等級定義書をAIで下書きする:等級ごとの役割・期待行動・昇格要件を、職務の記述からそろえる手順
「3等級と4等級の違いを説明できない」。等級制度の悩みの多くは、等級定義書の言葉があいまいなことから生まれます。生成AIを使って、職務の記述や評価項目から等級ごとの役割・期待行動・昇格要件の下書きを作り、隣の等級との違いを点検する手順を、プロンプト例つきで解説します。
- 対象読者
- 等級制度はあるが定義があいまい、または等級ごとの基準を初めて文書にする、従業員30〜300名の企業の人事担当者・経営者
- 難易度
- 応用
- 所要時間
- 読了8分
- 最終確認日
この記事のポイント
- AIには、社内の職務の記述や評価項目をもとに、等級ごとの言葉をそろえた下書きと、隣り合う等級の違いの点検を任せる
- どの等級に誰を格付けするか、賃金との対応、昇格の判断はAIに任せない。制度の変更が不利益変更に当たらないかも人が確認する
- 社員の氏名・評価結果・給与額などの個人情報はAIに入力しない。職務と期待行動の一般的な記述だけを渡す
等級制度を入れている会社でも、等級定義書を開くと「主体的に業務を遂行する」「高度な判断を行う」といった言葉が並び、隣の等級との違いが読み取れないことがよくあります。定義があいまいだと、昇格の判断が上司ごとにばらつき、社員にも「何をすれば上がるのか」が伝わりません。
この記事では、生成AIを使って等級定義書を下書きし、等級ごとの違いを点検する手順を紹介します。等級制度の運用の点検は「等級制度の運用点検と見直し」、制度の全体像は「人事評価制度のつくり方」を参照してください。
AIに任せること・任せないこと
| 作業 | AIの使い方 | 人が行うこと |
|---|---|---|
| 等級ごとの言葉の下書き | ○ 職務の記述や評価項目から作る | 自社の実態に合うかを現場の管理職と確認する |
| 隣り合う等級の違いの点検 | ○ 重複やあいまいな表現を指摘させる | 指摘を受けて書き直す |
| 等級の数・区分の決定 | 案出しのみ | 経営者と人事が決める |
| 社員の格付け | 使わない | 評価と面談に基づいて人が決める |
| 賃金との対応・昇格の判断 | 使わない | 賃金規程・評価結果に基づいて決める |
入力しない情報
等級定義をつくるとき、「今の4等級の人はこういう仕事をしている」と具体的な人を思い浮かべがちです。AIには人の情報ではなく、職務の情報だけを渡します。
- 入力しない:社員の氏名、現在の等級と評価結果、給与額、昇格・降格の履歴、マイナンバーなどの個人情報
- 注意する:「経理課長の業務」のように、1人しかいない役職の記述。誰のことか分かる
- 入力してよい形:「月次決算の取りまとめと、担当者2〜3名の業務の割り振り」のような職務の記述
社内のAI利用ルールに沿って使います(→社内の生成AI利用ガイドライン)。
手順1:材料をそろえる
AIに渡す材料は、社内にすでにあるものを使います。
- 職務記述書や職務分掌表(→職務分掌表、職務記述書をAIで下書きする)
- 人事評価シートの評価項目(→人事評価シート)
- 今の等級定義書(あれば)
- 管理職へのヒアリングメモ(「この等級の人に期待すること」)
厚生労働省の「職業能力評価基準」は、業種・職種ごとに仕事の内容と求められる能力をレベル別に整理しています。自社の職種に近いものがあれば、言葉の参考になります。
手順2:等級ごとの下書きを作る
あなたは中小企業の人事制度づくりを支援するアシスタントです。
当社(従業員120名、BtoBの専門商社)の一般職から管理職までの
等級定義書の下書きを作ってください。
等級は1〜6の6段階です(1〜3:一般職、4:指導職、5〜6:管理職)。
次の観点で、等級ごとに2〜3文で書いてください。
「役割(担う仕事の範囲)」「判断の範囲(誰の指示で、何を自分で決めるか)」
「人への関わり(指導・育成・調整)」「期待する行動の例(3つ)」
条件:
- 「主体的に」「高度な」など、程度があいまいな言葉は避け、
仕事の範囲や判断の範囲の違いで書き分ける
- 隣り合う等級で、どこが変わるのかが分かるようにする
- 賃金・年数・年齢には触れない
参考:当社の職務の記述(抜粋)
・受注処理と在庫の確認、取引先からの問い合わせ対応
・担当顧客10社程度の提案と見積もり
・チーム(3〜5名)の売上管理と案件の割り振り
・…
「年数・年齢に触れない」と指示するのは、等級を「何年いれば上がるか」で決める運用にならないようにするためです。
手順3:隣の等級との違いを点検させる
下書きができたら、別の依頼で点検させます。同じ会話の中より、新しい会話で頼むほうが、自分の書いたものを甘く評価しにくくなります。
次は等級定義書の下書きです。隣り合う等級(1と2、2と3…)ごとに、
①ほぼ同じ内容になっている箇所
②程度の言葉(かなり・十分・高度など)だけで書き分けている箇所
③昇格を判断するときに、管理職によって解釈が分かれそうな箇所
