年俸制でも残業代は必要|賞与込み年俸の割増単価、残業代を年俸に含める条件と毎月払い
年俸制は賃金を年単位で決める仕組みで、残業代の支払いを免れる制度ではありません。年俸を分割して賞与月に多く払う場合の割増単価、残業代を年俸に含めるときの条件、毎月1回以上払いの原則、年俸額を途中で変えるときの注意点を、厚生労働省のQ&Aに沿って整理します。
- 対象読者
- 年俸制の導入・運用を担当する人事・給与計算担当者、経営者
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この記事のポイント
- 年俸制でも、法定労働時間を超えれば割増賃金が必要。例外は管理監督者などに限られ、その場合も深夜割増は必要
- 年俸の一部を「賞与」として払っても、額があらかじめ確定していれば割増賃金の基礎から除外できない。年俸総額÷12を月額として単価を出す
- 残業代を年俸に含めるなら、通常の賃金部分と割増賃金部分を区別し、想定時間を超えた分は追加で支払う
「年俸制だから残業代は出ない」という説明を、採用面接や社内で耳にすることがあります。これは誤りです。年俸制は賃金の額を1年単位で決める方法にすぎず、労働時間のルールはほかの従業員と変わりません。
この記事では、年俸制で残業代が必要な理由と、年俸制ならではの計算の注意点を整理します。
年俸制と労働時間のルール
年俸制とは、前年の成果や役割などをもとに、1年分の賃金額をあらかじめ決める仕組みです。法律上の特別な制度ではないため、次のルールはそのまま適用されます。
| ルール | 年俸制での扱い |
|---|---|
| 法定労働時間(1日8時間・週40時間) | 適用される |
| 36協定・時間外労働の上限 | 適用される |
| 時間外・休日・深夜の割増賃金 | 支払いが必要 |
| 毎月1回以上・一定期日払い(労基法第24条第2項) | 年俸も分割して毎月払う |
| 最低賃金 | 月額に換算して確認する |
労使で「年俸制なので残業代は支払わない」と合意しても、その合意は無効です。厚生労働省のQ&Aでも、年俸制であることを理由に割増賃金の支払いを免れることはできないとされています。
例外になるのは管理監督者など
労働時間・休憩・休日の規定が適用されないのは、労基法第41条に当たる人(管理監督者、機密の事務を取り扱う人など)だけです。年俸制かどうかは関係ありません。また、管理監督者であっても深夜割増は必要です。
「年俸制の管理職」を残業代の対象外にしている場合は、本当に管理監督者に当たるかを確認してください(管理監督者とは)。
年俸制の割増単価の出し方
年俸を12で割る場合
年俸を12等分して毎月払う場合は、月額をもとに通常の月給と同じ方法で単価を出します。
割増単価 =(年俸 ÷ 12 - 除外できる手当)÷ 1か月平均所定労働時間
年俸の一部を賞与月に払う場合
よくあるのが「年俸600万円を16分割し、毎月1/16、6月と12月に2/16ずつ払う」という形です。このとき、6月・12月に払う部分を「賞与」と呼んでいても、額があらかじめ確定しているため、割増賃金の基礎から除外できる「賞与(1か月を超える期間ごとに支払われる賃金)」には当たりません。
厚生労働省のQ&Aでも、賞与部分を含めて確定した年俸額を基礎に割増賃金を計算する必要があるとされています。
計算例:年俸600万円(16分割、毎月37.5万円+6月・12月に75万円)、1か月平均所定労働時間160時間、除外する手当なし。
| 計算方法 | 月額 | 単価 |
|---|---|---|
| 誤り:毎月の支給額だけで計算 | 375,000円 | 375,000 ÷ 160 ≒ 2,344円 |
| 正しい:年俸総額÷12で計算 | 500,000円 | 500,000 ÷ 160 = 3,125円 |
この例では、1時間あたりの単価に約780円の差が出ます。月20時間の残業なら、1か月で2万円近く未払いになる計算です。
業績に応じて支給額が変わる本来の賞与(年俸とは別に、支給の有無や額が決まっていないもの)は、割増賃金の基礎から除外できます。「年俸に含まれる確定額」と「別途支給する業績賞与」を、規程と労働条件通知書で書き分けておきましょう。
除外できる手当(家族手当・通勤手当・住宅手当など7種類)の考え方は残業代(割増賃金)の正しい計算方法を参照してください。
残業代を年俸に含める場合の条件
年俸に一定時間分の残業代を含めること自体は可能です。ただし、固定残業代と同じ条件を満たす必要があります。
- 年俸のうち、通常の賃金部分と割増賃金相当部分が明確に区別されている(金額と、何時間分かを示す)
- 割増賃金相当部分が、法定の計算方法による額以上である
- 実際の残業時間で計算した額が含めた額を超えた月は、差額を追加で支払う
