待遇差の説明書をAIで下書きする:正社員との待遇の違いと理由を、待遇ごとの表から読みやすい文書にする手順
パート・有期社員から正社員との待遇差の説明を求められたとき、説明書を一から書くのは大変です。待遇ごとに整理した表をもとに、生成AIで本人が読みやすい説明書の下書きを作り、理由の書き方の抜けや言い回しを点検する手順を、プロンプト例つきで解説します。
- 対象読者
- パート・有期社員から待遇差の説明を求められる場面に備えたい、従業員30〜300名の企業の人事・労務担当者
- 難易度
- 実務
- 所要時間
- 読了8分
- 最終確認日
この記事のポイント
- AIには、人事が整理した「待遇ごとの違いと理由の表」を、本人が読みやすい説明書の文章に直す作業と、理由が抜けている待遇の指摘を任せる
- 比較する正社員の選定、違いの理由が不合理でないかの判断、説明の場での回答は人が行う。理由が書けない待遇は、文章ではなく待遇そのものを見直す
- 本人や比較対象の正社員の氏名・給与額・評価などの個人情報はAIに入力しない。等級や賃金テーブルなどの基準の形で渡す
パート・有期社員から「正社員とどうして待遇が違うのか」と説明を求められたとき、会社には説明する義務があります(パートタイム・有期雇用労働法第14条第2項)。ところが、待遇の違いを表にまとめるところまではできても、本人が読んで分かる文章にするところで手が止まる担当者は少なくありません。
この記事では、人事が整理した待遇ごとの表をもとに、生成AIで説明書の下書きを作る手順を紹介します。説明義務の内容や比較する正社員の選び方は「パート・有期社員から待遇差の説明を求められたら」で解説しています。先にそちらで表を作ってから、この記事の手順に進んでください。
AIに任せること・任せないこと
| 作業 | AIの使い方 | 人が行うこと |
|---|---|---|
| 説明書の文章化 | ○ 待遇ごとの表を、本人向けの文章に直す | 内容が表と一致しているか確認する |
| 理由の抜け・あいまいさの点検 | ○ 理由が書かれていない待遇、抽象的な理由を指摘させる | 指摘を受けて理由を補う、または待遇を見直す |
| 想定質問の洗い出し | ○ 本人が聞きそうな質問を挙げさせる | 回答を人事が用意する |
| 比較する正社員の選定 | 使わない | 職務の内容と配置の変更の範囲から人事が決める |
| 待遇差が不合理かどうかの判断 | 使わない | 法令・ガイドラインに照らして人事が判断し、必要なら専門家に相談する |
AIは、もっともらしい理由を作文するのが得意です。しかし、説明書に書く理由は、実際に会社がその待遇を決めた理由でなければなりません。AIに理由を考えさせるのではなく、人事が決めた理由を読みやすく直す役割に限定します。
入力しない情報
待遇差の説明は、個人の賃金に直結する話です。AIには次の情報を入力しません。
- 入力しない:本人と比較対象の正社員の氏名、社員番号、個々の給与額・賞与額、評価結果、家族構成、マイナンバーなどの個人情報
- 注意する:同じ職種の正社員が1人しかいない場合の「◯◯課の正社員の月給」のような記述。誰のことか特定できる
- 入力してよい形:「正社員:等級別の月給(賃金テーブル)」「パート:職務別の時給」のような基準の記述
個人情報保護委員会は、生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合、利用目的の範囲内かどうかを十分に確認するよう注意を呼びかけています。社内のAI利用ルールも確認してください(→社内の生成AI利用ガイドライン)。
手順1:待遇ごとの表をそろえる
AIに渡す前に、次の表を人事が作ります。この表の質が説明書の質を決めます。
| 列 | 書く内容 |
|---|---|
| 待遇 | 基本給・賞与・各手当・休暇・福利厚生・教育訓練など、1つずつ |
| 正社員の基準 | 支給の有無、決め方 |
| 本人の基準 | 支給の有無、決め方 |
| 違いの有無 | あり/なし |
| 待遇の性質・目的 | その待遇を何のために支給しているか |
| 違いの理由 | 職務の内容、配置の変更の範囲、その他の事情のうち、性質・目的に照らして適切なもの |
手順2:説明書の下書きを作る
あなたは中小企業の人事担当者を支援するアシスタントです。
次の表は、パートタイム社員と比較対象の正社員の待遇の違いと理由を
人事が整理したものです。この表をもとに、本人に渡す
「待遇の違いに関する説明書」の下書きを作ってください。
条件:
- 読み手はパートタイム社員本人。専門用語は言い換える
- 待遇ごとに「正社員の扱い」「あなたの扱い」「違いの理由」を書く
- 表にない理由を付け加えない。表の理由があいまいな場合は、
文章を補わずに【要確認】と書く
- 個人が特定される表現(氏名・具体的な金額)は使わない
- 最後に、質問がある場合の相談先と、説明を求めたことで
不利益な扱いを受けないことを書く
(ここに手順1の表を貼る)
