テレワーク規程の作り方と労務管理|就業場所の明示・費用負担・中抜け・在宅勤務手当の課税
在宅勤務を制度として運用するには、就業場所の明示、通信費などの費用負担、労働時間の把握と中抜け時間の扱い、自宅の作業環境、労災の考え方を規程に落とし込む必要があります。厚生労働省のテレワークガイドラインと国税庁FAQに沿って整理します。
- 対象読者
- 従業員30〜300名の企業で在宅勤務の制度づくり・規程整備を担当する人事・労務・総務担当者
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この記事のポイント
- テレワークを行う場所(自宅など)は、労働条件通知書の「就業の場所」または「変更の範囲」に明示する。通信費などを労働者に負担させるなら就業規則への記載が必須
- 労働時間はパソコンの使用時間などの客観的な記録で把握するのが原則。中抜け時間は「休憩として終業を繰り下げる」「時間単位年休にする」などの扱いを就業規則で決めておく
- 在宅勤務手当を渡し切りで払うと給与として課税される。通信費・電気料金を業務使用分で精算する場合は、国税庁FAQの算式を使えば非課税にできる
在宅勤務を「なんとなく」続けていると、通信費の負担や中抜け時間の扱い、自宅でのけがの扱いなどで判断に迷う場面が出てきます。ルールを規程にまとめておけば、社員ごとの不公平や後からのトラブルを防げます。
この記事では、厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(令和3年3月改定)を軸に、テレワーク規程に入れる事項と運用のポイントを整理します。
規程を作る前に決めること
ガイドラインは、テレワークの対象者、実施できる日(希望制・当番制・頻度など)、申請の手続、費用負担、労働時間管理の方法、中抜け時間の扱い、連絡方法などを、あらかじめ労使で話し合って決めておくことが望ましいとしています。
| 決める事項 | 検討のポイント |
|---|---|
| 対象者 | 正社員・パートなど雇用形態の違いだけを理由に除外しない。新入社員や異動直後の人はコミュニケーションに配慮 |
| 実施場所 | 自宅のみか、サテライトオフィス・カフェ等も認めるか |
| 申請・承認 | 事前申請か、包括承認か |
| 労働時間 | 通常の勤務時間制か、フレックスタイム制か、事業場外みなしか |
| 費用負担 | 通信費・電気料金・機器・文具の負担者と上限 |
| 連絡・報告 | 始業・終業の報告方法、緊急時の連絡先 |
| 情報管理 | 貸与PCの使い方、私用端末の可否、紙資料の持ち出し |
厚生労働省は「テレワークモデル就業規則~作成の手引き~」で規定例を公開しています。通常勤務と労働時間制度などの条件が同じなら、既存の就業規則のままでもテレワークはできます。一方、通信費を労働者が負担するなど通常勤務にない事項がある場合は、就業規則(またはその委任を受けたテレワーク勤務規程)の変更が必要です。変更の手続きは就業規則の作成・変更と届出を参照してください。
労働条件の明示と変更
就業場所の明示
労働契約を結ぶときは、就業の場所を明示する義務があります。ガイドラインでは、次のように整理しています。
- 入社直後からテレワークを行うことが想定される場合 → 雇入れ直後の就業の場所として自宅などを明示
- 契約期間中にテレワークを行うことが想定される場合 → 就業場所の変更の範囲として自宅などを明示
2024年4月からは、すべての労働契約で就業場所・業務の「変更の範囲」の明示が必要になっています。書き方は労働条件の明示事項と2024年4月改正で解説しています。
既存社員にテレワークを命じる場合
就業規則や労働契約で定めた勤務場所の範囲を超えてテレワークをさせるには、本人の合意を得て労働契約を変更するか、合理的な内容の就業規則変更と周知が必要です(労働契約法第8条〜第11条)。
費用負担のルール
ガイドラインは、テレワークで労働者に過度の負担が生じることは望ましくないとし、負担者、会社が負担する場合の限度額、請求方法などを労使で話し合って就業規則等に定めることを求めています。
労働者に情報通信機器、作業用品などを負担させる定めをする場合は、就業規則に記載しなければなりません(労働基準法第89条第5号)。「通信費は本人負担」とするだけでも記載が必要です。
在宅勤務手当と通信費の課税関係
国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」(令和8年4月1日更新)の整理は次のとおりです。
| 支給方法 | 課税関係 |
|---|---|
| 毎月一定額を渡し切りで支給(使わなくても返還不要) | 給与として課税 |
| 業務に使う物品を会社が購入して貸与 | 課税なし |
| 物品を本人に支給(所有権が移る) | 現物給与として課税 |
| 通信費・電気料金のうち業務使用分を合理的に計算して精算 | 課税なし |
