中小企業のリスキリングの進め方|必要なスキルの洗い出しから学習計画、教育訓練休暇・助成金の調べ方まで
リスキリングは、事業や仕事の変化に合わせて、社員が新しい知識や技能を身につけることです。中小企業でも取り組める進め方として、必要なスキルの洗い出し、対象者と学習方法の選び方、業務時間内の学習の扱い、教育訓練休暇と雇用保険の給付金、人材開発支援助成金の概要と調べ方を整理します。
- 対象読者
- 従業員30〜300名の企業で、社員の学び直し(リスキリング)を企画する人事担当者・経営者
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この記事のポイント
- リスキリングは「研修を受けさせること」ではなく、「新しい仕事に就けるようにすること」。まず事業の変化から、必要なスキルと、それを使う仕事を決める
- 会社の指示で受ける学習は、業務時間内に行い労働時間として扱うのが基本。自発的な学び直しは、教育訓練休暇や費用補助などで支援する
- 人材開発支援助成金には、リスキリングに関係するコースがある。訓練の前に計画届を出す手続きがあり、要件は年度途中でも変わるため、必ず厚生労働省の最新の案内と労働局で確認する
「リスキリングに取り組みたいが、何から手をつければいいかわからない」「eラーニングを入れたが、誰も受けていない」。こうした声は少なくありません。学ぶ内容と、学んだ後に任せる仕事がつながっていないと、リスキリングは続きません。
この記事では、中小企業がリスキリングを進める手順と、使える公的な制度の調べ方を整理します。研修全体の年間計画は「研修計画の立て方」を参照してください。
リスキリングとは
リスキリング(学び直し)は、事業の変化や新しい技術の導入に合わせて、社員が今の仕事とは違う知識・技能を身につけ、新しい仕事に就けるようにすることです。
| 区分 | 目的 | 例 |
|---|---|---|
| 通常の研修(OJT・階層別研修) | 今の仕事の質を上げる | 新任管理職研修、営業スキル研修 |
| リスキリング | 新しい仕事・役割に移る | 紙の事務担当がデータ分析を担う、製造の技能者が設備の保守・プログラミングを担う |
2024年に政府が公表した「ジョブ型人事指針」でも、職務ごとに必要なスキルを明らかにし、労働者が自分の意思でリ・スキリングを行える制度への移行が重要であると述べられています。中小企業ではジョブ型への移行まで考える必要はありませんが、仕事に必要なスキルを言葉にするという点は同じです。
ステップ1:事業の変化から必要なスキルを決める
最初に、「3年後に何の仕事が増え、何の仕事が減るか」を経営者と話し合います。
| 事業の変化 | 増える仕事 | 必要なスキルの例 |
|---|---|---|
| 業務のデジタル化 | クラウドの管理、データの集計・分析 | 表計算の関数、データの扱い、情報セキュリティ |
| 生成AIの活用 | 文書の下書き・確認、社内FAQの整備 | AIの使い方と確認の手順(AIに任せられる業務の線引き) |
| 新規事業・新製品 | 新しい分野の営業・技術 | 製品知識、関連する資格 |
| 人手不足への対応 | 多能工化、業務の標準化 | 複数工程の技能、マニュアル作成 |
社内の業務の棚卸しから始めると、自動化できる仕事と、人が担うべき仕事が見えてきます(人事総務の業務棚卸しをAIで進める)。スキルの言葉選びには、業種・職種ごとに必要な能力を整理した厚生労働省の「職業能力評価基準」も使えます。
ステップ2:対象者と「学んだ後の仕事」を決める
対象者を決めるときは、学んだ後にどの仕事を任せるかを先に決めます。これが決まらないと、学ぶ動機が生まれません。
- 対象者を全員にせず、まず3〜5人の小さなグループで始める
- 本人の希望を聞く(キャリア面談とセルフ・キャリアドック)
- 学習の目標と、任せる仕事の時期を決め、本人と上司で共有する
- 新しい仕事の内容は、職務記述書の形で書いておく(職務記述書の書き方)
職種や勤務地が限定されている社員に、限定の範囲を超える仕事を任せる場合は、本人の同意が必要になることがあります。労働条件通知書の「業務の変更の範囲」を確認しましょう(労働条件通知書の書き方、異動・配置転換の進め方)。
ステップ3:学習方法を選ぶ
| 方法 | 向いている内容 | 費用 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 社内OJT | 実務の手順 | 小 | 教える人の時間を確保する |
| eラーニング | 基礎知識、IT・AIの基本 | 小〜中 | 受講時間を業務時間内に確保しないと進まない(eラーニングの選び方) |
| 外部の講座・セミナー | 専門知識、資格取得 | 中〜大 | 受講後に社内で共有する場をつくる |
