人事の月次レポートをAIで作る:人数・入退社・離職率・残業時間を経営会議用の1枚にまとめる手順
毎月の人事レポート(在籍人数、入退社、離職率、残業時間、有休取得)を、生成AIとスプレッドシートで効率よく作る方法を解説します。指標の定義の決め方、集計表の作り方、AIへの渡し方、コメントの下書き、個人が特定される情報を出さない注意点までまとめます。
- 対象読者
- 経営会議や役員向けに、毎月の人員数・入退社・残業の状況を報告している、従業員30〜300名の企業の人事・労務担当者
- 難易度
- 実務
- 所要時間
- 読了8分
- 最終確認日
この記事のポイント
- 月次レポートで大切なのは「毎月同じ定義で数えること」。離職率などの定義は最初に決めて、レポートに明記する
- AIに渡すのは部署・月単位の集計表だけ。従業員一覧や給与・勤怠の個人データ、マイナンバーは入力しない
- AIは数字の計算ではなく、前月・前年との比較コメントや、経営層が気にしそうな論点の下書きに使う。数字は必ずスプレッドシートで確かめる
「今月の退職者は何人?」「残業は増えている?」。経営会議の前になると、人事担当者は勤怠システムや給与ソフトから数字を集め、表とコメントを作ります。毎月のことなのに、定義があいまいなまま作っていると、前月と比べられない資料になってしまいます。
この記事では、人事の月次レポートを「集計はスプレッドシート、コメントはAI」で作る手順を紹介します。人事データの管理そのものは「人事データの管理」を参照してください。
月次レポートに入れる指標を決める
まず、毎月報告する指標を決めます。30〜300名の会社なら、次の項目から始めると無理がありません。
| 指標 | 数え方の例 | 主なデータの出どころ |
|---|---|---|
| 在籍人数 | 月末時点の在籍者(雇用形態別) | 人事台帳・給与ソフト |
| 入社・退社の人数 | 当月中に入社した人、退職日が当月の人 | 入退社の記録 |
| 離職率(年度累計) | 年度初めからの退職者数÷年度初めの在籍人数 | 人事台帳 |
| 時間外労働 | 部署別の平均・最大、月45時間超の人数 | 勤怠システム |
| 有給休暇の取得 | 年5日の取得義務の未達見込み人数 | 勤怠システム・年次有給休暇管理簿 |
| 休職・休業の人数 | 休職中・育児休業中などの人数 | 人事台帳 |
離職率の定義を明記する
離職率は、会社によって数え方がばらばらです。厚生労働省の雇用動向調査では、離職率を「1月1日現在の常用労働者数に対する離職者数の割合」として算出しています。自社のレポートでは、たとえば次のように決めて、毎回レポートの下に書いておきます。
- 分母:年度初め(4月1日)時点の在籍人数(正社員・契約社員。パートは別集計)
- 分子:年度初めから当月末までの退職者数(定年退職を含むかどうかも明記)
公表データと比べるときは、定義の違いを踏まえて「参考」として扱います。新卒の定着状況は「新卒の3年以内離職率」の記事も参考になります。
入力しない情報
- 入力しない:従業員一覧、氏名・社員番号、個人ごとの給与・残業時間・評価、休職の理由や健康情報、マイナンバー
- 注意する:人数が少ない部署の数字。「部署Aの退職1名」だけでも、社内の人には誰か分かることがある
- 入力してよい形:部署・月単位で集計した表。人数が少ない部署は「その他」にまとめる
退職理由のような情報は、集計しても個人が推測されやすい項目です。AIに渡す前に、人数が3人未満になる区分は合算するなどのルールを決めておきます。
手順1:集計表をスプレッドシートで作る
計算はAIではなくスプレッドシートで行います。勤怠システムや給与ソフトから出したデータを、月ごとに次の形の表にまとめます(数字は例です)。
| 指標 | 当月 | 前月 | 前年同月 |
|---|---|---|---|
| 在籍人数(正社員) | 112 | 111 | 105 |
| 入社 | 2 | 1 | 3 |
| 退社 | 1 | 2 | 1 |
| 離職率(年度累計) | 5.4% | 4.5% | 6.7% |
| 時間外労働の平均(全社) | 18.2時間 | 15.6時間 | 17.0時間 |
| 月45時間超の人数 | 4 | 2 | 3 |
関数や集計の仕組みをAIに書かせる方法は「スプレッドシート関数・GASをAIに書かせるコツ」、残業の上限管理は「36協定の上限管理をAI+勤怠データで見える化する」で紹介しています。
手順2:AIにコメントの下書きを頼む
集計表ができたら、AIにコメントを書かせます。数字はAIに計算させず、表の数字を読んで説明させるだけにします。
あなたは中小企業の人事担当者を支援するアシスタントです。
次は当社の人事月次レポートの集計表です(個人を特定する情報は含みません)。
この表をもとに、経営会議向けのコメントを作ってください。
条件:
- 「全体の状況」「前月・前年同月との比較で目立つ点」「確認が必要な点」の3つに分ける
