オフィスの物理セキュリティ対策:入退室の区分・鍵の管理・書類の施錠保管・廃棄のルール
情報漏えいはサイバー攻撃だけでなく、書類の置きっぱなし、鍵の紛失、誤った廃棄からも起こります。個人情報保護委員会のガイドラインが示す物理的安全管理措置をもとに、オフィスの区域の分け方、入退室と鍵の管理、最終退出の手順、書類と機器の施錠保管、書類・PCの廃棄方法を、少人数の総務でも回せるルールとして整理します。
- 対象読者
- 情報システム担当を兼ねる、従業員30〜300名の企業の総務担当者
- 難易度
- 基本
- 所要時間
- 読了8分
- 最終確認日
この記事のポイント
- 個人情報保護委員会のガイドラインでは、物理的安全管理措置として「取り扱う区域の管理」「機器・電子媒体等の盗難等の防止」「持ち運ぶ場合の漏えい等の防止」「削除・廃棄」の4つが示されている
- オフィスを「来客が入れる区域」「従業員の執務区域」「人事・給与など重要な情報を扱う区域」に分け、鍵・入退室の権限を区域ごとに決める。鍵とカードは台帳で管理し、退職時に必ず回収する
- 書類は退社時に施錠保管し、廃棄はシュレッダーや溶解処理で行う。PCや記録媒体の廃棄は、データの消去を責任者が確認し、記録を残す
情報セキュリティというと、ウイルス対策やパスワードを思い浮かべがちです。しかし実際には、机の上に置いたままの書類、施錠されていないキャビネット、ゴミ箱に捨てた名簿からも情報は漏れます。
この記事では、オフィスの「物理的な」セキュリティ対策を、総務が決めておくべきルールとして整理します。来客の受付や入館記録、防犯カメラについては「来客受付・入退館管理の仕組みづくり」で解説しています。
ガイドラインが示す物理的安全管理措置
個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」では、個人データの安全管理措置の一つとして、物理的安全管理措置を次の4つに分けています。
| 項目 | 中小規模事業者の手法の例示(要旨) |
|---|---|
| 個人データを取り扱う区域の管理 | 取り扱える従業者と本人以外が、容易に個人データを閲覧等できないようにする |
| 機器及び電子媒体等の盗難等の防止 | 書類や機器を施錠できるキャビネットに保管する、機器をセキュリティワイヤーで固定するなど |
| 電子媒体等を持ち運ぶ場合の漏えい等の防止 | パスワードの設定、封筒に入れて鞄で運ぶなど、紛失・盗難を防ぐ方法をとる |
| 個人データの削除及び機器、電子媒体等の廃棄 | 削除・廃棄したことを、責任ある立場の者が確認する |
中小規模事業者でも、この4つの考え方は共通です。以下では、これをオフィスのルールに落とし込みます。安全管理措置の全体像は「中小企業の個人情報・マイナンバー管理の基本」を参照してください。
1. オフィスを区域に分ける
まず、オフィスを情報の重要度に応じて区域に分けます。小さなオフィスでも、3つ程度に分けるだけで、決めるべきことがはっきりします。
| 区域 | 例 | 入れる人 | 主な対策 |
|---|---|---|---|
| 来客エリア | 受付、応接室、会議室 | 来客、従業員 | 執務エリアが見えない配置。会議室のホワイトボードを消す |
| 執務エリア | 一般の座席 | 従業員、許可された委託先 | 入口の施錠・カード。来客を案内なしで入れない |
| 重要エリア | 人事・給与の書類の保管場所、サーバー・ネットワーク機器の置き場 | 担当者のみ | 施錠できる部屋またはキャビネット。鍵の保管者を限定 |
別の部屋を用意できない場合は、施錠できるキャビネットを「重要エリア」とみなすだけでも効果があります。人事担当の座席は、通路やコピー機から画面が見えない向きにします。
2. 入退室と鍵の管理
鍵・カードを台帳で管理する
物理的な鍵、ICカード、暗証番号は、誰が何を持っているかを台帳で管理します。
| 台帳の項目 | 記入例 |
|---|---|
| 鍵・カードの種類と番号 | 執務室入口カード No.12 |
| 使える範囲 | 執務エリア(重要エリアは不可) |
| 貸与した人と日付 | 総務部 山田 2026-04-01 |
| 回収した日付 | 退職日に回収 |
| 紛失の記録 | 紛失届の日付、無効化した日付 |
退職・異動のときは、PCやアカウントと一緒に鍵とカードも回収します(退職手続き一覧)。カードを紛失したら、すぐに無効化します。物理的な鍵を紛失した場合は、シリンダーの交換を検討します。
暗証番号・共用の鍵
- 暗証番号式の扉は、定期的に、また退職者が出たときに番号を変更する
- キーボックスの暗証番号を知っている人を限定する
- 合鍵の本数を記録し、勝手に複製しない
- 重要エリアの鍵は、使った人と時刻を記録する
入退室の記録をシステムで残したい場合は、「入退室管理システムの選び方」も参考にしてください。
