労務 #労働基準法#労使協定#届出#福利厚生

社内預金制度の管理と見直し|貯蓄金管理協定・下限利率年0.5%・保全措置・4月30日の預金管理状況報告

会社が従業員の預金を預かる社内預金は、労働基準法第18条の強制貯金の禁止の例外として、労使協定の届出、貯蓄金管理規程、厚生労働省令で定める下限利率(2026年10月時点で年5厘=0.5%)以上の利子、賃金の支払の確保等に関する法律の保全措置、毎年4月30日までの預金管理状況報告が必要です。条文に沿って要件を整理し、引き継ぎ時の確認と廃止の手順を解説します。

対象読者
社内預金制度を引き継いだ、または廃止・見直しを検討している従業員30〜300名の企業の労務担当者
難易度
実務
所要時間
読了8分
最終確認日

この記事のポイント

  • 労働契約に附随して貯蓄させることは禁止(労基法第18条第1項)。本人の委託で預かる場合に限り、労使協定を結んで労基署に届け出、貯蓄金管理規程を周知する
  • 預金の受入れでは、協定に預金者の範囲・1人当たりの限度額・利率・払戻し手続・保全方法を定める。利子は省令の下限利率以上で、2026年10月以降も年5厘(0.5%)
  • 毎年3月31日の受入預金額について保全措置を講じ、3月31日以前1年間の管理状況を4月30日までに様式第24号で報告する。返還請求には遅滞なく応じる

古くからある会社では、福利厚生として「社内預金」を続けていることがあります。会社が従業員から預金を受け入れ、利子をつけて管理する制度です。担当者が替わると、協定の更新や毎年の報告が抜けたまま、という例も見られます。

社内預金は労働基準法で厳しく管理されている制度です。この記事では、条文に沿って必要な手続を整理し、引き継いだときの確認と、廃止する場合の進め方を解説します。

原則は禁止、例外として認められる

労働基準法第18条第1項は、使用者が労働契約に附随して貯蓄の契約をさせたり、貯蓄金を管理する契約をしたりすることを禁止しています(強制貯金の禁止)。入社の条件として積立てを求めることや、辞めにくくするために預金させることはできません。

そのうえで同条第2項以下は、労働者の委託を受けて貯蓄金を管理する場合に限り、次の条件で認めています。

条件 内容 根拠
労使協定 過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)と書面で協定し、労働基準監督署に届け出る 労基法第18条第2項、施行規則第6条(様式第1号)
規程の周知 貯蓄金の管理に関する規程を定め、作業場への備付けなどで周知する 同条第3項
利子 預金の受入れの場合は利子をつける。省令の下限利率を下回る場合は下限利率でつけたものとみなす 同条第4項
返還 労働者が返還を請求したら、遅滞なく返還する 同条第5項
中止命令 返還しない場合などに、労基署長が管理の中止を命じることがある 同条第6項・第7項

貯蓄金の管理には、社内預金のように会社が預金を受け入れる方式のほか、従業員名義の通帳などを会社が預かって管理する方式もあると一般に説明されています。以下では、手続が多い社内預金(預金の受入れ)を中心に説明します。

協定に定める事項

労働基準法施行規則第5条の2は、預金の受入れの場合の協定に、次の事項を定めるよう求めています。

  1. 預金者の範囲
  2. 預金者1人当たりの預金額の限度
  3. 預金の利率と利子の計算方法
  4. 預金の受入れと払戻しの手続
  5. 預金の保全の方法

協定の届出は様式第1号で、所轄の労働基準監督署長に行います。給与から天引きして預け入れる場合は、別に賃金控除協定(24条協定)も必要です(賃金控除協定書のひな形)。会社が結ぶ協定の全体像は労使協定の一覧で確認できます。

下限利率は年5厘(0.5%)

利子の下限は「労働基準法第十八条第四項の規定に基づき使用者が労働者の預金を受け入れる場合の利率を定める省令」で決まります。仕組みは次のとおりです。

  • 前年度10月の定期預金平均利率と現在の下限利率の差が0.5%以上になったときに、翌年度4月から下限利率を見直す
  • 4月の定期預金平均利率と下限利率の差が1%以上になったときは、10月から年度途中で見直す
  • 下限利率は年5厘(0.5%)を下回らない

厚生労働省の通知(2026年7月16日付)によると、2026年4月の定期預金平均利率は0.5886%で、下限利率との差が1%未満のため、**2026年10月から適用される下限利率も年5厘(0.5%)**のままです。2027年4月からの下限利率は、2026年10月の定期預金平均利率をもとに決まります。金利が上がっている時期なので、毎年の通知を確認し、自社の利率が下限を下回らないか点検してください。

利子は預入れの月からつけますが、月の16日以後に預け入れた分はその月の利子をつけなくてよい、10円未満の端数には利子をつけなくてよい、などの計算方法も同じ省令に定められています。

