個人データの外部とのやり取りをAIで棚卸しする:委託・第三者提供・記録の要否を整理する手順
給与計算の委託先、健診機関、提携先への名簿提供、購入したリスト。個人データの外部とのやり取りは部署ごとに散らばりがちです。生成AIで業務の聞き取りメモから「やり取りの一覧表」を作り、委託・法令に基づく提供・同意に基づく第三者提供などの区分案と、確認・記録が必要かを人が判断する手順を解説します。
- 対象読者
- 個人情報保護法の運用を任されているが、社内で個人データがどこに出ていっているかを把握しきれていない、従業員30〜300名の企業の総務担当者
- 難易度
- 実務
- 所要時間
- 読了8分
- 最終確認日
この記事のポイント
- AIには、各部署への聞き取りメモから「どの業務で・誰に(誰から)・どんな項目の個人データを・どの手段で」渡しているか(受け取っているか)を一覧表にさせる。個人名や実データは入力しない
- 委託・法令に基づく提供・本人に代わる提供・同意に基づく第三者提供などの区分は、AIに「案」と「判断に必要な追加情報」を出させるところまでにとどめ、最終判断は条文とQ&Aで人が確かめる
- 記録が必要な取引については、契約書や送付記録で記録を兼ねられるかを決め、記録簿の様式と保存期間(1年・3年)を文書管理のルールに入れる
「うちの会社は、個人データをどこに渡していますか」と聞かれて、すぐに答えられる総務担当者は多くありません。給与計算の委託、健康診断の実施機関、提携先への顧客名簿の提供、展示会で受け取ったリストなど、やり取りは部署ごとに散らばっています。
この記事では、各部署への聞き取り結果を生成AIで一覧表に整理し、第三者提供の確認・記録が必要な取引を洗い出す手順を解説します。記録義務の内容そのものは個人データの第三者提供の確認・記録義務で詳しく扱っています。
AIに任せること・任せないこと
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| AIに任せる | 聞き取りメモの表への整理、表記ゆれの統一、区分の「案」と判断に足りない情報の指摘、記録簿の列の下書き |
| 人が確認する | 委託か第三者提供かなどの区分の最終判断、記録が必要かどうか、契約書で記録を兼ねられるか |
| AIに入力しない | 顧客・従業員の氏名や連絡先などの実データ、名簿そのもの、マイナンバー、契約書の個人名が書かれた部分 |
AIに渡すのは「営業部が、提携先A社に、セミナー申込者の氏名・会社名・メールアドレスを、月1回CSVで送っている」といった業務の説明だけです。取引先の社名も、必要がなければ「提携先A社」のように置き換えます。個人情報保護委員会も、生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合は、利用目的の範囲内か十分に確認するよう注意を呼びかけています。
前提:記録が要る提供・要らない提供
個人情報保護法は、個人データを第三者に提供したときは提供者に記録の作成・保存を(第29条)、提供を受けるときは受領者に相手方と取得の経緯の確認と記録を(第30条)求めています。ただし、次のような場合は対象外です。
| 区分 | 記録 | 主な例 |
|---|---|---|
| 委託・事業承継・共同利用(第27条第5項) | 不要(第三者に当たらない) | 給与計算・健診・発送の委託 |
| 法令に基づく提供など(第27条第1項各号) | 不要 | 年金事務所への届出、税務署への法定調書 |
| 本人に代わる提供など(Q&Aの解釈) | 不要 | 顧客の依頼で連絡先を伝える、給与の口座振込 |
| 本人の同意に基づく第三者提供 | 必要 | 同意を得て提携先に名簿を渡す |
| 第三者からの名簿・リストの受領 | 受領側の確認・記録が必要 | リストの購入、他社からの顧客情報の受領 |
この区分は、条文と個人情報保護委員会のガイドライン・Q&Aに照らして判断します。AIは区分の名称を知っていても、個別の事情に当てはめると誤ることがあります。
手順1:部署ごとの聞き取り項目を決める
まず、各部署に聞く項目をそろえます。AIに聞き取りシートの下書きを作らせると早く済みます。
総務担当者が各部署に「個人データの社外とのやり取り」を聞き取ります。
聞き取りシートの質問を10問以内で作ってください。
・渡す場合と受け取る場合の両方を聞く
・相手、データの項目、頻度、手段(メール・クラウド・紙など)、契約書の有無を必ず聞く
・個人の氏名や実データは書かないよう注意書きを入れる
人事・総務・営業・マーケティング・経理など、外部とのやり取りが多い部署から先に聞きます。
手順2:聞き取りメモを一覧表にする
集まったメモを貼り付けて、表にさせます。
次の聞き取りメモを、個人データの社外とのやり取りの一覧表にしてください。
列:No./部署/業務名/方向(提供・受領)/相手(置き換え名)/本人の種類(顧客・従業員・応募者など)/データの項目/頻度/手段/契約書・同意書の有無
・メモに書かれていないことは推測せず「不明」と書いてください
・同じやり取りが重複している場合はまとめ、その旨を備考に書いてください
(ここに聞き取りメモを貼り付け)
「不明」が多い行は、もう一度部署に確認します。
手順3:区分の案と不足している情報を出させる
手順2の表の各行について、個人情報保護法上の区分の「案」を付けてください。
区分:委託/法令に基づく提供/本人に代わる提供/本人の同意に基づく第三者提供/第三者からの受領/判断できない
・それぞれ、区分の案とした理由を1行で書いてください