最終退出の手順
最後に退出する人が確認することを、チェックリストにして入口に掲示します。
- 窓・通用口の施錠
- キャビネット・重要エリアの施錠
- 複合機・プリンターに印刷物が残っていないか
- 会議室のホワイトボード・机の上
- 照明・空調の電源
- 入口の施錠と警備システムのセット
3. 書類と機器の保管
クリアデスクとクリアスクリーン
| ルール | 内容 |
|---|---|
| クリアデスク | 席を離れるとき・退社するときは、個人情報や機密情報を含む書類を机の上に置かない。引き出しやキャビネットに施錠して保管する |
| クリアスクリーン | 席を離れるときは画面をロックする。一定時間で自動ロックされる設定にする |
| 印刷物 | 印刷したらすぐ取りに行く。個人情報は認証印刷(その場で認証してから出力)を使う |
| ホワイトボード | 会議が終わったら消す。写真を撮った場合は保存先に注意 |
施錠保管する書類の例
人事・総務で特に注意する書類は、次のとおりです。
- 履歴書・面接の評価、雇用契約書
- 健康診断の結果、ストレスチェック・休職関係の書類(要配慮個人情報)
- マイナンバーの書類、扶養控除等申告書
- 給与・賞与の資料、評価の資料
- 印鑑・通帳(印章管理と押印規程)
機器の盗難防止
- ノートPCは、退社時に施錠できる場所にしまうか、セキュリティワイヤーで固定する
- ディスクの暗号化を設定し、盗まれても中身を読まれないようにする
- USBメモリなどの外部記録媒体は、使用を許可制にし、台帳で管理する(IT資産・ライセンス管理)
4. 持ち出しのルール
| 対象 | ルールの例 |
|---|---|
| 個人情報を含む書類 | 原則として持ち出さない。持ち出す場合は上長の許可と記録 |
| PC | 暗号化・多要素認証を必須にする。車内や飲食店に置いたまま離れない |
| 外部記録媒体 | 原則として使わない。使う場合はパスワード付き・暗号化 |
| 郵送・手渡し | 封筒に入れ、送付先と内容を記録する。重要書類は追跡できる方法で送る |
テレワークでの書類やPCの扱いは、テレワーク規程に書いておきます。
5. 廃棄のルール
書類の廃棄
| 方法 | 向いている書類 | 注意点 |
|---|---|---|
| シュレッダー | 日常的に出る少量の書類 | 細かく裁断できる機種を選ぶ。詰まって放置しない |
| 溶解処理(専門業者) | 保存期間を過ぎた大量の書類 | 回収から処理までの流れを確認し、処理を証明する書類を受け取る |
| 鍵付きの回収ボックス | 社内で一時的にためる場合 | 普通のゴミ箱と分け、鍵は総務が管理する |
保存期間を過ぎた書類は、まとめて廃棄します。何をいつまで保存するかは「文書管理と保存期間の一覧」で確認できます。
PC・記録媒体の廃棄
ガイドラインでは、個人データを削除したことや機器を廃棄したことを、責任ある立場の者が確認することが例示されています。
- データ消去ソフトや物理的な破壊で、復元できない状態にする
- 業者に依頼する場合は、作業の内容と、消去・破壊を証明する書類を受け取る
- 台帳に、廃棄日・方法・確認した人を記録する
- リース返却の複合機やPCも、内部の記録装置のデータを消去してから返す
備品の廃棄の流れは「備品・IT機器の管理台帳のつくり方」も参考にしてください。
年に一度の点検
| 点検すること | 方法 |
|---|---|
| 鍵・カードの台帳と実物が一致しているか | 台帳と現物を照合する。退職者のカードが有効のままになっていないか |
| 暗証番号を変更したか | 変更日を記録する |
| クリアデスクが守られているか | 退社後に机の上を見て回る |
| 廃棄の記録があるか | 溶解処理・データ消去の証明書の保管 |
IPAの「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」にも、物理的な対策を含む自社診断の項目があります。年に一度、あわせて点検すると効率的です(情報セキュリティ最低限チェック)。
漏えいが起きたら
書類の紛失や誤廃棄が起きたら、すぐに責任者に報告し、対応を記録します。報告が必要かどうかの判断と手順は「個人情報の漏えいが起きたときの初動対応」で解説しています。
まとめ
- ガイドラインの物理的安全管理措置は「区域の管理」「盗難等の防止」「持ち運び時の漏えい防止」「削除・廃棄」の4つ
- オフィスを来客・執務・重要の3区域に分け、鍵・カードの権限を区域ごとに決めて台帳で管理する
- 最終退出のチェックリスト、クリアデスク・クリアスクリーンを習慣にする
- 書類はシュレッダーや溶解処理、PCや記録媒体はデータ消去を責任者が確認して記録する
- 年に一度、台帳と現物を照合し、退職者のカードや古い暗証番号が残っていないか点検する