定時株主総会の議事進行シナリオと想定問答をAIで下書きする:議長の台本、説明義務の範囲、議事録との突き合わせまで
定時株主総会では、議長の進行台本と、株主からの質問に備えた想定問答を用意しておくと当日の進行が安定します。生成AIで台本の型と想定質問の洗い出しを行う手順、会社法の説明義務(第314条)に沿った回答の考え方、株主名や未公表情報を入力しない注意、議事録との突き合わせを解説します。
- 対象読者
- 定時株主総会の準備を担当し、議長の台本(シナリオ)や株主からの質問への回答案を毎年作っている、従業員30〜300名の非上場企業の総務担当者
- 難易度
- 実務
- 所要時間
- 読了8分
- 最終確認日
この記事のポイント
- AIには、議長の進行台本の型と、想定される質問の洗い出し・回答の文案を作らせる。数値や事実は計算書類・事業報告から人が転記し、AIの数字は使わない
- 取締役は株主の質問に必要な説明をする義務がある(会社法第314条)。説明を断れる場合は施行規則第71条に限られるため、「お答えできません」で済ませる回答案を作らない
- 株主の氏名・持株数、未公表の取引や人事の情報はAIに入力しない。当日の進行は議事録の記載事項と突き合わせて確認する
非上場の中小企業でも、定時株主総会を実際に開く会社では、議長(多くは社長)の進行台本と、株主からの質問に備えた想定問答を総務が用意することがあります。毎年1回の業務のため、前年の台本を探して日付と数字を直すだけになりがちで、議題の変更に台本が追いついていないこともあります。
この記事では、台本の型と想定問答の下書きを生成AIで作り、事実と数字は人が書類から入れる手順を解説します。総会全体の段取り(招集通知の期限・書面決議・決算公告)は定時株主総会の段取りを参照してください。
AIに任せること・任せないこと
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| AIに任せる | 議長の進行台本の型、議案ごとの読み上げ文の型、想定質問の洗い出し、回答の文案の言い回し、当日の進行チェック表 |
| 人が確認する | 出席株主数・議決権数、計算書類の数値、議案の内容、回答の事実関係、説明を控える判断 |
| AIに入力しない | 株主の氏名・住所・持株数、役員候補者の経歴の詳細、未公表の取引・人事・訴訟の情報 |
株主名簿の情報は個人情報を含みます。個人情報保護委員会が注意を呼びかけているとおり、生成AIには入力しない運用にします。会社の未公表情報も同様です。AIには「売上高は前期比__%増」のような差し込み欄で文案を作らせます。
手順1:議題と会社の区分を整理する
台本は、会社の機関設計と議題で変わります。AIに渡す前に、次の点を社内で確認します。
- 取締役会・監査役・会計監査人を置いているか(定款・登記事項証明書で確認)
- 報告事項(事業報告の内容など)と決議事項(計算書類の承認、剰余金の配当、役員の選任、定款変更など)
- 会場の総会か、書面決議(会社法第319条、株主全員の同意)か。書面決議なら台本は要りません
計算書類と事業報告を定時総会に提出・提供することは会社法第438条に定めがあり、会計監査人設置会社には報告で足りる場合の特則があります。どちらに当たるかは人が判断し、AIにはその結果を条件として渡します。
手順2:議長の進行台本の型を作らせる
非上場会社(取締役会設置会社・監査役設置会社)の定時株主総会の、議長の進行台本の型を作ってください。
条件:
・報告事項は事業報告の内容の報告。決議事項は第1号議案 計算書類承認、第2号議案 剰余金処分、第3号議案 取締役3名選任
・出席株主数、議決権数、数値、日付、氏名は「____」の差し込み欄にする
・開会宣言、定足数の報告、監査役の監査報告、質疑、採決、閉会の順にする
・質疑は報告事項と決議事項をまとめて受ける方式にする
・各場面の末尾に、議事録に記載するために記録しておく事項を書く
出てきた台本は、議題の順番と定款の定め(議長になる人、定足数の特則)に合っているかを確認します。
手順3:想定問答を作らせる
想定質問は、数字ではなく論点で洗い出させます。
定時株主総会で株主から出そうな質問を、次の分類ごとに5つずつ挙げてください。
分類:業績と見通し/配当/役員の報酬と選任/人材の採用と定着/取引先・事業のリスク
各質問について、回答の文案を「事実(____)」「会社の考え」「今後の対応」の3段で作ってください。
数値や固有名詞は差し込み欄にし、推測で埋めないでください。
回答の事実は、計算書類・事業報告・取締役会の資料から担当者が埋め、回答する役員本人に確認してもらいます。
説明義務の範囲を踏まえる
会社法第314条は、取締役等は株主から特定の事項について説明を求められた場合、必要な説明をしなければならないと定めています。説明しなくてよいのは、議題に関しない事項、説明すると株主共同の利益を著しく害する場合、施行規則第71条が定める場合(調査が必要な場合、他の者の権利を侵害する場合、実質的に同じ質問の繰り返しなど)に限られます。
| 回答案で避けること | 置き換える例 |