通信費の業務使用分は、FAQで次の算式が示されています。
業務使用分 = 1か月の基本使用料や通信料等 × その月の在宅勤務日数 ÷ その月の日数 × 1/2
例:9月に20日在宅勤務し、通信料が1万円の場合、10,000円×20/30×1/2=3,334円(1円未満切上げ)。電気料金はこれに「業務に使った部屋の床面積 ÷ 自宅の床面積」も掛けます。業務用の通話料は通話明細で確認した額を精算できます。手当にするか精算にするかは、事務負担と課税の両面で決めましょう。経費精算の流れは経費精算のルールと運用も参考になります。
労働時間の把握
把握の方法
テレワークでも、労働時間の把握は通常どおり必要です。ガイドラインは次の方法を示しています。
- 客観的な記録:パソコンの使用時間の記録などで始業・終業時刻を確認する
- 自己申告:客観的な記録で把握できない場合。自己申告の適正な運用を説明し、パソコンの使用状況などと著しい乖離があれば補正する。申告できる時間外労働に上限を設けるなど、適正な申告を妨げる措置はとらない
始業・終業時にメールやチャットで報告させる方法も考えられます。考え方の全体は労働時間の適正な把握義務とガイドラインを参照してください。
中抜け時間
家事や通院などで業務から離れる「中抜け時間」は、労働基準法上、把握してもしなくてもよいとされています。扱いは次のいずれかを就業規則等で決めておきます。
| 方法 | 扱い |
|---|---|
| 把握する | 休憩時間として終業時刻を繰り下げる、または時間単位の年次有給休暇とする |
| 把握しない | 始業から終業までの時間を、休憩を除いて労働時間とする |
時間単位年休を使うには、労使協定が必要です。有給休暇の管理は年5日の有給休暇取得義務で確認できます。
事業場外みなし労働時間制
テレワークで事業場外みなし労働時間制を使えるのは、次の2つをいずれも満たす場合です。
- 情報通信機器が、会社の指示で常時通信可能な状態に置かれていない
- 随時、会社の具体的な指示に基づいて業務を行っていない
チャットへの即時応答を求めていたり、1日のスケジュールを細かく指示していたりすれば適用できません。適用する場合も、健康確保のために勤務状況を把握し、実態に合ったみなし時間か労使で確認します。
長時間労働の防止
ガイドラインは、テレワークでの長時間労働を防ぐ手法として次を挙げています。
- 時間外・休日・深夜のメール送付の自粛、指示や報告のルール化
- 深夜・休日は事前許可がない限り社内システムにアクセスできない設定
- 時間外労働を行う場合の手続(事前の上長許可など)を就業規則に明記
- 長時間労働が見られる人への注意喚起
残業の上限管理は36協定の基本と上限規制とあわせて運用します。
安全衛生と作業環境
自宅には事務所衛生基準規則や「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(令和元年7月策定)は一般には適用されません。それでも、同等の作業環境になるよう教育・助言することが求められています。
- テレワーク開始時に、ガイドライン別紙の「自宅等においてテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト(労働者用)」で、照明・机や椅子・画面の位置などを確認してもらう
- 事業者は「テレワークを行う労働者の安全衛生を確保するためのチェックリスト(事業者用)」で自社の取組を確認する(半年に1回程度が目安)
- 健康診断・長時間労働者の面接指導・ストレスチェックは通常どおり実施する(健康診断の実施と事後措置)
労災とハラスメント
テレワーク中の災害も、業務が原因であれば労災保険の対象です。ただし、私的行為など業務以外が原因のものは業務上の災害と認められません。会社はこの点を社員に周知し、労働時間の記録や、けがをした場合の状況を記録しておくよう伝えましょう。手続きは労災が起きたときの対応と手続きを参照してください。
オンライン会議やチャットでのハラスメントも、通常の職場と同様に防止措置の対象です(ハラスメント防止措置)。
情報セキュリティ
貸与PCの利用ルール、私用端末の扱い、公共の場での画面ののぞき見対策なども規程や誓約書で定めておきます。基本的な対策は中小企業の情報セキュリティ対策、誓約書のひな形は貸与PC・スマートフォン 利用誓約書を使えます。
まとめ
- テレワークの場所は「就業の場所」または「変更の範囲」として明示する。費用を労働者に負担させるなら就業規則への記載が必須
- 労働時間は客観的な記録で把握し、中抜け時間の扱いを就業規則で決めておく
- 事業場外みなしは「常時通信可能でない」「随時具体的な指示がない」の両方を満たす場合に限られる
- 在宅勤務手当の渡し切りは課税、業務使用分の実費精算は非課税。国税庁FAQの算式を使う
- 作業環境はチェックリストで確認し、私的行為による災害は労災の対象外であることを周知する