「表にない理由を付け加えない」「あいまいなら【要確認】と書く」と指示するのが要点です。AIが理由を補ってしまうと、会社の実態と違う説明書になります。
説明書の構成例
AIに渡す前に、説明書の構成を決めておくと、下書きのばらつきが減ります。
- 説明の対象(あなたと比較する正社員の範囲。職務の内容と配置の変更の範囲)
- 待遇ごとの違いと理由(基本給・賞与・各手当・休暇・福利厚生・教育訓練)
- 待遇を決めるに当たって考慮した事項(賃金の決め方、正社員への転換の制度など)
- 質問・相談の窓口と、説明を求めたことで不利益な扱いを受けないこと
構成をプロンプトに書いて「この順で」と指示します。
手順3:理由の抜けを点検させる
下書きとは別の会話で、表そのものを点検させます。
次の表は、正社員とパートタイム社員の待遇の違いと理由です。
待遇ごとに、次の観点で問題がありそうな箇所を表にしてください。
①違いがあるのに理由が書かれていない
②「正社員だから」「雇用形態が違うから」など、
理由になっていない理由
③待遇の性質・目的と、違いの理由が結びついていない
判断はしなくてよいので、人事が確認すべき点として挙げてください。
厚生労働省の同一労働同一賃金ガイドラインは、待遇ごとに性質・目的に照らして判断するという考え方を示しています。「将来の役割期待が違う」といった主観的・抽象的な説明だけでは足りないとされていますので、指摘された箇所は人事が具体的な事実で書き直します。理由が見つからない待遇は、文章の問題ではなく待遇の見直しが必要なサインです。
手順4:想定質問と回答を用意する
この説明書を受け取ったパートタイム社員が、面談で質問しそうなことを
10個挙げてください。質問だけを挙げ、回答は書かないでください。
回答は人事が用意します。「正社員になるにはどうすればよいか」という質問はよく出ます。正社員転換の制度があれば、その要件と手続きを説明できるようにしておきます(→無期転換ルールの実務)。
手順5:説明の前に確認すること
- □ 説明書の内容が、手順1の表と一致しているか(AIが言葉を足していないか)
- □ 比較対象の正社員が特定されない書き方になっているか
- □ 【要確認】の箇所がすべて解消されているか
- □ 相談先と、不利益な取扱いをしない旨が書かれているか
- □ 説明の日時・説明した内容・交付した資料を記録に残す準備があるか
雇用管理指針は、資料を使って口頭で説明する方法(その資料を交付することが望ましい)か、説明すべき事項をすべて記載した資料を交付する方法を示しています。説明書は口頭説明の補助として使い、本人が持ち帰れるようにしておきます。
よくある失敗
| 失敗 | 起きること | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| AIに理由を考えさせる | 実態と違う理由が説明書に載る | 理由は人事が決め、AIには文章化だけを頼む |
| 待遇をまとめて説明する | 「全体として低い」という説明になり、待遇ごとの判断ができない | 待遇を1つずつ並べた表を渡す |
| 説明書を作って終わりにする | 説明を求めた本人の疑問が解消されない | 面談で説明し、質問に答える |
まとめ
- 待遇差の説明書は、人事が作った待遇ごとの表をもとに、AIで本人向けの文章に直すと効率よく作れる
- AIには文章化と、理由の抜け・あいまいさの点検を任せる。比較対象の選定や不合理かどうかの判断は人が行う
- 表にない理由をAIに補わせない。理由が書けない待遇は、待遇そのものを見直す
- 氏名・給与額・評価などの個人情報はAIに入力しない
待遇差の整理や説明資料づくりにAIをどう組み込むか相談したいときは、Otsumu株式会社のAIツール診断をご利用ください。
この記事で使えるテンプレート
人事 労働条件通知書(パート・有期雇用用) パートタイム・有期雇用の従業員向け労働条件通知書です。2024年4月改正の明示事項(変更の範囲・更新上限・無期転換)と、パートタイム・有期雇用労働法で求められる昇給・退職手当・賞与の有無、相談窓口、2026年10月から追加された「待遇の相違の内容・理由等について説明を求めることができる旨」を盛り込んでいます。 労務 賃金規程(ひな形・基本構成) 賃金の構成、基本給と諸手当、締切日・支払日、支払方法と控除、割増賃金の計算方法と割増率、欠勤・遅刻早退の控除、中途入退社の日割り、休業手当、非常時払い、昇給・賞与までを条文にした賃金規程のひな形です。金額や日付は空欄にしています。この記事に出てくる用語
- 就業場所・業務の変更の範囲
- 雇い入れた後に、就業場所や従事する業務が変わりうる範囲のことです。2024年4月から、労働条件の明示事項に加わりました。
- マイナンバー
- 住民票を持つすべての人に1人1つ指定される12桁の番号です。会社は社会保障・税・災害対策の法定の手続に限って従業員などのマイナンバーを取り扱えます。
出典・参考資料
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