メンター制度の導入手順|目的設定・マッチング・運用ルール・効果の振り返りまで
メンター制度は、上司とは別の先輩社員が対話を通じて後輩の悩みやキャリアの課題を支える仕組みです。厚生労働省のマニュアル・事例集をもとに、目的の決め方、メンターとメンティの選び方とマッチング、最低限決めておく運用ルール(守秘・相談窓口・就業時間内)、期間と頻度、事前研修、振り返りの方法を整理します。
- 対象読者
- 従業員30〜300名の企業で、新入社員の定着や女性社員の育成に取り組む人事担当者
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この記事のポイント
- メンター制度は、指示・命令や評価をする直属の上司ではなく、別の職場の先輩社員が対話を通じて支援する「斜めの関係」。目的(新人の定着、女性のキャリア形成など)を先に決める
- 厚生労働省のマニュアルは、最低限の運用ルールとして、守秘義務、不都合が生じたときの相談窓口、原則として就業時間内に行うことの3つを挙げている
- 期間と頻度は目的に合わせて決める(例:半年間、月1回30分〜1時間)。事前研修と中間・終了時の振り返りで、メンターの負担と効果を確認する
入社して数か月の社員が、上司には聞きにくい小さな悩みを抱えたまま辞めてしまう。管理職を打診された女性社員が、身近に相談できる先輩がいなくて迷っている。こうした場面で役に立つのがメンター制度です。
厚生労働省は、女性社員の活躍推進のために「メンター制度導入・ロールモデル紹介・地域ネットワークへの参加 マニュアル・事例集」(令和5年度)を公開しています。この記事では、その内容をもとに、少人数の会社でも導入できる手順を整理します。新入社員向けの簡単なメンターの置き方はオンボーディングでも紹介しています。
メンター制度とは
メンター制度は、経験のある先輩社員(メンター)が、双方向の対話を通じて後輩社員(メンティ)のキャリア形成上の課題や悩みの解消を支援する仕組みです。
| 関係 | 役割 |
|---|---|
| 直属の上司 | 業務の指示・命令、評価を行い、組織の目標達成を目指す |
| メンター | 指示・命令や評価をせず、対話を通じて本人の意思決定と行動を支える |
マニュアルでは、メンターは「指示・命令を下し、評価を行う利害関係のある直属の上司や先輩ではなく、異なる職場の先輩社員」がなることが一般的とされ、「斜めからの支援」と表現されています。メンターが答えを教えるのではなく、メンティが自分で決めて動けるように支えることが大切です。
導入の手順
ステップ1:目的と対象を決める
最初に、何のために導入するかを決めます。目的によって、対象者、メンターの選び方、期間が変わります。
| 目的 | メンティ | メンターの例 |
|---|---|---|
| 新入社員・中途入社者の定着 | 入社1年目の社員 | 別部署の入社3〜5年目程度の先輩 |
| 女性社員のキャリア形成 | 係長級・主任級の女性 | 他部署の管理職(女性管理職がいれば優先) |
| 育児休業からの復帰支援 | 復帰前後の社員 | 育児と仕事を両立した経験のある社員 |
| 新任管理職の支援 | 管理職1年目 | 役員や経験のある管理職 |
女性管理職を増やす取組の一つとして導入する場合は、女性管理職を増やす施策もあわせて確認してください。
ステップ2:推進体制をつくる
少人数の会社では、人事担当者1人が事務局を担うことが多いでしょう。事務局の役割は次のとおりです。
- 制度の説明資料をつくり、経営層・上司の理解を得る
- メンター・メンティの選定とマッチング
- 事前研修の運営
- 実施状況の確認と、トラブル時の相談対応
- 振り返りと改善
マニュアルでは、メンタリングは就業時間内に行うのが基本のため、メンター・メンティとも直属の上司の理解と協力が必要としています。上司には、制度の目的と、部下が定期的に業務を離れることを事前に説明しておきます。
ステップ3:運用ルールを決める
マニュアルでは、最低限決めておくべき運用ルールとして次の3つを挙げています。
