パート・有期社員から待遇差の説明を求められたら|比較する正社員の選び方、説明する内容と理由、説明書の作り方
パートタイム・有期雇用労働者から求めがあれば、会社は正社員との待遇の相違の内容と理由を説明しなければなりません(パートタイム・有期雇用労働法第14条第2項)。2026年10月からは雇入れ時にこの説明を求められることの明示も必要です。比較対象の正社員の選び方、説明する内容、理由の書き方、説明の方法、繰り返し求められたときの考え方を整理します。
- 対象読者
- パート・契約社員・嘱託社員から「正社員との待遇の違いを説明してほしい」と求められた、または備えておきたい従業員30〜300名の企業の労務担当者
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この記事のポイント
- 説明の比較対象は、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲などが、説明を求めた本人に最も近いと会社が判断する正社員。待遇の内容は「基準の違いの有無」と「個別の内容または基準」を説明する
- 理由は、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、その待遇の性質・目的に照らして適切なものに基づいて説明する。「パートだから」「将来の役割期待が違うから」だけでは説明にならない
- 説明は資料を使って口頭で行うか、必要事項をすべて書いた分かりやすい資料を渡す。説明を求めたことを理由に解雇・雇止め・減給などの不利益な取扱いをしてはならない(同法第14条第3項)
「同じ仕事をしているのに、なぜ私には賞与がないのですか」。パートや契約社員からこう聞かれたとき、その場で答えられる担当者は多くありません。2026年10月からは、雇入れ時や契約更新時に「待遇差の説明を求めることができる」と書面で伝えることになり、実際に説明を求められる場面は増えると考えられます。
この記事では、改正の概要はパート・有期雇用の労働条件明示に「待遇差の説明を求められる旨」が追加に譲り、説明を求められたときに会社がする作業の手順を整理します。
説明義務の内容
パートタイム・有期雇用労働法第14条第2項は、パート・有期雇用労働者から求めがあったときに、次の事項を説明するよう事業主に義務づけています。
| 説明する事項 | 内容 |
|---|---|
| 待遇の相違の内容と理由 | 正社員との間の基本給・賞与・手当・休暇・福利厚生などの違いと、その理由 |
| 措置を決めるに当たって考慮した事項 | 労働条件の文書明示、就業規則の作成手続、不合理な待遇の禁止、差別的取扱いの禁止、賃金の決定方法、教育訓練、福利厚生施設、正社員転換の措置について、何を考慮して決めたか |
説明を求めたことを理由に、解雇、配置転換、降格、減給、昇給停止、出勤停止、契約の更新拒否などの不利益な取扱いをしてはなりません(同条第3項)。厚生労働省は、不利益な取扱いを恐れずに説明を求めることができる職場環境にしていくことが望まれるとしています。
手順1:比較する正社員を決める
厚生労働省の解説では、比較の対象となる通常の労働者は、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲などが、説明を求めた本人と最も近いと事業主が判断する通常の労働者とされています。
「職務の内容」は業務の内容と責任の程度、「職務の内容及び配置の変更の範囲」は転勤・異動・昇進の有無や範囲のことです。選び方の順番が法令で決まっているわけではありませんが、たとえば次の順で近い人(または人のグループ)を探すと整理しやすくなります。
- 職務の内容と、配置の変更の範囲がどちらも同じ正社員
- 職務の内容は同じだが、配置の変更の範囲が違う正社員
- 職務の内容の一部(中核的な業務など)が同じ正社員
- 職務の内容も配置の変更の範囲も違うが、最も近い正社員
少人数の会社では、同じ仕事をしている正社員が一人しかいないこともあります。その場合でも比較対象として選び、説明の際は個人が特定されないよう、等級や賃金テーブルなどの基準で示す工夫をします。
手順2:待遇の相違の内容を整理する
厚生労働省は、待遇の相違の内容として、正社員と本人との間で待遇に関する基準の違いの有無を説明しつつ、待遇の個別具体的な内容または待遇に関する基準を説明するよう求めています。
| 待遇 | 正社員 | 本人(パート) | 基準の違い |
|---|---|---|---|
| 基本給 | 等級別の月給(賃金テーブル) | 職務別の時給 | あり |
| 賞与 | 年2回、会社業績と評価で決定 | 寸志(年2回) | あり |
| 通勤手当 | 実費(上限あり) | 実費(上限あり) | なし |
| 住宅手当 | 転居を伴う異動がある者に月額◯円 | 支給なし | あり |
| 慶弔休暇 | あり | あり | なし |
待遇は個別に一つずつ並べます。不合理かどうかは待遇ごとに判断されるため、「全体として正社員より低い」というまとめ方では足りません。
手順3:相違の理由を説明する
理由は、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、その待遇の性質と目的に照らして適切と認められるものに基づいて説明します。
| 待遇 | 性質・目的 | 理由の例 |
|---|---|---|
| 基本給 | 職務と責任の程度に応じた賃金 | 正社員は部門の売上目標と部下の指導に責任を負い、本人は定型業務を担当している |
| 住宅手当 | 転居を伴う異動に伴う住宅費の補助 | 正社員には転居を伴う異動があり、本人にはない |
| 賞与 | 会社業績への貢献に応じた配分 | 貢献の程度を評価する仕組みと責任の範囲が違う。違いに応じた額を支給している |