保全措置と毎年の報告

保全措置(賃金の支払の確保等に関する法律)

会社が倒産すると、預かった預金が返せなくなるおそれがあります。そこで賃金の支払の確保等に関する法律第3条は、預金を受け入れる事業主に、毎年3月31日における受入預金額について、同日後1年間を通じる保全措置を講じるよう義務づけています。方法は同法施行規則第2条で、次のいずれかです。

方法 内容
金融機関等の保証 預金の払戻し債務を金融機関などが保証する契約を結ぶ
信託 預金額に相当する額を、労働者を受益者として信託する
質権・抵当権 労働者の払戻し債権を担保するため質権・抵当権を設定する
預金保全委員会 半数を労働者側の推薦者とする委員会を置き、預金を貯蓄金管理勘定として経理するなどの措置をとる(3か月以内ごとに書面で報告、議事の概要を周知、記録を3年保存)

保全措置を講じていないときは、労基署長が是正を命じることができます(同法第4条)。

預金管理状況報告(毎年4月30日まで)

労働基準法施行規則第57条第3項により、協定に基づいて預金を受け入れる使用者は、毎年、3月31日以前1年間の預金の管理の状況を、4月30日までに様式第24号で所轄の労基署長に報告します。厚生労働省は、紙で提出する場合は特殊な様式が必要なため所轄の労基署に問い合わせるよう案内しており、電子申請もできます。複数の事業場がある会社は、本社でまとめて報告する方法もあります。

引き継いだときの確認リスト

  • 貯蓄金管理協定の届出の控えがあり、協定の内容と実際の運用(限度額・利率)が一致している
  • 貯蓄金管理規程があり、従業員が見られる状態になっている
  • 利率が下限利率(年0.5%)以上になっている
  • 3月31日の残高について保全措置が講じられている(保証契約などの期間が切れていない)
  • 毎年4月30日までに預金管理状況報告を出している
  • 払戻しの申出から支払までの日数が長くなっていない
  • 退職者の預金を退職時に精算している。死亡退職では、権利者の請求から7日以内の返還が必要(労基法第23条、在職中の死亡の手続き)

廃止・見直しの進め方

社内預金は、利子負担・保全措置の費用・事務の手間に比べて、利用者が少なくなっている会社もあります。財形貯蓄のように金融機関が預かる制度へ切り替えるケースもあります。

  1. 利用者数と残高、利子・保全の費用、事務の負担を整理する
  2. 代わりの制度(財形貯蓄など)の有無と、従業員への影響を検討する
  3. 労働組合・過半数代表者と協議し、廃止日と払戻しの方法・時期を決めて従業員に周知する
  4. 期日までに全員に元本と利子を払い戻す。払戻しの記録を残す
  5. 就業規則や貯蓄金管理規程に定めがあれば改定する。協定の扱いと最後の報告は所轄の労基署に確認する

預金は従業員の財産です。本人の請求があれば遅滞なく返還する義務があるため、廃止を決める前でも、払戻しを渋るような運用はできません。

まとめ

  • 労働契約に附随する貯蓄は禁止。本人の委託で預かる場合は、協定の届出と規程の周知が必要
  • 協定には預金者の範囲・限度額・利率・払戻し手続・保全方法を定める。利子は下限利率以上で、2026年10月以降も年0.5%
  • 3月31日の残高について保全措置を講じ、4月30日までに様式第24号で預金管理状況報告を出す
  • 引き継いだら、協定・規程・利率・保全・報告の5点を確認する。廃止するときは労使で協議し、全員に払い戻す

この記事で使えるテンプレート

DOCX 労務 賃金控除に関する協定書(24条協定) 労働基準法24条1項ただし書にもとづく賃金控除の労使協定書です。控除する項目を具体的に列挙する表、控除を行う賃金支払日(賞与を含むか)、有効期間・自動更新、過半数代表者の選出方法の記入欄を付けています。 DOCX 労務 社内預金 貯蓄金管理規程(ひな形) 会社が従業員から預金を受け入れる社内預金制度の貯蓄金管理規程のひな形です。労使協定に定める預金者の範囲・限度額・利率・払戻し手続・保全の方法に対応させ、返還請求への遅滞ない対応、退職時の精算、毎年の保全措置と預金管理状況報告まで条文に入れています。

この記事に出てくる用語

過半数代表者
労働者の過半数で組織する労働組合がない事業場で、労使協定の締結や就業規則の意見聴取の相手方になる、労働者の過半数を代表する人です。
就業規則
労働時間・賃金・退職などの労働条件や職場のルールを定めた規則です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、作成して労働基準監督署に届け出る義務があります。
労使協定
会社と、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は過半数代表者)との間で結ぶ書面の協定です。法律の原則を例外的に変える効果があります。
労働基準監督署
労働基準法・労働安全衛生法などが守られているかを監督する厚生労働省の機関です。36協定や就業規則の届出先で、労災保険の給付の窓口でもあります。

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出典・参考資料

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