、対象者と許可、服務規律、労働時間・中抜け・時間外労働、連絡体制、通信費・水道光熱費などの費用負担、機器の貸与、安全衛生とハラスメント防止を条文にしたテレワーク勤務規程のひな形です。 労務 テレワーク 実施申請書・誓約書 テレワーク(在宅勤務・サテライトオフィス勤務)を始める前に提出する申請書と、情報管理・労働時間のルールを確認する誓約書のセットです。自宅の作業環境の確認欄と、会社の承認欄も入っています。この記事に出てくる用語
- 休憩時間
- 労働時間の途中に与える、労働から完全に離れることが保障された時間です。6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上が必要です。
- 就業規則
- 労働時間・賃金・退職などの労働条件や職場のルールを定めた規則です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、作成して労働基準監督署に届け出る義務があります。
- 試用期間
- 入社後の一定期間、本人の適性や能力を見て本採用するかを判断する期間です。法律上は「解約権留保付の労働契約」と考えられ、本採用の見送りは解雇にあたります。
- 時間単位年休
- 労使協定を結ぶことで、年次有給休暇を1時間単位で取得できるようにする制度です。年5日分が上限です。
- 年5日の取得義務
- 年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者について、会社が時季を指定して年5日を確実に取得させる義務です。2019年4月から始まりました。
- 年次有給休暇
- 一定期間働いた労働者に与えられる、賃金が支払われる休暇です。6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤すると10日付与され、勤続に応じて最大20日まで増えます。
- 労災保険
- 業務中や通勤中のけが・病気・障害・死亡に対して、治療費や休業中の所得補償などを給付する公的保険です。保険料は全額会社が負担します。
- 労使協定
- 会社と、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は過半数代表者)との間で結ぶ書面の協定です。法律の原則を例外的に変える効果があります。