- 各項目は2〜3行
- 表にない原因を推測で書かない。原因が分からないものは「要確認」と書く
- 数字は表の値をそのまま使い、新たに計算しない
「原因を推測で書かない」と指示するのが大切です。AIは「繁忙期のため」などともっともらしい理由を書きがちですが、事実と違えば経営判断を誤らせます。
手順3:論点と質問を想定する
経営会議では、数字について質問が出ます。事前にAIで想定問答を作っておくと、当日の説明がスムーズです。
上の集計表とコメントを見た経営者が聞きそうな質問を5つ挙げ、
それぞれ「回答に必要なデータ」を書いてください。回答そのものは書かないでください。
たとえば「月45時間超が倍になった部署はどこか」「離職率は同業と比べて高いのか」といった質問が出れば、必要なデータを人が準備します。
手順4:レポートの型を固定する
毎月同じ形で出すと、経営層も変化に気づきやすくなります。
| 欄 | 内容 |
|---|---|
| 集計表 | 指標と当月・前月・前年同月の数字 |
| コメント | 全体の状況、目立つ点、確認が必要な点 |
| 対応状況 | 前月に挙がった課題への対応 |
| 定義と注記 | 離職率の定義、集計の対象、合算した区分 |
AIへの指示文(プロンプト)も、毎月同じものを使います。社内の手順書に貼っておくと、担当者が休んでも同じ品質で作れます。
指標は年に1回見直す
最初から指標を増やしすぎると、集計に時間がかかり、毎月続かなくなります。半年から1年ほど運用したら、次の観点で見直します。
| 見直しの観点 | 例 |
|---|---|
| 経営会議で使われているか | 一度も質問が出ない指標は、四半期ごとの報告に回す |
| 新たに必要な指標はないか | 採用の応募数、育児休業の取得人数、研修の受講率など |
| 集計の手間に見合っているか | 手作業の転記が多い指標は、システムの出力で済むか確認する |
| 定義は変わっていないか | 雇用形態の区分や、部署の統廃合への対応 |
指標や定義を変えたときは、その月のレポートに「○月から定義を変更」と書き、過去の数字との比較に注意を促します。見直しの案づくりにもAIは使えます。過去1年分のレポートの「コメント」欄だけを渡し、「繰り返し挙がっている論点」と「一度も触れられていない指標」を挙げさせると、議論の材料になります。
チェックリスト:提出前に確認すること
- □ 集計表の数字は、元データ(勤怠・給与・人事台帳)と照合した
- □ AIのコメントの数字が、表の数字と一致している
- □ 表にない原因や推測が書かれていない
- □ 人数の少ない部署で、個人が推測される書き方になっていない
- □ 離職率などの定義をレポートに書いた
まとめ
- 月次レポートは、指標と定義を決めて毎月同じ型で作る
- 計算はスプレッドシートで行い、AIには集計表の説明コメントと想定質問の下書きを頼む
- 従業員一覧や個人ごとの給与・勤怠・健康情報、マイナンバーはAIに入力しない。人数の少ない区分は合算する
- AIのコメントは、数字の一致と推測の有無を人が確認してから出す
人事データの集計やレポート作成を、AIでどこまで効率化できるか相談したいときは、Otsumu株式会社のAIツール診断をご利用ください。
この記事に出てくる用語
- 育児休業
- 子を養育するために、原則として子が1歳になるまで取得できる休業です。育児・介護休業法にもとづき、保育所に入れないなどの場合は最長2歳まで延長できます。
- 休職
- 病気やけがなどで働けない社員について、労働契約を続けたまま一定期間、労働義務を免除する制度です。法律上の義務ではなく、会社が就業規則で内容を決めます。
- 時間外労働
- 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働のことです。36協定の締結・届出と、25%以上の割増賃金の支払いが必要です。
- 定年
- 一定の年齢に達したことを理由に労働契約が終了する制度です。定年を定める場合は60歳以上にしなければなりません。
- 年5日の取得義務
- 年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者について、会社が時季を指定して年5日を確実に取得させる義務です。2019年4月から始まりました。
- 年次有給休暇
- 一定期間働いた労働者に与えられる、賃金が支払われる休暇です。6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤すると10日付与され、勤続に応じて最大20日まで増えます。
- マイナンバー
- 住民票を持つすべての人に1人1つ指定される12桁の番号です。会社は社会保障・税・災害対策の法定の手続に限って従業員などのマイナンバーを取り扱えます。
出典・参考資料
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