| 公共職業訓練(在職者訓練) | ものづくり・ITなどの技能 | 小 | 実施機関・日程は地域で異なる |
| 実際の仕事で試す | 新しい業務の立ち上げ | 小 | 失敗してよい範囲を決めておく |
組み合わせの例:eラーニングで基礎を学ぶ(1か月)→社内で小さな業務を任せる(2か月)→外部講座で応用を学ぶ→本格的に担当する。
ステップ4:学習時間と費用のルールを決める
会社の指示で受ける学習は労働時間
会社が受講を指示した研修やeラーニングは、労働時間として扱うのが基本です。所定労働時間内に学習の時間を確保し、時間外に及ぶ場合は割増賃金が必要です。「自主的な学習」としながら、実際には受講しないと不利益がある場合も、労働時間にあたる可能性があります(労働時間の適正な把握)。
自発的な学び直しの支援
職業能力開発促進法では、事業主は必要に応じて、労働者が自発的に教育訓練を受けられるよう、有給の教育訓練休暇の付与や、始業・終業時刻の変更などの配慮を行うものとされています(10条の4)。社内でできる支援には、次のようなものがあります。
- 資格取得や講座の費用補助(補助の条件と、退職時の返還の有無をあらかじめ決める)
- 教育訓練休暇の制度化
- 学習のための時差出勤や短時間勤務
費用補助に「一定期間内に退職したら全額返還」という定めを置く場合、内容によっては労働基準法16条(賠償予定の禁止)との関係が問題になることがあります。業務命令で受けさせる研修の費用は、会社が負担するのが原則と考えましょう。
教育訓練休暇給付金
2025年10月から、雇用保険の「教育訓練休暇給付金」が始まっています。雇用保険の一般被保険者が、業務命令ではなく就業規則等にもとづいて、連続30日以上の無給の教育訓練休暇を取る場合に、基本手当に相当する給付を受けられる制度です。加入期間などの要件があります。制度を使えるようにするには、就業規則等に休暇の定めが必要です(教育訓練休暇給付金の創設)。
ステップ5:学んだ成果を処遇とつなげる
- 新しい仕事を担当したら、等級や評価の項目に反映する(人事評価制度のつくり方、賃金テーブル・等級制度のつくり方)
- 資格手当などを設ける場合は、賃金規程に定める
- 学んだ人が社内で講師役になる機会をつくる
学んだのに仕事も処遇も変わらないと、社員は「学んでも意味がない」と感じ、他社に転職するきっかけにもなります。
社内の推進体制
職業能力開発促進法では、能力開発の計画の作成(11条)と、職業能力開発推進者の選任(12条)が事業主の努力義務とされています。人事担当者を推進者に選び、計画の作成や社員への相談対応の窓口にすると、社内の役割がはっきりします。
厚生労働省の委託事業「キャリア形成・リスキリング推進事業」では、全国47都道府県の拠点で、企業のキャリア形成・リスキリングの取組を無料で支援しています。計画づくりに迷ったら相談してみましょう。
人材開発支援助成金の概要
人材開発支援助成金は、事業主が計画にもとづいて社員に職業訓練などを行った場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。厚生労働省のページには、次のようなコースが掲載されています。
| コース | 概要 |
|---|---|
| 人材育成支援コース | 職務に関連した知識・技能を習得させる訓練など |
| 教育訓練休暇等付与コース | 有給の教育訓練休暇制度などを導入し、社員が取得した場合 |
| 人への投資促進コース | デジタル人材の育成、自発的な訓練、定額制の訓練など |
| 事業展開等リスキリング支援コース | 新規事業の立ち上げなど事業展開に伴い、新たな分野で必要な知識・技能を習得させる訓練 |
このほか、建設業向けや障害者向けのコースもあります。
調べるときの注意
- 訓練を始める前に計画届を出す手続きがある。訓練が終わってから申請しても対象にならない
- 対象となる訓練の時間数、助成率、上限額はコースごとに異なり、年度途中でも見直される
- 支給要領の改正で、追加の書類が求められることもある
- 不正受給には厳しい措置がある。「必ずもらえる」と勧誘する業者には注意する
具体的な要件や金額は、必ず厚生労働省の「人材開発支援助成金」のページと、管轄の労働局で確認してください。助成金の探し方全般は「中小企業の雇用関係助成金の探し方と注意点」で整理しています。
まとめ
- リスキリングは「新しい仕事に就けるようにすること」。事業の変化から必要なスキルと、学んだ後に任せる仕事を先に決める
- 3〜5人の小さなグループから始め、eラーニング・OJT・外部講座・実際の仕事を組み合わせる
- 会社の指示で受ける学習は労働時間。自発的な学び直しは、費用補助や教育訓練休暇(雇用保険の給付金あり)で支援する
- 人材開発支援助成金は訓練前の計画届が必要で、要件は年度途中でも変わる。厚生労働省の最新の案内と労働局で確認する