人事データの一元管理|従業員台帳の項目設計、労働者名簿との関係、個人情報の取扱いルール
従業員の情報が、給与ソフト・勤怠システム・Excel・紙のファイルに分かれていると、更新漏れや二重入力、情報漏えいの原因になります。法律で作成が義務づけられた労働者名簿の記載事項と保存期間、従業員台帳の項目設計、閲覧権限の決め方、健康情報やマイナンバーの分けて管理すべき情報まで整理します。
- 対象読者
- 従業員30〜300名の企業で、従業員情報をExcelや複数のシステムに分散して管理している人事・総務担当者
- 難易度
- 実務
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この記事のポイント
- 労働者名簿は労働基準法107条で作成が義務づけられた帳簿。氏名・生年月日・履歴・性別・住所・業務の種類・雇入れ日・退職日と事由などを記載し、退職等の日から保存する
- 一元管理の第一歩は「どの情報を、どこを正として持つか」を決めること。項目ごとに管理元・更新のきっかけ・閲覧できる人を一覧にする
- 健康情報などの要配慮個人情報とマイナンバーは、一般の人事情報と分けて管理し、閲覧できる人を絞る。利用目的は就業規則や社内通知で明らかにしておく
従業員の住所が変わったのに、給与ソフトは更新したが緊急連絡先のExcelは古いまま。異動の履歴は人事担当者の頭の中にしかない。こうした状態は、少人数の会社ほど起きやすいものです。
人事データの一元管理とは、すべてを1つのシステムに入れることではなく、どの情報をどこで管理し、誰が更新し、誰が見られるのかを決めることです。この記事では、法律で作成が必要な帳簿との関係から、従業員台帳の項目設計、個人情報の取扱いルールまでを整理します。
法律で作成が必要な帳簿
人事データの土台になるのが、労働基準法で作成が義務づけられた帳簿です。
| 帳簿 | 根拠 | 主な記載事項 |
|---|---|---|
| 労働者名簿 | 労働基準法107条 | 氏名、生年月日、履歴、性別、住所、従事する業務の種類、雇入れ日、退職日と事由、死亡日と原因 |
| 賃金台帳 | 労働基準法108条 | 賃金計算の基礎となる事項、賃金の額など |
| 出勤簿など労働時間の記録 | 労働基準法109条(重要な書類) | 始業・終業時刻など |
| 年次有給休暇管理簿 | 労働基準法施行規則24条の7 | 時季、日数、基準日 |
労働者名簿の記載事項
労働者名簿は、事業場ごとに、日々雇い入れられる人を除く各労働者について作成します(労働基準法107条)。記載事項は、法律で定める氏名・生年月日・履歴のほか、労働基準法施行規則53条で次のように定められています。
- 性別
- 住所
- 従事する業務の種類(常時30人未満の事業では不要)
- 雇入れの年月日
- 退職の年月日とその事由(解雇の場合はその理由を含む)
- 死亡の年月日とその原因
記載事項に変更があったときは、遅滞なく訂正しなければなりません。
保存期間
労働者名簿や賃金台帳などは、労働基準法109条で5年間の保存が定められていますが、経過措置により当分の間は3年間とされています(労働基準法附則143条)。保存期間の起算日は書類ごとに決まっており、労働者名簿は「労働者の死亡、退職又は解雇の日」、賃金台帳は「最後の記入をした日」です(労働基準法施行規則56条)。
社会保険や税の書類はそれぞれ別の保存期間があります。書類ごとの保存期間は「文書管理と保存期間」で整理しています。
給与ソフトや人事システムの従業員マスタが、労働者名簿の記載事項をすべて満たしていれば、それを労働者名簿として使えます。退職の事由や履歴の欄がないことが多いので、項目を確認してください。
従業員台帳の項目設計
項目を「区分」に分ける
一元管理で最初にやるのは、管理している情報の棚卸しです。項目を次のように区分すると、閲覧権限や保存の方法を決めやすくなります。
| 区分 | 項目の例 | 機微度 |
|---|---|---|
| 基本情報 | 社員番号、氏名、生年月日、性別、住所、連絡先 | 中 |
| 雇用情報 | 雇用形態、入社日、所属、役職、等級、契約期間 | 中 |
| 履歴 | 学歴・職歴、異動・昇格の履歴、資格・研修受講歴 | 中 |
| 給与・社会保険 | 基本給、手当、口座、標準報酬月額、扶養家族 | 高 |
| 評価 | 評価結果、面談記録 | 高 |
| 勤怠・休暇 | 有給休暇の残日数、休職・育休の期間 | 中〜高 |
| 健康情報 | 健康診断結果、ストレスチェック、病歴、休職理由 | 特に高 |
| マイナンバー | 個人番号、扶養家族の個人番号 | 特に高(別管理) |
| 退職情報 | 退職日、退職事由 | 中 |
項目ごとに「正」を決める
同じ情報を複数の場所で持っていると、どれが正しいかわからなくなります。項目ごとに、次の4点を決めて一覧にしておきましょう。
