経費精算のルールづくりと電子化:インボイス制度・電子帳簿保存法の要点を総務向けに整理
経費精算の社内ルールのつくり方と、電子化の進め方を解説します。インボイス制度で帳簿のみの保存が認められる特例(公共交通機関・出張旅費等・少額特例)や、電子帳簿保存法の電子取引データ保存のポイントを、国税庁の資料で確認できる範囲で整理しました。
- 対象読者
- 従業員30〜300名の企業で経費精算の運用やシステム導入を担当する総務・経理担当者
- 難易度
- 実務
- 所要時間
- 読了9分
- 最終確認日
この記事のポイント
- 経費精算規程では「対象経費・上限・申請期限・必要書類・承認者」を決めておく
- 3万円未満の公共交通機関の運賃や、通常必要な出張旅費・日当は、インボイスがなくても帳簿の記載で仕入税額控除ができる
- メールやWebで受け取った領収書・請求書は電子取引データとして電子のまま保存する。紙に印刷して保存するだけでは足りない
経費精算は、毎月必ず発生するのに、ルールがあいまいなまま運用されがちな業務です。「領収書がない」「申請が数か月遅れて出てくる」「どこまで会社負担かわからない」。こうした問題の多くは、ルールを決めて電子化すると解消します。
この記事では、経費精算規程のつくり方と、インボイス制度・電子帳簿保存法に対応した電子化の進め方を整理します。税務の個別判断は、顧問税理士に確認してください。
経費精算規程で決めること
| 項目 | 決める内容の例 |
|---|---|
| 対象となる経費 | 交通費、出張旅費、会議費、交際費、消耗品費、通信費 など |
| 事前承認が必要なもの | 一定額以上の購入、出張、交際費 |
| 上限額 | 宿泊費の上限、日当の額、会議費の1人あたり上限 |
| 申請期限 | 「発生した月の翌月○日まで」など |
| 必要書類 | 領収書・請求書(インボイス)、利用明細、参加者名 |
| 承認の流れ | 申請者 → 上長 → 経理 |
| 支払方法 | 給与と一緒に振込、月○回の締め など |
| 不正時の扱い | 返還、就業規則の懲戒規定との関係 |
出張旅費は、別に「旅費規程」として定めると、日当や宿泊費の基準がはっきりします。規程の整備状況は、社内規程一覧のテンプレートで点検できます。
申請期限を決める理由
申請が遅れると、月次決算の締めがずれ、経費の計上月が変わってしまいます。消費税の仕入税額控除や、法人税の期間対応にも影響します。期限を過ぎた申請の扱いも決めておきましょう。
インボイス制度で押さえること
インボイス制度は2023年10月に始まりました。消費税の仕入税額控除を受けるには、原則として登録番号などが記載された適格請求書(インボイス)の保存が必要です。
経費精算では、受け取った領収書がインボイスの要件を満たしているか(登録番号の記載など)を確認する手間が増えました。
帳簿のみの保存で控除できる主な特例
経費精算でよく使うのが、インボイスがなくても一定事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除ができる特例です。
| 特例 | 内容 | 判定のポイント |
|---|---|---|
| 公共交通機関特例 | 3万円未満の鉄道・バス・船舶の旅客運賃 | 1回の取引の税込金額で判定。4人分まとめて買えば合計額で判定 |
| 出張旅費等特例 | 従業員に支給する出張旅費・宿泊費・日当のうち、その旅行に通常必要と認められる部分 | 社内規程の有無や、概算払いか実費精算かは問わない |
| 少額特例 | 税込1万円未満の課税仕入れ | 基準期間の課税売上高1億円以下(または特定期間の課税売上高5,000万円以下)の事業者が対象。2029年9月30日までの取引 |
出張旅費等特例でも、「通常必要と認められる範囲」をこえる部分は給与扱いになり、控除の対象外です。旅費規程で金額の基準を決めておくと判断しやすくなります。
免税事業者からの仕入れ
