求人票と違う条件で採用するときの「変更明示」|職業安定法5条の3第3項の義務、対照表・下線での示し方と新卒の注意
求人票や募集要項で示した労働条件を、面接後に変えて契約するときは、変更内容を求職者に明示する義務があります(職業安定法5条の3第3項)。変更明示が必要になる4つのパターン、望ましいとされる対照表による方法と、労働条件通知書に下線・着色・注記をする方法、新卒者への配慮、明示のタイミングを、厚生労働省の指針で整理します。
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- 面接の結果、求人票より低い給与や別の勤務地で内定を出すことになった、従業員30〜300名の企業の採用担当者
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この記事のポイント
- 求人票などで示した労働条件(第一項明示)を変更・特定・削除する場合や、示していなかった条件を追加する場合は、契約を結ぼうとする相手に変更内容を明示しなければならない(職業安定法5条の3第3項)
- 方法は、当初の明示と変更後の内容を対照できる書面を交付するのが望ましく、労働条件通知書で変更箇所に下線を引く・着色する・注記する方法も可能。削除する場合は削除前の内容もあわせて書く(厚生労働省の指針)
- 当初の明示は、そのまま労働契約の内容になることが期待されており、安易に変更してはならない。学校卒業見込者等について変更することは不適切とされている。変更後は求人票の内容も見直す
「求人票には月給30万円と書いたが、面接してみると経験が浅いので28万円で採用したい」「勤務地は本社と書いたが、支店の配属で内定を出したい」。中途採用では、こうした調整がよく起こります。
条件を変えて採用すること自体は禁止されていません。ただし、職業安定法は、求人票などで示した条件を変えて契約するときに、変更した内容を求職者に明示することを会社に義務づけています。この記事では、変更明示が必要な場面と、示し方、注意点を整理します。求人票の書き方そのものはハローワーク求人票の書き方を参照してください。
変更明示の義務とは
職業安定法5条の3第1項は、労働者を募集する会社やハローワーク・職業紹介事業者に求人を出す会社に、業務の内容や賃金、労働時間などの労働条件を明示することを求めています。これが求人票や募集要項で示す「当初の明示」(指針では「第一項明示」)です。
そのうえで同条3項は、紹介を受けた求職者や募集に応じた人と労働契約を結ぼうとする場合に、当初の明示を変更するときなどは、契約の相手方となろうとする人に、変更する内容を明示しなければならないと定めています。2018年1月1日施行の改正で設けられたルールです。
変更明示が必要な4つのパターン
厚生労働省のリーフレットでは、次の4つの場合に変更明示が必要とされています。
| パターン | 例(当初の明示 → 契約時の条件) |
|---|---|
| (1) 当初の明示と異なる内容の条件を示す | 基本給30万円 → 基本給28万円 |
| (2) 当初の明示の範囲内で条件を特定する | 基本給25万〜30万円 → 基本給28万円 |
| (3) 当初の明示にあった条件を削除する | 基本給25万円・営業手当3万円 → 基本給25万円 |
| (4) 当初の明示になかった条件を追加する | 基本給25万円 → 基本給25万円・営業手当3万円 |
(2)のように範囲内で決めた場合や、(4)のように条件が良くなる場合も対象になる点に注意してください。
変更内容の示し方
指針は、求職者が変更内容を十分に理解できる適切な方法をとるよう求め、次の方法を示しています。
| 方法 | 内容 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 対照できる書面を交付する | 当初の明示と変更後の内容を並べた書面を渡す | 望ましい方法 |
| 労働条件通知書で示す | 労基法15条の労働条件通知書(電子メール等での交付を含む)で、変更箇所に下線を引く・着色する・注記する | この方法も可能 |
一部の条件を削除する場合は、削除される前の内容もあわせて記載します。
対照表の例
| 項目 | 求人票の記載 | 採用時の条件 |
|---|---|---|
| 基本給 | 月額25万〜30万円 | 月額28万円 |
| 就業場所 | 本社(東京都〇〇区) | 〇〇支店(大阪市〇〇区) |
| 営業手当 | 月額3万円 | 支給なし(求人票記載の営業手当3万円は支給しません) |
労働条件通知書の書き方は労働条件通知書の書き方、内定の出し方は内定通知書テンプレートも使えます。
明示のタイミングと説明
指針は、条件の調整が終わった後、求職者が契約を結ぶかどうか考える時間を確保できるよう、可能な限り速やかに変更明示を行うこととしています。また、求職者から変更の理由を聞かれた場合は、適切に説明することを求めています。
実務では、次の流れにすると漏れがありません。
- 面接後、採用条件を決める段階で、求人票の内容と比べる
- 違う点があれば対照表を作る
- 内定の連絡と同時に、対照表と労働条件通知書(または内定通知書)を渡す
- 変更の理由を説明し、回答期限に余裕を持たせる
- 同じ求人を続けて募集している場合は、求人票の内容を見直す
2024年4月から求人票で示す事項が増えている
2024年4月1日からは、職業安定法施行規則の改正により、求人票や募集要項で示す労働条件に、次の3つが加わっています(佐賀労働局などの案内)。
| 追加された事項 | 内容 |
|---|---|
| 従事すべき業務の変更の範囲 | 雇入れ直後だけでなく、将来の配置転換などで変わり得る業務の範囲 |