「年俸600万円(残業代を含む)」とだけ書いた契約では、どこまでが残業代か区別できず、全額が通常の賃金と判断されるおそれがあります。その場合、600万円全体を基礎にした残業代を別に払うことになりかねません。
設計の詳細は固定残業代(みなし残業)を正しく運用する条件、労働条件通知書への書き方は労働条件通知書の書き方と労働条件通知書のテンプレートを参考にしてください。
年俸制の運用で気をつけること
年度途中の減額
年俸は1年分の約束です。業績が悪いからといって、年度の途中で会社が一方的に減額することはできません。翌年度の年俸を決めるときも、評価の基準と決定の手続き、合意できない場合の扱いを就業規則や年俸規程に定めておきます。
欠勤・途中入退社の扱い
年俸制でも、欠勤控除や日割りの方法を決めておく必要があります。計算の基礎を「年俸÷12」にするのか「毎月の支給額」にするのかを規程に書きます(中途入社・欠勤の日割り計算)。
労働時間の記録
年俸制の人も、労働時間の把握義務の対象です。「年俸制の人は打刻不要」という運用をしていると、残業代の計算も長時間労働の確認もできません(労働時間の適正な把握義務)。
導入・見直しのチェックリスト
- 年俸制の対象者に、管理監督者でない人が含まれていないか
- 年俸の内訳(基本年俸、固定残業代、賞与相当の確定額)が書面で区別されているか
- 割増単価を「年俸総額÷12」から計算しているか
- 固定残業代の想定時間を超えた月に差額を払っているか
- 年俸の決定・改定の手続きを規程に定めているか
- 賃金規程に年俸制の章を設けているか(賃金規程のひな形)
まとめ
- 年俸制でも残業代は必要。対象外になるのは管理監督者などに限られ、深夜割増は必要
- 年俸の一部を賞与月に払っても、確定額であれば割増賃金の基礎に含める。年俸総額÷12で単価を出す
- 残業代を年俸に含めるなら、金額と時間数を区別し、超えた分は追加で払う
- 年度途中の一方的な減額はできない。年俸の決め方と内訳を規程と通知書に書いておく
この記事で使えるテンプレート
労務 賃金規程(ひな形・基本構成) 賃金の構成、基本給と諸手当、締切日・支払日、支払方法と控除、割増賃金の計算方法と割増率、欠勤・遅刻早退の控除、中途入退社の日割り、休業手当、非常時払い、昇給・賞与までを条文にした賃金規程のひな形です。金額や日付は空欄にしています。 人事 労働条件通知書(パート・有期雇用用) パートタイム・有期雇用の従業員向け労働条件通知書です。2024年4月改正の明示事項(変更の範囲・更新上限・無期転換)と、パートタイム・有期雇用労働法で求められる昇給・退職手当・賞与の有無、相談窓口、2026年10月から追加された「待遇の相違の内容・理由等について説明を求めることができる旨」を盛り込んでいます。この記事に出てくる用語
- 管理監督者
- 労働基準法の労働時間・休憩・休日の規定が適用されない「監督若しくは管理の地位にある者」です。役職名ではなく、職務内容・権限・待遇の実態で判断されます。
- 固定残業代
- 一定時間分の時間外労働などの割増賃金を、実際の残業の有無にかかわらず定額で支払う仕組みです。実際の残業代が定額を超えたら差額を支払う必要があります。
- 最低賃金
- 最低賃金法にもとづき国が定める賃金の最低額で、会社はこれ以上の賃金を支払う必要があります。都道府県ごとの地域別最低賃金と、特定の産業の特定最低賃金があります。
- 36協定
- 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて残業させたり、法定休日に働かせたりするために、会社と労働者の過半数代表が結び、労働基準監督署に届け出る労使協定です。
- 就業規則
- 労働時間・賃金・退職などの労働条件や職場のルールを定めた規則です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、作成して労働基準監督署に届け出る義務があります。
- 所定労働時間
- 就業規則や労働契約で会社が決めた、始業から終業までの時間から休憩時間を除いた労働時間です。法定労働時間の範囲内で定めます。
- 時間外労働
- 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働のことです。36協定の締結・届出と、25%以上の割増賃金の支払いが必要です。
- 法定労働時間
- 労働基準法で定められた労働時間の上限で、原則として休憩時間を除き1日8時間・1週40時間です。これを超えて働かせるには36協定の締結・届出が必要です。
- 労働条件通知書
- 会社が労働者を雇い入れるときに、賃金・労働時間・就業場所などの労働条件を書面で知らせるための文書です。労働基準法の「労働条件の明示」を果たすために使います。
- 割増賃金
- 時間外労働・休日労働・深夜労働をさせたときに、通常の賃金に上乗せして支払う賃金です。率は労働基準法と政令で定められています。