- メンタリングで話し合われた内容を口外しないという守秘義務
- メンタリングで不都合が生じたときの相談窓口
- メンタリングも業務の一環と位置づけ、原則として就業時間内に行うこと
あわせて、自社の実情に合わせて次の事項を決めます。
| 項目 | マニュアルで示されている例 | 少人数の会社での目安 |
|---|---|---|
| 期間 | 3か月未満〜1年超。能力開発が目的なら1年程度は必要 | 定着目的なら半年、キャリア形成なら1年 |
| 1回の時間 | 30分〜2時間程度 | 30分〜1時間 |
| 頻度 | 1か月に1回以上、2か月に1回、ペアに任せるなど | 開始直後は月1回以上を推奨として示す |
| 方法 | 対面が原則(Web会議を含む)。メール・電話などを併用 | 初回は対面。以降はWeb会議も可 |
守秘義務には例外を決めておきます。たとえば、ハラスメントの被害や心身の不調など、本人や周囲の安全に関わる内容は、本人の了解を得て人事や相談窓口につなぐことを、事前研修で確認しておきましょう(ハラスメント防止措置)。
ステップ4:選定とマッチング
- メンターの選び方:聞く姿勢がある、社内の人脈がある、本人が引き受ける意思がある。業績だけで選ばない
- メンティの選び方:対象者全員とするか、希望者とするか。希望制にすると意欲は高いが、本当に支援が必要な人が手を挙げないこともある
- マッチング:同じ部署・直属の上司は避ける。性別、年齢差、職種、通勤やテレワークの状況も考慮する
ペアがうまくいかない場合に、事務局に相談してペアを変えられることも、あらかじめ伝えておきます。
ステップ5:事前研修を行う
メンター向けの研修では、次の内容を扱います。
- 制度の目的と運用ルール(守秘、相談窓口、就業時間内)
- 傾聴と質問の仕方。助言を押しつけないこと
- 困ったときの対応(メンティが重い悩みを打ち明けた場合など)
メンティ向けには、制度の目的と、面談で話したいことを事前に考えておくことを伝えます。1on1の進め方の基本は1on1ミーティングが参考になります。
ステップ6:実施とフォロー
マニュアルでは、メンタリングを3つの段階で整理しています。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 初期段階 | 目的や目標を確認し、互いを理解し合う |
| 深化段階 | 関係が進み、さまざまな支援が行われる |
| 解消段階 | 終了に近づき、活動を振り返って今後の方向性を確認する |
事務局は、面談の実施日だけを記録する簡単なシートで状況を把握します。話の中身は守秘の対象なので、報告を求めすぎないようにしましょう。期間の途中で、メンター同士の意見交換会を開くと、悩みの共有やノウハウの交換ができます。
ステップ7:振り返りと改善
期間が終わったら、メンター・メンティにアンケートやヒアリングを行い、良かった点と課題を集めます。
- メンティ:不安が減ったか、相談できる相手ができたか、仕事やキャリアへの考え方が変わったか
- メンター:負担は適切だったか、自分の成長につながったか
- 会社:定着率、面談の実施率、次期のメンター候補の数
結果は経営層と上司に共有し、次期の対象者や期間を見直します。定着の指標の見方は若手の早期離職を防ぐ定着施策を参照してください。
メンターの負担に配慮する
メンターの役割は、通常業務に上乗せされます。
- 期間を区切り、同時に担当するメンティは1人までにする
- メンタリングの時間を業務時間として扱い、上司が業務量を調整する
- メンターを務めたことを、人事評価の行動面で取り上げる
60代のベテラン社員にメンターを担ってもらうのも一つの方法です(60代社員の活躍と処遇)。
まとめ
- メンター制度は、上司ではない別の職場の先輩が、対話を通じて支える「斜めの関係」。目的を先に決める
- 最低限のルールは、守秘義務、相談窓口、原則として就業時間内に行うこと
- 期間・頻度・方法は目的に合わせて決め、事前研修で傾聴と困ったときの対応を確認する
- 期間終了後に振り返り、メンターの負担と効果を確かめて次期に生かす