| 項目 | 管理元(正) | 更新のきっかけ | 更新する人 |
|---|---|---|---|
| 住所 | 給与ソフト | 本人の住所変更届 | 人事担当 |
| 所属・役職 | 人事台帳(Excel) | 辞令の発令 | 人事担当 |
| 扶養家族 | 給与ソフト | 扶養異動の届出 | 給与担当 |
| 健康診断結果 | 健診データ(別フォルダ) | 健診結果の受領 | 衛生管理者など限られた担当者 |
「正」以外の場所にある情報は、正から転記するだけにして、直接書き換えないルールにすると、食い違いが起きにくくなります。
入社・異動・退職を更新のきっかけにする
人事データの更新漏れは、手続きの流れとデータの更新が切り離されているときに起きます。入社手続き、辞令の発令、退職手続きのチェックリストに「台帳の更新」を1行入れておくだけで、更新漏れは大きく減ります。入社時のチェックは入社手続きチェックリスト、辞令の出し方は「人事異動の通知と辞令」を参照してください。
個人情報としての取扱いルール
従業員の情報も、個人情報保護法の対象です。会社として押さえるべき基本は次のとおりです。全体像は「個人情報・マイナンバー管理の基本」で解説しています。
| ルール | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 利用目的の特定 | 何のために使うかをできる限り特定する | 個人情報保護法17条 |
| 利用目的の通知・公表 | 取得時に本人に通知するか公表する | 同法21条 |
| 要配慮個人情報の取得 | 病歴などは、原則として本人の同意を得て取得する | 同法20条2項 |
| 安全管理措置 | 漏えいなどを防ぐための措置を講じる | 同法23条 |
| 第三者提供の制限 | 原則として本人の同意なく第三者に提供しない | 同法27条 |
利用目的は就業規則や通知で明らかにする
従業員の情報の利用目的(給与計算、社会保険手続き、人事配置、評価、安全配慮など)は、就業規則や入社時の書類で明らかにしておきます。新しい目的で使う場合(例:退職者向けの連絡に使う)は、改めて本人に説明しましょう。
健康情報は分けて管理する
健康診断の結果や病歴、メンタルヘルスに関する情報は、要配慮個人情報にあたるものが多く、特に慎重な扱いが必要です。厚生労働省は、事業場ごとに健康情報等の取扱規程を定めることを求めており、手引きで規程の作り方を示しています。
- 健康情報は、一般の人事台帳とは別のフォルダ・別のシステムで管理する
- 閲覧できる人を、産業医・衛生管理者・人事の限られた担当者などに絞る
- 上司に伝えるのは、就業上の配慮に必要な範囲(例:残業制限が必要)にとどめる
ストレスチェックの結果は、本人の同意なく会社が受け取ることはできません(ストレスチェックの実施)。健康診断の管理は「健康診断の実務」も参照してください。
マイナンバーは別管理にする
マイナンバーは、社会保険や税の手続きに使う目的以外では利用できません。人事台帳に一緒に入れず、給与ソフトのマイナンバー管理機能など、アクセスを限定した場所で管理しましょう。
閲覧権限の決め方
情報の区分ごとに、誰が見られるかをマトリクスにしておくと、システム設定やフォルダの権限設定がしやすくなります。
| 区分 | 人事担当 | 給与担当 | 所属長 | 本人 |
|---|---|---|---|---|
| 基本情報・雇用情報 | ○ | ○ | 部下の分のみ | ○ |
| 給与・社会保険 | ○ | ○ | × | ○ |
| 評価 | ○ | × | 部下の分のみ | 自分の結果 |
| 健康情報 | 限られた担当者のみ | × | 配慮事項のみ | ○ |
| マイナンバー | 事務取扱担当者のみ | 事務取扱担当者のみ | × | — |
社内の個人情報の保管場所は個人情報管理台帳にまとめておくと、漏えい時の確認にも役立ちます。
システム化を検討するタイミング
Excelでの管理は、従業員が数十名までなら十分に回ります。次のような状況になったら、人事システムやクラウドの労務ソフトの導入を検討しましょう。
- 同じ情報を3か所以上に入力している
- 拠点が複数あり、ファイルの受け渡しが発生している
- 評価や面談記録まで一元化したい
- アクセス権限をファイル単位では管理しきれない
選び方は「給与・労務SaaSの選び方」「人事評価システムの選び方」で比較しています。
まとめ
- 労働者名簿は法律で作成が義務づけられた帳簿。記載事項を満たしているか、従業員マスタの項目を確認する。保存は退職等の日から当分の間3年
- 一元管理の第一歩は、項目ごとに「正」の管理元、更新のきっかけ、更新する人を決めること
- 入社・異動・退職の手続きに「台帳の更新」を組み込んで、更新漏れを防ぐ
- 健康情報とマイナンバーは一般の人事情報と分けて管理し、閲覧できる人を絞る