| 就業場所の変更の範囲 | 将来の転勤などで変わり得る就業場所の範囲 |
| 有期労働契約を更新する場合の基準 | 通算契約期間や更新回数の上限がある場合はその内容 |
これらも当初の明示に含まれるため、面接の結果「転勤なし」で募集した人を「転勤あり」で採用する、「更新上限なし」で募集した契約社員に上限を設ける、といった場合も変更明示の対象になると考えて準備しましょう。労働条件通知書の側でも、2024年4月から同じ趣旨の明示事項が追加されています(労働条件通知書の書き方)。
よくある場面での対応
| 場面 | 対応 |
|---|---|
| 内定を出した後に、配属先の都合で勤務地を変えたい | 改めて変更内容を明示し、本人の同意を得る。内定で労働契約が成立していると考えられる場合は、一方的な変更はできない(内定取消し・内定辞退への対応) |
| 求人票の給与に幅があり、下限で採用する | 範囲内の特定にあたるため、確定額を明示する |
| 人材紹介会社経由の採用で条件が変わった | 紹介会社だけでなく、求職者本人に変更内容を明示する(人材紹介会社の上手な使い方) |
安易に変更しない・新卒は特に注意
指針は、当初の明示はそのまま労働契約の内容となることが期待されているものであり、安易に変更・削除・追加してはならないとしています。
特に、学校卒業見込者等(新卒者)については特に配慮が必要であり、当初の明示を変更・削除・追加することは不適切とされています。また、原則として内定までに、書面による労働条件の明示を行うべきとされています。
さらに、次の点にも注意が必要です。
- 当初の明示が法令に抵触する内容(虚偽や不十分な明示)だった場合、変更明示をしても当初の明示が適切だったとはみなされない
- 変更明示が適切に行われていない場合や当初の明示が不適切だった場合は、行政指導や改善命令、勧告、企業名公表、罰則等の対象になることがある(厚生労働省のリーフレット)
厚生労働省の裁判例紹介では、求人票の条件が、採用時に別段の合意がない限り労働契約の内容になると判断された例(千代田工業事件・大阪地裁昭和58年10月19日決定など)が紹介されています。変更明示をせずに条件を変えると、後から「求人票のとおりの条件だったはずだ」と争われるおそれがあります。
求人広告の表示ルール全般は求人広告・採用サイトの表示ルールを参照してください。
まとめ
- 求人票や募集要項の条件を変えて採用するときは、変更内容を求職者に明示する義務がある(職業安定法5条の3第3項)
- 異なる条件を示す、範囲内で特定する、削除する、追加するの4パターンが対象。条件が良くなる場合も含む
- 対照表を渡すのが望ましく、労働条件通知書に下線・着色・注記をする方法も可能。削除なら削除前の内容も書く
- 当初の明示は安易に変えない。新卒者への変更は不適切とされている。変更後は求人票も見直す
この記事で使えるテンプレート
人事 労働条件通知書(パート・有期雇用用) パートタイム・有期雇用の従業員向け労働条件通知書です。2024年4月改正の明示事項(変更の範囲・更新上限・無期転換)と、パートタイム・有期雇用労働法で求められる昇給・退職手当・賞与の有無、相談窓口、2026年10月から追加された「待遇の相違の内容・理由等について説明を求めることができる旨」を盛り込んでいます。 人事 内定通知書・内定承諾書 採用内定を伝える内定通知書と、内定者から返送してもらう内定承諾書のセットです。入社予定日、提出書類、内定取消事由、承諾期限を明記でき、労働条件通知書とあわせて送る前提で作っています。この記事に出てくる用語
- 採用内定
- 会社が応募者に採用を約束することです。多くの場合、内定通知の時点で「始期付・解約権留保付の労働契約」が成立したと考えられます。
- 就業場所・業務の変更の範囲
- 雇い入れた後に、就業場所や従事する業務が変わりうる範囲のことです。2024年4月から、労働条件の明示事項に加わりました。
- 職業安定法
- 求人の募集、職業紹介、求職者の個人情報の扱いなどのルールを定めた法律です。会社が求人を出すときの労働条件の明示や、虚偽の表示の禁止もここに定められています。
- 配置転換
- 同じ会社の中で、職務の内容や勤務場所を変えることです。勤務地が変わるものを特に転勤といいます。
- ハローワーク
- 厚生労働省の公共職業安定所の愛称です。職業紹介や求人の受付のほか、雇用保険の加入・喪失や給付の手続きの窓口になっています。
- 有期労働契約
- 「1年契約」のように、働く期間の終わりが決まっている労働契約です。契約社員・パート・アルバイトなどで多く使われます。
- 労働条件通知書
- 会社が労働者を雇い入れるときに、賃金・労働時間・就業場所などの労働条件を書面で知らせるための文書です。労働基準法の「労働条件の明示」を果たすために使います。
- 労働条件の明示
- 労働契約を結ぶときに、会社が賃金・労働時間などの労働条件を労働者に示す義務です。主な事項は書面で示さなければなりません。
出典・参考資料
- e-Gov法令検索「職業安定法」(第5条の3 労働条件等の明示)
- 厚生労働省「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等がその責務等に関して適切に対処するための指針」(平成11年労働省告示第141号・PDF)
- 厚生労働省「労働者を募集する企業の皆様へ~労働者の募集や求人申込みの制度が変わります~」(平成30年1月1日施行の職業安定法改正・PDF)
- 厚生労働省 確かめよう労働条件「募集条件と実際の労働条件が異なる場合」(裁判例)
- 佐賀労働局「令和6年4月から求人票に記載する事項が追加されます」(業務・就業場所の変更の範囲、有期契約の更新基準)
- e-Gov法令検索「労働基準法」(第15条 労働条件の明示)