2026年10月改正の同一労働同一賃金ガイドラインでは、「正社員としての職務を遂行しうる人材の確保・定着を図る」という目的があることだけで、待遇差が直ちに不合理でないと認められるわけではないことが明記されました。また、住宅手当が転居を伴う配置の変更の有無に応じて支給されるものなら、同じく転居を伴う配置の変更がある人には同一の手当を支給するとされています。
説明しようとして理由が見つからない待遇は、待遇そのものの見直しが必要なサインです。ガイドラインは、待遇差を解消する場合は正社員の待遇を下げるのではなく、パート・有期雇用労働者の待遇改善によることが求められる旨も明確にしています。
手順4:説明する
説明の方法
雇用管理指針は(リーフレット)、説明の方法を次のいずれかとしています(2026年10月改正で明記)。
- 資料を活用し、口頭により説明する(この場合、説明に使った資料を交付することが望ましい)
- 説明すべき事項をすべて記載した、本人が容易に理解できる資料を交付する
富山労働局など各労働局のサイトには、待遇差等の説明に当たっての説明書例が掲載されています。手順1〜3で整理した表をもとに作ると、内容がそろいます。
面談の進め方
- 本人が何について説明を求めているか(全体か、賞与だけかなど)を確認する
- 比較対象の正社員(の基準)と、待遇ごとの違い・理由を資料で示す
- 質問を受け、その場で答えられないことは期日を決めて回答する
- 面談の日時・説明した内容・交付した資料を記録に残す
繰り返し求められたとき
厚生労働省のQ&Aは、説明は求められるたびに行う必要があり、1回説明すればよいものではないとしています。ただし、本人が納得するまで説明を求めるものではなく、事情の変化がないのに同じ人が同じ事項について繰り返し説明を求める場合にまで、説明義務が生じるものではないとしています。
求められる前にしておくこと
指針は、説明の求めがない場合でも、契約更新の際などに待遇の違いを分かりやすく示した資料を交付することや、説明を求められることを周知することが望ましいとしています。
- 労働条件通知書に、説明を求めることができる旨と窓口を記載する(労働条件通知書)
- 正社員とパート・有期雇用者の待遇の比較表を、雇用区分ごとに作っておく
- 手当や休暇の規程を見直す(家族手当・住宅手当の設計と見直し、夏季休暇・年末年始休暇の決め方)
- 定年後再雇用者の待遇も対象になる(60代社員の活躍と処遇)
正社員への転換制度の整え方は契約社員・パートの正社員登用制度の作り方、有期契約の更新ルールは有期契約の更新・雇止めのルールを参照してください。
まとめ
- 比較対象は、職務の内容と配置の変更の範囲が本人に最も近い正社員。待遇は一つずつ、基準の違いと内容を示す
- 理由は待遇の性質・目的に照らして説明する。人材確保の目的だけでは足りない
- 資料を使って口頭で説明するか、すべてを書いた資料を渡す。記録を残す
- 説明を求めたことを理由とした不利益な取扱いは禁止。理由を説明できない待遇は見直す
この記事で使えるテンプレート
人事 労働条件通知書(パート・有期雇用用) パートタイム・有期雇用の従業員向け労働条件通知書です。2024年4月改正の明示事項(変更の範囲・更新上限・無期転換)と、パートタイム・有期雇用労働法で求められる昇給・退職手当・賞与の有無、相談窓口、2026年10月から追加された「待遇の相違の内容・理由等について説明を求めることができる旨」を盛り込んでいます。この記事に出てくる用語
- 継続雇用制度
- 定年に達した社員を、本人が希望すれば引き続き雇用する制度です。定年でいったん退職して新たに契約を結ぶ「再雇用制度」と、退職せずに雇用を続ける「勤務延長制度」があります。
- 降格
- 役職や等級を下げることです。人事権の行使としての降格と、懲戒処分としての降格があり、賃金が下がる場合は根拠と相当性が問われます。
- 就業規則
- 労働時間・賃金・退職などの労働条件や職場のルールを定めた規則です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、作成して労働基準監督署に届け出る義務があります。
- 就業場所・業務の変更の範囲
- 雇い入れた後に、就業場所や従事する業務が変わりうる範囲のことです。2024年4月から、労働条件の明示事項に加わりました。
- 配置転換
- 同じ会社の中で、職務の内容や勤務場所を変えることです。勤務地が変わるものを特に転勤といいます。
- 労働条件通知書
- 会社が労働者を雇い入れるときに、賃金・労働時間・就業場所などの労働条件を書面で知らせるための文書です。労働基準法の「労働条件の明示」を果たすために使います。
出典・参考資料
- e-Gov法令検索「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(第8条 不合理な待遇の禁止、第14条 事業主が講ずる措置の内容等の説明)
- 香川労働局掲載 厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法のあらまし」(PDF)
- 厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法施行規則/雇用管理指針の主な改正事項」(令和8年10月1日施行・PDF)
- 厚生労働省リーフレット「パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります(令和8年10月1日施行)」(PDF)
- 厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」
- 富山労働局「パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります(令和8年10月1日施行・適用)」(待遇差等の説明に当たっての説明書例)