を表にして指摘してください。書き直し案も添えてください。
指摘された箇所は、人事と管理職で話し合って直します。AIの書き直し案は選択肢の一つとして扱います。
手順4:昇格要件と確認方法をそろえる
等級の定義だけでは、昇格を判断できません。等級ごとに、昇格の要件と、それを何で確認するかをそろえます。
| 項目 | 例 |
|---|---|
| 昇格の要件 | 現等級で求める役割を、一定期間にわたって果たしている。上位等級の役割の一部を担っている |
| 確認の方法 | 直近の評価結果、上司の推薦、面談、課題の提出 |
| 判断する人 | 一次:所属長、最終:人事評価会議 |
確認方法の部分は、評価制度と合わせて人が決めます。評価者の目線をそろえる方法は「評価者研修の進め方」を参照してください。
手順5:導入前に確認すること
等級定義を改めると、社員によっては等級や賃金が変わる可能性があります。就業規則や賃金規程を変えて労働条件を不利益に変更する場合は、労働契約法第9条・第10条の考え方に沿って、変更の必要性、内容の相当性、社員への説明などを検討する必要があります。
- □ 定義の変更で、今の格付けが下がる社員が出ないか
- □ 賃金表との対応を変える場合、不利益変更に当たらないか
- □ 社員への説明会や個別の説明の予定を立てたか(→人事制度を変えるときの従業員説明会)
- □ 管理職が、定義を使って部下に説明できるか
社員に公開するときの書き方
等級定義書は、人事の内部資料にとどめず、社員に公開すると効果が出ます。公開するときは、等級ごとの定義に加えて「昇格の要件」「判断の時期」「相談先」を同じ資料に載せます。AIに「社員向けに、等級定義書の読み方を説明する1ページの案内」を作らせ、人事が内容を確認して使う方法もあります。説明会で質問が出た箇所は、定義があいまいな箇所の可能性が高いため、次の見直しの材料にします。
よくある失敗
| 失敗 | 起きること | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| AIの下書きをそのまま採用する | 一般的な言葉が並び、自社の仕事と結びつかない | 社内の職務の記述を必ず渡し、管理職が読んで直す |
| 等級の数を先に増やす | 違いを書き分けられない等級ができる | 書き分けられる数に絞る |
| 定義を作って配っただけ | 昇格の判断が変わらない | 評価面談で定義を使い、年1回見直す |
まとめ
- 等級定義書は、役割・判断の範囲・人への関わり・期待行動の観点で、隣の等級との違いが分かるように書く
- AIには下書きと、あいまいな表現・重複の点検を任せる。格付けや賃金、昇格の判断は人が行う
- 制度を変えるときは、不利益変更に当たらないかと、社員への説明を確認する
- 社員の氏名・評価結果・給与額などの個人情報はAIに入力しない
等級制度や評価の運用にAIをどう組み込むか相談したいときは、Otsumu株式会社のAIツール診断をご利用ください。
この記事で使えるテンプレート
人事 人事評価シート(目標管理) 目標管理(MBO)による人事評価シートです。期初の目標設定、期中の進捗確認、期末の本人評価・評価者評価、行動評価、総合評価とフィードバックまでを1つの様式で運用できます。 総務 職務分掌表・組織一覧(組織図の元データ) 部署ごとの業務と担当者・承認者を1行1業務で整理する職務分掌表です。業務の大分類・中分類、主担当・副担当、承認者、頻度、関係する規程・システムを記入できます。組織図を作るための組織一覧(部署・責任者・上位部署)の項目例も載せています。この記事に出てくる用語
- 降格
- 役職や等級を下げることです。人事権の行使としての降格と、懲戒処分としての降格があり、賃金が下がる場合は根拠と相当性が問われます。
- 就業規則
- 労働時間・賃金・退職などの労働条件や職場のルールを定めた規則です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、作成して労働基準監督署に届け出る義務があります。
- 職務記述書
- ポジションごとに、職務の目的、主な業務、責任の範囲、求める知識・スキルなどを書いた文書です。採用・評価・等級の基礎資料として使われます。
- 人事評価
- 社員の仕事の成果や行動、能力を一定の基準で評価し、昇給・賞与・昇格や育成に反映させる仕組みです。等級制度・報酬制度とつなげて設計します。
- 等級制度
- 社員を能力・役割・職務などの基準でいくつかの段階(等級)に分け、処遇や期待する役割の目安にする仕組みです。人事評価・賃金制度の土台になります。
- マイナンバー
- 住民票を持つすべての人に1人1つ指定される12桁の番号です。会社は社会保障・税・災害対策の法定の手続に限って従業員などのマイナンバーを取り扱えます。
出典・参考資料
この業務、AIでどこまで減らせるか診断します。Otsumu の「AIツール診断」で、自社の業務フローから自動化できる作業を洗い出します。
無料で相談する