注意指導の記録と改善指導書をAIで整える:事実と評価を分ける書き換え、パワハラに当たる表現の点検、交付前の確認
管理職の注意指導のメモは、感情的な言葉や推測が混ざりがちです。生成AIを使って、メモを「日時・事実・伝えた内容・本人の反応・確認日」の形に整え、改善指導書の下書きを作る手順を整理します。パワハラ指針に照らした表現の点検と、AIに入力しない情報もまとめました。
- 対象読者
- 管理職から届く注意指導のメモを、記録や改善指導書にまとめている従業員30〜300名の企業の人事担当者
- 難易度
- 実務
- 所要時間
- 読了7分
- 最終確認日
この記事のポイント
- AIには、管理職のメモを時系列に並べ替え、事実と評価を分けて書き直す作業を任せる。指導の要否や処分の判断は人が行う
- パワハラ指針は、業務上必要かつ相当な範囲を超える言動をパワハラの要素としている。人格を否定する言葉や過度な表現が指導書に入っていないかをAIで洗い出し、人が直す
- 氏名・社員番号・健康状態・家族の事情などはAIに入力しない。記号に置き換え、事実の日付と回数は原本と照らして人が確認する
遅刻が続く社員や、指示を守らない社員について、管理職から「指導した記録を残しておいてほしい」とメモが届くことがあります。ところがそのメモには、「やる気がない」「態度が悪い」といった評価の言葉が多く、肝心の日付や回数が抜けていることも少なくありません。
この記事では、管理職のメモを生成AIで整理し、注意指導の記録と改善指導書の下書きを作る手順を整理します。指導の段階の踏み方やパワハラとの線引きは問題行動のある社員への注意指導と記録の残し方で詳しく扱っています。
なぜ記録の書き方が大切か
労働契約法は、懲戒は客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ無効とし(第15条)、解雇も同じ考え方で判断されます(第16条)。勤務態度や能力を理由とする処分では、会社が改善の機会を与えたかどうかが問われます。そのとき根拠になるのが、指導の記録です。
記録は、後から第三者が読んでも何があったかがわかる必要があります。評価の言葉ばかりで事実がない記録や、強い言葉で本人を責める指導書は、かえって会社の説明を難しくします。
AIに任せること・任せないこと
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| AIに任せる | メモを時系列に並べる、事実と評価を分ける、評価の言葉を行動の記述に言い換える候補を出す、指導書の文案の形を整える、強すぎる表現を洗い出す |
| 人が判断する | 指導が必要か、どの段階の指導にするか、改善の期限、改善しない場合の対応(懲戒の検討など) |
| 人が確認する | 日付・回数・時刻が勤怠記録などの原本と合っているか、本人の言い分が正しく書かれているか |
| AIに入力しない | 氏名、社員番号、所属が特定できる部署名、健康状態や通院の情報、家族の事情、過去の懲戒歴 |
体調不良やメンタルヘルスの不調が背景にあるかもしれない場合は、健康情報をAIに入力せず、人事と産業医で扱います。入力前の置き換えの方法は生成AIに入力する前の個人情報の置き換え手順を参照してください。
手順1:管理職のメモを置き換えて渡す
まず、メモから個人が特定できる情報を除きます。
| 元のメモ | 置き換え後 |
|---|---|
| 営業2課の山田さん | 対象者A |
| 9月8日に〇〇課長が注意 | 9月8日に上司Bが注意 |
| 通院のため遅れたと言っていた | (AIには入れず、人事の記録にのみ残す) |
手順2:事実と評価を分けて時系列に並べる
次は、上司が部下への注意指導について書いたメモです。
次のルールで整理してください。
・「日時」「場所」「起きたこと」「上司が伝えたこと」「本人の反応」の表にする
・日付の古い順に並べる
・「やる気がない」「反省していない」などの評価や推測は表に入れず、
別に「評価・推測にあたる記述」として一覧にする
・メモにない日付や回数は補わず、「不明」と書く
(置き換え後のメモ)
AIが「不明」とした箇所は、管理職に聞いて埋めます。評価や推測の一覧は、「その評価の根拠になる行動は何か」を管理職に聞くための材料になります。たとえば「やる気がない」の根拠が「会議資料を3回続けて期限に出さなかった」なら、記録に書くのは後者です。
手順3:改善指導書の下書きを作る
事実の表が確定したら、改善指導書の下書きを頼みます。
次の事実をもとに、社員に交付する「改善指導書」の文案を作ってください。
・項目は「対象となる事実」「これまでの指導」「求める改善」「確認の期間」
「会社の支援」「改善しない場合の対応」の順にする
・事実は日付と回数で書き、人格や性格についての表現は使わない
・「求める改善」は、本人が何をすればよいかがわかる具体的な行動で書く
・「改善しない場合の対応」は、空欄にして【人事が記入】と書く
(確定した事実の表)
「改善しない場合の対応」は、就業規則の懲戒事由との関係を人事が確認して書きます。AIに書かせると、規程にない処分を記載してしまうおそれがあるためです。懲戒の手続きは懲戒処分の進め方を参照してください。
手順4:表現を点検する