・判断に追加で必要な情報(契約の内容、本人への説明の有無など)を別の列に書いてください
・断定せず、最終判断は担当者が行う前提で書いてください
AIの案は出発点です。たとえば「委託」とされていても、委託先がそのデータを自社の目的にも使っている場合は委託に当たらない可能性があります。逆に「第三者提供」とされた行が、本人の求めに応じた連絡にすぎないこともあります。判断に迷う行は、ガイドラインとQ&Aで確認し、必要に応じて専門家に相談します。
手順4:記録が必要な行の扱いを決める
区分が「同意に基づく第三者提供」「第三者からの受領」になった行について、記録の作り方を決めます。
| 決めること | 選択肢の例 |
|---|---|
| 記録の作り方 | 提供の都度作る/継続的な提供は一括で作る |
| 記録を兼ねる書類 | 契約書、同意書、送付記録、データ伝送のログ |
| 保管場所と担当 | 部署ごとに保管し、総務が一覧を管理する |
| 保存期間 | 契約書等で記録した場合は1年、一括記録は最後の提供から3年、それ以外は3年 |
個人情報保護委員会のQ&Aは、既存の契約書などで記録事項を満たしていれば、別に台帳を作る必要はないとしています。ただし、どの書類が記録に当たるかは明確にしておきます。記録を別に作る場合は、第三者提供の記録簿のような様式を用意すると漏れを防げます。
棚卸しで見落としやすいやり取り
聞き取りでは、担当者が「個人データを渡している」と意識していないやり取りが漏れがちです。AIに一覧表を作らせた後、次のような観点で抜けがないかを質問させると効果的です。
| 見落としやすい例 | 確認のポイント |
|---|---|
| 営業担当者が個人のメールで送っている顧客リスト | 部署の公式な業務として把握されているか |
| 展示会・セミナーの共催企業との参加者リストの共有 | 共催企業への提供について本人の同意を得ているか、共同利用として通知・公表しているか |
| 採用で人材紹介会社から受け取る応募者情報 | 受領側としての確認・記録が必要な取引に当たるか |
| グループ会社との顧客情報・従業員情報の共有 | グループ会社も法律上は別の「第三者」に当たる |
| クラウドサービスへの保存 | 委託に当たるか、委託先の監督の対象に入っているか |
手順2の表を見て、一般的な中小企業で見落とされやすい個人データの社外とのやり取りのうち、表に出ていないものを質問の形で挙げてください。各部署に追加で確認するための質問にしてください。
手順5:一覧を次回の点検に使える形で残す
作った一覧は、個人情報の管理台帳とあわせて保管し、年に1回、または新しい取引が始まるたびに更新します。次回はAIに「前回の一覧と今回の聞き取りメモの差分」を出させれば、追加・終了したやり取りだけを確認すれば済みます。委託に当たる行は、委託先の監督(契約、安全管理の確認)の対象として別に管理します(委託先の監督)。
まとめ
- AIには、部署ごとの聞き取りメモから個人データの社外とのやり取りの一覧表を作らせる。実データや個人名は入力しない
- 委託・法令に基づく提供・本人に代わる提供・同意に基づく第三者提供などの区分は、AIに案を出させ、条文とQ&Aで人が判断する
- 記録が必要な取引は、契約書などで記録を兼ねるか、記録簿を作るかを決め、保存期間を文書管理のルールに入れる
個人情報の管理業務にAIをどう組み込むか相談したいときは、Otsumu株式会社のAIツール診断をご利用ください。
この記事で使えるテンプレート
総務 個人データの第三者提供・受領 記録簿 個人情報保護法第29条・第30条が求める、第三者提供の記録と受領時の確認・記録を1枚の表で管理する記録簿です。提供と受領を区別し、施行規則が定める記録事項(相手方の名称・住所・代表者、本人を特定する事項、データの項目、同意の有無、取得の経緯など)と、記録を兼ねる書類、保存期限の欄を設けています。 総務 個人情報 管理台帳 社内で扱う個人データ(従業員名簿、給与データ、応募者情報、顧客名簿など)を一覧にする台帳です。個人情報保護委員会のガイドラインが例示する項目に、保管場所・保存期間・委託先・廃棄方法などを加えています。この記事に出てくる用語
- 委託先の監督
- 給与計算や名刺管理、書類の廃棄などで個人データの取扱いを外部に委託するとき、委託元の会社が委託先の安全管理を確認・監督する義務です。
- 個人データ
- 検索できるように体系的に整理された個人情報の集まり(個人情報データベース等)を構成する個人情報のことです。社員名簿や顧客台帳、名刺管理ソフトの中の情報などが該当します。
- 第三者提供
- 会社が持つ個人データを、本人と自社以外の者に渡すことです。原則として本人の同意が必要で、提供したときや受け取ったときは記録を作成します。
- 年金事務所
- 日本年金機構の地域の窓口で、健康保険(協会けんぽ)・厚生年金保険の加入や保険料に関する会社の届出を受け付けます。
- 法定調書
- 給与・退職金・報酬・家賃などを支払った会社が、支払先や金額を税務署に報告するために提出する書類です。源泉徴収票や支払調書などがあり、原則として翌年1月31日までに合計表と一緒に提出します。
- マイナンバー
- 住民票を持つすべての人に1人1つ指定される12桁の番号です。会社は社会保障・税・災害対策の法定の手続に限って従業員などのマイナンバーを取り扱えます。
出典・参考資料
この業務、AIでどこまで減らせるか診断します。Otsumu の「AIツール診断」で、自社の業務フローから自動化できる作業を洗い出します。
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