社員の写真・氏名を採用サイトやSNSに載せるときの同意|個人情報保護法の整理、同意書の項目、退職後の削除依頼への対応
社員の顔写真や氏名は個人情報です。採用サイトやSNSに載せるときは、利用目的を示し、掲載の範囲と期間について本人の同意をとっておくのが基本です。個人情報保護法の関係条文と、容ぼうをみだりに撮影・公表されない人格的利益を認めた最高裁判決を踏まえ、同意書の項目、断られたときの扱い、退職後の削除依頼への対応を整理します。
- 対象読者
- 採用サイト・会社案内・SNS・社内報に社員の写真やインタビューを載せる、従業員30〜300名の企業の人事・総務・広報担当者
- 難易度
- 実務
- 所要時間
- 読了8分
- 最終確認日
この記事のポイント
- 顔写真や氏名は、特定の個人を識別できる個人情報。利用目的を特定して本人に通知・公表し、目的の範囲を超えて使うときは本人の同意が必要(個人情報保護法17条・18条・21条)
- 最高裁は、人はみだりに自己の容ぼう等を撮影されない人格的利益を持ち、違法かどうかは目的・態様・必要性などを総合考慮して判断するとした(平成17年11月10日判決)。社外への掲載は、媒体・範囲・期間を示した同意を書面でとるのが確実
- 退職後も写真を使い続けるかは、同意書で決めておく。利用の必要がなくなった個人データは遅滞なく消去する努力義務があり、本人の権利利益が害されるおそれがある場合は利用停止等の請求に応じる必要がある(同22条・35条)
採用サイトの「先輩社員インタビュー」、会社のSNSでの職場紹介、会社案内のパンフレット、社内報。社員の顔写真や名前を載せる場面は年々増えています。一方で、「入社時に撮った写真を退職後も使っている」「断りにくい雰囲気で撮影した」といった状態のまま運用している会社もあります。
この記事では、社員の写真や氏名を載せるときの法律上の整理と、同意のとり方、退職後の扱いを、個人情報保護法と最高裁判決に沿って確認します。採用広報全体の進め方は小さな会社の採用広報を参照してください。
社員の写真・氏名は個人情報
個人情報保護法2条1項は、氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別できる情報を「個人情報」としています。個人情報保護委員会の通則編ガイドラインは、「個人に関する情報」には氏名や顔画像など個人を識別する情報が含まれ、本人が判別できる映像情報も個人情報に該当する例として挙げています。会社における職位や所属と氏名を組み合わせた情報も同様です。
| 掲載する情報 | 個人情報か |
|---|---|
| 顔写真(顔が判別できるもの) | 該当する |
| 氏名、氏名+部署・役職 | 該当する |
| イニシャルと入社年だけ、顔が判別できない後ろ姿 | 他の情報と照合して特定の個人を識別できるかで判断 |
会社が守るべき主なルールは次のとおりです。
| 条文 | 内容 | 写真掲載での意味 |
|---|---|---|
| 17条 | 利用目的をできる限り特定する | 「採用広報のためのウェブサイト・SNSへの掲載」など具体的に書く |
| 21条 | 取得時に利用目的を通知または公表する(本人から書面で直接取得するときは明示) | 撮影時・インタビュー時に、何に使うかを伝える |
| 18条 | 特定した利用目的の範囲を超えて使うときは、あらかじめ本人の同意が必要 | 社員証用に撮った写真を採用サイトに転用するなら同意をとる |
| 27条 | 個人データを第三者に提供するときは、原則として本人の同意が必要 | 社員名簿などのデータベースから取り出した情報を社外に出す場面では同意を前提にする |
社員証や社内名簿のために撮影した写真を、そのまま採用サイトに使うのは、利用目的の範囲を超える使い方にあたり得ます。転用するときは本人の同意をとります。
「肖像」の問題もある
個人情報保護法とは別に、写真の撮影・公表には肖像に関する問題があります。肖像権を直接定めた法律の条文はありませんが、最高裁は、次の考え方を示しています(最高裁第一小法廷 平成17年11月10日判決)。
- 人は、みだりに自己の容ぼう、姿態を撮影されないことについて、法律上保護されるべき人格的利益を有する
- 撮影が不法行為法上違法となるかは、被撮影者の社会的地位、撮影された活動内容、撮影の場所・目的・態様・必要性などを総合考慮し、人格的利益の侵害が社会生活上受忍すべき限度を超えるかどうかで判断する
- 自己の容ぼう等を描写したイラスト画についても、みだりに公表されない人格的利益を有する
この判決は報道機関による撮影・公表の事案で、社員の写真を会社が使う場面にそのまま当てはまるわけではありません。ただ、本人が望まない撮影や公表は、雇用関係があっても許されるとは限らないことを示しています。実務では、社外に出す写真は本人の明確な同意をとることを原則にしておくのが安全です。
同意のとり方
同意書に書く項目
口頭の了解でも同意にはなりますが、掲載範囲や退職後の扱いでもめないよう、書面またはメールで記録を残します。