厚生労働省のパワハラ指針は、職場のパワーハラスメントを、優越的な関係を背景とした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの、としています。一方で、客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラに当たらないとしています。
指導書の文案ができたら、表現の点検をAIに頼みます。
次の改善指導書の文案から、次にあたる表現を抜き出し、言い換え案を示してください。
・人格や能力を否定する表現
・脅すような表現、必要以上に強い表現
・事実ではなく推測で書かれている部分
・本人が何をすればよいかわからない、あいまいな表現
(文案)
| 点検で見つかりやすい表現 | 言い換えの方向 |
|---|---|
| 社会人として失格である | 9月に始業時刻への遅刻が6回あった |
| 何度言っても理解しない | 9月8日・9月22日に同じ点を指導した |
| 周りが迷惑している | 遅刻した日は朝礼の連絡事項を別に伝える必要があった |
| きちんとすること | 始業5分前までに着席し、遅れる場合は始業前に上司に電話する |
AIの指摘は、あくまで候補です。どの表現を残すかは人事と管理職で決めます。
手順5:原本と照らして交付する
交付の前に、次の点を人が確認します。
- 日付・回数・時刻が、勤怠記録や業務の記録と一致しているか
- 本人の言い分を、面談で聞いた内容のとおりに書いているか
- 改善の期限と確認の日が、現実的な長さになっているか
- 就業規則の条文番号や懲戒の種類が正しいか
- 交付の日時、同席者、本人の受領の有無を記録する欄があるか
AIとのやりとりの画面やファイルは、指導の記録とは別に扱います。正式な記録は人事が確定した版だけにし、閲覧できる人を限定して保管します。
管理職に配るメモの型
AIで整える手間を減らすには、管理職が最初から書きやすいメモの型を配っておくのが近道です。
| 項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 日時・場所 | 10月6日 9時15分、執務室の自席 |
| 起きたこと | 始業時刻の9時に席にいなかった。9時15分に出社 |
| 伝えたこと | 「遅れるときは始業前に電話してください」と会議室で個別に伝えた |
| 本人の反応 | 「電車が遅れた」と説明。遅延証明書は持っていなかった |
| 次の確認 | 10月20日の1on1で今月の状況を確認する |
型があれば、AIに渡す前の置き換えも短時間で済みます。管理職向けの研修で、この型と「評価の言葉を書かない」ことをあわせて伝えておくと、記録の質がそろいます。
まとめ
- AIには、管理職のメモを時系列に並べ、事実と評価を分ける作業と、指導書の形を整える作業を任せる
- 指導の要否、段階、改善しない場合の対応は人が判断する
- パワハラ指針の考え方に照らして、人格を否定する表現や過度に強い表現がないかをAIで洗い出し、人が直す
- 氏名・社員番号・健康状態・家族の事情はAIに入力せず、日付と回数は原本と照らして確認する
注意指導の記録や人事の文書づくりにAIをどう組み込むか相談したいときは、Otsumu株式会社のAIツール診断をご利用ください。
この記事で使えるテンプレート
人事 注意指導の記録・改善指導書(口頭注意・面談の記録表、改善指導書、受領確認) 問題行動のある社員への注意指導を、口頭注意→面談→書面と段階を踏んで記録するためのひな形です。日時・事実・伝えた内容・本人の反応・次の確認日を残す指導記録表と、対象となる事実・求める改善・確認期間・会社の支援を書く改善指導書、受領確認欄をまとめています。 労務 遅刻・早退・欠勤届(事後報告・年休振替の申出欄つき) 遅刻・早退・欠勤・私用外出の届出書です。日時と時間数、理由の区分、事前・事後の別、年次有給休暇への振替の希望、通院・業務上のけがの確認欄、上長と勤怠担当の処理欄(賃金控除・勤怠システムへの反映)までまとめています。この記事に出てくる用語
- 産業医
- 労働者の健康管理について専門的な立場から指導・助言を行う医師です。常時50人以上の労働者を使用する事業場は選任が義務づけられています。
- 就業規則
- 労働時間・賃金・退職などの労働条件や職場のルールを定めた規則です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、作成して労働基準監督署に届け出る義務があります。
- パワーハラスメント
- 職場で優越的な関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動によって、労働者の就業環境を害することです。労働施策総合推進法により、すべての事業主に防止措置が義務づけられています。
- 1on1
- 上司と部下が1対1で定期的に行う面談です。評価のための面談ではなく、部下の成長や困りごとの把握を目的にするのが一般的です。
出典・参考資料
この業務、AIでどこまで減らせるか診断します。Otsumu の「AIツール診断」で、自社の業務フローから自動化できる作業を洗い出します。
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