60代社員の活躍と処遇|定年後再雇用の賃金と同一労働同一賃金・最高裁判決の考え方
定年後に再雇用した60代社員の賃金をどう決めるか。同一労働同一賃金の考え方と、長澤運輸事件(平成30年)・名古屋自動車学校事件(令和5年)の最高裁判決の要旨を裁判所の判例集で確認し、賃金項目ごとに趣旨を点検する手順、役割の決め方、在職老齢年金や高年齢雇用継続給付の改正を踏まえた説明のしかたを整理します。
- 対象読者
- 従業員30〜300名の企業で、定年後再雇用の制度と処遇を見直したい人事担当者
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この記事のポイント
- 定年後再雇用であることは、待遇差が不合理かを判断する「その他の事情」として考慮される。ただし賃金の総額ではなく、項目ごとの趣旨を個別に見る(長澤運輸事件・最高裁平成30年6月1日)
- 基本給の差についても、定年時の何割といった数字ではなく、基本給の性質・支給目的や労使交渉の経緯を踏まえて判断するとされた(名古屋自動車学校事件・最高裁令和5年7月20日)
- 処遇の前に役割を決める。仕事内容と責任・配置の範囲を正社員と比べて書き出し、手当・賞与ごとに支給しない理由を説明できるようにする
60代の社員が増えると、定年後再雇用の処遇は人事の大きなテーマになります。「再雇用だから賃金は下がるもの」と一律に決めていると、仕事内容が定年前と変わらない人から不満が出たり、同一労働同一賃金の観点で説明がつかなくなったりします。
この記事では、定年後再雇用の待遇差について最高裁が示した考え方を確認し、60代社員に活躍してもらうための役割と処遇の決め方を整理します。65歳までの雇用確保義務と再雇用の手続きは定年・継続雇用の実務を参照してください。
再雇用者にも同一労働同一賃金が適用される
定年後に有期契約で再雇用された人は、パートタイム・有期雇用労働法の「有期雇用労働者」です。同法8条は、正社員(通常の労働者)との待遇差について、①職務の内容(業務と責任の程度)、②職務の内容と配置の変更の範囲、③その他の事情のうち、その待遇の性質・目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないとしています。
最高裁判決の要旨
長澤運輸事件(最高裁第二小法廷 平成30年6月1日判決)
定年後に再雇用された乗務員が、仕事内容と配置の変更の範囲が定年前と同じなのに賃金が下がったとして争った事件です(当時の労働契約法20条の事件。同条の内容は現在、パートタイム・有期雇用労働法8条に引き継がれています)。裁判所の判例集に掲載された判示事項・裁判要旨は次のとおりです。
| ポイント | 判決の要旨 |
|---|---|
| 定年後再雇用であること | 待遇差が不合理かを判断するうえで、「その他の事情」として考慮される事情に当たる |
| 判断の方法 | 賃金の総額を比較するだけでなく、賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき |
| 能率給・職務給を支給せず歩合給とした相違 | 基本賃金が定年時の基本給を上回る、歩合給の係数を高くしている、団体交渉を経て改善している、年金の支給開始までの調整給があるなどの事情のもとで、不合理と認められるものに当たらない |
判決本文では、ほかの項目についても個別に判断しています。住宅手当・家族手当、役付手当、賞与を支給しないことは不合理とまではいえないとされた一方、皆勤を奨励する趣旨の精勤手当を支給しないことは不合理とされ、精勤手当を超勤手当(時間外手当)の計算の基礎に含めなかった相違も不合理とされました。
名古屋自動車学校事件(最高裁第一小法廷 令和5年7月20日判決)
教習指導員として定年前と同じ業務に就く再雇用者の基本給が、定年時より大きく下がったことが争われました。原審(高裁)は基本給のうち定年退職時の6割を下回る部分を不合理としていましたが、最高裁は、正社員の基本給について年功的性格があるなどとするにとどまり、各基本給の性質や支給目的を十分に踏まえず、労使交渉に関する事情も適切に考慮していないとして、原審の判断には法の解釈適用を誤った違法があるとし、審理をやり直させました。