| 項目 | 記載例 |
|---|---|
| 掲載する情報 | 顔写真、氏名(フルネーム/名字のみ/イニシャル)、部署、入社年、インタビュー内容 |
| 利用目的 | 採用活動のための広報 |
| 掲載媒体 | 自社採用サイト、会社案内パンフレット、会社公式SNS(媒体名)、求人媒体の企業ページ |
| 掲載期間 | 撮影日から〇年、または掲載中の求人が終了するまで |
| 退職後の扱い | 退職時に削除する/印刷済みのパンフレットは在庫がなくなるまで使用する など |
| 撤回の方法 | 掲載をやめてほしいときの連絡先と、削除までの目安 |
| 任意であること | 同意しなくても人事上の不利益な扱いはしないこと |
SNSや求人媒体に載せた写真は、転載やスクリーンショットで会社の管理を離れることがあります。同意をとる際には、削除しても完全には回収できない可能性があることも伝えておきます。SNSでの発信ルールは会社のSNS運用ルールと炎上対応も参照してください。
断られたときの扱い
同意は本人が自由に判断できるものでなければ意味がありません。「全員載せることになっている」と迫るのではなく、顔を出さない、名字だけにする、後ろ姿や手元の写真にするといった選択肢を示します。断った社員を評価などで不利益に扱うことは避けます。
社内報・社内ポータルの場合
社内報や社内ポータルは社外に出ない分、社外掲載よりリスクは小さくなります。それでも、利用目的を就業規則や個人情報の取扱規程で示し、イベント写真などは掲載前に本人が確認できる運用にしておくと安心です(社内報・社内コミュニケーションの進め方)。
写り込み、家族の写真
- イベント写真で、中心でない人が判別できる形で写り込んでいる場合は、ぼかすか、掲載前に確認をとる
- 社員の家族や子どもが写る写真は、その家族本人の同意が必要。未成年者の場合は、通則編ガイドラインの考え方に沿って親権者などから同意を得る
退職後の写真・インタビューの扱い
退職した社員から「採用サイトの写真を消してほしい」と依頼が来ることがあります。法律上の整理は次のとおりです。
| 根拠 | 内容 |
|---|---|
| 22条(努力義務) | 利用する必要がなくなった個人データは、遅滞なく消去するよう努める |
| 35条5項 | 利用する必要がなくなった場合や、本人の権利または正当な利益が害されるおそれがある場合などは、本人は保有個人データの利用停止・消去などを請求できる。理由があるときは、必要な限度で遅滞なく対応する |
同意書で「退職時に削除する」と決めていれば、それに従って削除します。同意書がない、または「退職後も使用する」と書いていても、本人から削除を求められた場合は、掲載を続ける必要性が乏しいことが多いため、速やかに差し替えるのが実務的です。印刷済みのパンフレットなど直ちに回収できないものは、在庫の扱いと差し替え時期を本人に伝えます。開示・利用停止の請求への一般的な対応は従業員・退職者からの個人情報開示請求への対応を参照してください。
管理台帳をつくる
掲載した写真が増えると、どこに誰の写真があるか分からなくなります。退職時に漏れなく削除できるよう、次の項目で一覧を作っておきます。
- 掲載した人、掲載した情報(写真・氏名・インタビュー)
- 掲載媒体とURL、掲載開始日
- 同意書の有無と保管場所、同意の範囲(退職後の扱い)
退職手続きのチェックリストに「掲載写真の削除確認」を加えておくと、削除漏れを防げます(退職時の手続き一覧)。
まとめ
- 社員の顔写真・氏名は個人情報。利用目的を特定して伝え、目的外に使うときは本人の同意をとる
- 最高裁は容ぼう等をみだりに撮影・公表されない人格的利益を認めている。社外に出す写真は、媒体・範囲・期間・退職後の扱いを示した書面の同意をとる
- 同意は任意。断った社員には顔を出さない選択肢を示し、不利益に扱わない
- 退職後の削除依頼には、同意書の定めを確認しつつ速やかに対応する。掲載先の一覧を作り、退職手続きに削除確認を組み込む
この記事に出てくる用語
- 個人情報保護法
- 個人情報を扱う事業者が守るべきルール(利用目的の特定、安全管理措置、第三者提供の制限、漏えい時の報告など)を定めた法律です。従業員数にかかわらず、個人情報を事業に使うすべての会社が対象です。
- 個人データ
- 検索できるように体系的に整理された個人情報の集まり(個人情報データベース等)を構成する個人情報のことです。社員名簿や顧客台帳、名刺管理ソフトの中の情報などが該当します。
- 就業規則
- 労働時間・賃金・退職などの労働条件や職場のルールを定めた規則です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、作成して労働基準監督署に届け出る義務があります。
- 保有個人データ
- 会社が開示・訂正・利用停止などを行う権限を持っている個人データのことです。本人から開示等の請求を受ける対象になり、会社は公表事項の整備と請求への対応が必要です。