|---|---|
| 理由を言わずに「お答えできません」 | 「取引先との契約上の守秘義務があるため、個別の条件はお答えを控えます」 |
| 調べればすぐわかることを「調査中」 | 事前に数値を確認し、手元資料に入れておく |
| 議題と関係のない批判への長い反論 | 議題との関係を確認し、必要な範囲で簡潔に答える |
手順4:当日の記録と議事録との突き合わせ
株主総会の議事録には、施行規則第72条で、開催日時・場所、議事の経過の要領と結果、出席した役員の氏名、議長の氏名などを記載します。台本の各場面に「記録する事項」を入れておくと、当日のメモから議事録を作るときに漏れが減ります。議事録の作り方は取締役会・株主総会議事録の作り方と保存を参照してください。
役員の選任など登記が必要な決議をしたときは、2週間以内に変更登記を申請し、株主リストを添付します(法務省の案内を参照)。手続は役員変更・本店移転など登記変更の期限と総務の段取りにまとめています。
準備のスケジュールとAIの使いどころ
台本と想定問答は、招集通知の発送前後から作り始めると、役員の確認に時間をかけられます。
| 時期 | 総務の作業 | AIの使いどころ |
|---|---|---|
| 決算の確定後 | 議題の確定、機関設計の確認 | 前年の台本との差分の洗い出し(議題名だけを渡す) |
| 招集通知の発送前後 | 台本の作成、想定問答の論点の洗い出し | 台本の型、想定質問の分類と文案 |
| 総会の1週間前 | 役員による回答の確認、数値の転記 | 回答の言い回しを短く整える |
| 前日 | 進行のリハーサル、受付と出席数の集計方法の確認 | 当日の進行チェック表の作成 |
| 総会後 | 議事録の作成、登記の準備 | 台本と当日メモから議事録の構成案(氏名・数値は人が入れる) |
台本を翌年も使える形で残す
総会が終わったら、使った台本と想定問答を「型」と「その年の記入済み版」に分けて保存します。型には差し込み欄だけを残し、記入済み版は株主の情報を含むため、保存場所とアクセスできる人を限定します。
翌年は、型と新しい議題をAIに渡して差分を作らせれば、前年の数値や議題が残る失敗を防げます。当日に実際に出た質問は、質問した株主が特定できない形で論点だけを想定問答の候補に追加しておくと、回答の準備が年々厚くなります。
よくある失敗
- 前年の台本を流用し、今年は議題にない定款変更の読み上げが残っている
- AIが作った想定問答の数字を確かめずに手元資料に入れ、当日に誤った数値を答える
- 株主名簿をそのまま入力して「議決権数を集計して」と頼んでしまう
- 説明を控える理由を準備せず、議長が答えに詰まる
まとめ
- AIには台本の型、想定質問の洗い出し、回答の言い回しを任せ、数値と事実は書類から人が入れる
- 説明義務(会社法第314条)を踏まえ、説明を控えるときは理由を添える回答案にする
- 株主の情報と未公表情報はAIに入力しない
- 台本に議事録の記載事項を入れておき、総会後の議事録作成と登記につなげる
総務の定例業務にAIをどう組み込むか相談したいときは、Otsumu株式会社のAIツール診断をご利用ください。
この記事に出てくる用語
- 株主総会
- 株式会社の最高意思決定機関で、株主が集まって計算書類の承認、役員の選任、定款変更などを決議する会議です。毎事業年度の終了後に開く「定時株主総会」と、必要に応じて開く臨時株主総会があります。
- 株主名簿
- 株主の氏名・住所、持株数、取得日などを記載した会社の帳簿です。会社法で作成と本店への備置きが義務づけられ、株式の譲渡は名簿に記載しないと会社に対抗できません。
- 決算公告
- 株式会社が定時株主総会の後、貸借対照表(大会社は損益計算書も)を官報・新聞・電子公告などで公開することです。会社法で義務づけられており、怠ると過料の対象になります。
- 商業登記
- 会社の商号・本店・目的・役員・資本金などを法務局の登記簿に記録し、取引の相手方が確認できるように公示する制度です。登記事項に変更があれば2週間以内に変更登記をします。
- 書面決議
- 株主総会や取締役会を実際に開かず、提案に対して全員が書面または電磁的記録で同意することで、決議があったものとみなす手続です。
- 定款
- 会社の目的・商号・本店所在地・機関設計・役員の任期など、会社の基本ルールを定めた文書です。会社の「憲法」とも呼ばれ、変更には株主総会の特別決議が必要です。
- 登記事項証明書
- 法務局が発行する、会社の登記内容を証明する書面です。いわゆる「登記簿謄本」にあたり、銀行口座の開設や入札、許認可の申請などで提出を求められます。
- 取締役会
- 3人以上の取締役で構成され、会社の業務執行の決定や代表取締役の選定・監督を行う会議体です。置くかどうかは定款で決め、置いている会社を「取締役会設置会社」といいます。
出典・参考資料
この業務、AIでどこまで減らせるか診断します。Otsumu の「AIツール診断」で、自社の業務フローから自動化できる作業を洗い出します。
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