取引先がインボイス発行事業者でない場合でも、一定の期間は仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置があります。国税庁は、この経過措置が2031年9月末まで設けられているとしています。控除できる割合は期間によって変わるため、最新の割合は国税庁のサイトで確認してください。
電子帳簿保存法で押さえること
電子帳簿保存法は、帳簿や書類を電子データで保存するときのルールを定めた法律です。大きく3つの区分があります。
| 区分 | 内容 | 経費精算との関係 |
|---|---|---|
| 電子帳簿等保存 | 会計ソフトなどで作った帳簿・書類を電子のまま保存 | 任意 |
| スキャナ保存 | 紙で受け取った領収書をスキャン・撮影して保存 | 任意。要件を満たせば原本を廃棄できる |
| 電子取引データ保存 | メール・Web・クラウドで受け取った請求書・領収書を電子のまま保存 | 義務(2024年1月から) |
電子取引データの保存方法
メールで届いたPDFの請求書や、ECサイトからダウンロードした領収書は、電子データのまま保存します。主な要件は次のとおりです。
- 改ざん防止の措置:訂正・削除を防止する事務処理規程を定めて守る、訂正削除の記録が残るシステムを使う、など
- 検索できること:「取引年月日・取引金額・取引先」で検索できるようにする
- 見られること:ディスプレイやプリンタ、操作説明書を備え付ける
基準期間(2年前)の売上高が5,000万円以下の事業者などは、税務調査でデータのダウンロードの求めに応じられるようにしておけば、検索要件が不要になります。
猶予措置
システムの整備が間に合わないなど、所轄税務署長が「相当の理由」があると認める場合には、税務調査時にデータのダウンロードの求めと、出力した書面の提示・提出に応じられるようにしておけば、要件を満たさずにデータを保存しておくことが認められています(事前の申請は不要)。ただし、紙に印刷して保存するだけでは足りず、電子データそのものも保存しておく必要があります。
電子化の進め方
- 現状の把握:月の申請件数、紙の領収書と電子の領収書の割合、承認にかかる日数を確認する
- ルールの整理:規程を見直し、電子化に合わせて申請期限や必要書類を書き換える
- ツールの選定:経費精算システムの多くは、スマートフォンでの領収書撮影、交通系ICカードの読込み、インボイスの登録番号の確認、電子帳簿保存法への対応をうたっている。会計ソフトとの連携も確認する
- 試行と展開:一部の部署で1〜2か月試してから全社に広げる
- 保存の確認:電子取引データが要件どおりに保存されているか、定期的に点検する
システムの選び方の考え方は「給与・労務SaaSの選び方」も参考になります。
よくあるトラブルと対策
| トラブル | 対策 |
|---|---|
| 領収書をなくした | 利用明細やカードの明細、出金伝票で代替する手順を規程に書く。ただしインボイスの保存が必要な取引では控除に影響することを周知する |
| 同じ領収書の二重申請 | システムの重複チェック機能を使う。紙の原本には精算済みの印を押す |
| 申請が大幅に遅れる | 申請期限と、期限後の扱い(翌月回し・上長の理由書など)を決める |
| 私的な支出の混入 | 承認者が内容を確認する。不自然な支出は申請者に確認する |
| 法人カードの使い過ぎ | 利用上限と、利用できる経費の種類を決める |
立替を減らす工夫
経費精算の負担を根本から減らすには、そもそも従業員の立替を減らすことも有効です。
- 交通費は交通系ICカードの利用履歴やチケットレスサービスを使い、取込みで申請する
- 出張の宿泊・交通は、会社が契約した出張手配サービスで一括請求にする
- 消耗品は会社名義の購入アカウントで発注し、請求書払いにする
- よく使う従業員には法人カードを貸与する(利用ルールとセットで)
まとめ
- 規程で「対象経費・上限・申請期限・必要書類・承認者」を決めると、精算のトラブルが減る
- 3万円未満の公共交通機関、通常必要な出張旅費・日当、要件を満たす1万円未満の仕入れは、帳簿のみの保存で控除できる
- 電子で受け取った領収書・請求書は電子のまま保存する。要件の詳細と最新の取扱いは国税庁のサイトで確認する