2つの判決から読み取れるのは、「再雇用だから下げてよい」でも「定年時の〇割を下回ったら違法」でもなく、項目ごとの趣旨と、会社がどう説明し、労使でどう話し合ったかが問われるということです。個別の制度の適否は、弁護士などの専門家に確認してください。
処遇の前に役割を決める
賃金を決める前に、再雇用後に何を担ってもらうかを決めます。役割があいまいなまま賃金だけを下げると、本人の意欲が下がり、待遇差の説明もしにくくなります。
正社員と比べて書き出す
| 比べる項目 | 書き出す内容の例 |
|---|---|
| 業務の内容 | 担当業務、成果の求め方、ノルマの有無 |
| 責任の程度 | 部下の有無、決裁権限、トラブル時の対応、休日・夜間の呼出し |
| 配置の変更の範囲 | 転勤・異動の有無、職種変更の可能性 |
| その他の事情 | 定年後再雇用であること、退職金の支給、年金・給付の受給、労使の話し合いの経緯 |
60代社員に任せやすい役割
- 若手・中途入社者の指導役やメンター(メンター制度の導入手順)
- 業務手順の文書化、技能の伝承
- 専門職として特定の業務に集中する(管理職からは外れる)
- 顧客対応や品質管理など、経験が生きる業務
役割を変える場合は、その内容を労働条件通知書と再雇用の契約書に具体的に書きます。
賃金項目ごとに点検する手順
- 正社員の賃金項目(基本給、各手当、賞与、退職金)を一覧にする
- 項目ごとに、何のために払っているか(支給の趣旨)を書く
- 再雇用者に支給しない・減額する項目について、趣旨に照らした理由を書く
- 理由が説明できない項目は、支給する・一部支給するなどの見直しを検討する
- 見直しの内容を、過半数代表者や本人と話し合い、その経緯を記録する
| 項目の例 | 趣旨の例 | 点検の視点 |
|---|---|---|
| 精勤手当・皆勤手当 | 出勤の奨励 | 仕事内容が同じなら、再雇用者にも必要性は同じではないか |
| 通勤手当 | 通勤費用の補填 | 雇用形態で差をつける理由はあるか |
| 家族手当・住宅手当 | 生活費の補助 | 支給の要件と再雇用者の状況を比べる |
| 役職手当 | 役職の責任への対価 | 役職を外れていれば不支給の理由になる |
| 賞与 | 功労報償・意欲向上など多様 | 寸志でも支給するか、年収全体でどう配慮するか |
厚生労働省の同一労働同一賃金特集ページでは、ガイドラインや取組手順書が公開されています。点検の際に参照しましょう。
本人への説明と手取りの見込み
再雇用後の賃金を決めるときは、給付や年金の制度改正も踏まえて本人に説明します。
- 高年齢雇用継続給付:60歳到達等が2025年4月1日以降の人は、支給の上限が賃金の10%に縮小されています(高年齢雇用継続給付の給付率引下げ)
- 在職老齢年金:2026年4月から、年金が減額される基準額(賃金と老齢厚生年金の合計)が月51万円から65万円に引き上げられました(在職老齢年金の支給停止基準額の引上げ)
- 社会保険:再雇用時の同日得喪で、標準報酬月額をすぐに下げられる(定年・継続雇用の実務)
パートタイム・有期雇用労働法では、本人から求めがあれば、正社員との待遇差の内容と理由を説明する義務があります。上の点検表は、その説明の準備にもなります。
70歳までの就業機会
65歳以降の就業確保措置(70歳までの定年引上げ、継続雇用制度の導入など)は努力義務です。65歳以上の社員の雇用保険や、70歳以上の社会保険の扱いも確認しておきましょう(65歳以上の雇用保険、70歳以上の従業員の社会保険)。
まとめ
- 定年後再雇用であることは「その他の事情」として考慮されるが、賃金の総額ではなく項目ごとの趣旨で判断される
- 基本給の差も、定年時の何割といった基準ではなく、性質・支給目的と労使交渉の経緯を踏まえて判断される
- 処遇の前に役割を決め、正社員と業務・責任・配置の範囲を比べて書き出す
- 項目ごとに支給しない理由を説明できるか点検し、給付・年金の改正も踏まえて本人に説明する